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「観光人文学への遡航(42)」 観光キャリア教育と採用のいま②宿泊業界

2023年12月15日
編集部

2023年12月15日(金) 配信

 11月4日に日本国際観光学会の全国大会にて「観光学部・学科学生をどのように業界へと導くか」というシンポジウムで議論されたことを先月からまとめている。人材採用に危機感を感じ、今までと異なったアプローチを試みようとしているのが、旅行業界と宿泊業界である。今月は宿泊業界について考察していく。

 

 宿泊業の現状については帝国ホテル出身で、ホスピタリティコーチングサービスの代表チーフコーチである青木昌城氏が登壇した。

 

 宿泊業界は、コロナ後の回復度合いは観光業の中で最も元気がいい業界であると言ってもいい。その分、コロナで離職したマンパワーが戻ってきていないため、慢性的な人手不足に陥っている。

 

 多くのホテル・旅館が人材確保に必死になっていくなかで、あるべき人材像のビジョンも描き出せずに、やみくもに手当たり次第に採用活動を行っているように見受けられる。それはあるべき人材像だけではなく、あるべき企業像のビジョンがないから、目先のマンパワーで右往左往することになってしまっている。

 

 そんな現状のなか、青木氏の指摘は鋭い。まず、宿泊業界と一括りにできない現状を分析する必要を青木氏は説く。業態によって求める人材像が違うのに、それを理解できていない。 

 

 例えば、シティ系高級ホテルでは、総合職と専門職と区分して採用しているが、結局は専門家を育てているので、キャリアプランが従業員側からしても立てづらいという問題点が挙げられる。一方で、ビジネスホテルは完全に不動産投資ビジネスの様相が顕著になってきているにもかかわらず、このような発想での採用にはなっていない。そして、旅館はいわゆるなんでも屋で、業務に幅がある。このように、業態によって大きく差があるにもかかわらず、採用となるとすぐ接客ばかりが話題となる。青木氏は、宿泊業界はこれからも接客業だと言い切っていっていいのかと疑問を呈する。

 

 実際に、最近は各社とも富裕層の獲得ということが目下のテーマとなっているが、単に単価を上げることばかりを考えていないだろうか。そして、超富裕層を誘致するためには、最高のしつらえを用意し、最高のシェフを用意しなければいけないと躍起になっているかもしれないが、超富裕層はお抱えのシェフを帯同してやってくるから、最高のシェフを用意する必要はない。それよりも、そのシェフが求める食材を調達できるか、もしそれが調達できないときは、代替となるものが用意できるかといったことのほうが求められる能力であると、青木氏は主張している。

 

 だからこそ、これからの宿泊業に求められる能力は、栄養学だったり化学だったりするのではないだろうか。そして変わらず必要なのは、読解力であることは言うまでもない。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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