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「女将のこえ222」宮田まいみさん、万座温泉 日進舘(群馬県万座温泉)

2019年5月26日(日) 配信

万座温泉 日進舘 宮田まいみさん

神々が鎮座する場所で

 日本一標高の高い温泉地・万座。山は白く輝き、夜は無数の星が清らかに瞬いていた。

 万座で最初の宿が万座温泉 日進舘だ。身体が見えないほど白濁した湯はまろやかで、労わられているかのようだ。湯治客が後を絶たないのにも頷ける。

 ここで生まれた宮田まいみさんは7代目。可愛らしい赤ちゃんをあやしながらインタビューに応えてくれた。まったく違和感がないのは、それが自然の在り方だからだろう。

 まいみさんの半生はドラマチックで、シンデレラストーリーと呼ぶ人もいる。だが、幸運をつかむために自らも行動した。

 実は、2004―10年まで活動したビジュアル系バンド「ガガーリング」のボーカルだったのだ。音楽を志し、万座から上京。ライブハウスでギタリストに声を掛け、デモテープを渡し、デビューの種をまいた。迷惑がられることを恐れず、できることをやったのだ。解散から時を経ても、いまだにファンが来館し、女将として番組を持つFM軽井沢には、駆けつけてくれるファンがいる。極めつけは、同館が受け入れている海外研修生の中に、大ファンがいたことだ。そうとは知らずに来たインドネシアからの研修生の驚きやいかに。憧れの人が女将としてそばにいてくれるのだから。

 自叙伝にも書かれてあるが、当時、まいみさんは鬱だった。そして、「鬱だったからこそ音楽の世界に飛び込めた」と語る。「極端な話、だめなら死んじゃえばいいと思えたから。よくない話かもしれませんが、振り返ればあれは強みだったんです」。これは単なる過激な話ではない。隠さずオープンに語ることは、似た境遇の誰かを密かに、温泉のように、癒すことになると思えるのだ。

 バンドの解散から2日後、音楽への未練を断ち切るために万座に戻ったまいみさんは、家娘の立場に甘んじず、アルバイトとして館内で働き始めた。率先して、夜間の温泉の温度管理も担った2年後、母が「そろそろ若女将の仕事をしてみる?」と声を掛けてくれた。さらに7年後、女将を継いだ。

 忙しかった母と、寂しかった娘。長らく母との葛藤があったというが、「少しは仕事の自信を持てるようになり、自分も親になった今、母はすごいなと素直に思えるようになりました」。そう語る顔は穏やかだった。

 万座とは、多くの神々が鎮座している場という意味だそうだ。悲しみも喜びもさまざまなギフトを幸せに変えていくまいみさんを、万座の神々は、これからも静かに見守っていくことだろう。

 (ジャーナリスト 瀬戸川 礼子)

住所:群馬県吾妻郡嬬恋村干俣万座温泉2401▽電話:0279-97-3131▽客室数:147室(480人収容)、一人利用可▽創業:1873(明治6)年▽料金:1泊2食付き16,350円~、湯治は1泊:5,550円~▽泉質:酸性硫黄泉▽錆びる成分を除いた万座温泉配合の石鹸、パックなどを自社ブランドMYMから発売。体操やヨガなど健康プログラムもある。

コラムニスト紹介

ジャーナリスト 瀬戸川 礼子 氏
ジャーナリスト・中小企業診断士。多様な業種の取材を通じ、「幸せのコツ」は同じと確信。働きがい、リーダーシップ、感動経営を軸に取材、講演、コンサルを行なう。著書『女将さんのこころ』、『いい会社のよきリーダーが大切にしている7つのこと」等。

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