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【対談】観光庁の地域観光新発見事業 地域の魅力を掘り起こし育てる

2024年2月21日
編集部

2024年2月21日(水) 配信

 2023年の訪日外国人旅行消費額は5兆3千億円、1人当たりの消費額は21万円と過去最高水準となり、新たな観光立国推進基本計画で定められた25年度までの目標を達成し、日本の観光は堅調な回復を見せている。観光庁は、この高い需要を地方誘客へつなげていくことが重要だとして、「地域観光新発見事業」を開始する。事業の具体的な内容と地方への期待について、観光庁観光資源課新コンテンツ開発推進室の豊重巨之室長と、内閣府地域活性化伝道師、跡見学園女子大学観光コミュニティ学部の篠原靖准教授が対談した。

【聞き手=編集長・増田 剛、構成=馬場 遥】

 篠原 新型コロナ感染拡大の影響から堅調に回復しつつあるなか、昨年12月に閣議決定された24年度観光庁事業予算では、第4次観光立国推進基本計画に基づいた事業を計画されています。

 豊重 24年度は、基本計画における3本柱の戦略である「持続可能な観光地域づくり」「インバウンド回復」「国内交流拡大」に資する予算を確保し、オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する対策にも取り組んでいきます。
 インバウンドをはじめとした観光需要が回復するなかでも、需要は偏在傾向にあるため、この需要を地方部へ波及させる必要があります。

 篠原 新たな基本計画では、観光消費額の拡大と地方誘客の促進戦略が示されています。
 従来までの数を求める観光政策から、「稼げる観光」に大きく変容し、大きな転機が訪れているように感じます。今回の地域観光新発見事業の役割と具体的な内容について教えてください。

 豊重 本事業の観点は、「いかに稼ぐ観光とするか」「地方誘客を促進するか」の2点から考えられ、事業設計を行いました。
 地域の観光資源を活用した地方誘客に資する観光コンテンツについて、十分なマーケティングデータを生かした磨き上げから、適時適切な誘客につながる販路開拓、情報発信の一貫した支援を実施します。
 22年度の「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」のいわゆる後継事業となり、より活用しやすい支援メニューを用意しました。
 コンセプトは大きく分けて3つあります。
 1点目は、インバウンド・国内観光客双方の地方誘客に資する観光コンテンツの造成ができることです。とくにインバウンドの宿泊先は都市部に偏在傾向にあります。観光による経済効果を地方にも波及するためには、訪日客だけでなく、国内観光客も併せて地方誘客を強力に進める必要があります。
 2点目は、マーケティングデータを生かした観光コンテンツの磨き上げに取り組むこと。市場別・ターゲット別の売れ行きや満足度などの、マーケティングデータを生かしていただき、ターゲットとなる旅行者を想定した地域にとって経済効果の高い魅力的な観光コンテンツを造成していただきます。
 旅行者視点での造成となるように、顧客の体験価値の向上を重視したマーケットインの発想で磨き上げが求められます。
 3点目は、時期や時間の分散化につながる販路開拓と情報発信に取り組んでいただくこと。早朝や夜間の時間を活用するなどの観光コンテンツの造成や、造成した観光コンテンツの販売や情報発信を工夫することを期待しております。
 そのために、OTAにどう掲載するか、お客様が見る観光地の位置情報や混雑状況など、こういった情報の発信方法も含めて、事業に取り組んでいただきます。
 全国津々浦々に埋もれる地域の観光資源を掘り起こし、地域の多様な観光コンテンツを造成し、観光客がその地域の魅力に気付いて「訪れてみたい」と思われる機運を醸成できればと考えます。

 篠原 今まで観光と無縁であった地域では、インバウンドに特化した事業に応募するには敷居が高すぎるという声もありました。
 豊重室長から説明があったように、本事業はインバウンドのみにこだわらず、国内観光客と併せて地方誘客を強力に進めるというところがポイントです。
 全国の地域観光の立ち位置を再構築し、「観光消費を創出するための仕掛けづくり」がキーワードになります。

 豊重 本事業には、「新創出型」と「販売型」の2つの類型があるというのが大きな特徴です。
 新創出型は、観光の取り組みが十分に行えていなかった地域において、観光で新事業をスタートアップしたい観光事業者や、新たに観光コンテンツを造成して地域を活性化し、観光のまちとして積極的にアピールしたい地方公共団体などの皆様に応募していただけるよう、間口を広くしています。
 販売型は、既に観光コンテンツを造成した実績があり、実際に観光コンテンツを販売している観光事業者や、観光における一定の成熟した受入体制がある地域やDMOを対象に想定しています。あるいは、観光において稼げる観光になっていなかったり、十分な収益・誘客ができていなかったりなどの事業に対し、販売価格や販路の見直しをはかり、情報発信の内容のブラッシュアップなどを行って、より魅力的な観光コンテンツ造成に向けてステップアップしたい観光事業者や地方公共団体などに利用していただきたいです。
 なお、委員会の審査結果によっては、公募時と異なる類型での採択となる可能性があります。
 本事業を利用するにあたり、最低事業費は600万円となっております。補助額は400万円までは定額で、これ以上は2分の1で補助します。
 例えば事業費600万円の場合、補助額は500万円ですので、自己負担100万円で事業を行うことができます。補助上限は1250万円となります。
 申請時には「収益性」を示していただく必要があります。観光マーケティング分析を行い、この事業を通して得られる収益と、必要な費用、想定される国内観光客やインバウンドの誘客数などを、算出の根拠と併せて3年間分提出していただきます。
 この採択事業内で収益を得た場合は、納付の必要がありません。
 全体で50億円の予算を確保しておりますので、多くの地域・事業者に、魅力ある観光コンテンツの造成にチャレンジしていただきたいと思っております。

 篠原 全国を訪問していると、お客様に来てもらっても、「消費したい」と思えるようなものが販売されていないケースが多々あります。そういった地域では、地元の相場感による商品づくりしかできていないように見受けられます。「うちの町で観光なんてとてもムリだ」と最初からあきらめている方々も少なくありません。
 しかし、政府は今後さらに観光振興をもとに、さまざまな地域振興を推進していくことになりますので、今回の事業をきっかけとして、再度自分たちが住んでいる地域の生活文化を見直しながら、新たな観光的価値を高めていただきたいと思います。
 本事業には、こうした頑張る地域を支援するためのプログラムがたくさん用意されています。
 例えば、申請に不慣れな地域に対する申請前の支援や、事業開始後の成果や商品化に向けた支援、販路となる道筋を付けながら、従来の専門家派遣に加え、インフルエンサーの派遣までを相談できる事業設計になっており、手厚い伴走支援が行われます。

 豊重 申請時に必要な「収益性」の分析については、「観光マーケティング分析支援」といった申請前支援を用意しています。日本観光振興デジタルプラットフォームを用いたデータを活用し、観光マーケティングを実施していくにあたっての考え方や手法をレクチャーします。
 このように、応募いただく事業計画づくりに役立つ支援や、セミナーなどの情報提供を行います。
 事業実施期間中では、採択事業者が事業を実施するにあたり、地域課題などの解決に向けて観光コンテンツの磨き上げや販路開拓・情報発信などに資する各種支援を行います。
 さらに、高い事業成果を目指す限りないポテンシャルがあると認められる事業に対して、伴走支援を重点的に活用できるように「重点支援事業」枠を用意しています。全体で50件ほどを想定しており、採択案件公表時に観光庁プレスリリースで紹介したり、専門家によるアドバイスや事務局・運輸局による支援を受けられたり、OTAとのタイアップによる販売促進、成果報告会にて優先的に発表の機会を創出するなどの伴走支援を受けられます。

 公募期間は、3月8日─4月17日まで。
 5月下旬に採択通知を行い、事業は交付決定後の6月下旬─7月上旬から、25年2月28日まで実施することができます。
 1月25日にオンライン説明会を行ったところ、約3100人の方に参加していただけたことから、関心の高さが伺えます。
 単に観光資源をそのまま観光コンテンツとして活用するのではなく、①ターゲットを想定し、地域にとって経済効果の高い観光コンテンツへ適切に磨き上げるもの②顧客の体験価値の向上を重視したマーケットインの発想で磨き上げるもの③新たな来訪目的の創出、観光消費の場の提供、より長期の滞在への誘因、異文化との交流拠点などに資する──など、地方への継続的な来訪を促進するきっかけとなるような観光コンテンツの造成を期待しています。

 篠原 観光は、消費に前向きな方が旅行に訪れるので、今までの地域消費の3倍の価格でも十分勝負ができます。地域観光新発見事業で、今までの観光コンテンツを磨き上げていただき、高単価で消費されるような仕組みを作っていただきたいですね。
 ここが、観光庁が考える「稼げる観光」への切り替えのポイントではないかと思います。
 また、インバウンドに人気の観光地は、当然日本人にとっても一度は行ってみたいと思われる場所です。混雑などが原因で足が遠のいていたのであれば、この事業をきっかけに早朝・夜間の時間に観光コンテンツを造成することで、新たな魅力を発見していただきたいと考えます。

 豊重 国内観光客も含め、行きたいところへ行って魅力ある観光ができる環境を作らなければなりません。本事業を通して新たに作られた観光コンテンツを通して、新しい発見をしてほしいという想いで、「地域観光新発見事業」という事業名にさせていただきました。
 日本の地方にはまだまだ魅力的な観光資源が眠っています。伴走支援を通じてバックアップをすることで、さらなる観光コンテンツに磨き上げられるようお力添えしたく思いますので、多くの魅力的な観光コンテンツをお待ちしています。

豊重巨之室長(左)と篠原靖准教授

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