〈旅行新聞1月1日号コラム〉――「普遍性」の強い理念 時を経ても古びず現在性を保ち続ける
2026年1月1日(木) 配信

「旅行屋さん 日本初の旅行会社日本旅行と南新助」(河治和香著、実業之日本社刊)は、“旅のお世話”に生涯を賭けた日本旅行創業者・南新助の生涯を描いた小説だ。
明治時代、鉄道開通に揺れる滋賀県草津で、立ち売り弁当販売を始めた南信太郎村長の息子・新助は「地元や鉄道への恩返しの気持ち」から、伊勢神宮や善光寺への団体参拝を実現させた。これが日本初の団体旅行と言われている。
作家・河治和香氏の筆力も相まって、久しぶりに楽しい小説に出会え、読後感は爽快な気分に包まれた。日本の団体旅行がどのようにして始まり、成長・発展してきたか。そして、時代とともに形態や価値観が大きく変化しながらも、「人のため」を追求した創業者・南新助の「“想い”=理念」を創業から120年経つ今も、日本旅行が大切に守っていこうとする理由を知ることができる1冊だ。
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昨年12月には「日本秘湯を守る会」の社員総会が開かれ、冬タイヤを装着したレンタカーで群馬県・猿ヶ京温泉を訪れた。日本秘湯を守る会の社員総会は毎年長時間に及ぶ。その大半の時間を費やし、佐藤好億名誉会長と星雅彦会長が会の理念“旅人の心に添う 秘湯はひとなり”について一言ずつ、ゆっくりと語り続けるからである。
佐藤好億名誉会長は「限界集落」という言葉をしばしば用いる。「限界集落にある山の宿である我われが、自然の恵みである温泉を大切に守り、日本の原風景や豊かな自然を懐かしく感じて旅に出る旅人の受け皿となる」という“想い”を、次の世代にも引き継いでいくことを何よりも大切にしている。
この理念があの提灯のともしびとして結びつき、一つ山を越えた宿とも語り合いながら半世紀以上も続けてこられている。もし、日本秘湯を守る会に理念がなければ、何度も厳しい経済環境を迎えながら、仲間とのつながり、そして旅人からの支持を維持していくことは難しかったはずである。
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今号6面には、静岡県・浮山温泉郷の「ABBA RESORTS IZU―坐漁荘」のオーナーで、「CIVIL GROUP」(台湾台中市)総裁の葉信村氏のインタビュー記事を掲載している。
葉氏は企業経営には「理念」と「利益」の2つの要素が不可欠だと言う。しかし、もしどちらかを捨てなければならないとしたら、「私は利益を捨てて理念を残します」と語る。なぜなら「100年続く企業や宗教、国の多くは、理念があるからこそ永続的に存続できるのです」との言葉に深い感銘を受けた。
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日々の取材活動のなかで、企業の経営者から現場の担当者まで、さまざまな人の語る言葉を記事にしている。トップ層は企業や団体の理念を語ることが多い。しかし、そこには個人の信念や理念も多分に混じり、滲み出てくるのが面白い。時代や、洋の東西を問わない「普遍性」の強い理念を大切にし続けることが、時を経ても古びず、いつまでも現代性を保ち続けることができるのだと感じている。
さまざまなメディアやSNSで情報が溢れるなかで、本紙は観光業界の企業や団体、個人のあまり知られていない、優れた取り組みやアイデアを見つけ、広く発信することに挑戦し続けたいと思っている。とても難しいことだが、この理念を貫きたい。
(編集長・増田 剛)


