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「街のデッサン(257)」 ミドルタウンツーリズムの発見、先取りする観光コンセプトへの直感

2022年9月17日(土) 配信

中堅都市観光モデル・小田原

 観光産業には多方面からの逆風が吹いて、なかなか復調のきっかけを掴めないでいる。手をこまねいているうちに、日本は「観光立国」どころか「観光消国」になりかねない。

 この夏の初めに小田原市で産業観光のフォーラムがあり、街を案内されてシンポジウムに参加しているうちに、この地方中堅都市の豊かで多層的な地域資源の活用を新しい切り口で考えられないかと思い当たった。私は基調講演を頼まれていたが、そこで提案したコンセプトが「ミドルタウンツーリズム」であった。「ミドルタウンツーリズム」とは一体何であろうか。

 都市の類型として「グレートシティ(大都市)」と「スモールタウン=ヴィレッジ」があって、近年フランスなどではこの小さな町や村の観光が盛んだ。無論、パリ、ニューヨーク、東京などの大都市が観光のメインになっているが、見落としてはならないのが「ミドルタウン=中堅都市」という視点である。

 アメリカでは、「ミドルタウン」がその都市や町の正式名称になっているところが各地に複数存在するから、中堅都市を巡るだけでもツアーが成り立つと洞察する。何故成り立つかは、それらの地域が大都市や小さな町にはない人々の心の琴線に触れる風土を創り出しているからである。

 1920年代、アメリカで共に社会学者であるリンド夫妻がインディアナ州のマンシーという中堅都市を調査した報告書が注目された。夫妻はこの4万人弱の都市に自ら住み着き、参与的行為調査の手法で数値上だけでなく実態、実感的な研究を進めた。20年代のアメリカは産業近代化で大量生産、大量販売という商品流通の拡大が進み、フォードによるオートメ化で自動車の廉価化が実現し、移動の自由が郊外化文明を生み出した。これらの社会現象として、ヨーロッパ各国の労働者の階級抑圧に代わる豊かな市民コミュニティを生み出した。20年代後半、マンシーも大恐慌に襲われるが、彼ら市民は必死に働くことで生活と風土を保持した。アメリカのミドルタウンの多くは古き良きアメリカの面影を残している。

 実は私は小田原の街に、アメリカとシナジーな都市コミュニティと風土の豊かさを実感した。私たちはAIやスマホ、メタバースに少々食傷気味ではないか。クオリア不在の仮想空間体験ではなく、日常につながっている身の丈と、体温の温もりを忘れていない観光(これを小田原では〈なりわい〉と総称している)が、「ミドルタウンツーリズム」の発現の必然性を後押しているのではないか。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

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