【特集No.452】スーパーホテル “共鳴と感動”でリピーターに
2017年2月11日(土) 配信

高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第9回は、ビジネスホテルチェーンを運営しているスーパーホテルの山本梁介会長が登場。いち早く取り入れた「IT化」に加え、“1円あたりの顧客満足度ナンバーワン”や、科学的に安眠を追求する取り組みなどについて内藤氏と語り合った。
【増田 剛】
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内藤:現在からスーパーホテルの歴史を見ると、一見とても順調に映りますが、挫折を繰り返し、さまざまな試行錯誤があったと聞いています。
山本:色々ありました。実家は繊維商社で、私は3代目でした。父が早く亡くなったので、25歳のときに会社を引き継ぎました。とにかく一生懸命やらなければならないという思いで、経営学の本を読み漁り、習いたての計数管理を中心に据えて経営をやっていました。
しかし、現場からは「社長の言われることはよく分かるけど、現実にはなかなかそのようにはいきません」と言われ、「自分にはリーダーシップがないのだ」と思い悩む時期もありました。
「リーダーシップとは、どれだけ責任を取るか」ということも、当時は分かりませんでした。結局、上手くいかずに家業の繊維商社を畳んでしまいました。
内藤:その後、不動産賃貸業に転身されたのですか。
山本:父が“石橋を叩いても渡らない”という堅実な経営をしてくれたおかげで、会社を売った資産が残り、不動産賃貸業を始めました。賃貸業をやるからには、「経営をしっかりと学び直し、独自のものをやりたい」と思いました。仕事の合間に時間を見つけ、天分を生かして上手くいっている経営者や、失敗された方などに話を聞いて回るなかで、成功者たちの共通項として「運」が一番大事だという思いに至りました。また、「ピンチをチャンスにする」感性も持ち合わせていました。感性は第六感なので、苦しいときにも閃きがある。そして、そのような人は爽やかであり、人間力がある。周りからも力をもらえている。「感性を磨かなければならない」というのはすぐに理解できたのですが、「人間力」という部分は、実際どうやって行動に移せばいいのか分からず、考え続けました。
内藤:シングルマンションを全国展開していくきっかけは何だったのですか。
山本:たまたま英字新聞を読んでいたら「ロサンゼルスでは不動産賃貸でファミリー層が50%を割る」という記事に驚きました。
当時の米国は今の日本のように晩婚化や離婚の増加によって、シングルの家庭が増えていました。また、多くの人が仕事や刺激を求めて都心部に集まってきていました。大阪もいずれそのような社会構造になるのだろうと思い、関西で一番早い時期に木造のワンルームマンションを建てました。
内藤:これが時代とマッチして当たったのですね。
山本:1棟売りしたり、自社で管理したり、バブル経済全盛に向けて商売も上手く軌道に乗りました。
しかし、バブル崩壊によって、借金もあり、厳しい環境となり苦しんでいる日々でしたが、色々な人に支えられていることに気づかされると、感謝の気持ちが湧いてきて、気持ちが明るくなりました。そして、新しい道を探さなければならないなと思いました。
これまでインフレ先取りで儲かってきたわけですから、逆に考えて、デフレを先取りすることをコンセプトに、「スーパーホテル」の開発に入っていったのです。
内藤:最初はシングルマンションと、ホテルの発想を組み合わせていったのですね。
山本:シングルマンションも関西中心から、全国展開していましたが、効率が悪い。というのは、本部、支店、そして現場がある。バブル時期からホテル業にも着手していましたが、ホテルならムダに思えた支店もいらないし、徹底的に現場に入り込んで管理もできると考えました。
内藤:不動産賃貸業から移られたホテル業は、どのように見えましたか。
山本:100室のマンションだったら住み込みの夫婦で管理できるのに、ホテルなら何十人ものスタッフが必要になります。ホテルがもっとシングルマンションに近づけていければ、2人でできるではないかと考えました。「これから事業を始めよう」というベンチャー精神がある夫婦を対象に、50日間で支配人を育てる「ベンチャー支配人制度」の発想は、ここから生まれました。経営を学びながら、将来独立も支援する制度です。
シングルマンション時代はどちらかと言えば、バイタリティの大きいディベロッパー関係の方が多かったのですが、再生してきた人を見ると、感謝力のある人がほとんどでした。「感謝というのは大きなパワーなのだな」と感じました。そのときに、私の造語ですが「自律型感動人間」を育てようと思いました。
内藤:ビジネスホテルも同じシングルルームが中心なので、これまでのセンスも活かせるし、全国展開はホテルの方がいいと思ったのですね。
山本:そうですね。「素晴らしい居住空間をつくる」「ローコストでハイクオリティーなものをつくる」、そして「IT化」――の3つを掲げました。
もう一つは、当時、シングルルームは1人7千―8千円程度でした。私もサラリーマン時代に「出張先で1杯飲もうか」というときに、出張費は宿泊費で無くなり、なかなか飲むことができない。そこで、出張費の範囲で1杯飲める安い価格のホテルがあると支持を得られるのではないかと考えました。1泊5千円くらいでしたら、出張費で1杯飲めます。当時は日本のホテルの宿泊費は世界的にも高かったので、デフレ先取りにも適っています。その仕組みづくりには「IT化は避けられない」と考えました。
一方で、ビジネスとって一番大切なことは何かと一生懸命考えました。いくら安く泊まれても、明くる日の商談が成功しなければ意味がありません。「ぐっすりと眠れ、ビジネスに集中できる空間」が基本です。そこで「安全・清潔・ぐっすり眠れる」というコンセプトに特化したのです。この部分では、他の追随を許さないクオリティを追求する。そのほかはセルフサービスに簡素化した、スーパーホテルのビジネスモデルができました。ビジネスモデル特許も取得し、全国展開に向かって進んでいきました。
内藤:創業以来、顧客満足度の追求にも取り組まれています。
山本:当初は生産性の追求第一でスタートしました。しかし、20店舗まで拡大したときに、頭打ちの状況になりました。稼働率も横ばいから下がり気味になりました。それで、現場に行って聞いてみると、我われの何よりも大切な経営理念がまったく現場に伝わっていない状態でした。生産性も大事ですが、やはり顧客満足度がとても大事だと認識しました。
その後、世界最高レベルのおもてなしを提供するリッツカールトンと、宿泊費4980円の格安新興ビジネスホテルであるスーパーホテルがテレビでも比較されたりもしました。私は「1円あたりの顧客満足度は当社の方が上だ」と自負しています。
この10年ほどは、東日本大震災やリーマン・ショックなどもありましたが、増収増益を続けています。
内藤:「本物の経営をしよう」と現場を強化されていますが、具体的にはどのようなことに取り組まれていますか。
山本:朝礼では経営理念を読み上げるだけでなく、スタッフが各人で順番を決めて、「どのようなことを取り組んでいるか」を話していただいています。これに対して、本社では経営陣が、各店舗では支配人、副支配人が中心になって「それはこういう風に考えたらいいのではないか」「素晴らしい取り組みなのでもっとやってください」などコミュニケーションを取っていきます。365日繰り返し継続するなかで、経営理念の中にある「人の話を聞く」「自ら考える」「実行する」ことが浸透して、モチベーションが上がってきました。
内藤:スーパーホテルは、20年前から自動チェックイン機の設置による画期的な「ノーキー・ノーチェックアウト」システムなど、さまざまなIT化によるおもてなしに取り組まれています。
山本:おもてなしにIT化を取り入れ、生産性を追うことは、当時の状況からすれば、非常識でした。当時、「マンパワーでいかにホスピタリティを上げるか」が、ホテル業界の常識的な考え方でした。我われはシングルマンションを経営してきた経験から、お客様が「自分の価値観でホテルの部屋を使いたい」というニーズを知っていたので、思い切ってIT化に取り組んでいきました。ペーパーレス、キャッシュレスにすると、間接的な人員がいらなくなり、また、ワークスケジュールでは、お客様の数に応じたシフトを組み、生産性が上がりました。
これらをどのようして顧客満足度につなげるかを常に考え続けています。第一に、顧客満足度を上げるには、従業員満足度を上げなければなりません。従業員満足度を上げる基本は、情報共有です。お客様からお褒めの手紙やお叱り、提案の手紙を全店舗が共有することでアドバイスしたり、助け合ったりしています。
内藤:IT化による顧客情報の一元化もいち早く取り組まれました。
山本:例えば、青森での利用が多いお客様が初めて大阪に来られたら、「いつも青森でご利用いただきありがとうございます」と声を掛けます。角部屋を望まれるお客様、また、毎回領収書を求められるお客様などの情報も共有し、初めてその店舗に来られたとしてもリピーターと同じ対応ができるようにしています。
「お客様に感動していただく」ということが、リピーター化の1番の条件だと認識しています。お客様の不満はマニュアルや、研修で取り除くことができます。スキルの部分では、お客様に不満を与えない仕組みができ上がっています。一方、感動していただくには、お客様一人ひとりに応じて個々のスタッフがコミュニケーションを取る必要があります。
自分で考えて、自分で行動し、お客様を感動させることができる「自律型感動人間」を育てることを目指しています。
内藤:「支配人ライセンス制度」など、さまざまなシステムを導入されていますね。
山本:日々の業績に加え、面接と筆記試験で、6段階の階級を設定し、キャリアアップする仕組みを作っています。
フロントアテンダントの育成では、「スター制度」を2011年から始めました。無印から「ブロンズスター」「シルバースター」「ゴールドスター(フロントチーフ)」「№2(フロントマネージャー)」へと、キャリアアップするための制度を作りました。
このほかにも、イールドマネジメントシステム(需要予測システム)を導入し、あらゆる情報をデータ化して今年の実績と比較できるようにしています。
例えば、今日現在の予約状況が前年と同じようであれば白、上回っていれば青、下回っていれば赤など色分けしています。前年同時期のイベントなどの情報も入れているので、「赤だから営業強化が必要」「青だからもう少し客単価を上げてもいいのではないか」といった戦術に役立てています。
内藤:現場をフォローアップする「ゴールド作戦」とはどのようなものですか。
山本:スタッフの身だしなみや接客、朝食、清掃について、お客様から4点満点で評価をいただいています。月に1万通ほどの評価のなかで、自分の店舗が清掃では何点で何位だということが常に表示されます。2カ月連続で下位20店舗は、本社から「ゴールド作戦チーム」を派遣し、評価が上がるように手助けをしていきます。それでも改善が十分でなければ、本社で再教育ということも実施しています。
一方で、スキル面の不満が無くなっても、それだけでは面白くない。次の段階として、感動の路線に座標軸を変えていくことが大切です。このため、自分で考え、自分で行動し、人を感動させることができる自律型感動人間を目指すことが、我われが最も時間を割いているところです。
内藤:「環境と健康」も大きなコンセプトとして取り組んでいますね。
山本:20世紀の大量生産大量消費の反省から、21世紀は「本物」「自然」「環境」「健康」を大切にする、省資源、省エネルギーの考え方へと変化しています。「気持ち良く元気になることがラグジュアリーである」との考えから、日常の感動を味わえるようなホテルを目指しています。
この一環として、持続可能型社会を目指して2001年からCO2削減にも取り組み、10年間で約38%削減しました。当グループ全体には年間延べ460万泊されますので、「スーパーホテルに宿泊することで、お客様の家庭でも省エネへの取り組みの啓発になれば」と取り組んでいます。
「マイ箸」や「マイ歯ブラシ」を持参されたお客様にはプレゼントを差し上げる「エコひいき運動」など、お客様と一緒に取り組むエコ活動を展開し、01年比で現在50%以上のCO2を削減してきました。環境省からホテル業界から唯一「エコ・ファースト企業」に認定されています。環境大臣賞も2回受賞しました。
内藤:「眠り」を科学的に研究し、フロント近くの「ぐっすりコーナー」で、自分の好みや体調に合った枕を選択できるのも特徴です。
山本:ぐっすり眠って健康になってもらうことを、観念的ではなく、学術的、科学的に進めていこうと大阪府立大学の健康科学研究室と協力して、「ぐっすり研究室」を設立しました。枕は7種類から選べるようにしました。ベッドも柔らかめと、やや堅いものを選択できます。掛け布団もマイナスイオンが出て血の循環が良くなるものを開発しました。客室の防音も大切です。図書館並みの静けさとなるように設計・施工しています。室内の空気をきれいに保つために、加湿器を備え、壁紙もケナフなどの自然素材を使っています。天井には稚内の珪藻土を使用し、湿度を一定になるように工夫しています。水道水も粒子を細かくし、イオン化して、顔を洗うとしっとりします。飲料水として飲むと血の循環がよくなり、ぐっすり眠ることができる効果もあります。また、自然治癒力で元気になっていただこうと、半分くらいの施設では天然温泉を備えています。
内藤:朝食にもこだわっていますね。
山本:有機野菜に、独自のノンアレルギーの乳酸菌がたっぷり入ったドレッシングや、有機味噌、バターを提供しています。お米も減農薬、無添加の焼き立てパンなどこだわっています。
内藤:1号店では旅館業法で失敗されたと聞きました。
山本:今から20年前ですが、ITを取り入れて、24時間すべての店舗が「無人でチェックインできる」システムとして、ビジネスモデル特許を取得しました。チェックイン機にお金を入れていただき、テレビカメラで本部と受け応えをすると、扉が開いて入れるというシステムです。館内のフロントにチェックイン機があるのですが、それとは別に、郵便受けのように外に向かってチェックイン機を付けていました。すると、保健所から「待った」がかかりました。旅館業法では、チェックインは「フェイスツーフェイスでなければならない」と言うわけです。「表のチェックイン機は外して、フロントの横のチェックイン機だけでやってくれ」と許可されませんでした。
内藤:その失敗からも多くのことを学び、現在のスーパーホテルに生かされているのですね。
山本:サービス産業では生産性を上げることと、顧客満足度を上げる両方が必要だと感じました。フェイスツーフェイスでお互いに共鳴して感動するということがないと、サービス産業は本当の意味でのリピーターは作れないと実感しました。
内藤:顧客満足を上げるための生産性の追求であり、目的と手段を入れ替えてはいけないということですね。
山本:まったくそうです。
内藤:部屋の調度品やユニットバス、ベッドメーキングにおけるシーツの掛け方など、細かく生産性を追求されています。
山本:ユニットバスでは、配管の位置を廊下側にもってくることで、工費の節減と室内の静寂性、客室を広く使うことができるようにレイアウトしました。
ベッドについては、「清潔」が最初にあり、ISO9001を取得しています。客室が狭いため、どうしてもベッドの下に掃除機がひっかかります。ビジネスパートナーである清掃の専門家などとも相談するなかで、「脚が無かったらいい」という話がありました。お客様にも試していくうちに「ベッドが低くなった分、天井が高く感じられる」などの声もあり、評価も悪くなかったですね。生産性も上がるし、満足度も上がるので始めました。
内藤:生産性追求にはゴールはありません。研究や、それによる成果なども楽しみですね。
中規模のある宿では、食器洗浄機に5人のスタッフを置いていますが、それを1人に減らし、いよいよゼロにできないかと取り組んでいます。なぜ食洗機のスタッフが必要かと突き詰めていくと、シンクでの先洗いのためなのです。1度シンクに入れて洗って、それから食洗機に入れる。しかし、メーカーに聞くと、「2度洗いする必要はない」と言います。ホールスタッフが食洗機に食器を入れて、出てきたものを同じスタッフが表に持って行く。すべてホールスタッフがやるので、食洗機の周りには専任のスタッフはいません。5人を表に出せれば、接客が増えるのでサービスが上がり、顧客満足度が上がり、売上も上がっていきます。機械化ではなく、発想の転換で、生産性向上自身が、顧客満足向上につなげていくことができる循環を研究しています。
――外国人観光客は増えていますか。
山本:インバウンドは必要ですが、従来のお客様を大切にしていきたいと考えています。旅行会社からのお客様は受け付けておりません。団体客も20人以上は遠慮してもらっています。団体客だとリピーターのお客様が端に追いやられる状況もでてくるからです。リピーターを中心に大切にしていこうと考えています。それでも海外のビジネス客や個人旅行のお客様が増えており、東京では約3割、全国的な平均は1割ほどです。
内藤:海外展開はどのようにお考えですか。
山本:日本のおもてなしも、会席料理などと同じように1つの素晴らしい技術だと思うので、海外に日本のおもてなしを輸出していこうと、とくにASEAN諸国などで店舗展開を考えています。
現在、ベトナムに2店舗、ミャンマーに1店舗の計3店舗展開していますが、経営者の感覚や経営環境、商慣習、価値観、従業員の教育などすべて日本とは異なり、なかなか難しいですね。出店した国からの伸び率は高くなっているので、PRという意味合いも含んでいます。今は日本のビジネスマンが5割ほどですが、いずれはその国で日本のおもてなしを見てもらい、日本に来るきっかけとなればと思っています。
内藤:出店戦略の考え方は。一時期フランチャイズチェーン(FC)は中断されていましたが、また再開されていますね。
山本:地方創生のなかで体験観光と、特産品を売ることが大事になってきます。来て、観て、泊まって、食べて、土産物や特産品を買って、家で料理するという過程が必要になってきます。そうすると、どうしてもホテルが必要になってきます。しかし、人口が5万人や3万人の小さなまちには、全国区のホテルチェーンは出店しない。当社にもさまざまな市町村から「出店してほしい」という話も多くいただいています。問題は、地元が燃えてもらうということが大事です。地元が熱心であれば、我われも一肌脱いで、地方創生にお手伝いしていこうと考えています。



