下呂温泉・水明館の「カイゼン」 現場から部署間、取引先へ 生まれた時間もてなしに

2024年1月4日(木) 配信

瀧康洋社長

 岐阜県・下呂温泉の水明館(瀧康洋社長)は今期(2023年3―11月)、売上に対して本業でどれくらいの利益が出ているのかを示した値・営業利益率が17・6%と、高水準を維持している。顧客ニーズの多様化や各種仕入れの高騰に直面するなか、外的要因の変化にも対応できるよう進めてきた「デジタル化」と「生産性向上」への取り組みが奏功している。さまざまな部署での「カイゼン」を通じ、「無駄をなくすという意識が社内で高まってきた」という瀧社長に現状を聞いた。

【鈴木 克範】

5年で3億円削減

 館内の生産性向上をはかるため、2018年からトヨタ生産方式に基づく「カイゼン」に取り組んでいる。その考えは、作業や業務を「1歩1秒1円」でコスト換算し、「増員・増床・増設なく、増収・増益をはかる」というもの。業務を「見える化」して課題を抽出、無駄や非効率な要素を「カイゼン」するという流れで進めてきた。

 これまで客室清掃や食器洗浄などの業務改善、さらには部署間の情報伝達業務を無くすなど、業務の流れも見直した。1年ごとに「飲料のロット管理による在庫削減」などのカイゼンテーマを掲げて取り組むなか、「5年間(2019―23年)で約3億円を削減した」(表参照)。

「カイゼン」各所で

 客室清掃におけるカイゼン例では、1人で部屋を担当する「セル作業」に切り替えた。取り組み前は、清掃員と客室セット係が別々にいて、清掃作業自体も分担していた。改めて業務を見直すと、非効率だけでなく、すべての清掃指示をリーダーが行う必要があるなどの問題が浮かび上がった。これを解消するため、部屋を1人で清掃する方法に変更。さまざまな清掃道具を携え部屋間を移動できるよう、1人に1台、専用台車も用意した。結果、作業の停滞がなくなり時短が実現したほか、自工程完結型の業務になるため清掃への責任感が生まれ、品質も向上した。

 食器洗浄の場面では、食後の器を「手洗いが必要なもの」「ラック洗浄する小さな器」「そのまま食洗器に入れるもの」の3種に分別したうえで下膳し、洗うようにした。バラバラの状態で下げていたときは平均4時間15分かかっていた洗浄時間が、3時間45分まで短縮した。夕食後の作業は深夜帯に及ぶので、削減効果は大きい。

伝えるを「ゼロ」に

 業務単体だけでなく、部署をまたぐ「業務フロー」の見直しも行った。その1つがホワイトボードの廃止だ。従来、料理の数量や内容、追加変更などの情報は、各パントリーに設置しているホワイトボードに転記。その情報を各部署が共有していた。

 手書き・伝聞による伝達ミスや、書き込むための移動時間を無くすため、情報を集約する基幹システムを採り入れるとともに、ホワイトボードの代わりに大型モニターを導入した。変更情報がリアルタイムでモニターに表示されることで、現場は情報伝達業務から解放され、本業に専念できるようになった。

仕入先との連携も

 仕入れ先との関係でも「カイゼン」に取り組んでいる。バスタオルクリーニングの発注ロットを1500枚、2千枚、2500枚の3パターンに簡素化したほか、バスタオルや浴衣、シーツなどの在庫・発注管理表をクラウド上でリネン会社と共有。宿泊人数と在庫数で発注数が決まることから、宿とリネン会社がともに業務の効率化をはかりつつ、適正在庫を維持できるようになった。

品質ともてなし両立

 部署内での見直しから始まり部署間へ。さらには他社との関係においても「カイゼン」を進めてきた。ただ、新しいスタイルが確立しても、派遣スタッフの入れ替わりなどで、「業務がくずれる」ことがままある。作業中の動画を撮影し、内容確認や教育を行うなど、「工程の標準化は常に必要」だ。

 取り組みへの理解を深めるため社内では、岐阜協立大学大学院が専門知識を学ぶ社会人向けに開講する履修証明プログラム「トヨタ生産方式とカイゼンリーダー養成プログラム」の受講を推奨している。現在26人が修了し、カイゼンリーダーとして活躍中だ。

 デジタル化を通じて無駄や非効率を「カイゼン」することは、ややもすると「もてなし」も無味乾燥なものにしかねない。品質を維持しつつ、「カイゼンで生まれた時間を、もてなしに生かすことが重要だ」。

【2024年年頭所感・斉藤鉄夫国土交通大臣】持続可能な地域づくり・地方訪日誘客・国内交流拡大の3本柱で

2024年1月4日(木) 配信

斉藤鉄夫国土交通大臣

 国土交通省の斉藤鉄夫大臣は1月1日(月)、2024年の年頭所感を発表した。内容は以下の通り(抜粋)。

 

 観光は、人口減少が進む我が国にとって成長戦略の柱、地域活性化の切り札として期待されている重要な分野です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により深刻な影響を受けましたが、2022年10月の水際対策緩和及び全国旅行支援の開始などの効果もあり、昨年は新型コロナからの復活から持続可能な観光の実現に向けて、大きく歩みを進めた1年となりました。

 昨年策定した観光立国推進基本計画や「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」を踏まえて、本年は「持続可能な観光地域づくり」「地方を中心としたインバウンド誘客」「国内交流拡大」の3つの分野の取り組みを強力に推進していきます。

 第1に、持続可能な観光地域づくりです。国内外の観光需要が着実に回復してきた一方で、一部の地域や時間帯においては、過度の混雑やマナー違反による地域住民への影響や、旅行者の満足度低下などへの懸念が生じています。こうした状況を踏まえ、観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客の促進、地域住民と協働した観光振興に、引き続き取り組んで参ります。

 また、観光産業においては、観光需要の回復に伴い人手不足が深刻化していることから、外国人材の活用も含めた採用活動支援や、業務の効率化・省力化に資する設備投資への支援などの総合的な人手不足対策を実施し、人手不足の解消に向けて、しっかりと取り組んで参ります。

 さらに、観光地・観光産業の「稼ぐ力」を回復・強化するため、宿泊施設、観光施設の改修などを計画的・継続的に支援し、観光地・観光産業の再生高付加価値化を促進して参ります。

 第2に、地方を中心としたインバウンド誘客です。訪日外国人旅行者数は着実に回復していますが、都市部を中心とした一部地域への偏在傾向も見られるところです。今後、地方部への誘客をより一層強力に推進し、全国津々浦々あまねく観光客を呼び込んでいくため、自然、文化、食、スポーツなどの観光資源を活用し、全国各地でこれまでにないインバウンド需要を創出する、特別な体験の提供などによるインバウンド観光消費の拡大・質の向上や、地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツの磨き上げに取り組んで参ります。

 また、高付加価値旅行者の地方への誘客を強化するため、11のモデル地域において、高付加価値旅行者を惹きつける商材の作成やコンテンツの創出などを支援する、地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり等を実施して参ります。

 さらに、大阪・関西万博開催も見据え、アウトバウンドを含む双方向交流拡大に向けたプロモーション強化に取り組んで参ります。

 第3に、国内交流拡大です。近年の働き方や住まいのニーズの多様化などを踏まえ、テレワークを活用したワーケーションの推進や、反復継続した来訪を促進するための「第2のふるさとづくり」やユニバーサルツーリズムといった国内における新たな交流市場の開拓に、従来の取り組みをさらに進化させて取り組んで参ります。

 国土交通省としては、引き続き、観光地の高付加価値化や住民生活との調和による持続可能な観光地域づくり、地方を中心としたインバウンド誘客、国内交流拡大をより一層推進して参ります。

各分野における観光関係施策

 昨年3月、コロナ禍で停止していた我が国での国際クルーズの運航を本格的に再開し、23年の寄港回数はコロナ前ピークの約6割まで回復しました。引き続き、各地域の皆様と連携し、クルーズ船の受入環境整備や寄港促進に向けた取り組み、地域経済効果を最大化させるための取り組み、地方誘客促進に向けた取り組みを推進し、経済の活性化や賑わいの創出に努めて参ります。

 景観計画や歴史的風致維持向上計画の策定を促進し、良好な景観を形成するとともに、地方公共団体が取り組む地域固有の歴史・文化・風土を活かした歴史まちづくりに対する支援を引き続き進めて参ります。

 「道の駅」は制度創設から30年が経過しました。地方創生・観光を加速する拠点へと「道の駅」の進化を目指すモデルプロジェクトの実施や、施設の老朽化対策などの全国的な課題に対する支援、防災拠点機能の強化などを進めて参ります。

 21年に閣議決定された、「第2次自転車活用推進計画」に基づき、私が本部長をつとめる自転車活用推進本部を中心に、政府一体となって、自転車通行空間の計画的な整備、シェアサイクルやサイクルトレインなどの普及促進、ナショナルサイクルルートなどを生かしたサイクルツーリズムの推進など、自転車の活用の推進に向けて取り組んで参ります。

 鉄道分野をはじめとした交通機関において、訪日外国人旅行者にもより快適に利用していただくため、多言語による案内表示・案内放送の充実、トイレの洋式化、クレジットカード対応型券売機や交通系ICカードなどの利用環境整備、大型荷物置き場の設置などの取組を進めて参ります。

IRの整備

 IRは、多くの観光客を呼び込む滞在型観光の拠点であり、観光立国の実現に向けて取り組むべき重要な施策の一つです。昨年4月には大阪の区域整備計画について認定を行い、9月には実施協定を認可しましたが、依存症などの弊害防止対策に万全を期すとともに、IR整備法に基づき、必要な施策を進めて参ります。

航空ネットワークの維持・確保など

 世界規模での新型コロナウイルス感染症から航空旅客需要は回復しつつあるものの、その事業環境の構造的な変化により、とくに地方路線の収支が厳しい状況にあります。

 航空ネットワークは、公共交通として国民の社会経済活動を支えるとともに、インバウンドの受入れをはじめ、ポストコロナの成長戦略にも不可欠な「空のインフラ」です。

 地方創生や観光立国の実現に不可欠である航空ネットワーク維持・活性化のため、来年度の当初予算などの成立を前提に、航空機燃料税の軽減措置に加え、100億円規模での空港使用料の軽減などを行うこととしています。

 また、ポストコロナにおける急速な航空需要の回復・増加に対応するため、昨年11月に成立した補正予算などを活用し、グランドハンドリングや保安検査をはじめとする空港業務の処遇改善や人材確保・育成などを支援するなど、引き続き、受入環境整備を推進して参ります。

あつみ温泉 萬国屋 庭園露天風呂「桜の里湯」 昨年12月にリニューアル

2024年1月3日(水) 配信

庭園露天風呂「桜の湯」

 山形県鶴岡市のあつみ温泉萬国屋は昨年12月20日(水)、庭園露天風呂「桜の里湯」を大規模リニューアルオープンした。あつみ温泉が誇る毎分1100~1300リットルの豊富な湧出量を生かし、源泉掛け流しの客室を多く備える萬国屋。ここに、2つの大浴場「楽山」「楽水」のほか、今回リニューアルした「桜の湯」「里の湯」が加わる。美しい庭園の中にある岩風呂に浸かり、あつみ温泉の山々を眺めながら心身を癒すことができる。

 「桜の湯」には昨今のサウナニーズの高まりから、「バレルサウナ」を設置した。バレルサウナは、サウナ発祥地のフィンランドに伝わる樽型サウナルーム。室内へ均等に温度を伝え、サウナの効果を最大限に引き出せるといわれている。
 水風呂と外気浴スペースも備えており、「ととのう」ことによってデトックス効果やリフレッシュ効果が期待できる。

 「里の湯」では、雪が多く降る日であっても、ひんやりとした空気を吸いながら心置きなく温泉に浸かれる。こちらにもサウナが用意されている。

 洗い場は、「桜の湯」「里の湯」に8ブースずつ設置した。

 萬国屋では、2017年に環境省から提言された、現代のライフスタイルに合わせた温泉地の過ごし方である「新・湯治」に着目。宿泊客が温泉地に滞在し、心身をリフレッシュすると同時に、多くの人に訪れてもらうことで温泉地の賑わいを生み出していくことを目指す。

露天風呂「里の湯」

冬の味覚・カニを堪能人気の「鯛めし朝食」も

「蟹づくし」プラン

 

 「食の都 庄内」と名高い鶴岡の冬の美食も楽しみの1つだ。「蟹づくし」プランは、庄内浜で獲れた旬のズワイガニを主役に、ぎっしりと詰まった甘い身を鍋やカニ酢、カニ味噌、茶わん蒸し、カニしんじょうなどで味わえる贅沢な会席となっている。

鯛めし朝食

 夕食だけではなく、朝食にも美食へのこだわりが見られるのが萬国屋の魅力だ。
 庄内浜直送の新鮮な天然真鯛を使った「鯛めし朝食」は、焼いた真鯛の骨で取った出汁でご飯を炊き、真鯛の身をほぐして丁寧に混ぜ込んだ特製の鯛めしを提供する。

 最初は鯛めし単体で、次は真鯛の刺身と一緒に、最後は刺身に特製の胡麻だれを絡め鯛の出汁をかけて「鯛茶漬け」として──と1食で3度味わえる人気の朝食だ。

 昨年3月には宴会場を個室会食場「出羽三山」へリニューアルオープンした。31室を備えたプライベートな空間だ。

陶器風呂付客室が人気 シルクバスも必見

 客室は全104室で、全室檜風呂付き。源泉掛け流しの部屋も多く備え、最上階のロイヤルスイートでは、温海川沿いの美しい眺望が檜の内湯と露天風呂から臨める。

 露天風呂付き客室の中でも、大石田焼の「次年子窯」で作られた陶器風呂を備える4室は、とくに人気が高い。庄内・鶴岡の自然や風景をテーマに設計された陶器風呂は、もちろん源泉掛け流し。部屋にいながら、雪景色と共に露天風呂を独り占めできる。

 3階大浴場の「楽山」「楽水」は、広々とした内湯が特徴。とくに楽山内のシルクバスは、ミクロの気泡で美肌効果が期待でき、女性から人気を集めている。

陶器の露天風呂付き客室

〈観光最前線〉連載50周年記念「ブラック・ジャック展」

2024年1月2日(火) 配信

連載50周年記念「手塚治虫-ブラック・ジャック展」会場風景①

 2023年は、名作マンガ「ブラック・ジャック」の連載50周年を記念して、さまざまなイベントが企画された。

 東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)で開催された「手塚治虫 ブラック・ジャック展」には、自分も足を運んだ。平日の昼間だったにも関わらず、大勢のBJファンで会場はごった返しており、長い行列には驚いた。

 代表作「ブラック・ジャック」は、1973年11月から83年10月まで「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に掲載された。当初は「マンガ家生活30周年記念・手塚治虫ワンマン劇場」として全4回ぐらいの短期連載で打ち切られる可能性があるものだった。

連載50周年記念「手塚治虫-ブラック・ジャック展」会場風景②

 今でこそ信じられないが、巨匠・手塚治虫にとっても、マンガ家人生を賭けた最後の大勝負がこの作品だったのかもしれない。

【古沢 克昌】

〈旬刊旅行新聞1月1日号コラム〉――2024年の観光業界 イン・アウトバウンドの活性化に期待

2024年1月1日(月) 配信

 JTBが発表した2024年の旅行動向見通しによると、国内旅行は前年比2・8%減の2億7300万人と、ほぼ前年と同水準で推移するとみている。一方、海外旅行者数は同52・6%増の1450万人と大幅な増加を予想するものの、初めて2000万人を突破した19年比では、まだ7割程度の回復状況だ。

 

 急激に回復しているのは、訪日外国人旅行で、24年は3310万人と、19年の3188万人を超えて、過去最高を記録する見通しである。

 

 24年のカレンダーを見ると、3連休以上が11回と、23年の7回を大きく上回る。「3連休イコール旅行」という発想が定着しており、観光業界にとっては大きな追い風になるだろう。

 

 ゴールデンウイーク(GW)は前半(4月27~29日)と、後半(5月3~6日)に分かれているが、4月30~5月2日に有給休暇などを活用すれば、10連休になる。夏休みも、お盆時期(8月13~16日)を休めば、10~18日の9連休となり、回復が遅れる海外旅行の復活に向けて勢いづきそうだ。

 

 

 7月下旬から8月にかけてはパリ五輪が開催される。前回の東京開催はコロナ禍の真只中だったため、抑制された大会となったが、パリ大会では盛大な演出も計画されており、再び海外に目が向くきっかけになりそうだ。また、海外旅行自由化から60周年を迎え、旅行各社も記念商品の造成などによって、インバウンドとの格差が広がりつつあるアウトバウンドの活発化にも期待したい。

 

 アジア諸国の駅構内などは、英語、中国語、韓国語などと合わせて日本語での表示やアナウンスもされているが、訪れる日本人が少なくなれば、日本語でのサービスも、日本語を学ぶ現地の人もいなくなる。海外における「日本円」の最強時代を知る世代としては、最近の弱体化ぶりには寂しさを覚えてしまうが、せめて人的な国際交流で影が薄くならないように、旅行業界には「本業」で力を発揮してほしいと願っている。

 

 

 国内は、3月16日に北陸新幹線の金沢―敦賀間が開業する。東京駅から福井駅まで最短2時間51分と3時間を切り、新しい人の流れが期待できる。

 

 福井県・あわら温泉など魅力溢れる地域であるが、首都圏からは「遠い」印象が強かった北陸エリア。新幹線開業により、物理的にも、心理的にも「近い」イメージに変わるのではないだろうか。

 

 

 一方で、観光業界にはさまざまな課題が山積している。バスやタクシーの運転手、旅館の調理場や清掃スタッフなどの人手不足が深刻化している。2次交通が機能しない地方では、「ライドシェア」解禁も取り沙汰されている。

 

 日本の観光行政のトップ・髙橋一郎観光庁長官は昨年12月20日の会見で、「宿泊先の地域によって観光需要の回復は偏在傾向にある」と現実を直視しながら、「日本の地方部は限りない可能性も持っている」とポテンシャルの高さを認め、「インバウンドの地方誘客を力強く推進していく」と、日本の観光の進むべき方針を示した。    

 

 さまざまな調査を見ても、外国人の人気旅行先として日本は上位に位置している。これは、日本の文化力によるものだ。農業力、工業力など、地方のしっかりとした文化の土台の上に観光業があることを忘れてはならない。

(編集長・増田 剛)

 

【特集No.649】2024年新春インタビュー 内藤耕氏に聞く 「旅館経営の維持」へ生産性向上を

2024年1月1日(月) 配信

 コロナ禍の行動制限や、全国旅行支援キャンペーンなど需要が激変するなか、人手不足など宿泊業界の課題は山積している。長期的な視点でみると、客数が減少し、団体から個人化していく流れは変わっていない。またインバウンドの拡大により客室清掃の負担が大きくなるなか、旅館経営維持に向けても生産性向上は不可欠となっている。サービス産業革新推進機構代表理事、工学博士の内藤耕氏に2024年を迎えるにあたり、ロングインタビューを行った。

【本紙編集長・増田 剛】

 

食事会場「分散」か「集約」か 10年後の命運分ける判断に

 ――コロナ禍後の宿泊業界の動きをどのように見ていますか。

 旅館業界は、全国旅行支援キャンペーンなどによる追い風もあり、「値下げ競争から脱却しなければならない」という機運が高まり、“単価アップ”を熱く議論していました。
 しかしながら、CP終了後から状況は再び厳しくなり、値下げ競争に転じる動きも出てきました。
 宿泊業界を長期的に見ると、コロナ禍前後でも総体的に少子高齢化による客数の減少傾向にあり、また団体から個人化への流れも大きく変わっていません。世の中が激動しているなかで、その時々の状況の延長線上に将来を見てしまうと、小さな浮き沈みに対して一喜一憂して、結果として打つ手を間違えるという状況を繰り返してしまいます。「長期的な流れの中で改革をどうすべきか」と、現実的に見ていくことが重要です。
 今の大型旅館には2つの大きな流れがあるように見えます。1つは団体に期待をかけて宴会場を残そうとしている宿と、もう一つは、それとは別の新たな流れです。
 旅館業界では、一般に「団体」と一括りにしがちですが、もう少し細かく見ていく必要があるといつも感じています。
 「企業の会議+宴会」という形態もあれば、個人客の集合体であるツアー、老人会や大家族といった各種小グループなどを含めて、団体と捉えていますが、実はその中身はとても多様で、サービスの提供方法も異なるのです。生産性の観点からすれば、「宴会場で一斉に食事をするか」というところが大きなポイントだと感じています。

 ――個人客の増加と大宴会場の存在について。

 最近になって、宴会場での食事が減って、とくに個人客が多数を占める日に「食事処が足りない」という問題が顕著に見られるようになってきています。
 このとき、団体需要に期待をかけた宿では、宴会場を残しながら館内にレストランを作って宴会場を含めて複数の食事処で料理提供している宿もあります。一方、大きなレストランに改修して、団体客を含めて朝食だけでも1カ所に集める宿も出てきています。大きなレストランを作るには、現実的に大きな宴会場を1つ潰さなくてはなりません。この決断ができた宿と、できない宿との間に、今はっきりと明暗を分け始めているように感じます。
 細かなニーズに対応するために、食事処をいくつかに分散していくことは良いと思うのですが、……

【全文は、本紙1926号または1月10日(水)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

加賀屋 屋上庭園オープン 四季楽しむ植物12種配置

2023年12月31日(日) 配信

12種の植物を植栽

 石川県・和倉温泉の加賀屋は11月、新たに本館雪月花4階の屋上に、12種類の植物が四季折々の表情を織りなす鮮やかな屋上庭園をオープンした。館内にある4台のシースルーエレベーターから、季節ごとに趣を変える庭園風景を楽しむことができる。

 屋上部分はこれまで、とくに装飾など行わず活用してこなかったが、今回「おもてなしの心」を表現する一環として、日本の四季を感じることができる庭園を設けることにした。

 屋上庭園の広さは250平方㍍。白い玉砂利を敷き詰め、フィリフェラオーレアやサルビア・イエローマジェスティ、オタフクナンテンなど、色とりどりの植物12種類の植栽ユニットを用いて配置した。夜間には、照明を灯してライトアップも行う。

 植栽ユニットは、設置が容易なうえ、吸水性や保水性が高く、雑草も生えにくいなど、メンテナンス性に優れているのが特徴という。

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その33-天草・崎津教会&崎津諏訪神社の祈りの旅(熊本県天草市) 潜伏キリシタンの想いに触れる ゴシック建築の海の天主堂

2023年12月31日(日) 配信

 今回の精神性の旅先である崎津教会は、2018年7月に世界遺産登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタンの関連遺産」である、構成遺産の1つ。崎津教会は、天草下島の小さな漁村の集落にあります。「海の天主堂」とも呼ばれ、日本家屋の中に凛とした、佇まいを持つゴシック様式の教会。1934年にハルブ神父と信者によって再建。施工は教会建築の棟梁・建築家として名声を残した長崎・五島出身の鉄川与助氏。かつて、「絵踏」が行われていた崎津庄屋役宅の跡地に建っています。

 

 

 そして、もう一つの旅先が、崎津教会のすぐ近くにある、崎津諏訪神社。神社の鳥居から崎津教会を見渡すことができ、美しい光景を目にすることができます。神社の鳥居から教会が覗けるというのは、これは潜伏キリシタンの歴史を象徴しているのです。集落山側にある崎津諏訪神社は禁教のなか、密かに信者が祈りをささげていた場所。仏教徒を装いつつも、参拝のときに「あんめんりうす(アーメン、デウス)」と唱えていたと記録が残っています。

 

崎津教会

 

 崎津諏訪神社の裏手の階段の頂上、「チャペルの鐘展望公園」も素敵な場所。「海の天主堂」と呼ばれる崎津教会や、日本の渚100選にも選出されている崎津集落が一望できます。

 

 私自身、世界遺産に登録される前に、長崎と天草の潜伏キリシタン関連遺産の情報戦略委員として、この地を訪れていますが、静謐で神聖な空気感と教会と神社と穏やかな海が融合して、居心地の良さを感じました。

 

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、キリスト教が禁じられているなかで、長崎と天草地方において、日本の伝統的宗教や一般社会と共生しながら、信仰を続けた潜伏キリシタンの信仰継続にかかわる伝統の証となる遺産群。それらは、大航海時代のアジアにおいて、キリスト教宣教地の東端にあたる日本列島の中で、最も集中的に宣教が行われた長崎と天草地方の半島や離島に点在しています。

 

 日本各地には、宣教師との接触が絶たれた後も、厳しい探索をかいくぐり、潜伏して信仰を続けることを選択した「潜伏キリシタン」が存在しました。

 

崎津諏訪神社

 

 しかし、17世紀後半に各地で「崩れ」と呼ばれる大規模な潜伏キリシタンの摘発事件が相次いで発生し、その結果、一部の例外を除き、潜伏キリシタンは途絶えました。その例外となった地域がかつての宣教拠点であり、他の地域に比べて長期にわたる宣教師の指導のもとに組織的な信仰の基盤が整っていた長崎と天草地方でした。そのため、この地方には潜伏キリシタンが自らの信仰を続けた伝統の証となる資産が存在します。

 

 天草の「崎津集落」は、生業に根ざした身近なものを信心具として代用して崇敬することにより、漁村特有の信仰を密かに続けた潜伏キリシタンの集落です。禁教期の崎津集落では、指導者を中心として、自分たち自身で信仰を続ける過程で、大黒天や恵比寿神をキリスト教の唯一の神であるデウスとして崇拝し、アワビの貝殻の内側の模様を聖母マリアに見立てるなど、漁村特有の信仰形態が育まれました。解禁後は、崎津集落の潜伏キリシタンはカトリックへと復帰し、禁教期に祈りをささげた神社の隣接地に教会を建て、その伝統を終えました。

 

 崎津教会から海側へ徒歩1分程度に、崎津資料館「みなと屋」があります。潜伏キリシタンの信心具や、交易による栄えた昭和の崎津集落が展示。2階から見る崎津教会の景色も、一見の価値があります。天草市に、潜伏キリシタンの遺物が展示されている「天草ロザリオ館」もありますので、ぜひ訪れてみてください。交通アクセスは、天草空港から、車で45分程度。

 

旅人・執筆 石井 亜由美
カラーセラピスト&心の旅研究家。和歌山大学、東洋大学国際観光学部講師を歴任。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。

日帰りバスツアー運行「陸中海岸うみねこ号」 みちのりトラベル

2023年12月30日(土) 配信

1、2月に運行する

 みちのりトラベル東北(岩手県盛岡市)は盛岡発着の日帰りバスツアー「陸中海岸うみねこ号」を1、2月に運行する。

 行程は盛岡駅西口発午前8時。道の駅やまびこ産直館で休憩し、宮古へ。宮古では10時10分に遊覧船「宮古ウミネコ号」に乗船、50分のクルーズを楽しんだあと、浄土ヶ浜パークホテルでランチビュッフェ。

 午後は浄土ヶ浜散策(10分程度)と宮古魚菜市場での買い物(約30分)をし、宮古駅から岩泉小本駅まで三陸鉄道に乗車する。バスに乗り換え龍泉洞(約60分)を見学して盛岡駅西口に6時30分に着く。

 バスの運行日は1月18~22、25~29日。2月3、4、22~25日。旅行代金は1人税込9800円(バス代金、遊覧船乗船代、ランチビュッフェ代、三陸鉄道乗車券、龍泉洞入洞料含む)。予約は5日前までに必要だが、当日空席があれば乗車できる。

その景色を収益化 AI搭載の観光望遠鏡(DXスコープ)

2023年12月29日(金) 配信

観光地の望遠鏡が大きく進化

 DXスコープ(今井丈雄社長、東京都品川区)は1月中旬、美しい風景をその場で保存・発信できるという「ありそうでなかった機能」を備えたスマート観光望遠鏡「dXscope」を発売する。収益向上や集客を期待できる新商品だ。

 展望台にあるコイン式望遠鏡の進化版が、年始に登場する。「絶景をスマホに保存」「風景解説も表示」「キャッシュレス決済を」――dXscopeは、そんな声に応える。

 望遠機能は、倍率40倍の光学ズームレンズと高精度のオートフォーカスを搭載。接眼レンズではなく、デジタルデータとして映し出されるモニターを見る設計だ。通信機能も備えているので、観た景色はその場でクラウド上に保存でき、モニターに表示されるQRコードからスマホに取り込める。

 利用者目線では、さながらdXscopeという高性能スマホカメラを手に、写真や動画撮影を楽しむイメージだろうか。自身のSNSで絶景をシェアするなど、楽しみも膨らみそうだ。

 設置場所から見られる建物や景色を事前に登録することで、リアルタイムでテキストによる風景解説を表示できるほか、デジタルサイネージ広告も表示できる(いずれもオプション)。利用料の支払いはQR決済やクレジット決済に対応する。

 価格は1台54万5000円。場所により前後するが設置費込みで60万円程度と、既存製品との比較でも安価に抑えた。

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