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【対談】観光庁の地域観光魅力向上事業 持続的な地方誘客と販路開拓へ

2025年2月28日(金) 配信

 観光庁は、将来にわたって持続的に地方誘客が促進されるよう、地域資源を活用した収益性が高く独自性・新規性のある観光コンテンツの開発から、適切な販路開拓や情報発信の総合的な支援を行い、中長期にわたって販売可能なビジネスモデルづくりを支援する「地域観光魅力向上事業」を開始する。具体的な内容と地方への期待について、観光庁観光資源課新コンテンツ開発推進室の豊重巨之室長と、内閣府地域活性化伝道師・跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授が対談した。

中長期的な販売計画支援、優先採択で地方部80%以上に

 篠原 2024年の訪日外国人旅行者数(1~12月)は3687万人となり、日本のインバウンド市場で過去最高を記録しました。コロナ禍前19年の壁がなかなか壊せなかったが、非常に大きな成果と言えます。同様に国内旅行に関しても好調に推移しています。

 消費額も順調に伸びてきている一方、オーバーツーリズムをはじめとして、3大都市圏から地方への誘客拡大が広がっていない現状もあり、まだまだ課題はあります。このような背景があるなか、観光庁全体の戦略と今回の事業予算について教えてください。

 豊重 24年はインバウンドの旅行消費額が8兆円を超え、訪日外国人旅行者数と共に史上最高となったが、政府は目標として20年に8兆円、30年に15兆円、6000万人と目標を定めています。20年はコロナ禍で8兆円に達しなかったが、昨年は8兆円を超したことで、30年に15兆円という目標は夢ではなくなりました。観光庁としては基本計画に基づいて、引き続き「持続可能な観光地域づくり」「インバウンド回復」「国内交流拡大」に取り組んでいきます。

 補正予算については543億円。当初予算は一般財源で89億円、国際観光旅客税財源で441億円を要求しています。そのなかで今回の「地域観光魅力向上事業」は40億円を確保し、しっかりと地方誘客に資する事業を取り組んでいきます。

 篠原 第4次「観光立国推進基本計画」では、とくに観光消費額の拡大や地方誘客の促進戦略が示されているが、地域が稼ぐ仕組みができていない。前身の令和5年度補正予算である「地域観光新発見事業」は、そうした礎になるものでしたが、さらに今回の地域観光魅力向上事業では新たな目標を立てて取り組まれています。

 豊重 地域観光魅力向上事業は、さらなる地方誘客の促進と、観光コンテンツの販売強化を目指し、事業設計を行いました。インバウンドの宿泊先が東京、京都、大阪などの都市部で全体の7割を占め、地方に観光客が足を運んでいない状況のため、その点をしっかりと取り組んでいきます。

 新発見事業の後継事業ということで、引き続きインバウンドに限らず、国内観光客の地方誘客に資する観光コンテンツの造成も行える。ただし、モニターツアーを実施して終わりや、一過性のイベントの運営経費で終わってしまっては持続的な観光にならない。今回の事業では、観光コンテンツの販売強化を集中的に取り組みたいです。

 地域の観光資源を掘り起こしてさまざまな観光コンテンツを作ってほしいという「新発見」から、そうした観光コンテンツをさらに高めて、より魅力あるものを目指す思いから「魅力向上」とネーミングしました。

 篠原 全国各地の伝統工芸品も観光資源として活用が必要でありますが、後継者不足で危機的状況に置かれています。

 豊重 日本文化の象徴でもある伝統工芸品の価値を観光資源とし、地域経済の活性化支援も重要です。海外マーケットの販路拡大、工芸品を目的としたインバウンド客の受入態勢の確立をはかる地域も支援したいです。

 篠原 新発見事業では地域に眠っている新しいものを発見しようという動きでしたが、さらに販路を明確にしてつなげていける体制を強化する。より販路開拓を支援できるように、大きく事業展開を変えられました。

 そうは言いながらも、モニターツアーを実施して終わってしまうというケースは多いです。何が原因だと思いますか。

 豊重 収支バランスを鑑みた適切な価格設定ができていないことが一因と考えています。また、受入態勢を含めて継続的に地域で事業を取り組んでいく関係者間の合意形成ができていないことも一因と考えています。

 篠原 初年度は補助金が付きますが、次年度に向けて補助金がなくなることを前提に価格設定や受入態勢を整備しなければならない。今回の補助事業を通して、長年にわたっての事業計画をつくり、持続的に地方誘客が促進されるように取り組んでもらいたいです。

 豊重 新発見事業と同様に、地域観光魅力向上事業では「販売型」「新創出型」の2つの類型を設けます。販売型は、事業実施期間内に造成した観光コンテンツを販売することを目的にしています。新創出型は、新たな観光コンテンツ造成および販路構築を行い、事業終了後に速やかに販売開始することを目的にした取り組みとなります。

 最低事業費は600万円となっており、補助額は400万円までは定額でそれ以上は2分の1で補助します。事業費600万円の場合、補助額500万円、自己負担100万円で事業が行えます。補助上限は1250万円となります。

 篠原 販売型、新創出型のどちらの事業についても、地域と連携した受入態勢に加え、観光コンテンツの販売や継続的な提供を前提とした販売計画を整えていかなければならないのですね。

 豊重 伴走支援を行いながらビジネスモデルづくりと、地域で自走するための後方支援をしっかりと行っていきます。申請前支援として、地域観光魅力向上事業スタートアップセッションを開催し、観光分野の専門家によるセミナーにより、事業計画などのブラッシュアップにつながる情報を提供しました(後日、事業サイト上でアーカイブ配信予定)。

 採択後には、①専門家によるオンラインセミナーの開催②地域観光サポーターによるアドバイス③SNSなどを活用した情報発信支援④旅行会社などとの商談会の開催⑤事業に関する個別相談の実施――といった主に5つの事業実施支援を行います。これまでの類似の事業での取り組みの課題を整理し、反省を踏まえて、丁寧に対応しながら手厚い事業にしていきます。より明確に分かりやすく、申請者や採択事業者に今回の事業を活用いただきたいです。

 篠原 申請手続きや採択事業者の選定についてはいかがですか。

 豊重 提出書類は、①事業計画書②費用積算書③事業実施スケジュール④事業概要⑤市区町村の同意書――の5つの様式を、すべて事業サイトの申請ページから提出してもらいます。引き続き様式①―③はシステム上への入力となります。また、前身の新発見事業で提出を求めていた様式⑥の「連携先の同意書」は不要となり、様式①において連携先の同意の有無を記載してもらう形式に変更し、少しでも皆様の手間を掛けないように進めていきます。

 採択事業者の選定については、提出された書類から①持続可能な観光地域づくりへの寄与②独自性・新規性③具体性・計画性④実施体制・持続性⑤収益性――の5つの観点から審査します。80%以上は地方部となるよう優先採択します。

 篠原 提出書類をなるべく簡素化し、提出された事業がいかに継続性を保てるか見極めるわけです。採択事業といえば今年1月に「『地域観光新発見事業』成果発表会」が開かれ、新発見事業を活用した好事例の取り組みが披露されました。SNSの活用成果についても発表されましたが、評価はどうですか。

 豊重 実施主体から反響が多いと驚きの声をいただきました。新発見事業のインフルエンサー派遣では、プロのインフルエンサーによる情報の拡散力が良く、販売までの導線をインスタグラム内で設けました。ただ見て終わりではなく、そのあとの販売にもつながるため、インスタグラムなどのSNS活用は引き続き支援していきたいです。

 篠原 観光の世界もインスタグラムでのPRから一歩進み、申し込みまでの導線をつなげられる仕組みを設け、継続的な受入態勢をつくっていく流れが必要になります。

 豊重 地域観光魅力向上事業の1次公募の期間は、3月3日(月)~4月18日(金)正午まで。5月下旬に採択通知を行い、事業は交付決定後の6月下旬~7月目途から26年2月28日(土)まで実施できます。多くの魅力的な観光コンテンツをお待ちしています。

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