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【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その18-渋川八幡宮(群馬県渋川市) 我欲を祓ったその奥へ 大祓詞を静かに写詞する

2022年10月13日
編集部

2022年10月13日(木) 配信

 この連載を始めるときに、「精神性の高い旅」とは何かということを突き詰めて考えた。概念としては、パワースポットに近いのかと思って、パワースポットにまつわるさまざまな記述を紐解いてみたが、何か違和感を覚えていた。

 

 パワースポットは見えない力を追求しているように感じるのに、出てくるのは荘厳な建築物や、巨木といったモノばかり。雑誌Hanakoの寺社特集の直近4冊でパワースポットとして紹介されていたところを列挙していくと、樹木24%、石・岩19%、仏像・動物の像14%、本殿・本堂・門などの建造物も14%と、すべて「モノ」であり、見えないものがパワースポットとして紹介されている項目はなかった。精神性を求めているように見えて、現実はすべて目の前にあり、見える印象的なものを求めて旅をしているに過ぎないように感じた。

 

 そんななか、見えないものを感じることができる場所がある。群馬県渋川市にある渋川八幡宮である。

 ここは、渋川駅から約3㌔、ちょうど伊香保温泉に向かう県道33号線沿いに鎮座している。社伝によると、鎌倉時代中期の御家人渋川義顕が創建したとされる。鎌倉の鶴岡八幡宮を勧請したとのことである。

 

 御祭神は応神天皇、比売神、神功皇后で、子宝祈願や安産祈願、子育てなどに御利益があるといわれている。

 

 境内は鬱蒼とした木々に囲まれている。本殿は江戸時代初期に建立され、県の重要文化財にも指定されている。正面の彫刻も迫力がある。

渋川八幡宮の本殿(写真提供=小笠原陽子氏)

 本殿の前には、大きな石が鎮座しており、これが蛙の形に見えることから、「勝かえる」「若かえる」と呼ばれ、ここで多くの人が願掛けをしている。さらに、本殿左横に白いだるまが鎮座しており、ここでも多くの人が願掛けをしている。

 

 このような渋川八幡宮だが、魅力はこれだけではない。ここの宮司である小野善一郎さんその人こそがこの渋川八幡宮の最大の魅力といっても過言ではない。小野さんは、神道の教えが現在の我が国に浸透していないことを憂い、全国で神道をわかりやすく理解するための講演活動をして回っている。そのため、小野さんに会うためにわざわざ遠くからこの渋川の地を目指す参拝者が引きも切らない。

参詣者に「大祓詞」を写詞する機会を提供(写真提供=小笠原陽子氏)

 小野さんが力を入れているのが、「写詞」である。よく寺院では般若心経の写経を実施しているところが多くあるが、神社で祝詞を写し取ることは、ほかでは見たことがない。そこで、小野さんは、祝詞の中でも、毎年6月と12月の晦日に大祓が行われる際、神前で読み上げられる祝詞である「大祓詞」を選び、参詣者に写詞をする機会を提供している。1300年もの長きにわたって唱えられてきているこの大祓詞を改めて一字一字丁寧に写し取っていくことで、自分と向き合うことができるのである。

 

 小野さんは言う。人間は本来穢れのない澄んだ清らかなこころがあるはずなのに、毎日暮らしていくなかで、悪口、嫉妬、傲慢などで覆われてしまう。そのような罪、穢れを祓って捨て去り、本来の人間のあるべきこころに戻ることこそが神道の目指すところであり、そこに導くのが大祓詞なのである。すなわち、神社にお参りするのは、なにも荘厳な神殿に跪くためでも、巨木や巨岩に圧倒されるためでもない。自分のこころと向き合って、我欲を祓ったその奥にあるものを体認することにある。ということは、本当のパワースポットは、私たち一人ひとりの自我の先にあるものなんだということが理解できる。 

 

 静かに写詞をすることで、自分の中に最高のパワースポットがあったということを実感できる場所、それが渋川八幡宮である。

 

 

旅人・執筆 島川 崇
神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科教授。2019年「精神性の高い観光研究部会」創設メンバーの1人。

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