ツルだけにあらず

 鹿児島県北西部、熊本県との県境に位置し、ツルの飛来地として知られる出水市は、薩摩藩の外城(郷士の住宅兼陣地)として整備された広大な武家屋敷群が今も残る歴史のまちでもある。

 その「出水麓武家屋敷群」の一画に今年5月、出水麓の歴史をジオラマ模型や映像、貴重な資料などで紹介する「出水麓歴史館」が誕生した。近くには、一般公開されている「税所邸」と「竹添邸」があり、共通入館券(大人500円・小中学生300円)で3施設すべてを見学できる。ちなみに、入館券はバッジになっており、記載された年内であれば、何度でも入館できるという太っ腹仕様。武家屋敷群では浴衣(5―9月)や着物(10―4月)の着付け体験を行っており、こちらは外国人観光客にも人気だとか。

【塩野 俊誉】

経済効果は5905億円、MICEで観光に追い風も(観光庁)

2015年国内の国際会議の経済波及効果は約5905億円に上る――。観光庁はこのほど、数値の算出を初めて行い「日本経済にもたらす影響は大きい」と期待感を示した。算出と合わせ聞き取り調査も実施。外国人参加者の約68%が「開催前後に観光予定がある」と答えた。国際会議を含むMICEの誘致が観光消費の追い風になりそうだ。

 外国人参加者は3大都市圏で観光する割合が高く、宿泊日数も伸びる。外国人参加者の平均宿泊数は約6・0泊だったが、3大都市以外は1―2割ほど低下した。「3大都市以外は滞在や観光活動を促す情報提供やプログラムを作ることが重要だ」と指摘。

 国連世界観光機関(UNWTO)の観光サテライト勘定(TSA)によれば、内部観光消費は3045億円だった。このうち外国人参加者のみは462億円。国際会議の地方開催で、地域の活性化にもつなげたい考えだ。

 世界の国際会議の情勢も報告された。15年の開催件数は06年比で約1・4倍。ただ参加平均人数は1・3倍で、小規模化が進んでいる。

 これに伴いホテルでの開催が拡大。15年の開催件数は3倍以上になった。「小・中規模の会議に対応でき、パーティーなどを行える点が需要と合致した」とみている。

 ヒアリングでもホテルは開催に好意的だ。「収益面だけでなく、人材育成でもメリットがある」(JRホテルクレメント高松担当者)。英語で打ち合わせやハラル食などへの異文化対応が「貴重な経験になる」という。

 一方で日本は国際会議の誘致対策に遅れが目立っている。アジア・中東・オセアニア地域の開催件数シェアは、直近10年間で18・4%から15・4%に落ち込んだ。上位10都市の開催件数を比較すると東京は8位(80件)で、1位のシンガポール(156件)の約半数だ。伸び率も中位につけた。

 新興国などの都市が誘致を強化するなか、盤石な地位を築けていない。「都市のポテンシャルに見合う存在感があるとは言い難い。一層の対策が必要」との見解を示した。

 今回の「MICEの経済波及効果及び市場調査事業」は日本政府観光局(JNTO)の基準に沿う国際会議2847件を調べた。今年度には企業会議と企業の報奨・研修旅行、展示会も調べ、同調査と合わせて、MICE全体の経済波及効果の算出を行う見通し。

「変なホテル」海外へ、子会社化で台湾に進出(HISグループ)

 HISホテルホールディングス(平林朗社長、HHH)は5月23日に、台湾でホテルチェーン大手の「グリーンワールドホテルズ」(GWH、台北市)の子会社化を終えたと発表した。HHHは台北市内16軒のホテルを経営管理する。このうちの1軒を変なホテルに改装。変なホテルが初の海外進出に乗り出していく。

 子会社化を機に、中国語圏市場や東南アジア、オセアニアなどの海外進出へ拍車をかける。国内で培ったホテル運営やマーケティングのノウハウを生かしていく。ホテル事業の収益を拡大する一方で、HISの旅行事業との相乗効果も見据えている。

 HHHは3月21日にGWHの第三者割当増資を引き受け、5月23日に新株発行に関して振込手続きを終えた。所有株数は5596万1455で、所有割合は51・0%となった。

 なお、変なホテルの3号棟目は8月1日に、愛知県・蒲郡市のラグーナテンボスで開業する見通し。自社ブランドの国内外ホテルと合わせ、HISグループは今期に30軒のホテルを展開している。今後5年間で国内外100軒まで広げる考えだ。

離島の魅力紹介、鯨本あつこ氏

鯨本あつこ氏

 まちむら交流きこうと、ライターズネットワークは5月11日、東京都内でセミナーを開いた。講師としてNPO法人離島経済新聞社統括編集長の鯨本あつこ氏(いさもと・あつこ)が登壇。「島の今をネットワークで発信する力、新しいメディアの力」をテーマに講演した。

 離島経済新聞社は、日本各地の約400の有人離島の文化や智恵、暮らしのネットワーク化を目的としている。Webや紙媒体による情報発信、教育などさまざまな事業を展開している。

 鯨本氏は「島の人たちは自活力が強い」と離島を取材するなかでの印象を語った。地熱や洋上風力を利用した発電、ワークシェアリングなどの先進事例や、独特の文化を持つ島の魅力についても紹介した。

鉄道の利用促進を、無人駅貸出しで活性化(JR北海道)

 北海道旅客鉄道(JR北海道)はこのほど、無人駅活用に向けた新たな取り組みを発表した。98カ所ある無人駅を、観光協会や商工会議所などに無料で貸出す。地場産業のPRや観光案内所などに利用してもらい、駅の活性化とまちのにぎわい創出につなげ、鉄道利用の促進をはかる。

 JR北海道が5月9日日に公開した2016年度決算によると、台風の被害などを受け当期純損失126億円を計上。島田修社長は、「来期も189億円の経常赤字を計画する厳しい見通し。北海道新幹線を活用した経営基盤の強化に取り組み、事業範囲の見直しによる抜本的な経営構造改革を進める」との談話を発表した。

 昨年には、北海道の鉄道網の半分以上の13線区、1237キロの線区を単独で維持するのは困難と訴え、「地域交通の維持」について沿線自治体らとの協議を開始している。道もこの問題に対し、「鉄道ネットワークワーキングチーム」で検討を進めており、5月25日には高橋はるみ北海道知事が、初めて名寄市内で宗谷線沿線関係者と意見交換を実施した。

 沿線自治体でも、鉄路存続へ向けた試みが始まっている。同社がバスなどの交通体系への移行を考えている札沼線の北海道医療大学―新十津川間では、月形町と新十津川村、浦臼町の首長が自ら沿線の魅力をガイドするバスツアーが行われている。これは月形町の提案で、シィービーツアーズ(北海道札幌市)が企画したもの。3年前から国道275号線を歴史街道として売り出すために始めたが、今年は浦臼―新十津川を札沼線で移動し、より多くの注目を集めている。

創立50周年記念フォーラム、「新潟創生宣言」に350人(ホテル泉慶)

飯田浩三社長

 ホテル泉慶グループは創立50周年を記念して、未来を探るフォーラム「新潟創生宣言」を5月14日、白玉の湯華鳳で開き、350人を超える人が県内外から集まった。

 基調講演は、内閣参与で経団連21世紀政策研究会顧問を務める、飯島勲氏が「政局を語る」をテーマに講演。世界の指導者が変わるなか「安倍政権の役割は大きい」と語り、「これからは日本海時代の幕開け」と強調。とくに農業、観光の重要性を説いた。最後は「住みやすい社会を中長期的に考え、後戻りしない政治を行わなければならない」と締め括った。

 また、「新潟から発信する地方創生に向けた産学への期待」と題したシンポジウムを実施。パネリストは増田寛也東京大学公共政策大学院客員教授と亀田制作日本銀行新潟支店長、高橋姿新潟大学学長、田中通泰亀田製菓代表取締役会長。コーディネーターは山崎史郎前内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官が務めた。

飯島勲氏

 亀田日本銀行新潟支店長は、新潟県の人口減少率は全国ワースト9位(16年10月現在)というなかで、新潟にとっての地方創生は「人口減少問題に立ち向かい、未来志向を持つこと。新潟ならではの良さを、強みを再発見する必要がある」と述べた。高橋新潟大学学長は、地域の中小企業との連携、地域ニーズに応える人材育成や研究の推進が必要だと訴えた。19年4月に創生学部を新設し、人材の育成と定着を目指すという。

 田中亀田製菓会長は、「保守的な発想が強く、独創的なアイデアに挑戦するという気風が弱い」という県民性を譬えた。そのなかで、危機に立たされたときに気持ちが燃え上がる新潟県人の成功から学ぶことが重要だと呼びかけた。増田東京大学公共政策大学院客員教授は地域で雇用の場を創出する必要性を説き、「子供たちの声が届く魅力ある職場づくり、環境を整える必要がある。地域の特色を出し、相手が望んでいる言葉で伝え、変える勇気をもって挑戦してほしい」と語った。

 コーディネーターの山崎氏は「若い人だけでなく、その親たちに地元の産業、企業をより知ってもらう必要がある。インターンシップがキーワード」と説いた。

パネルディスカッション

 フォーラムを前に飯田浩三ホテル泉慶社長は「お客様、地域の皆様、取引先の関係者のおかげで創立50周年を迎えることができた」と謝辞を述べ、「この50年間、インフラ整備が充実し、新潟県も発展してきた。一方、中越、中越沖地震や東日本大震災で、大変厳しい状況も経験した。よく乗り越えてきたと感慨深いものがある」と振り返った。今後については「世界のグローバル化に伴い、新たなサービス形態が求められる。旅館業という職業に誇りを持ち、お客様に、社会に対応すべく、積極的に貢献できる企業として努力していきたい」と方針を述べた。

 二階堂馨新発田市市長は「地方創生が急務と言われるなか、裾野の広い観光は切り札と言われている。月岡温泉は観光のプラットフォームとして誘客策を進めている。20年の東京オリンピックを控え、新たなマーケットを積極的に推進している。当市も市制施行70周年の節目に、新たな100年に向かって泉慶グループと共に発展していきたい」とあいさつした。

仮想通貨で決済、訪日需要拡大へ(ピーチ)

井上慎一CEO(中央左)と小田玄紀社長

 LCCのピーチ・アビエーションは12月までに、ビットコイン(仮想通貨)の取引を行うビットポイントジャパンと共同で、仮想通貨を活用した直接決済サービスを導入すると発表した。航空券の支払いなどに利用できる。また、北海道と東北、沖縄をモデル地区に選定。ホテルやレストランなど、仮想通貨利用店舗の拡大も進め、インバウンド需要を拡大させ、地方誘客・創生を実現する。

 5月22日に東京都内で開いた会見で、ピーチの井上慎一CEOは「お財布を持たずに完結する旅の実現に傾注する」と宣言した。

 ビットコインとは、インターネット上で取引される仮想通貨の1つ。中国をはじめとするアジア圏や欧米では広く普及しており、同通貨を使用可能にすることでインバウンド需要の拡大にもつながるという。ビットポイントジャパンの小田玄紀社長によると、日本でも法整備など消費者保護が進んでいることから、今後仮想通貨の使用が広がるという。

女将がおもてなし語る、神戸で「旅の日」の会開く(日本旅のペンクラブ)

「みやこ女将の会」の女将がおもてなしを語り合う

 日本旅のペンクラブ(代表会員=中尾隆之氏)は5月16日、神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市)で第30回「旅の日」の会を開いた。今年の旅ペンクラブ賞は、京都府の「みやこ女将の会」(会長=堀部寛子・炭屋旅館女将)が受賞。記念シンポジウムでは、会員女将らが「おもてなしの心」をテーマに語り合った=写真。

 堀部会長は「私たちは先人たちから受け継がれた『和の文化』を、おもてなしの心で次の世代につなげていかなければならない。全国各地の女将さんとも交流しながら、一層精進していきたい」と強調した。

 柊家の西村明美女将は「おもてなしは、人に見えては気を遣わせてしまう」と話し、見えないところでのおもてなしの大切さを語った。旅館については「日本人の心を映す空間であるべき」との考えを述べた。

 同ペンクラブは1988年に、松尾芭蕉が「奥の細道」に旅立った5月16日を「旅の日」と定めた。中尾代表は「『旅の日』が広く一般の方々にも浸透してきているのを感じる」と話し、「今後も旅文化の向上や、地域活性化など、幅広い活動を展開していく」計画だ。

【当選者発表】第42回プロが選ぶ100選宿泊券プレゼント

『第42回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選プレゼント当選者』が決定いたしました。

今回もたくさんのご応募ありがとうございました。
ご応募の締め切り後、厳正なる抽選の結果、各プレゼントのご当選者が決まりました。
ご当選者の皆様には当選旅館・ホテルから近日中に宿泊券をお送りいたします。
どうぞ楽しいご旅行をお楽しみください。

ご当選者のお名前は
コチラから!(弊社の『プレゼントコーナー』ページへリンクしています)

 
☆「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」とは☆
 「プロ(=旅行会社)」の投票により、100選施設に値する優れたホテル・旅館を「もてなし」「料理」「施設」「企画」という4つの区分で5段階で評価。100選はその合計点によるランキングです。

外国人に人気の観光地 ― 経済的な利益と、俗化への危惧

 ゴールデンウイークに、大分県の由布院温泉を訪れた。雄大な由布岳を眺め、温泉街のお洒落なお店をのんびり散策することを楽しみに出掛けた。

 あいにく雨と風が強く、散策を十分に楽しむことができずに残念だったが、たまたま入ったお蕎麦屋さんには大変満足できた。由布院のお蕎麦屋さんは、とても美味しいところが多い。

 温泉も人気の庭園風呂に入って、ゆったりとした時間を過ごすことができた。けれど、この長閑な雰囲気の温泉でたった一つ気になったのは、中国人の男の子が手に持ったタオルをピシャッ、ピシャッと湯船に叩きつけていたことだ。

 当然近くにいた日本人のおじさんが「湯船にタオルを浸けてはいけないよ」と注意をするのだが、男の子はまったく理解していないようすだった。そのうちに、体を洗っていた父親が男の子の横に来た。父親は少年を注意するかと思いきや、石鹸で自分の体をゴシゴシ洗っていたタオルを巻きつけたまま湯船に浸かってしまった。

 京都の伏見稲荷大社を訪れる機会を得た。朱色の鳥居が並ぶ境内は、いわゆる“インスタ映え”するためか、日本人よりも外国人観光客の方が多かった。出店も多く、お好み焼きや、みたらし団子なども世界各地から訪れた旅行者は楽しそうに食べていた。だが、そこでも驚くべき光景を目撃した。

 中南米系の少年が、拝殿の鈴緒を力の限り振り回し、鈴を鳴らし続けていた。外国の少年にとってはまったく関係がないにしても、日本人にとっては神様である。パリのノートルダム大聖堂では、アジア系の女性が少し大きな声で話しただけで、警備員に厳しく注意されていたのを思い出した。

 日本の旅番組には、温泉は付きものである。そして、多くの場合、タレントがバスタオルを巻いて撮影される。これら番組は海外でも広く放送されているため、映像を見た外国人観光客は、当たり前のようにバスタオルを体に巻いて温泉に入る。

 「『バスタオルは湯船の中に巻いて入れません』といくら説明しても、信じてもらえないのです」という、京都の老舗旅館の女将さんの話が、妙にリアルに感じられた。

 由布院温泉で見た中国人の男の子もそうだが、単に「温泉にタオルを浸けてはいけない」という日本のルールを知らないだけなのだ。温泉施設も壁に「入浴時の注意点」などを掲示しているのかもしれないが、十分に伝わっていないというのが現状である。

 客が教えるというのも一つの方法だが、日本人の客にしても外国人に入浴マナーを教えるために、はるばる高いお金を払って温泉旅館に来ているわけではない。来る客、来る客に注意していては、自分がゆっくりと温泉に浸かることができないし、客同士のトラブルに発展する不幸なケースだって考えられる。

 入浴マナーを教えるのは、旅館側の責任だと思う。従来から温泉を愛していた日本人の客を失うことを危惧する。私自身、入浴マナーの悪い温泉にわざわざ行こうとは思わない。

 外国人旅行者が増えることで経済的な利益は大きい。しかし、日本人が古くから大切にしてきた文化を、外国人に理解してもらう努力を惜しんでは、俗化してしまい、やがて荒廃してしまう。それはとても悲しいことだ。

(編集長・増田 剛)