日本旅館協会「オーバーツーリズム解消セミナー」開く 住民・旅行者・事業者すべてを受益者へ
2025年3月12日(水) 配信

日本旅館協会(桑野和泉会長)は、東京ビッグサイトで開催された第53回国際ホテル・レストラン・ショーで、セミナー「オーバーツーリズムから、地域のミライを考える」を開いた。オーバーツーリズムが各地で課題となるなか、地域住民や観光事業者、旅行者すべてを受益者とするために、先行事例を通じて持続可能な地域観光のミライについて考えを深めた。
第1部の「広がれ! ツーリストシップ」では、住民や旅行者、働く人など観光地に集うすべての人が意識すべき心構えを発信するツーリストシップ代表理事の田中千恵子氏が登壇した。オーバーツーリズムの具体的な課題として、観光客の増加による駐車場不足や、公共交通機関の混雑のほか、旅行者のマナー違反によって、住民が不利益や不信感を募らせていることを挙げた。
こうしたなか、同団体では旅先に配慮したり、貢献しながら、交流を楽しむ姿勢やその行動を示した「ツーリストシップ」を提唱してきた。
具体的には、ゴミの持ち帰りや信仰の場で静かにすること、地域の歴史や文化を知ることや、地元住民との交流を促している。
これを多くの訪日客に広めるため、同団体は全国の観光地でイベント「旅先クイズ会」を開催。さらに、講演や掲示物や動画、絵本なども作成している。
田中氏は「旅行者にはマナーを守り、貢献できることに取り組む姿勢も求められる。地域が豊かになるような旅行ができれば、旅行文化はより良いものになる」とまとめた。
第2部のパネルディスカッション「地域のミライを考える」では、田中氏に加え、リクルート旅行DivisionJRCセンター長の沢登次彦氏、日本旅館協会EC/DX委員長の原洋平氏(ホテルおかだ、神奈川県・箱根湯本温泉)と観光庁外客受入担当参事官付課長補佐(統括)の荒井大介氏が登壇。司会は、日本旅館協会ミライ・リョカン委員長の相原昌一郎氏(新井旅館、静岡県・修善寺温泉)が務めた。
冒頭、オーバーツーリズムの事前対策として旅行者の意識について問われた沢登氏は、約50%の旅行者が現地で行先や行動を決めていることから、「地域のスタッフが混雑状況を踏まえ、一人ひとりに合ったスポットを勧めることで、混雑を緩和することができ、満足度も向上する」と提言した。
また「地域への貢献を望む旅行者は、国内外で増加傾向にある。地域が大事にしている文化や価値観を発信し、旅行客と両想いになる観光も求められる」と語った。
田中氏は「住民は電車の混雑や香水の強い香りなど小さな出来事の積み重ねで、多くの訪日客に嫌悪感を抱いてしまう。旅行客の人数や多様性の変化などを街として受け入れることができるか、明確にする必要がある」と語った。
原氏は箱根観光協会で、運輸事業者による臨時便の設定や飲食店の食材の仕入れに役立ててもらおうと、60日後までの人流の予測を知ることができる「箱根 DMO TOUCH!」を開発したことを紹介した。
このほか、地域の来訪者の約53%が車で訪れていることから、「誘客による観光客増加は、渋滞の発生回数が増えることにつながる」と話し、プロモーションと混雑緩和を同時に行っている。23年度は観光客向けにタクシーの待ち時間や渋滞予測のほか、飲食店の混雑状況などをワンストップで提供するデジタルマップを公開。24年度には、同マップを活用し、AIが混雑を避け、顧客の年齢や志向に合わせた周遊ルートを作成できるように取り組んでいる。
荒井氏はオーバーツーリズムについて、「地域ごとに課題は異なる」とし、各地に実情に応じた対策の必要性を指摘。京都では公共交通機関の混雑で住民の移動に不便が生じ、北海道・美瑛では、畑への無断侵入によるマナー違反が課題となっていることを挙げた。
そのうえで、「過度な混雑やマナー違反に取り組む26地域で、地元の関係者による協議の場を設け、各地に状況に合った計画の策定や実施をサポートしている」と説明した。
相原氏は「観光客の増加で、オーバーツーリズムが各地の課題に挙がる可能性がある。事例を学び、オーバーツーリズムという言葉がなくなるよう、努力したい」と総括した。