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〈旅行新聞9月1日号コラム〉――日本の夏 何度も思い出すような原風景を求めて

2025年9月1日
編集部:増田 剛

2025年9月1日(月) 配信

 この夏、「日本の原風景をこの目にしっかりと焼き付けたい」思いが日々強くなり、福島から新潟に続く只見線に沿った道をドライブすることを思い立った。旅立ちはいつも午前3時台。今回は圏央道から久喜白岡ジャンクションで東北自動車道に入って北上した。

 風光明媚な夏の猪苗代湖を横目に、まずは「腹ごしらえ」と、福島県喜多方市内にある老舗「坂内食堂」を目指した。喜多方市内は「朝ラー天国」。朝の8時過ぎに到着したが、すでに坂内食堂の前には長蛇の列。だが回転が良く、それほど待たずに入店できた。20年ほど前から喜多方ラーメンの味に魅了され、今や東北への旅では、“素通り”不可のエリアとなっている。坂内食堂の味は確かで、早朝から他県ナンバーのグルメたちが並ぶ理由が分かった。

 空腹が収まり、会津若松市の飯盛山に向かった。飯盛山は戊辰戦争の際、白虎隊が自決した悲劇の物語の舞台として有名だ。二重螺旋六角三層のお堂「会津さざえ堂」も、ずっと気になっていた。未だ訪れていない素晴らしい場所を探しながら旅することがとても楽しい。

 会津さざえ堂の前には、多くの観光客がスマートフォンで撮影していた。私は「せっかくだから」と入場券を買い、お堂内部の迷宮的な建築構造を流れるように体感した。

 飯盛山の山上から会津若松城(鶴ヶ城)を探したが、見えなかった。この日は「福島県内で観測史上最高気温を記録した地点がいくつかある」とラジオが興奮気味に伝えていた。それでも陽炎で揺らぐ本丸まで向かった。でも、やはり鶴ヶ城は「雪景色の方が綺麗だ」と思った。

 その後、旅の主目的である越後街道、そして会津坂下から沼田街道に入った。沼田街道は只見川と只見線に沿っており、揺蕩う只見川の水面や、趣ある民家の営みをゆっくりと目に焼き付けながら車を走らせた。 

 途中、遠くで遮断機の音が聞こえた。しばらく脇に車を停めてシャッターチャンスを待った。すると、2両編成の電車が目の前を旅情たっぷりに走り去って行った。

 このまま新潟県の小出辺りまで走る予定だったが、道路が通行止めになっていた。こういう行き当たりばったり旅で、失敗するところが自分らしいなと思った。

 少し引き返して、国道121号線で湯西川、鬼怒川、日光、中禅寺湖などを通るルートで群馬県・老神温泉の旅館に宿泊した。宿の夕食はビュッフェスタイルで「お酒も飲み放題」だった。良心的な料金で、ほとんどが日本人の宿泊客だった。谷底の川のせせらぎの音も心地よく、久しぶりに熟睡できた。

 群馬県には草津や伊香保、水上、四万など有名温泉地が多いが、少し地味な老神温泉には大小さまざまな宿がある。自分の旅のスタイルと身の丈に合った宿を選んだ旅人たちが、私を含め、それぞれの旅を精一杯楽しんでいるさまが心地よかった。

 真夏の青い山と、深い谷に囲まれた早朝の温泉街には、失われつつある日本の懐かしい匂いがあった。私はこの朝の、何気ないが、何度も思い出すような原風景を求めていたのだ。

 宿でのんびりと過ごしたあと、近くの道の駅「川場田園プラザ」を訪れた。上州御用鳥めし本舗登利平沼田店で、美味しい鳥めし弁当を買い、帰路に就いた。

(編集長・増田 剛)

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