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「観光革命」地球規模の構造的変化(296) 芸術活動としての旅館経営

2026年7月12日
編集部:木下 裕斗

2026年7月12日(日) 配信

 6月10日(水)にスペインの建築家アントニ・ガウディの没後百年のミサと、彼が手掛けたサグラダ・ファミリア教会「イエスの塔」完成記念式典が行われ話題になった。識者の論評によると、ガウディは産業革命期の激動の中、人間が見失ってはならないものがあると考え「人間が何を支えに生きるのか」を見つめ直すために壮大な教会建築に着手したとのこと。人間が生きていく上で大切なもの(人間の尊厳、信頼、思いやり、自然への畏れ)を示すための教会建築だ。

 日本のメディアがガウディの偉業を報道するなか、私は6月上旬に妻と一緒にシニア向け九州ツアーに参加し指宿温泉を訪れた後だったので「白水館」創業者・下竹原弘志氏の偉業を改めて見直した。

 下竹原氏は1919年生まれで、戦後間もない47年に鹿児島市内で小さな白水館を創業、60年に指宿温泉に進出してハワイアンホテル白水館の経営に転じた。89年に本物志向の高級和風旅館を目指して名称を「指宿白水館」に変更し、大幅なリニューアルを実施。

 下竹原氏は旅館経営の一方で、後継者の和尚氏と親子2代で創業以来長い歳月をかけて薩摩ゆかりの美術工芸品・史料3千点を蒐集し、08年に「薩摩伝承館」を開館。幕末から明治にひときわ輝いた薩摩の歴史と文化を伝える重要な施設だ。伝承館では薩摩の美術工芸品鑑賞だけでなく、新時代を切り拓いた薩摩の先人たちの偉業を知ることができる。

 下竹原弘志氏は「旅館経営はあらゆる日本文化の素材を駆使する芸術活動」という経営理念を提唱され、後継者と旅館スタッフの非常なる努力の結果、白水館はさまざまな旅館ランキングで常にトップランクの評価を受けている。私は90年代に下竹原氏が国際観光旅館連盟(現日本旅館協会)会長の時に歓談の機会を得て、氏の凛とし佇まいに敬服した。

 19世紀の米国でショービジネス起業家として活躍したP.T.バーナムは幾多の挫折の末に「最も崇高な芸術とは人を幸せにすること」という境地に至ったといわれている。彼にとって「芸術」とは美しいものを見せるだけでなく、観客の心に純粋な喜びや感動を灯すことだったようだ。

 下竹原氏の長年の想い(ホストとゲストと地域の人びとを幸せにする旅館の実現)の尊さを再認識しているところだ。

 

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館前館長。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

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