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最短・最速ルートではない旅 ― 自分の内面と向き合う時間を求める

2017年6月21日
編集部

 スペインの北西端部に位置する都市サンティアゴ・デ・コンポステーラは、エルサレム、バチカンと並んでキリスト教の3大巡礼地。フランス各地からピレネー山脈を越えて、終着地の大聖堂を目指す人々が後を絶たない。1千キロを超える巡礼路を徒歩や、自転車で向かう。まだ歩いたことがないが、私自身このサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路は、ずっと心にひっかかる何かが存在している。

 日本にも、四国八十八ヶ所巡礼をはじめ、熊野詣、善光寺参りなど、各地に巡礼路が存在する。もともと宗教的な意味を持つ巡礼路だが、今はさまざまな理由から、巡礼路を辿る人も多い。一歩、一歩、長く厳しい道のりのなかで、自分の内面と向き合う時間を求めているのだろうと思う。

 現在の旅は、目的地に「より早く」「より快適に」到着することが一つの価値となっている。2015年3月の北陸新幹線金沢開業もこれを象徴する代表例である。東京から最短で約2時間30分で金沢の地に足を踏み入れることが可能になった。開業後、私も何度か金沢を訪れる機会を得たが、「本当に近くて、便利になった」という印象を強く受けた。その反面で、かつて感じていた北陸・金沢への深い旅情が若干薄れてきたことも、正直なところ感じている。

 先日、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の第95回全国大会が、金沢駅前の石川県立音楽堂で開かれた。大会前日には、和倉温泉・ゆけむりの宿美湾荘で前夜祭が行われた。美湾荘から石川県立音楽堂までは、貸切バスで移動したが、その途中の羽咋市にある千里浜なぎさドライブウェイに立ち寄った。

 千里浜なぎさドライブウェイは、約8㌔に渡る砂浜の波打ち際を、自動車やバイク、観光バスなどが走ることができる能登半島を代表する観光名所でもある。そして知る人ぞ知る、SSTR(サンライズ・サンセット・ツーリング・ラリー)のゴール地点でもある。

 日の出を太平洋側で確認したあと、オートバイに乗って日本海側にある、千里浜なぎさドライブウェイで日の入り(夕日)を眺めるというイベント。オートバイによる史上初の北極点・南極点到達や、パリ・ダカールラリーにも参戦した冒険家の風間深志さんがプロデュースし、今年は5月20日に行われた。全国から約2400人がこの類稀な砂浜の道でゴールを迎えた。日没までという限られた時間の中で、参加者はそれぞれのルートを自分で決め、ゴールに向けて走る。「いかに道中を楽しみ、無事にゴールに辿り着けるか」が問われ、「参加者の優劣を競うのではなく、無事にゴールに辿り着いたライダーは等しく勝者」という精神がいい。

 放浪と異なり、旅には、目的地が必要である。どこかにその目的地がなければ、帰ってくることはできない。家を出たときには、明確な目的地がない場合もある。旅の途中で、「ここが目的地だったんだ」と気づく旅もあるかもしれない。一方、目的地は決まっているが、そこに向かう道が決まっていないケースもある。そして、目的地に2時間30分で到着できるのに、わざわざ厳しい道を選ぶ旅もある。ナビゲーションシステムを使えば、最短・最速ルートは瞬時に検索できる。しかし、そこから外れた、豊かな旅のルートを設定するのは、やはり自分である。

(編集長・増田 剛)

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