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「観光人文学への遡航(9)」 カントの考えるホスピタリティ

2021年3月21日(日) 配信
 

 カントは「永遠平和について」においてホスピタリティについて言及している。訳者によって好遇、友好、歓待といった言葉で表現されている。とくに日本においては、ホスピタリティはおもてなしと同義と扱われることが多い。もしかしたら、そのイメージが強いために、訳者によっては、歓待といった訳語を選択したと思われる。カントはホスピタリティをどのような意味として捉えていたのかを考究するために、歓待という日本語訳の印象にあまり影響されないように、文脈から読み解いてみることにする。

 
 カントの考えるホスピタリティは、心からのおもてなしとか、感動のサービスとか、はたまた博愛精神とか、そういった情緒的な概念ではない。カントは、ホスピタリティを法によって保護される権利として扱っている。すなわち、訪問権そのものである。

 

 改めて確認するが、訪問権とは、外国人が他国に足を踏み入れても、それだけの理由でその国の人間から敵意をもって扱われることはないという権利である。そして、この訪問権は、受入側が、それを意識して訪問者を受け入れるということだけにとどまらず、訪問者側も、もしその権利を行使したいのならば、不正な態度で入国してはならないということが大前提となっている。訪問してそこに継続して住み着くための援助を求めたり、はたまた横暴な態度で自分たちの支配権を獲得したりすることは、訪問者の権利行使の正しい態度ではない。

 
 ホスピタリティとは、受入側が訪問者を無条件に受け入れるような博愛精神ではなく、お互いが友好的な関係を構築する前提として認められるべき権利である。歓待といった訳語に惑わされて、つい日本的なおもてなしのイメージを持ってしまうが、そうではなく、交通の可能性を提供するものに過ぎない。淡々とした関係性なのである。

 
 ちなみに、ホスピタリティの語源は、ラテン語のhospesであり、この語から派生した語には、hospitalやhostだけでなく、hostile(敵)という語も出てきていることからも、来訪者との関係性の構築という発想が納得できるのではなかろうか。

 
 カントの時代と現在は大きく異なってはいるが、露骨な征服が世界中で横行したカントの時代よりも、もっと巧妙に入り込んできていることを自覚するべきである。観光やホスピタリティといった一見すると博愛精神に満ちたイメージが植え付けられる裏で、人の心の征服の可能性を警戒しておく必要がある。

 
 カントがホスピタリティをあくまでも訪問権にとどめたことの現実感には驚かされる。ここからも平和は博愛精神といったふわふわしたものではなく、冷静に相手を見極める行為でもあることを、リアリストであるカントは教えてくれている。

 

コラムニスト紹介 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。日本国際観光学会会長。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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“「観光人文学への遡航(9)」 カントの考えるホスピタリティ” への 2 件のフィードバック

  1. こんにちは、突然申し訳ございません。島川教授の記事が毎回面白くて、すごく楽しみにしています。
    私は来年度から高校3年生になり、これから大学受験について考えていかないといけない時期です。私はおもてなし精神や歓待について興味があるんですけど、自分の学びと完全に一致する学問が見つからなくて、ずっと混乱しています。自分が学びたいことは、観光を通して人々はどのようにお互いとのコミュニケーションを取っているのか、などの観光を通しての人類学や哲学を学びたいと思っています。そしてこの教授の観光人文学のコラムを見て本当に自分の学びたいことと一致していて、毎回更新されるのが楽しみです。今後自分も観光を通して人類学などを学んでいきたいと思うんですが、おすすめの学部とか大学があれば教えて欲しいです。

  2. ホスピタリティの概念のついて、カントまでさかのぼる解説を見たのは初めてです。全体としてしっかりとした理論に基づいてホスピタリティを論じておられる点に、日本でよくみられる子供じみたホスピタリティ論に一石を投じると思います。私のブログで取り上げたいのですが、要点を再掲載してもよろしいでしょうか。多くの人に知ってもらいたいのです。

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