2025年12月5日(月) 配信

ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)は12月1日(月)、東京都内で「成長産業としての訪日観光カンファレンス」を開き、観光業界関係者や政府関係者約140人が参加した。新政権となり観光への風向きに変化がみられるなか、日本経済にとっての観光の重要性や、とくに訪日観光は成長のエンジンとしての役割を担うことを再確認した。
訪日外国人旅行者の消費額は2024年に過去最高の8兆円を超え、自動車産業の輸出額に次ぐ規模に成長している。一方、冒頭のあいさつで新津研一代表理事は「観光立国は岐路に立っている状況だ。1年ほど前から免税制度の見直しの話題が出てきたことに加え、新たな政権発足で観光立国が成長戦略のメインポジションから外れる事態となった」と観光を取り巻く環境の変化に危機感を示した。
□免税廃止でGDP5518億円減、税収は270億円減と推計
カンファレンスでは客観的なデータに基づく議論が必要とし、EYストラテジー・アンド・コンサルティングのデータサイエンティスト・藤井洋樹氏が免税制度廃止による財政への影響を報告。仮に廃止となった場合、日本のGDPに与える影響は総GDPの0.09%を占める5518億円の減少、税収は270億円減少すると推計した。
□日本の観光は世界でも高い潜在的競争力あり

また、民間の経営視点から観光を考えるため、早稲田大学大学院経営管理研究科研究科長・教授の池上重輔氏が「インバウンド・ビジネス戦略~成長産業・高収益ビジネスとしての訪日観光~」と題して基調講演を行った。
池上氏は「ビジネス戦略の基本は当たり前のことだが、市場規模が大きくて、自分たちに強みのあるものをどう生かすかを考えること」と述べ、世界で100兆円を超える市場があり、日本が客観的な評価で3位以上に入っている分野として自動車、観光、エンターテインメントを紹介した。
世界の観光市場は1000兆円規模であり、「国際観光は約300兆円、調査により多少誤差はあるが、年率で約5%ずつ伸びている」と持続的な成長が期待されるなかで、2024年のWEF(世界経済フォーラム)トラベルアンドツーリズムディベロップメント指標で日本は世界3位となるなど、潜在的な競争力を秘めていると強調した。円安で価格訴求力が高いことが要因とする見方もあるが、池上氏は「実は評価項目で価格は1つだけ。価格競争力以外の評価が高い。逆に円安の今こそ価値に見合った値付けをするチャンス」と述べた。
他方、日本はアニメやゲーム、映画などのエンタメ分野でナンバーワンとなっており、“世界で最も稼ぐキャラ”として「ピカチュウ」、「ハローキティ」を紹介。「観光はエンタメと親和性が高いので覚えておくといいのでは」とアドバイスした。
□観光がショーケースに 地方活性化にも免税は必須
その後のパネルディスカッションでは池上氏に加え、日本観光振興協会理事長の最明仁氏、日本百貨店協会会長の好本達也氏がパネリストとして登壇し、訪日観光の価値や課題、政策への期待などを語り合った。

このなかで、最明氏は2013年に訪日外国人観光客数が1000万人を超えた13年ごろから食品や農産物の輸出額が緑茶7倍、味噌が2倍など急伸している具体例を提示し、「観光との相関性が高い」とした。外客の増加で伝統工芸品や地場産品も好調で「観光が1つのショーケースになっている」と述べ、「地域経済への波及効果が高く、下支えとなっている」と力を込めた。

好本氏は百貨店業界の現況について、「コロナでほぼ0になった外客売上だが、24年には19年の倍の6400億円となった」と急成長を挙げており、茶道や能、歌舞伎などの伝統的な文化からポップカルチャーまで日本のコンテンツ力の高さを力説した。外客の訪日目的の第2位はショッピングであり、安全で快適に買い物が楽しめる日本では、今後ますます外国人の買い物需要が見込まれるなかで、「免税制度は必要。外客は富裕層で気にしないという声もあるが、現場を見ているとお客様は価格に敏感だ」と訴えた。
池上氏は課題や不足している観点について、日本のコンテンツなどの魅力をいかにストーリー化し、ビジネスとしてつなげていけるかについて触れた。深刻な観光産業の労働力不足も挙げ、「国レベルで変えていかなけれなならない」と指摘した。
議論を受けて、ファシリテーターの新津代表理事は「日本の経済成長のエンジンが訪日観光で、その軸となるのは免税制度だ。これをもっと広く他産業や国民、政府へ伝えていく必要がある。皆さんの協力をお願いしたい」と呼び掛けた。
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