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「登録有形文化財 浪漫の宿めぐり(83)」(東京都千代田区)学士会館≪帝国大学の同窓会施設だった歴史と品格が色濃い≫

2018年3月3日(土) 配信

スクラッチタイルで覆われた外観。窓は2、3階が直線、4階がアーチ型を取り入れている

 一般的な旅館・ホテルとは趣を異にする。もともと学士会の倶楽部施設として建設されたからだ。学士会は旧帝国大学の教員・卒業生を会員とする組織で、会員は学士会館で食事をしたり囲碁・将棋を楽しんだりして交流を温め、宿泊もできた。旧帝国大学とは現在の東京大学、京都大学など7つの国立大学のこと。それだけに館内はアカデミックで重厚、どことなくエレガントな雰囲気すら漂っている。

 建設は1928(昭和3)年。工事開始予定日の1923(大正12)年9月1日が関東大震災の当日で、建設延期となったエピソード付きの建物である。そのため耐震には充分の配慮をした。鉄骨鉄筋コンクリート造りの4階建てで、大広間の柱の中にはH型の鉄鋼を使用。設計は日本橋高島屋なども担当した高橋貞太郎だが、全体の監修に高橋の恩師で鉄骨鉄筋コンクリート構造の権威である佐野利器(としかた)が当たっている。

 そして9年後の37(昭和12)年には、やはり鉄骨鉄筋コンクリート造りで5階建ての新館を増築。従来の4階建ては旧館と呼ぶようになった。新館の設計は東京丸の内の多くのビル建設を手掛けた藤村朗(あきら)。階段の手すりをカーブさせ旧館よりやや柔和な印象だが、増築部のつなぎ目を感じさせないなど、旧館との一体感が強い建物に仕上げている。旧館、新館を合わせた全体が登録有形文化財だ。

 学士会の会員専用だった会館を一般に開放したのは2004年のこと。現在は会議や宴会などに使用できる15の会場、シングル、ツインなど24の宿泊客室があり、建物の歴史、雰囲気を好む人々の利用が多い。

 とくにクラシックなイメージが強いのは旧館で、アーチ形の正面入口には古風な「学士会館」の文字とともに知恵や平和を象徴するオリーブのレリーフがある。玄関は格調ある石敷きで天井の縁飾りや照明具取り付け部のメダリオンが立体的。真鍮製のドアノブを押して入ったホールは、幾何学的意匠の天井装飾や扁平アーチ型の下がり壁を支える十二角柱の柱が珍しい。

 2、3階が会議、宴会場で4階は宿泊客室。立食で150人収容できる201号室は建設当時の姿を最も残し、人気が高い。窓の腰板の上部に大理石が残り、天井の梁の持ち送りには西洋建築の装飾に多用されるアカンサスの葉がかたどられている。客室はどの部屋も天井高が3㍍余りでゆとりがあり、窓はアーチ形。壁の最上部に縁飾りを施したしゃれた部屋もある。

 会員専用施設を一般に開放してから、館内の空気はやや変わった。何より女性客が増えた。それもそのはず学士会員に女性は少なかったからだ。3階にチャペル、5階に神前式場もあるので土・日曜は結婚式の予約でいっぱいとか。宿泊も一般客に人気がある。近代洋風建築がブームになって久しいが、その象徴を見るようだ。

コラムニスト紹介

旅のルポライター 土井 正和氏

旅のルポライター。全国各地を取材し、フリーで旅の雑誌や新聞、旅行図書などに執筆活動をする。温泉、町並み、食べもの、山歩きといった旅全般を紹介するが、とくに現代日本を作る力となった「近代化遺産」や、それらを保全した「登録有形文化財」に関心が強い。著書に「温泉名山1日トレッキング」ほか。

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