ANA新社長に平子裕志氏

平子裕志新社長

 全日本空輸株式会社(ANA、篠辺修社長)は2月16日に開いた臨時取締役会で、平子裕志取締役執行役員が4月1日付で社長に就任する人事を発表した。なお、篠辺社長は3月31日をもって退任し、翌4月1日よりANAホールディングス副会長に就任することが決まっている。

 平子 裕志氏(ひらこ・ゆうじ)1958年生まれ。59歳。81年東京大学経済学部を卒業し、全日本空輸に入社。2004年に東京空港支店旅客部長、06年営業推進本部レベニューマネジメント部長などを経て、10年に企画室企画部長、11年に執行役員となる。15年からはANAホールディングスで取締役も兼ねる。
 
 
 
 
 

「雪の回廊」を歩く、志賀草津高原ルート

第50代ミス志賀高原の荒木怜奈さん

今年で13回目、4月20日から

 長野県・山ノ内町と群馬県・草津町を結ぶ国道292号(志賀草津高原ルート)の冬期閉鎖解除の前日である4月20日の午前9時から志賀草津高原ルート「雪の回廊ウォーキング」が開催される。今年で13回目。主催は草津町・山ノ内町広域宣伝協議会。

 2月8日には、群馬県から草津町観光課の関亘係長、長野県から山ノ内町観光商工課観光商工係の養田武さんと第50代ミス志賀高原の荒木怜奈さん、銀座NAGANOの竹鼻栄二次長の4人が本紙を訪れ「雪の回廊ウォーキング」をPRした。

 高さ約7㍍を超える雪の回廊や標高2172㍍の日本国道最高地点からの雄大な景色を眺めながらウォーキングが楽しめるイベントで、当日のコースは3種類。【Aコース】志賀高原スタートコース(8・1キロ)は先着100人、【Bコース】白根火山ロープウェイスタートコース(8・1キロ)は先着150人、【Cコース】リフトで行く横手山頂らくらくコース(3・1キロ)は先着50人で、各コースとも午前9時受付開始、午後3時30―40分ごろにそれぞれの出発地に戻る予定。各コースの参加者を10人程度のグループに分け、各グループに1人ずつガイドが付く。

 参加料はA・Bコースが1人4千円(ガイド料・昼食・保険料・温泉入浴料・ロープウェイ料金含む)、Cコースが1人5千円(同+リフト代)。

 昼食には志賀高原で採れたネマガリダケを使った料理が提供され、ウォーキングのあとには草津温泉西の河原露天風呂(Bコース)、またはほたる温泉(A・Cコース)で入浴することができる。大会参加者にはキノコ汁などのサービス、参加者全員に記念品をプレゼントするほか、ゴール者に完歩賞を贈呈する。

 ミス志賀高原の荒木さんは「雪の回廊ウォーキングはもちろん、白根山ロープウェイから眺める絶景やイベント終了後の温泉も楽しめます。1年に一度だけオープン前に日本国道最高地点を歩ける貴重な体験なので、ぜひご参加ください」とアピールした。

 申し込みはスポーツエントリーを利用し、インターネット、FAX、電話から。3月31日まで受け付ける。

 https://www.sportsentry.ne.jp/event/t/68223、FAX=0120(37)8434、電話:0570(550)846(平日のみ午前10時―午後5時30分)。

 問い合わせ=草津町・山ノ内町広域宣伝協議会(雪の回廊ウォーキング事務局) 電話:0269(33)1107。

共同浴場 ― 地元の人たちと旅人が一緒に憩う

 春に向けて、寒い日と暖かい日が交互に訪れている。この原稿を書いている東京の外は、春一番が吹き荒れている。

 この冬は、ほとんど温泉に行かなかった。それが、心残りでもある。そんなときは、過去の旅の記憶に浸るのが心地よい。

 一時期、温泉地の共同浴場ばかりを巡っていた時期があった。今でも温泉地に行くことがあれば、極力立ち寄るようにしている。共同浴場は基本的に誰でも入浴することができる。地元の人にとって生活の一部のように日常的な空間のため、旅人にはそれなりのマナーが必要だが、高級旅館の内湯とはひと味違う、その土地の文化に浸ることができる。

 山形県・かみのやま温泉「下大湯公衆浴場」や、熊本県・人吉温泉の「新温泉」は、レトロ感があって個人的には気に入っている。宮城県・鳴子温泉の「滝の湯」や、同じく宮城県・遠刈田温泉の「神の湯」、福島県では、飯坂温泉の「鯖古湯」や、高湯温泉の「あったか湯」も印象に残っている。

 北陸では、山代温泉には「総湯」と「古総湯」を中心に、周辺に温泉宿が立ち並ぶ「湯の曲輪(ゆのがわ)」文化が今も残る。松尾芭蕉が称賛した山中温泉の「菊の湯」などもいい。山口県の長門湯本温泉の「恩湯」や、長野県・別所温泉の「大湯(葵の湯)」などの外観も、なんとも言えない風情がある。佐賀県・嬉野温泉の「シーボルトの湯」のように、洋風のハイカラな建物もある。

 もちろん、愛媛県・道後温泉の「道後温泉本館」や、大分県・別府温泉の「竹瓦温泉」、それに新しくできた群馬県・草津温泉の「御座之湯」は威風堂々として、存在感も横綱級だ。道後温泉には「椿の湯」もあり、私はあまりに有名な道後温泉本館よりも、地元の温泉街の人が利用する椿の湯の方が好きだ。道後温泉には今年9月、新たに飛鳥時代をイメージした「道後温泉別館飛鳥乃湯泉」がオープンする予定で、いつか行ってみたいと思っている。

 湯がすごくいいな、と思ったのは長崎県・雲仙温泉の「雲仙小地獄温泉館」や、大分県・長湯温泉の「御前湯」、群馬県・川原湯温泉の「王湯」など。また、和歌山県・白浜温泉の「崎の湯」や、岡山県・湯原温泉の「砂湯」、山形県・蔵王温泉の「大露天風呂」は、大海原や山など大自然に囲まれた露天風呂で開放感と旅情いっぱいだ。

 共同浴場のある温泉地は古くから続く温泉文化が継承されているところが多い。地元の人たちと旅人が一緒に憩うことができる。沖縄県にも古くからの共同浴場がある。沖縄市の「中乃湯」は情緒ある温泉銭湯だ。兵庫県・城崎温泉には、「一の湯」をはじめ、外湯文化が古くから根付いているため、湯めぐりができる。草津温泉や、長野県の野沢温泉や、渋・湯田中温泉にも外湯が散在している。外湯があると、旅人も宿から出るので、土産物屋や食事処などの店も活気づき、温泉地での散策が楽しくなる。

 最近、共同浴場を新しく建て替えるところも増えてきた。施設が新しくなるのはいいのだが、昔ながらの風情や歴史を感じることはできない。ネーミングが健康センター的な感じのところもあり、情緒を感じるのは難しい。しかし、100年先も、温泉文化が続くような共同浴場が全国にたくさんあればいいなと思う。

(編集長・増田 剛)

No.453 髙野新事業長に聞く、楽天ブランド、世界で高める

髙野新事業長に聞く
楽天ブランド、世界で高める

 FCバルセロナとの「グローバル イノベーション&エンターテインメント パートナー」契約が話題となった楽天。インバウンドの取り込みをはじめ、海外OTAとの競争が激しいなか、知名度向上は楽天トラベルにとっても追い風となる。新たに事業長に就任した髙野芳行氏を訪ね、今後の方針やAI技術・ビッグデータの活用、地域振興などをめぐって話を聞いた。「グループを牽引する存在になる」と強調する髙野氏。時代にマッチしたDMOの展開といった、OTAトップならではの見解も示した。

【謝 谷楓】

 
 

 ――事業長に就任されましたが、今後のビジョンについて教えてください。

 2017年はとくに、プロモーションとブランド力の強化、ビッグデータの活用、サービスの品質向上の4点に力を入れていきたいと考えています。

 楽天スーパーセールなどのセール時に、売り上げが倍増する宿泊施設もあるため、これらセール自体がプロモーションの役割を果たしています。

 テレビコマーシャルといったマス・コミュニケーションの利用によって、インターネット以外のリアルな市場からのユーザー獲得にも注力します。

 オンライン旅行会社(OTA)での旅行商品購入が一般化しています。今年は、その動きがさらに加速していくはずです。

 ブランド力については、楽天がスペインのプロサッカーチーム「FCバルセロナ」と「グローバル イノベーション&エンターテインメント パートナー」契約をしました。海外での知名度アップを期待しています。楽天市場や楽天トラベルをはじめ、楽天の各サービスで使える楽天スーパーポイントの認知度の向上など、楽天グループが行う広告戦略とも連動し、ユーザーの取り込みをはかります。

 ユーザーと宿泊施設のマッチング精度を上げるために、楽天市場や楽天カードなど、楽天グループのさまざまなサービスで蓄積したビッグデータの活用もしていきます。

 サービスの品質向上では、ユーザーと宿泊施設(サプライヤー)双方の声に一層耳を傾けていきます。例えば、ユーザーの声を課題解決に結びつけるために、昨年4月から国内宿泊向けのコールセンターは、365日24時間対応としました。

 不正カード決済のチェックなど、「安心・安全」な宿泊予約を実現する取り組みにも力を入れています。宿泊施設単体では対応の難しい部分を、楽天トラベルでサポートしていければと思います。

 ――新たに宿泊施設(サプライヤー)を開拓するための施策とは。

 営業を担うインターネット・トラベル・コンサルタント(ITC)が、インターネット上のプロモーションの活用方法を提案し、宿泊施設と二人三脚で顧客獲得をはかることが、私たちの強みです。新規開拓でも、活かしていきます。

 宿泊施設が主体となって、楽しみながら売り上げを伸ばす工夫ができるようサポートする。“エンパワーメント”という、私たちの理念は変わりません。対等な関係を重んじ、一緒にマーケットをつくっていくのです。私たちは、宿泊プランづくりからプロモーション活動まで、施設と一緒になって活動をしています。この事実をもっとアピールしていくことが必要かもしれません。

 規模や伝統にかかわらず、努力した分だけ、顧客と売り上げを獲得できるという、インターネットならではの利点を、最大限活かしてほしいです。

江端浩人氏が基調講演、自己実現満たす“マーケティング4.0”

江端浩人氏

 楽天トラベルは2月13日、新春カンファレンス2017を開いた。江端浩人事業構想大学院大学教授による講演会が開かれたほか、アワードセレモニーも行われた。昨年、首都圏や近郊地区で好実績を収めた宿泊施設が表彰された。

 基調講演を行った江端浩人氏は日本コカ・コーラ在職時、同社のWebサイト“コカ・コーラ パーク”が月間約10億PVを達成するなど、広告・マーケティングの専門家として知られる。

 講演では、「マーケティングに必要なNext Stepとは」と題し、SNS(交流サイト)の普及に適したマーケティング手法を説明した。今後は、企業と一般消費者(ユーザー)、双方向・多方向の意思伝達が一層重要となる。

■ユーザー発信の時代 

 昨年、動画サイトを通じ世界中でヒットした、ピコ太郎の“PPAP”を例に挙げ、「オリジナルを元に、自らアレンジして踊る。そして、動画をアップロードしてシェアするという、自分事化と自己実現のプロセスが流行につながった」と語る。…

 

※ 詳細は本紙1661号または2月27日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

“スノーリゾート”最終報告へ、国が観光施策に位置づけ

スノーリゾート地域の活性化に向け、対策を急ぐ

 観光庁は2月8日に東京都内で「第5回スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」を開いた。昨年6月の中間報告などを踏まえ、最終とりまとめへの骨子案を報告した。国は初めて観光施策の計画などにスノーリゾートの取り組みを位置づける。スノーリゾートが抱える問題や課題を共有し、アクションプログラムなどの策定、実行を急ぐ。

 今年2月には冬季アジア札幌大会が開かれ、18年の平昌五輪や22年の冬季五輪も控えている。欧米豪に加えて、アジア圏でスノースポーツ人口の増加が予想される。

 ただこれまで共通の方向性がなく、総合的な対策が求められていた。

 これらを踏まえ、同庁は最終とりまとめでスノーリゾートのブランディング化や、情報発信の強化をはかる方針を示した。

 大規模と中小規模の規模別でスキー場の取り組みを分け、新たな成功事例の創出に取り組むほか、スキー以外の食や宿泊施設、自然体験などを充実させる。

 情報発信も力を入れる。海外の旅行会社などを招き現地視察・体験をしてもらう「ファムトリップ」や海外旅行博の出展を実施していく。

 一方、課題は市場データ不足だ。国内のスノースポーツ人口は1990年代のピーク時から半減した一方、訪日客は昨年2400万人を超え、スキー場でも急激に増加。市場は一変した。

 座長の原田宋彦氏(日本スポーツツーリズム推進機構会長)は「ターゲットを明確にしたうえで、精密なデータに基づいた戦略が必要」と強調した。

 委員らの意見を受け、加藤庸之観光地域振興部長は「国、地方、民間がいかに行動するのか、アクションプログラムなどに落とし込んでいく。マーケティングや収益性の観点も、持続可能性があるスノーリゾートの発展ために必要。最終とりまとめに打ち出していきたい」と述べた。

 次回の検討会は3月1日。最終とりまとめを予定している。首都大学東京都市環境科学研究科観光科学域特任教授の本保芳明氏は、最終とりまとめについて「これまで国はスノーリゾートへ関心を向けてこなかった。今回国を挙げて取り組むことがどれだけ意義深いことか、伝えていくことも重要だ」と訴えかけた。

リピーター2倍の2400万人に、新たな観光立国の計画(観光庁)

検討会のようす

 観光庁は2月8日に交通政策審議会観光文化会を開き、新たな「観光立国推進基本計画(案)」を提出し、議論した。2012年3月に閣議決定した観光立国推進基本計画(前計画)を改訂。計画期間を20年度までとし、目標値の見直しをはかった。3月の国会提出を見通す。

 新たな目標値は、訪日外国人の「地方部における延べ宿泊者数」を15年度比で約3倍の7千万人、「訪日外国人旅行消費額」を約2・3倍の8兆円、「訪日外国人に占めるリピーター数」を約2倍の2400万人などとし、観光ビジョンの目標数値と同様にした。

 これらの目標は今回の基本計画で新たに設けた項目となる。近年の訪日外国人の急増などで観光業界の情勢は変化。観光業界の現実に即した項目を設けたかたちだ。

 このほか、国内旅行消費額では、過去5年の平均値の約20兆円から5%増の21兆円を目指すこととした。

 今回の計画で政府が計画的に実施する施策では、農泊の推進からビザ要件の緩和に至るまで多岐にわたる。

 このなかで、ランドオペレーターの登録制度の導入や旅行業法の改正、民泊サービスへの対応など、新旧の法整備もはかる考え。

 観光庁の田村明比古長官は、東京都内で開かれた同会で「20年に東京オリンピックが開催されるまでの4年間は、我が国にとっても非常に重要な時期。しっかりとした目標を立て、政府を挙げて施策を実施していかなければならない」と強調した。

最大10分の9を負担、地域のネットワーク化促進(観光庁)

 観光庁は3月13日まで「テーマ別観光による地方誘客事業」の公募を行っている。地方公共団体や、観光協会、旅行会社などの観光関係者らで、各地域をネットワーク化し、情報発信力を強化。地方誘客の促進とネットワークの自立、継続する仕組み作りの構築を目指す。

 最大で10分の9以内(初年度)の金額を予算の範囲内で負担する。国の負担額の上限は1テーマあたり900万円、期間は最大3年間。

 事業の流れは(1)地域連携協議会の設立・準備(2)地域連携協議会の設立(3)同じテーマを基に各地域をネットワーク化(4)各地域間の情報共有と共通した取り組みの実施――となる。2016年度は7つのネットワークを支援。引き続き17年度も取り組みに力を入れていく考えだ。

 同事業で実施できる事業例は、テーマへの観光客のニーズ調査や、地域連携協議会設立に必要な会議の開催、サイト開設、共同プロモーションの取り組みなどがある。

 選定は有識者委員会を経て、観光庁が決定する。必要に合わせて申請者に対してヒヤリングも実施する。

 公募要領などはhttp://www.mlit.go.jp/kankocho/news05_000225.htmlまで。

山口県の食PR

 山口県は3月17日から30日までの約2週間、大阪・阪急梅田駅改札内で、特産品約260品目を取りそろえた「山口県アンテナショップ」を開設する。

 山口といえばフグが有名だが、それ以外のイメージが弱いのが現状で、なんとか知名度アップをはかりたいと、関西でのショップ開設は初めてという。フグの加工品のほか、蒲鉾や長州黒かしわ、外郎、地酒などを販売。ショップは夜10時まで営業し、仕事帰りのサラリーマンやOLにPRする。

 県では今年9月1日から12月31日までJRグループとタッグを組み、大型観光キャンペーン・幕末維新やまぐちデスティネーションキャンペーンを開催。来年には明治維新150年を控え、食や温泉、歴史文化の情報発信を強化している。

【土橋 孝秀】

対談 日本政府観光局(JNTO)理事長 松山 良一氏 × ナビタイムジャパン社長 大西 啓介氏

ナビタイムジャパン社長の大西啓介氏(左)と
JNTO理事長の松山良一氏

消費額8兆円達成へ

松山氏「“日本の原風景”をPR」
大西氏「地域の魅力発掘したい」

 1月25日、日本政府観光局(JNTO)の松山良一理事長と、ナビタイムジャパンの大西啓介社長が対談。インバウンドの受入れをめぐる課題や施策を中心に語り合った。観光資源の発掘や、2次交通対策など、訪日外国人旅行者(インバウンド)4千万人や旅行消費額8兆円といった目標を達成するために、自治体が取り組むべきことは多い。世界標準の視線を持つJNTOと、豊富なビッグデータを有するナビタイムジャパン。両トップが示す課題と解決に向けた提言に注目したい。
【謝 谷楓】

 ――海外でのPRを担うJNTOから見た、インバウンド対策に関する課題とは。

松山:受入環境の整備が、大きな課題だと考えています。例えば2次交通対策や夕食のあとにも旅行者が楽しめる娯楽施設を用意することも重要です。

 ――まずは、インバウンドのニーズを正しく把握する必要があるようです。自治体はどのような方策を取っていけばよいのでしょうか。

大西:ビッグデータに代表される、“事実”に目を向けることが重要です。例えば、自治体には、宿泊施設や飲食店の増加計画など、政策を決定する際のきっかけとして、ビッグデータを活用してほしいと考えています。

 奈良県を中心とした動態(人の流れ)に関するビッグデータを分析すると、人の流れが昼間に集中していました。夜間、旅行者の多くが、大阪府や京都府へと向かっていたのです。データに基づく“事実”を知ることで、夜の滞在時間を伸ばすなど、効果的な政策を期待できます。

 ビッグデータのなかには、旅行者の回遊ルート情報も含まれています。国籍についても知ることができ、ルートやスポットについて、国籍別の傾向を把握することができます。想定していたのと違うルートに人が集まるのであれば、道しるべとなる掲示物や標識を設置し、特定スポットへの誘導というように、政策の修正も可能です。

 自治体だけでなく、観光庁の調査事業でも、当社のビッグデータは利用されています。

 ――JNTOでの、ビッグデータの活用について。

松山:JNTOのミッションは、インバウンドの琴線に触れるPR活動を展開し、誘客を実現することです。海外個人旅行客(FIT)が増加し、体験型や地方への分散化が進んでいます。昨今、旅行者一人ひとりの行動パターンをよく理解するという点でも、ビッグデータをどんどん活用していきたいと考えています。

 ――2020年に向けた取り組みのなかで、地方創生も大きなテーマです。サポートできることは。

大西:自治体と手を携えて、地域の観光資源を発掘していくことができます。動態や回遊ルート情報といった、確かなデータに基づく提案をしています。インバウンドの興味を引く観光資源の発掘を、自治体の皆様と一緒になって行っています。

 2次交通についても、旅行者が安心して移動できるようナビゲーションをしていきたいと考えています。乗合いと貸切、日本のバス事業者数は現在、2千社にのぼります。5年の歳月をかけ、各社について整理してきたデータは、全体の8割を超えました。18年には完成するため、情報の多言語化を目指します。

 当社のナビゲーションサービスを利用し、電車を降りたら温泉まではバスで向かうという、よりスムーズな移動が可能となります。インバウンドが増えれば、バスの発着回数の増加も見込めるはずです。

松山:2020年に向け準備は万全のようです。大いに期待しています。

 ――兵庫県神戸市では多言語によるバスロケーションサービスを提供しています。DMOに関する考えを、それぞれ教えてください。

松山:JNTOでは各地域のDMOに対し、海外の成功事例を紹介しています。米国のナパバレーや、スイスのツェルマットの取り組みを参考に、提案をする場合もあります。

 DMOの要は、民間の方々、とくに地域が主体となって行動することにあります。地域の魅力を広域にまたがってPRするのが狙いですから、中心となってリーダーシップを発揮する存在が必要だといったアドバイスも行うよう心がけています。

 北海道観光振興機構や、せとうち観光推進機構など、成功事例も出つつあります。JNTOでは、DMOが日本のインバウンドを牽引することにより、モデルケースが増えることを期待しています。

大西:当社では、定性・定量調査の実施や、自治体職員向けインバウンド対策のワークショップの開催など、コンサルティングという形で、地域への誘客をサポートしています。奈良県ではデジタルサイネージを利用し、モノ・コト消費の拡大もはかっています。

 ――地域の“稼ぐ力”を伸ばす施策ですね。DMOの理念と重なります。

大西:インバウンドの訪日目的も、把握しています。インバウンド向けナビゲーションサービス「NAVITIME for Japan Travel」アプリを利用する際、国籍や性別、訪日回数といった情報も合わせて取得しているのです。旅行者の国籍別に、滞在者数や目的を知ることができ、国内地域ごとの比較も容易です。例えば、四国地方を訪れるインバウンドの数や目的を他国と比較すると、フランス人旅行者が多く、神社仏閣や四万十川など、文化や自然に高い関心を示していることが分かります。

 これらデータに基づく“事実”を知れば、フランス人向けの標識増加や、案内パンフレットにフランス語を加えるといった、効率の良いPRができるはずです。

 ――今後、インバウンドの消費拡大をはかるためのキーワードとは。

松山:“日本人の日常生活”こそ、一番強みのあるコンテンツだと考えています。例えば、あぜ道を散歩するという、日本人にとっては当たり前となった原風景も、外国人旅行者にとっては、魅力ある素晴らしい体験の1つなのです。

大西:田植えも良い体験となるはずです。また、川で鮎を釣り、囲炉裏で焼く。ただそれだけでも、関心を持つ旅行者は多いため、地域での消費増加を望めます。

松山:体験を通じ、大きな感動が生まれます。感動が生じれば、自ずと財布の紐も緩むはずです。立派な施設を立てるだけが正解ではないと思います。

大西:現在、日本在住の外国人クリエイターが、地域の魅力を海外に発信する「EXPLORE JAPAN PROJECT」の取り組みを行っています。WebサイトやSNSを通じ、地域の観光資源を発掘・発信しているのですが、今後も、自治体と協力しながら、誘客や消費に貢献していきたいです。

 ――ありがとうございました。

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インバウンド対策の
現状を語る松山氏

インバウンド観光セミナー、松山氏、大西氏らが登壇

 当日、対談が行われた東京国際フォーラム(東京・有楽町)では、インバウンド対策の立案に携わる自治体担当者を対象に、ナビタイムジャパン主催による「インバウンド観光セミナー」も開かれた。日本政府観光局の松山良一理事長と、蜷川彰インバウンド戦略部長、JTB総合研究所の早野陽子主任研究員、同社の大西啓介社長が、それぞれ登壇した。

 松山理事長は、「今後、口コミはますます大きな影響を及ぼすことになる。SNSの活用が大切だ」と強調。インバウンド者数4千万人(2020年)を達成するためにも、海外個人旅行客(FIT)を取り込むPR施策を創出することが重要との考えを示した。

 続いて蜷川戦略部長は、消費拡大のノウハウを説明。早野研究員は、「データから見る訪日旅行者の変化」と題し講演した。

大西氏は、ビッグデータの
活用について説明

 大西社長は、「旅行者の視線で、地域の観光資源を、自治体の方と発掘していく。インバウンドの滞在実態など、データを分析しないことには、分からないことがあるのも確かだ」と、ビッグデータの有用性を紹介した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

海旅の新しい未来を、アウトバウンド促進協 始動(JATA)

全体会議で菊間会長があいさつ

 日本旅行業協会(JATA、田川博己会長)は2月13日、第1回アウトバウンド促進協議会(菊間潤吾会長)の全体会議を開催した。菊間会長は冒頭「2017年のJATAの最重要課題は海外旅行の復活」と述べ、業界始まって以来の画期的な試みである、同協議会の設立が、海外旅行の新しい未来を切り開いていくことにつながると意気込みを語った。

 同協議会には、旅行会社や観光局、航空会社、宿泊施設やその他関連団体など計122社・団体が参加。海外旅行の需要喚起に向け、(1)ヨーロッパ(2)中近東・アフリカ(3)北中南米(4)アジア(5)オセアニア・大洋州(6)東アジア――の6つのチームに分け、全チームが4月には具体的な活動を始められるよう調整している。

 菊間会長は同協議会を設立した目的の1つに昨今の旅行者のオンライン化の現状を挙げた。「(オンライン化が進むなかで)旅行会社の存在意義を高めるためにも、ダイレクトな意見交換をする場は必要」とし、同協議会を名前だけの組織体にするのではなく、プロ同士が意見交換をし、日本のマーケットに価値のある旅行を提供できるよう活動していく旨を伝えた。

 今後の活動として、各チームに1人、専任の商品造成担当者を参加させ、部会長、副部会長のリーダーシップのもとそれぞれの活動方針を決定していく。すでに3月3日には、東アジアチームが担当する「韓国旅行復活緊急フォーラム」が開催され、各チームが具体的な活動に向け歩みを進めている。

 なお、同日の会議では田村明比古観光庁長官による「ツーウェイ・ツーリズムにおけるアウトバウンド促進についての観光庁の方針について」と題した講演も行われた。

 同協議会の役員は次の各氏。

 【会長】菊間潤吾(JATA海外旅行推進委員会委員長)【副会長】松田誠司(同推進委員会副委員長)▽生田亨(同)▽ギジルモ・エギュアルテ(メキシコ観光局局長)【委員】澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長兼社長)▽藤田克己(JATA海外旅行推進委員会副委員長)▽フレデリック・マゼンク(フランス観光開発機構在日代表)▽檀原徹典(ミキツーリスト社長)▽榊原史博(中華人民共和国マカオ特別行政区観光局日本代表)▽マージョリー・デューイ(CWW日本代表)▽石原義郎(航空新聞社編集長)▽大畑貴彦(日本海外ツアーオペレーター協会会長)▽志村格(日本旅行業協会理事長)