料亭文化を国内外に、100年の歴史持つ料亭集う(百年料亭)

 100年以上の歴史を持つ全国18カ所の料亭は3月7日に、新潟県上越市の料亭・宇喜世で、「百年料亭ネットワーク」を設立した。これまで料亭は日本の伝統的な料理や文化を守ってきた。一方で「一見さんお断り」に代表される敷居の高さが、料亭の認知・普及を妨げていた。東京オリンピックを前に、歴史的建造物の価値と和食・料亭文化を、改めて国内外に発信していく。

 具体的な活動内容は情報発信だけではない。築100年を超す建造物の維持・保存・継承。百年料亭を軸に互いに送客し合い、地域活性化や地方創生を目指す。すでに今年1月に長野県・松本館(同会員)に宇喜世から送客を実施。4月は長崎県・一力(同会員)への送客を予定している。

 さらに「地方の伝統・文化を守る有識者会議」「地方の伝統・文化を支援する会議」を2017年度に立ち上げる見通し。専門的な見地から建造物の維持・保存方法の提言と指導を行う。支援に対しては特別賛助・賛助会員らを募り、観光誘致や商品開発をともに進めていく考えだ。

 このほか、ネットワーク構築で相互交流や情報共有をはかり、料亭文化(芸妓・舞妓など)の継承や、個々の家風などを後生に残す側面もある。

 発起人は宇喜世の大島誠社長(百年料亭ネットワーク事務局長)。4年前に宇喜世の社長に就任したが、経営状況が思わしくなかった。そこで全国の料亭に話を聞いて回ったところ、同じ悩みの声を多く聞いたという。

 大島氏は全国各地3千カ所の和食店を調査。全国で百年料亭の基準に当てはまったのは67カ所のみ。このうち約半数以上に訪問し、同会の考えを伝えたところ、賛同する料亭も多かった。

 国土交通省に何度も通い、100年を超える料亭、建造物の保護や改修費補助などの理解を訴えた。ただ「料亭文化全般に対する国民の理解が必要」と、同会の必要性を諭された。

第1回総会のようす。足掛け2年で設立に

 同日に記者会見と第1回の総会を開催。全国10カ所の料亭が駆けつけ、足掛け2年で設立に漕ぎ着けた。大島氏は「この2年もの間に2つの百年料亭が廃業となった。今後は建造物・料亭の文化を守り、発信していきたい」と述べた。

 一方、料亭を利用することに「空間と歴史、さまざまな物語があるなかで、食事を楽しむことに価値を見出してほしい」と想いを語った。

 青森県・富士見館(同会員)の大舘むつ子女将は「100年の歴史を持つ料亭は少ない。悩みを共有でき、いい励みになる」と設立を喜んだ。

 今後もインバウンド増加、地方への流入が見込まれる。日本の新たな文化価値訴求、新たな受け皿として、同会の役割に期待がかかる。
【平綿 裕一】

「百年料亭ネットワーク」設立。発起人は大島誠氏(前列左から3番目)

旅行会社の強み活かす、良質な商品造成を(ジャルパック)

試飲などが楽しめる高砂酒造工場
高砂酒造杜氏の森本良久氏

 ジャルパックでは、北海道と沖縄に仕入センターを設け、地域と協力しながら、魅力的な商品造成に力を入れている。今回、国内企画商品第1事業部北海道グループの中川明子グループ長と、企画を担当した益子沙織アシスタントマネージャーに話を聞いた。工夫を施した丁寧な企画やパンフレット制作、旅行会社ならではの、質の高い商品が生まれる背景を知ることができた。同社プランナーへのインタビューはこれで3回目。
【謝 谷楓】

 ――オススメコース「北海道銘酒を学び味わう旅」について。

益子沙織アシスタント
マネージャー

益子:銘酒をテーマにした、新しいコースです。食や自然というイメージが強いなか、日本酒とウィスキーに着目することで、さらに一歩踏み込んだ北海道を紹介したいと考えました。ご年配の夫婦だけでなく、日本酒に興味を持つ大人の女性も視野に、ターゲティングを行いました。

 高砂酒造工場と、ニッカウヰスキー北海道余市蒸留所工場で試飲ができるほか、蔵元限定酒のプレゼントといった特典も用意しています。

中川:携わった益子は現地を訪れたうえで、造成に着手しています。

 視察を通じ、見せたいモノや見せるタイミング、食事を取る時間帯にも配慮しています。テーマに関連したホテルでの特典や、旅行が終わった後でも楽しめる吹きガラス体験(グラス作り)など、丁寧でこだわりのある企画です。銘酒というテーマを存分に楽しめる物語性だけでなく、試飲などを考慮し、旅行中の移動手段にも選択肢を設けました。旅行会社ならではの商品となりました。

中川明子グループ長

 ――バランスの良い商品のようです。仕入センターが、2014年にできましたが。

益子:現地の施設各社への提案は、東京にいる私たちが行います。一方、例えば工場見学の時間枠の交渉は、仕入センターが担います。

中川:しっかりと役割分担ができています。

 また、仕入センターの設置により、施設各社とジャルパック、双方にとって相談しやすい環境が生まれました。コミュニケーションを道内に居ながらできるため、施設の方にとっても時間や費用の短縮につながっていると思います。

 ――ジャルパックでの商品造成について。

中川:オンライン旅行会社(OTA)のシェアが高くなってきている昨今、企画に携わる私たちとしては、ユーザーの需要を把握することが大切だと考えています。それを踏まえたうえで、ジャルパックができることは何かを考え、自治体や観光協会、地域の施設各社と連携しています。

 例えば、まだ知られていない温泉地や、個人では体験が難しいアクティビティの提案・商品化というように、旅行会社の強みを活かし、地域の良さを伝えたいと考えています。

 企画会議では、グループメンバー一人ひとりが積極的に発言をしています。ユーザーに見せたいモノや体験させたいコトを考え、年齢層や性別といったターゲットの選定も行います。

 パンフレットのほか、Web商品の造成も行っていますので、商品の性質やターゲットに最適な媒体選びにも気を使っています。

 集客や、自社のダイナミックパッケージ商品とのバランスを配慮したうえで、ジャルパックならではの良質な商品造成を続けています。

 ――パンフレットで工夫している部分は。

益子:パンフレットでは、写真のインパクトをとても大切にしています。商品購入のキッカケとなるため、丁寧な選定を心がけています。直接現地に赴き、撮影を行うときもあります。同一施設でも、他社パンフレットと比べて見栄えするような写真を載せるなど、差別化ができるよう工夫しています。

中川:現地視察では、ユーザーに伝えたい見どころや、オススメの味わい方を意識して行動しています。写真へのこだわりもその一環です。

益子:被写体の立ち位置を指定することもあります。

 施設の方には手間をかけてしまいますが、パンフレットを通じ現地の雰囲気を知ってほしいと考えています。

 秋から冬にかけ、下期のパンフレットには2次元バーコードを載せています。冬の北海道はイベントが多いため、動画などを通じ、臨場感を伝える工夫もしています。

 ――オススメの商品を教えてください。

益子:ジャルパックなら、道内間の飛行機にも乗ることができます。オリジナルの旅を楽しめる商品“旅スケッチ”を利用すれば、利尻島や奥尻島といった地元の方でも訪れる機会の少ない地域に、スムーズにアクセスできます。

 北海道は広いため、移動時間短縮でもぜひ、飛行機を活用してほしいと思います。

 ――ありがとうございました。

16年大賞は日本旅行、今年から2つの賞を新設(鉄旅オブザイヤー)

第6回受賞者・関係者ら

 「第6回鉄旅オブザイヤー2016」の表彰式が1月25日、鉄道博物館(埼玉県大宮市)で行われ、過去最多の106作品の応募の中から、グランプリには日本旅行の「赤い風船 観光列車『ながまれ海峡号』に乗ろう」が選ばれた。今年から「DC(デスティネーションキャンペーン)賞」と「ベストアマチュア賞」が新設された。DC賞は、同年のDC開催地を含むツアーに贈られる。

 鉄旅オブザイヤー実行委員会委員長の戸川和良氏(KNT―CTホールディングス社長)は「鉄道旅がますます重要になってきていると実感している」と強調。今年も多彩な観光列車がデビューすることに触れ、「旅行会社としては、いち早く旅行商品に仕上げて全国に広めていきたい」と語った。

 日本旅行は、新幹線開業を契機とした道南エリアのさらなる活性化を目的に、「ながまれ号」を総合プロデュース。旅行会社が企画、販売、車内サービス提供を手がけた非常に珍しい試みだ。道南いさりび鉄道や道南いさりび鉄道応援隊と連携しツアーを造成。同応援隊は、函館市と北斗市、木古内町の沿線自治体有志メンバーで構成され、地域資源の活用や、観光客のもてなしなどの活動を担っている。

 車内では函館市のスイーツを活かした「海鮮スイーツ丼」や、木古内町の地元食材をふんだんに使った創作イタリアンが楽しめるほか、茂辺地駅(北斗市)ではホーム上で海鮮バーベキュー体験も用意。

 同社経営管理部新規事業室鉄道プロジェクトの瀬端浩之マネージャーは「この賞の受賞が、これからの沿線の活力につながっていくと確信している」とコメントした。

 13通の応募のなかから「ベストアマチュア賞」を受賞したのは、会社員の谷正博氏が企画した「寝台特急サンライズ瀬戸&四国まんなか千年物語号で行く四国横断鉄道の旅」。

 香川―徳島―高知間を鉄道で横断しながら、各地の歴史やグルメ、自然が堪能できるツアーだ。「四国まんなか千年物語」の始発駅がある多度津町の出身だったことから、同列車をツアーに組み込んだ。プライベートでも列車旅を楽しむ同氏は「企画できないことが起こるのが旅の魅力」と語った。

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 準グランプリ以下の受賞は以下の通り。

 【準グランプリ】 長崎・雲仙仁田峠ミヤマキリシマと「幸せの黄色い王国」福袋付きカーネーション列車と島原半島7大ご当地グルメ食べ比べ(読売旅行)

 【ルーキー賞】 日本海絶景トレイン「きらきらうえつ号」に乗る 月山・鳥海山3つの絶景遊覧3日間(阪急交通社)

 【DC賞】「プレミアムステージ」中国鉄道コンチェルト〈第1楽章〉~瀬戸内観光列車旅の章~3日間(クラブツーリズム)

 【審査委員特別賞】 貸切新幹線で行く 元気に!九州 鹿児島(西鉄旅行)

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瀬端浩之氏(左)と永山茂氏

グランプリの日本旅行担当者に聞く、二人三脚で新たな価値を創造

 第6回鉄旅オブザイヤー2016」でグランプリに輝いた日本旅行の「赤い風船 観光列車『ながまれ海峡号』に乗ろう」。旅行会社が総合プロデュースを行う「観光列車」の企画意図や、今後どのような可能性を秘めているのかを、同社経営管理部新規事業室鉄道プロジェクトの瀬端浩之マネージャーと日本旅行北海道の永山茂地方創生推進室長に伺った。
【後藤 文昭】

 ――旅行会社が観光列車をプロデュースしようと考えたきっかけは。

 「道南を訪れるお客様に観光列車を楽しんでもらえないか」。この考えが企画をスタートしたきっかけです。道南いさりび鉄道側も観光列車用として新しい塗装を施した「ながまれ号」2両を準備していました。しかし、開業準備が忙しく、観光列車として走らせる作業は手付かずの状況でした。そこで、我われがプロデュースを行うことになりました。

 ――商品化に向けて意識されたことは。

 観光列車として使用した「ながまれ海峡号」には、もともと地域情報発信列車としての役割があるので、沿線3市町の魅力をしっかりと盛り込んでいくことが重要でした。とくに食事については、それぞれの市町の住民の皆さんの自慢の一品、産物を提供しました。漁協関係者など観光に不慣れな方々の協力が得られたことや、観光列車の内装や企画などを手作りしたことで魅力が増しました。

 ――今回の大賞受賞は、今後どういう意義を持ちますか。

 面白い取り組みに踏み出したいが、「集客や満足度の高いサービス、お客様を楽しませるための演出の方法がわからない」と悩み、その先に踏み出せないでいる地方のローカル鉄道会社が多くあると思います。我われは、地方のローカル鉄道会社の皆さんと協同、協力し、「その地域ならではの観光列車」の全国展開ができると考えています。

 ――旅行会社が鉄道会社に提供できることは。

 観光客は、旅先でそれぞれに求めているものがある。そのニーズに応え、またお客様の反応を見極めて次に活かせるノウハウを、旅行会社は長い経験から持っています。

 日本旅行鉄道プロジェクトチームにご連絡いただければ、全国どこでもすぐに駆けつけて、一緒に企画を立案します。

 ――地方鉄道の魅力は。

 「地域の良いところを取り込め、その地域の食や文化など多面的な観光が楽しめる」ところが地方鉄道ならではの魅力です。今回は、道南という海鮮素材が素晴らしい場所ということで海鮮バーベキューを企画しました。地域によっては、例えば山の幸を活かした企画も立てられます。

 豪華な観光列車も観光資源としては必要ですが、どこでもできるわけではありません。しかし、資金面で難しいからと言ってあきらめる必要はないと思います。大きな金額は出せなくても、知恵は出せるはず。鉄道車両だけでなく、駅舎など活用できるものが多いのが“鉄道の魅力”です。その地域の魅力は何か、どうすればお客様が満足してくれるかを考えれば、素敵な観光列車を走らせることができると思います。

 今回の受賞は「知恵を出すことで、新しい展開が可能になる」と、全国でさまざまな取り組みをしている事業者に、夢を与えられたのではないでしょうか。これからはローカル鉄道と旅行会社が二人三脚で動くことで、新しい価値を生み出すことが必要です。

 ――ありがとうございました。

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ながまれ号と津軽海峡(道南いさりび鉄道提供)

 道南いさりび鉄道(小上一郎社長、北海道函館市)は、北海道新幹線開業と同じ2016年3月26日に開業した第3セクターの鉄道会社。北海道旅客鉄道から江差線の経営を引き継ぎ、木古内―函館(五稜郭―函館はJR線に乗り入れ)を運行している。

 同社は北海道の補助事業を活用し、地域情報発信列車「ながまれ号」を開業当初から運行。潜在的な観光需要を掘り起こし、新幹線の開業効果を高めている。

「ふるさとオンリーワンのまち」第8号認定、安曇野の“地域づくり”(NPO法人ふるさとオンリーワンのまち)

安曇野市の宮澤宗弘市長(右)と津田令子理事長

 NPO法人ふるさとオンリーワンのまち(津田令子理事長)は2011年の発足以来、独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどユニークな観光資源を、「ふるさとオンリーワンのまち」と認定している。3月8日には、長野県安曇野市(宮澤宗弘市長)を訪れ、同市の「地域ブランドを活かした人づくり、モノづくり、まちづくり~新たな取り組み『朝が好きになる街 安曇野』の展開~」を第8号として認定。津田理事長が宮澤市長に認定書を授与した。

 安曇野市は長野県の中部に位置し、雄大な北アルプスの麓に田園風景が広がる。清冽な湧水と緑豊かな自然のなかで電子部品や精密機械などさまざまな産業も立地しており、「田園産業都市」を目指している。人口は約10万人。川端康成や井上靖、東山魁夷など多くの文人墨客に愛された地としても知られる。

北アルプスの麓に広がる美しい田園風景

 宮澤市長は「ふるさとオンリーワンのまちの認定をいただき、心から感謝している」と謝意を述べ、「これを機にさらに安曇野市の魅力を、全国、そして全世界に発信していきたい。多くの皆さんに訪れていただき、できれば定住につなげていきたい」と語った。

 同市は商工観光部観光交流促進課に「ブランド推進担当」を設置している。ワサビやリンゴ、ニンジンなど地域の特産品をスイーツにしたり、日本観光ポスターコンクールでは「朝が好きになる街 安曇野」が入賞するなど、あらゆる面で、安曇野市のブランド化に取り組んでいる。

 宮澤市長は「地域の皆さんに安曇野の良さを知ってもらうことが一番大切だと思っている」と語り、田園風景や清冽な水、きれいな空気、人の温かさ、地元市民や旅人も愛する安曇野の朝の魅力も紹介した。「15年からスタートした信州安曇野ハーフマラソンも定着している。昨年は拾ヶ堰が世界かんがい施設遺産に登録された。自転車で安曇野を満喫できる仕掛けも今後取り組んでいきたい」と力強く語った。

 津田理事長は「 “ここにしかないもの”に多くの地元の人が気づいていない。その魅力を発掘し、発信していくために私たちはNPO法人を作った」と説明。「安曇野に住んだり、訪れたりしなければ安曇野の朝の素晴らしさは分からない。安曇野にしかないオンリーワンの魅力をあらゆるメディアを通して発信していく」と強調した。また、「今秋にも、東京でふるさとオンリーワンのまちサミットの開催を計画している」と参加を呼び掛けた。津田理事長は、「飯島町(長野県)や御前崎市(静岡県)、嬬恋村(群馬県)など、これまでに認定された地域が実施するイベントなどで、お互いに特産品をPRし、販売し合う取り組みも進んでいる」と紹介。「認定された地域が相互にウイン―ウインの関係になれるネットワークを広げていきたい」と語った。

 認定式終了後NPOのメンバーらは、安曇野市を代表するわさび田の「大王わさび農場」や、市内に500体を超える道祖神、安曇野が生んだ夭逝の彫刻家、荻原守衛(碌山)の作品を展示する「碌山美術館」、穂高神社などを視察した。

大王わさび農場
道祖神も安曇野の風景

No.456 ITベンチャーの実力と可能性、“手話”と“スキャン”、2社に注目

ITベンチャーの実力と可能性
“手話”と“スキャン”、2社に注目

 需要と供給のマッチングで威力を発揮するインターネット業界。専門性の高いサービスを展開するITベンチャー企業も少なくない。新たなサービスと需要の創出はいかに果たされるのか。“手話”と“スキャン”を切り口に事業展開するシュアールとPayke、2社を訪ねた。企業と自治体、国内とインバウンド、ソリューション提供の対象は広く、組織や個人、国も問わない。両社代表ともに、「よそ者、若者、ばか者だからこそ、冒険的な試み(ベンチャー)ができる」と力を込めたのが印象的だった。

【謝 谷楓】

 
 

古田奎輔氏

Payke 古田奎輔代表

 ――スマートフォン端末用アプリで、製品のバーコード(JANコード、Japan article number code)を読み取る。それだけで、製品情報が多言語で表示される。とても分かりやすい機能です。まずは、製品情報の入手方法を教えてください。

 方法は、2通りです。メーカーに直接登録してもらう場合と、プログラムが自動的にWeb上にあるデータを収集する(クローリング)場合があります。

 メーカーは専用の管理画面を通じ、情報を登録します。有料プランなら、動画のアップロードも可能です。広告の出稿や、ネイティブスピーカーによる翻訳、関連データの獲得もできます。

 ――詳しく教えてください。

 我われのサービスを通じ、“いつ”“どこ”でバーコードがスキャンされたのかを知ることができます。年齢や性別、国籍といった属性も知れます。

 また、“風邪薬”というように、製品を限定し、関連データを集めることもできます。特定の製品に興味を持った人の集合データを確認できるのです。

 “どこ”でどの製品をスキャンしたのか、特定の端末を追跡することも可能です。製品にまつわる動態データ(人の流れ)も併せて取得できるため、興味を示す属性とエリアの把握にも役立ちます。…

大木洵人氏

シュアール 大木洵人代表

 ――サービスについて教えてください。

 遠隔手話通訳サービス“モバイルサイン”を提供しています。

 通訳士が、音声言語と手話をそれぞれ翻訳し、スマートフォンやタブレットといった携帯端末を通じ、利用者と企業・自治体をつなぎます。端末のディスプレイとカメラを用いることで、音声言語から訳された手話を確認するとともに、利用者は考えを手話で表現することができます。

 タイプは2つ、対面型とコールセンター型があります。

 対面型では、企業・自治体が受付窓口に端末を設置し、手話通訳を必要とするユーザーの来訪に備えます。駅や役所での問い合わせや、ホテルでルームサービスを希望するときに活用されています。

 コールセンター型は、ユーザー自身の端末を利用します。例えば、チェックイン時間の変更といった宿泊施設への電話連絡で利用されています。

 手話通訳士と情報通信技術(ICT)を駆使し、音声言語と手話、双方の話者をつないでいるのです。…

 

※ 詳細は本紙1664号または3月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

罰則金100万円、事業廃止命令も、観・国・県が連携し監督(民泊関連法案)

 政府は民泊サービスのルールを定めた「住宅宿泊事業法案」を3月10日に閣議決定した。年間提供日数の上限は180日となったが、条例で日数の制限ができる。一方、同法案に先立ち、違法民泊の規制強化を盛り込んだ「旅館業法の一部を改正する法律案」も閣議決定された。厚生労働省の民泊実態調査で、全国で許可物件の割合は16・5%と2割を切っていた。違法民泊や地域住民とのトラブルの早期解決に向けて観・国・県が管理監督をはかる。罰則金も100万円まで引き上げ、厳格化した。両法案ともに今国会の成立を目指す。
【平綿 裕一】

 住宅宿泊事業法案では、住宅宿泊事業(民泊サービス)を行う事業者と、管理業者、仲介業者の3者に制度を創設した。それぞれ事業を始めるには届出か登録が必要だ。同法案で民泊サービスの適正化をはかり、観光客の来訪と滞在の促進を促す。

 民泊を有料で住宅に人を1年間で180日を超えない範囲で宿泊させる事業と規定した。民泊事業者は米国エアビーアンドビーのような仲介業者のサイトに、物件情報を提供。宿泊者がサイトを通して物件を探して予約、支払をすることが基本的な流れになる。

 民泊事業者はサービスを提供する際に、都道府県知事に届出が必要になる。さらに衛生管理や騒音防止のための説明、苦情の対応などを義務づけられている。家主不在型の場合、これらを管理業者に委託しなければならない。

 民泊管理業者は国土交通大臣が、民泊仲介業者は観光庁長官が、登録を行う。知事と長官、大臣は互いに情報共有をはかり、それぞれの事業の監督を行う。違反があれば事業改善命令や事業廃止命令などがなされる。

 観光庁長官は民泊事業者に対し、インターネット設備に必要な助言を行う。インターネットの活用で、利便性向上をはかる考え。

 各都道府県は条例で民泊サービスを実施する期間を、区域を定めたうえで制限が可能だ。民泊が原因の生活環境悪化を防止するため、必要がある場合は条例を定めることができる。地域の実情を反映する仕組みとして盛り込んだ。

 一方、旅館業法を一部改正する法案で規制を強める。都道府県知事らは無許可営業者に対する報告徴収や立入検査、緊急命令の創設などを行う。さらに旅行業の欠陥要件に暴力団排除規定を追加した。 

 具体的には無許可営業者らに対する罰則金が3万円から100万円に引き上げられた。旅館業法に違反した場合は、2万円から50万円になる。

 このほか、同法案でホテルと旅館の営業種別「旅館・ホテル営業」に統合する。規制の緩和で旅行業の健全は発達をはかる考えだ。

旅の責任は自分が負う ― 謙虚さを失った旅人は見苦しい

 旅とは思い通りにいかないものである。

 海外を旅するにしても、飛行機の着陸が遅れたり、現地で道に迷ったり、注文したものと違う料理が出てきたり……。これらを含めて旅だと思っていれば、すんなりとホテルに到着できたり、食べたい料理がちゃんと出てきただけで万事順調と感じられる。

 半分上手くいけば、上々だというレベルの謙虚さが、旅を楽しくする。

 でも、旅先で思い通りにいかないことを極度に嫌う人もいる。何かトラブルが生じると、大きなストレスを感じて、イライラしたり、旅行会社やホテルのスタッフに当たり散らしたりする。

 旅行中に不快なことや、不便なことを一切排除したいがために、リスクの少ない「安全・安心」を謳うツアーに参加するのも1つだ。一定以上の基準を満たしたツアーでは、おそらくホテルもそれなりのグレードが選ばれ、レストランのメニューもしっかりと選択されているだろう。トラブルに巻き込まれる確率もぐんと下がり、何かトラブルに巻き込まれたとしても、旅行会社が対応してくれる。

 旅のリスクを最小限にする努力は旅行者にとって当然必要なことである。安全・安心なツアーに参加することは、リスク回避の努力の正攻法である。けれど、信頼できるツアーを選んだからといって、旅のトラブルがなくなるわけではない。

 旅の責任を自分が負うのではなく、100%旅行会社などに寄りかかっている旅行者の姿勢が、ときどき鼻につくことがある。

 初めて行く海外のビーチで泳いでいる最中に沖に流されたり、街の危険な区域に立ち入って暴行されたりというケースが多々ある。そうすると、被害に遭った旅行者やその関係者が、「『ここは危険だ』という十分な説明がなかった」などと言って、旅行会社と揉める。旅行会社にも非があるかもしれないが、旅行者も自らの「安全」を他者に委ね過ぎていたのではないかと感じることもある。

 子供のころから泳ぎ慣れた海なら、水深や潮の干満の大きさ、波の流れ、風の向きなどある程度理解しているので事故も起こりづらい。しかし、初めて行く、見知らぬ海に対して「何を安心して泳いでいるのだろう」と思ってしまう。初めて歩く街の路地も危険だらけだという基本認識が欠かせない。旅行するなら少なくとも、“自分自身で”危険かどうかを調べるべきであるし、どうしても調べ切れなかったものに対しては、旅行会社のスタッフに、自分から聞くべきである。旅人の身でありながら、旅行会社からの説明をひたすら待っている姿勢こそ疑問に感じる。そして旅人は危機への嗅覚も必要だ。

 「安全・安心」を謳うツアーに参加することは、リスク回避の1つの手段であるが、そこに寄りかかり過ぎると、逆にリスクを大きくしてしまう。

 国内旅行でも、旅館に少し高額な宿泊費を払うと、王様のように振る舞う客がいる。そして何か気に食わないことが起こると、宿に文句を言う。日本の旅館は“おもてなし”を前面に出しているため、それら甘ったれた客に対しても強く出づらい。

 旅人は所詮「他所者」である。もっと謙虚であるべきである。謙虚さを失った旅人は見苦しい。

(編集長・増田 剛)

業務独占から名称独占へ、地方誘客に向け規制緩和

通訳案内士・旅行業法を一部改正へ

 政府は3月10日に「通訳案内士および旅行業法の一部を改正する法律案」を閣議決定した。通訳ガイドの量と質の向上や、ランドオペレーターの適正化、着地型観光に関する規制緩和などを盛り込んだ。訪日外国人旅行者は地方へ流れている。地方誘客促進のため、受入環境の充実や旅行に係る安心・安全を追求していく。

 通訳案内士は業務独占を廃止する。無資格者が資格の名称や類似名称を利用できない「名称独占」に規制を見直す。このほか、地域のガイドに特化した地域限定通訳案内士の資格制度を創設する。さらに試験項目に実務項目を追加。適正化をはかり、全国通訳案内士に定期的な研修の受講を義務づける。

 ランドオペレーターは登録制を創設。管理者の選任と書面の交付などを義務づける。さらに業務改善命令と、これに違反した場合には登録を取り消す。欠格期間は5年間となる。一部の悪質なランドオペレーターを是正し、安心・安全や公正さを確保する。

 地域の観光資源・魅力を生かした体験・交流型旅行商品、いわゆる着地型観光の規制を緩和する。旅行業務取扱管理者の複数営業所兼務を解禁する。一方、地域に限定した知識だけで取得可能な「地域限定の旅行業務取扱管理者」の資格制度を新たに創設。地域の旅館・ホテルで着地型観光商品の企画、販売を促進させる考えだ。

推理ドラマの名優

 トラベルミステリーの巨匠・西村京太郎氏の推理小説を原作にドラマ化した「十津川警部シリーズ」をはじめ、推理ドラマなどで活躍した俳優の渡瀬恒彦氏が3月14日、闘病生活の末に亡くなった。

 「十津川警部シリーズ」は、全国津々浦々の急行列車を舞台に、犯人の巧妙な鉄道トリックを見破り、事件を解決していく刑事ドラマシリーズだ。同じく主演した「タクシードライバーの推理日記」では、元刑事のタクシードライバーが乗客に関わった事件を解決するため、全国各地をめぐる推理ドラマ。どちらも全国の観光地を舞台に話が展開していくため、旅番組のように豊富な情報量が心地良い。

 全国の観光名所や温泉地、旅館を知るきっかけになった俳優なため、これからはその姿が見られなくなると思うと寂しい。

【長谷川 貴人】

【発信地点】労基法改正へ 期限は2年間

内藤 耕氏(ないとう・こう)
サービス産業革新推進機構
代表理事、工学博士

 「働き方」という名の下で、政府でさまざまな議論が進められ、労働基準法の改正案が最終的に連合と経団連で概ね合意された。これによって、今から2年後の2019年度からの運用を目指して国会で法改正が進められる運びとなった。

 報道によれば、これまでは労使で特別条項付きの36協定さえ締結すれば、実質的に残業時間が青天井だったのが、今回の法改正で残業時間に上限が罰則付きで定められることである。

 つまり、現在の36協定では、残業時間の上限は年360時間、月45時間だったのが、この法改正で労働時間の延長は特例で年720時間が上限となる。しかし、産業界側からの要望もあって、その延長が繁忙月に100時間未満まででき、これが2カ月から6カ月続くようであればそれは80時間になるが、45時間を超える残業は最大で6カ月という。 

 労働基準監督署が企業をチエックする仕組みも盛り込み、ここで定められた残業時間の上限を5年後に見直す。

 これまでその必要性が繰り返し指摘されてきた「勤務間インターバル制度」の導入への努力義務も新たに書き込まれる。1993年に勤務間インターバルが導入されたヨーロッパでは、終業時刻後から連続して最低11時間の休息を付与することが義務付けられ、とくに宿泊産業への影響が大きい。

 これとは別に、昨年度の法改正で、これまで50%以上と定められていた月60時間を超える時間外労働への割増賃金率について、中小企業への猶予措置を廃止することが既に決まっている。雇用形態の違いによる待遇差の解消も政府によって検討され、昨年末に同一労働同一賃金のガイドラインが公表されている。

 これらの法律改正に対応しようとすれば、企業は就業規則を改定しなければならない。働き方の具体的な方法は法律には定められていなく、あまり意識されることはないが、それは労働契約法第7条に「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」と書かれているからである。

 注意しなければならないのは、就業規則を変更しても、それは適用される企業内の働き方のルールが新しくなるだけである。実際に長時間労働を是正しようと思えば、現場作業を見直す労働生産性の改革を実現しなければならない。

 しかし、サービス産業にとって、作業自身が商品そのものであり、それを変更することは簡単なことではなく、今回の法改正でその実現までの期限が2年間と定められたことになる。