2013年9月11日(水) 配信

高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」の第5回は、福岡県北九州市八幡で千草ホテルを経営する小嶋亮社長が登場。結婚式場業の定義に縛られず、「アニバーサリー・デザイン・カンパニー」へと発想の枠を広げ、内製化した自社の強みを活かす千草ホテル現場の取り組みを語り合った。
【増田 剛】
◇
小嶋:千草という名前が生まれたのは1914年で、料亭から始まっています。千草は千の草、つまり雑草のことで、「雑草のようにどんなに踏みつけられてもたくましく生き残っていきましょう」という創業者の思いが込められています。
当時、官営八幡製鉄所ができて非常に街が盛り上がっていました。私の曾祖父が愛媛から北九州の八幡に出てきて、港湾労務者として働いていたのですが、曾祖母が小料理屋を開くと繁盛したため、料亭を始めたという流れです。料亭千草は八幡製鉄所など大企業の社長や重役の接待に使っていただいていたようです。
戦後は、焼け野原の中で料亭を再開しました。うちは分家筋にあたり、曾祖父の長男が料亭を継ぎ、次男だった私の祖父が分かれて、1942年に割烹旅館を始めました。これが千草ホテルの直系の流れです。料亭と同じく官官接待需要を取り込みつつ、旅館機能を付加した感じです。
しかし、あくまでも接待が中心で、宿泊機能が現在も“サブ的”な位置付けなのは、そこがスタートだからです。
父の代になって結婚式が盛り上がり、その後、「レストランウェディング」や「ハウスウェディング」に取り組むようになっていきました。私は2015年7月に専務から社長に就任しました。
内藤:完全にマーケットの需要にあわせて業態転換していったのですね。
小嶋:現在は、洋室宴会と和室宴会という2種類があるのですが、洋室宴会でブライダルが伸びていき、和室宴会は今でも確実にある接待需要を取り込むために、八幡エリアに関しては広げています。最近は個人客も増え、全体の半分を占めています。
内藤:客層が変わってきたということですね。
小嶋:戦後は千草ホテルで結婚式を挙げるのがステータスだった時代がありました。最盛期で年間370―380組の挙式を行っていましたが、次第に競合が現れ、また、お客様も八幡よりも栄えていく小倉の方にシフトしていきました。新日鉄も規模が縮小していくなか、「新日鉄御用達」というブランド価値はどんどん消えていき、当館も厳しい状況にありました。
1994年にレストランウェディングの会場を北九州で初めて作り、大きく当たりました。1つの宴会場で年間226組というのが最高なのですが、これ以上受け入れられないくらい取れていた時代がありました。この成功によって、門司にもレストランウェディングの宴会場を作り、しばらくはホテルとレストランウェディングの2事業でやっていました。その過程で付帯事業を取り込もうと、自社の中に写真部門を作りました。次に衣装部門、美容部門も抱えるようになり、最後に花部門も内製化して、付帯事業を売上に取り込んできました。
内藤:飲食事業もやられましたね。
小嶋:フランチャイズチェーン(FC)を4―5年やってやめました。
内藤:なぜ着手し、なぜやめたのですか。
小嶋:ブライダル需要が高まっていくなかで、並行して「新規事業で売上の新しい柱を作りたい」という思いがありましたが、思ったほどには売上が伸びませんでした。今はホテルとブライダルだけで、生産性向上とクオリティアップ、収益性の向上に集中して取り組むようにしています。
内藤:内製化していった主な理由はなんですか。
小嶋:それはやはり、収益性の向上です。ある程度の組数以上であればペイできるという計算です。
内藤:内製化によって売上が増えたとしても、固定費も増えます。固定費が重くなる怖さから、多くの経営者は、できるだけ変動費にしていくために、外注へ舵を切りたがります。
小嶋:現時点で、経営判断するのであれば、さまざまな付帯事業を取り込む発想は、私自身ないと思います。
内藤:内製化していくメリットについてはどのように考えていますか。
小嶋:プライシングのときにパートナーさんたちとの原価交渉などが煩雑ですが、内製化していると、全社トータルで1組当たりの利益を見ることができるので、お客様との金額交渉などには利点を感じます。
そのほかにも、花部門が社内にあるので、施設の飾りなどは使いやすいですし、写真部門もあるので、広告写真を自社で撮ることもできます。また、いわゆる写真だけの結婚式である「フォトウェディング」を最近始めていて、これも衣装と美容と写真のすべてを内製化しているので、自社のスタッフの余力を使って利益を出すことが可能です。ですから、リスクの低いかたちでフォトウェディングのスタートができました。
内藤:商売というのは周辺市場に対する適応であり、歴史を見ていくと、業態転換を繰り返しています。
2014年に100周年を迎え「アニバーサリー・デザイン・カンパニー」という理念を掲げ、今後の方向性を示されましたね。
小嶋:結婚式場業という定義をやめて、業態転換というほどではないかもしれませんが、アニバーサリー(記念日)という定義に、発想の枠を拡げていこうと考えました。
それまでどんな宴席であっても料理をお出しして、場所を貸して、「おめでとうございました」という定まった世界観でした。今は一つひとつのアニバーサリーそのものをしっかりと考え、お子さんのお祝いであれば「それをどのようなおもてなしにするとお客様が喜んでくださるか」など、個別に議論をして、サービスメニューを変えて提供するということをやっています。一つひとつの宴席の満足度が上がらなければ、「次も」と思ってもらえないわけですから、「まずはそこから始めよう」と言っています。すべて一様のサービスから変えていこうとしています。今はまだその段階です。
あとは、これを次につなげていくことも同時進行で動いています。法事のお客様に対して、3回忌、7回忌など、そのタイミングが来たらこちらからご案内もしています。
これをもっと有機的に、お子さんのお祝いで来られた時に、おじいちゃん、おばあちゃんがいたら、長寿のお祝いで当館に誘導できるような情報提供や手法、どのタイミングでやるのがベストなのかなど、試行錯誤をしながらアイデアを出し合っています。
内藤:裏を返せば、さまざまな専門部門を持って内製化していることが生かされていますね。
小嶋:そうですね。花部門がありますから、お祝いの宴席のお花なども受けられるような流れも作っています。これまでは「ブライダルのためのお花」という意識がスタッフに強過ぎて、新しい発想がなかったのを、「どんどん自社の強みを活用していくべきだよね」という感じに変わってきました。パティシエ部門もあり、ケーキも内製化しています。
内藤:例えば、子供の七五三などは、かつての八幡製鉄所の接待とはまったく異なるサービスです。小さな子供が走り回るのを嫌がるお客もいるわけですよね。アニバーサリーという定義では、実務的にやっていこうとすると結構大変だと思いますが。
小嶋:七五三の主役はお子さんなのですが、当館を選んでいただけるのは親御さんであったり、おじいちゃん、おばあちゃんだったりするので、お子さんが喜ぶことで親御さんたちが喜ぶというようなサービスを考えてメニュー化しています。
内藤:例えばどのようなことですか。
小嶋:お子さんのお名前が事前にわかるので、社内の達筆なスタッフが、色紙にお子さんの名前を書いてウェルカムカード、ボード的なものにして、宴席のときに飾ってお出迎えをしています。
これは結婚式のときのウェルカムカード、ボードからの発想を取り入れたのですが、非常に喜ばれています。初誕生日のお祝いには、「選び取り」(将来占い)などのメニューも用意しています。お食事の中で初誕生用のお子さんでも食べられるゼリーやケーキを作ってお祝いしたり、細々したことを工夫しています。
内藤:そのように細かく対応するのはとても大事ですね。
小嶋:お子様ランチは「和のお子様膳」と「洋のお子様膳」を用意しています。内容的なものは、これからの課題だと思います。
内藤:そのほかにも、畳敷きか、椅子席かという問題もあります。
小嶋:当館は掘り炬燵のスタイルなのですが、ご要望があればそれを椅子、テーブルに変えています。畳敷きにしてしまうと、高齢のお客様などは「きつい」と感じられてしまう方も多くいます。
内藤:子供連れが来たときは、より安全な畳敷き、高齢者の場合は高御膳で椅子を用意する。ただ高齢者と子供が一緒になったときにはどうするかが問題になりますが、結局「使いやすい」というのが1番大事だと思います。
私は一貫して迷った時には「お客様の判断に委ねなさい」という考え方です。オプションを用意したうえで、「どうしましょうか」と予約の時に聞いてしまうのがいいと思います。
「お客様の判断に委ねなさい」というのは、前もって準備するとそれが在庫になり、変更になったら大変です。前もって聞くというやり方もありますが、お客はその場の気分で決めることもあるので、その場で建て替えができるのがベストです。できるだけリードタイムを短縮する。そのための作業性をどうやって高めていくのかが大事です。料理はでき立てがいい、というのと同じです。でき立てが食べられるというのは、調理と食べるタイミングがぴったりと合っていることなので、お客のニーズをすべて聞くことが可能になります。
ですから、お客様のニーズにこちらのタイミングをどう合わせていくかということが一番大事な部分なのです。
小嶋:人数が増えれば難易度が上がっていくので、そのバランスの取り方が難しいですね。
内藤:一定の人数を超えると割り切るという考え方もあります。
小嶋:割り切るとは。
内藤:例えば、「でき立てはとりあえず20人を超えると対応しない」などです。結果的には、さまざまなオプションを用意して「お客様の判断に委ねるようにしていく」というのが一番いいと思います。
そのほかにも、米寿のお祝いなどは、どうされていますか。
小嶋:お子さんのお祝いだと色々アイデアが出てきますが、長寿のお祝いでは特別なおもてなしの仕方など、あまり多くのアイデアが出て来なかったですね。ただ、食事に関しては、固いものが食べられないなどもありますので、予約の段階で細かくお聞きして対応するようにしています。
内藤:新たな商品開発を考えると、なかなか斬新なアイデアは出てきませんが、「今よりも良くする」という風に考えるといいかもしれません。「提供している肉や刺身のサイズは本当にこれでいいのか?」といった具合に考えていくと、少しずつ改善され、新しいアイデアも現場から出てきます。
小嶋:今は新郎新婦が料理を選んで出しているのですが、出席者からすれば食べたいものを食べたいはずなので、究極の目標は100人規模の結婚式であれ、当日メニューを渡して、好きな料理を選べるというのがベストです。そのレベルと、現状のどこでバランスをとっていくかを考えています。多くのホテルでは和洋折衷で対応していると思いますが、当館では招待状を出す時点で3種類(洋・和・酒飲み用のつまみ料理)をお客様に選んでもらうようにしています。
内藤:それはがんばっていますね。
小嶋:ブライダル、結婚式は縮小している市場ではありますが、自らを磨いていくことでトップランクにいれば、10年くらいはやっていけると思っています。
内藤:いや、ブライダルは未来永劫続きますし、トップランクであれば決して潰れません。下位から潰れていきます。
小嶋:結婚式が駄目になっていった最大の原因は、フォーマット化です。2時間半の宴席のなかで自由に使える時間は、お色直しの中座を挟んだ前後15分ずつしかない。それ以外はほとんどフォーマット化されています。フォーマットを作ったおかげで、かなりの数の結婚式を1日の中に詰め込める日本独自のシステムができ上がったのですが、結局これが1組1組のパーティーをつまらなくしていきました。若い世代も「こんなものにお金をかけてやりたくない」と感じているということだと思います。
私たちは今、2時間半すべてを本当にいいものにできないかと考えています。1組1組のお客様の情報を引き出して、上手にアレンジしていくのがプランナーの役割であって、その部分を磨いていくことが結果として、上を目指すなかでコアな価値になるのではないかと考え、試行錯誤しながらやっていっています。
内藤:私はよく「いいもの」の定義はなんだろうと考えます。「いいもの」は品質であり、品質の定義はISO9000で定まっています。何と規定しているかと言えば、「要求事項を満たした割合」です。これは「お客の判断に委ねる」ということであり、お客の潜在的な要求事項に対してこちらが掘り起こし、最終的にお客が「自分が欲しかったのはこれだったのか」というようなものを見つけてあげることだと思います。
それでは、次にとても素晴らしい取り組みだと思っています「チグシス」(千草システム)の話をしましょう。
小嶋:最初は、ブライダルの顧客管理のデータベースを自分で作ったことから始めました。入社してすぐですから12年前です。顧客台帳が全部手書きだった時代に、お客様の情報管理のデータベースを作り、そのシステムでいつ来館されて、いつ成約したか、決まらなかったか、どういう見積りを出したかという「見積り発行機能」を手作りしたのがスタートです。少しずつ機能を追加していって、接客者ごとの成約率や、マーケティング情報も出せるようにしていきました。
内藤:具体的に、どのような機能を加えていったのですか。
小嶋:例えば、営業マンの成約率が芳しくないときに、原因分析ができるように、来館されたお客様の年齢層や、出身地、接客した時間帯、どういったことにこだわりのあるお客様なのかといったアンケート情報などをすべて入力し、スタッフ別に「見える化」して指導も行っています。
現在、アニバーサリーという切り口での顧客リストを、ホテルシステムで作ろうとしています。こちらはお客様軸で見られるようにする予定です。
お寺の檀家さんのシステムなども参考にさせてもらい、ご家族単位での宴席の種類や、それぞれの宴席のときの料理、スタッフとのやり取りの内容などを残していけるようにしたいと思っています。さらにこの情報を現場のサービススタッフがタブレット端末などでいつでも見られるようにと考えています。
内藤:檀家さんのシステムを参考にするとは面白いですね。
小嶋:ご家族単位でさまざまな宴席が紐づいていきますし、それらを上手に管理できるように、使いづらい仕組みにならないように気をつけていきたいと思っています。
内藤:今ある家族のデータも、新たな世帯を作って枝分かれしていきますし、また亡くなられたり、離婚などもあるので、データベースとしては相当に工夫しなければ難しいですね。
仕入れなど管理システムや、情報共有システムも構築されていますよね。
小嶋:仕入れの管理は、取引業者に、食材カテゴリーごとに6カ月、3カ月、1カ月などの期限で見積りを出すタイミングが決まっています。そのたびに見積りを定型フォーマットで出していただいて、同じ食材に複数社からの見積り金額を比較し、最も安いところに自動的に発注書が行くシステムにしています。
基本的には各調理場の発信で行っていますので、このシステムを使って発注する場合と、納品に来た業者の方に直接口頭で発注するケースもあります。当然、システムを通して発注した方が確実に値段は下がるのですが、直接口頭で頼んだ方が利便性は高いので、このシステムの利用率を上げるために、使いにくい部分を修正しながら利用率を上げていこうとしています。
内藤:どういう工夫を考えられたのですか。
小嶋:入力の仕方では1行ずつ登録していくのが面倒なので、登録可能な商品を一覧で見ることができるようにしようとしています。
また、1日の必要な派遣人材数を発注する「バンケット・マネジメント・システム」では、当日の宴席の予約データをもとに、時間帯ごとにプランニングをしていき、トータルの数値も出ます。発注ボタンを押すと、発注書が出てくるのですが、その日が終わったあとに実際時間帯ごとに実績を入力することで、差異が出てきます。その差異理由を入力することになっていますが、その差異がないように振り替えられる仕組みにしています。
また、大きな宴会場にはすべて小さなカメラを置いて、フロントや厨房から見えるようにしました。これによって、宴席が終わりそうになるとフロントスタッフがマイクロバスの運転手に声をかけて、フロントの前につけるように指示を出します。以前は部屋の担当者から連絡があってはじめて動いていましたが、前倒しで動けるようになったので効率が上がりました。厨房は動き出しのタイミングをランナーの指示で動いていたのを、料理長がモニターを見ながら動き出せるメリットもあります。情報がリアルタイムに入ることで、より早い判断につながっていき、結果的にお客様をお待たせすることが若干ですが減ってきています。
そのほかにも、レストランの構造が悪く、サービススタッフの待機場所から入口が離れて見えないため、しばしばお客様を入口のところで待たせていましたが、レストランの入口にカメラを置くことによってタブレット端末で見えるように改善しました。
内藤:以前、倉庫の集約など整理整頓をやられましたね。
小嶋:相当に物を捨てて、広くなりました。その後、事務所の扉をすべて取っ払って中を見えるようにしました。その分、整理整頓するようになり、机の上に物を置かないようにもなりました。綺麗にする、整理整頓するという意識は高まっています。
内藤:そのような現場の地道な取り組みが一番大事です。人時生産性の計算や、労務管理に取り組むのはいいのですが、結局現場が変わらないと、結果は出て来ない。現場のオペレーションをどう考えていくかを最重要視しています。
現在のお客様の満足度はどうですか。
小嶋:レストラン部門は今期初めて黒字を達成しました。お客様が地道に少しずつ増えてきたこともあって、評価していただいているのかなと捉えています。毎年少しずつですが右肩上がりで推移しています。
内藤:私は、「客数が満足度を表す」と考えています。どのような努力によるものですか。
小嶋:メニューそのものも色々工夫しています。以前はグランドメニューを決めると、しばらくはそのままにしていましたが、今は出ないメニューがあれば、改良するようにしています。
また、調理部門と、レストランのサービス部門の責任者と、私と支配人が常に顔を合わせて定期的に話し合う場で、毎月数字の共有をするようにしました。それまで厨房は原価率と出数しか見ていませんでしたが、損益情報を提示し、意識が高まってきました。
内藤:具体的にはどのようなデータを提示しているのですか。
小嶋:レストランの部門ごとの組数、客数、客単価、フード、ドリンクの内訳、団体客が入ったときは団体客の構成などをすべてチェックしながら、売上の増減の原因の共有などを行っています。そのうえで、対応策を考えています。
例えば、これまで洋食のみのメニューでしたが、和食のオーダーも確実にあることが見えてきたので、和膳のラインナップも増やし、売上も伸びていきました。
最初は洋食屋というコンセプトで始めたのですが、ホテルの中のカフェのため幅広い客層を取り込むことも可能なので、もっと需要を見て柔軟に対応していこうとしています。さらに、早い段階から、厨房と私や支配人がイベントなども話し合い、情報を共有することで具現化しやすくなっています。
そのほかにも、「みんなもっと勉強していかなければならないよね」というところから、調理スタッフらを東京の話題のレストランに連れて行ったりもしています。これによってモチベーションも上がっているのを感じます。今では私がいなくても損益計算書を見ながら問題点を指摘し合うようになっています。
内藤:ブライダルとの情報共有はどうですか。
小嶋:ホテルの全部門のマネージャークラスを集めて、週に1回ミーティングを行っています。これは私が実データを使って講義をするようなかたちです。ホテルシステムから出してきたデータベースのデータを、エクセルのピボットテーブルの機能を教えることによって、それぞれの自分の部署のお客様の情報をちゃんと分析できるようにしました。
あるとき、ブライダルのスタッフが、宴席のドリンクの状況を分析して、「うちは値付けが安すぎるのでは?」ということがわかってきました。よくよく調べてみると、ビール1本の単価が、市場平均よりも1割ほど安くなっていました。市場平均値まで上げてもお客様への影響はほとんどなさそうなので、「その分の年間収益が上がるのでやろう」という結論になりました。
現場のスタッフからこのような分析と提案が出てくるようになったのは、面白いことだと思います。
内藤:実態が見えてきたということですね。
小嶋:今まで感覚的な議論だったところに、ようやく数字を基に議論できる環境になってきました。これまで会議では「インパクト」や「効果が大きい」などのワードがよく出て、私が「大きな効果ってどのくらいなの?」と具体的に聞いたときに、黙り込むスタッフが多かったのですが、今はエクセルデータなどによる具体的な数字を基にした答えも返ってくるようになりました。少しずつ意識の中で変わってきているのを感じます。
内藤:スタッフが喜ぶのはお客に褒められることが一番だと思います。お客に褒められると、意識の変化が大きく加速していきます。
小嶋:恥ずかしい話ですが、1年前までホテルの中で朝礼がありませんでした。朝礼の中で、お客様からのお褒めの言葉や、お叱りを受けた点などを話すと、少しずつお客様への意識が高まってきました。
――宿泊の方はどうですか。
小嶋:現在20室です。年間稼働率は50%にも届いていません。金、土曜日は結婚式に列席される方の利用がほとんどで、春休みや夏休みのシーズンは家族連れで近くのスペースワールドに来られる方々もいます。それ以外の平日は近隣の企業への出張利用などで利用されています。
現状では積極的に部屋を売っていこうとはしていないのですが、千草ホテルの周りには観光資源がたくさんあるなと思っています。スペースワールドのほかにも、皿倉山は全国的にも夜景の名所です。価格競争に走らずに、広めの部屋で、朝もビュッフェではない朝食も楽しんでいただけるような売り出し方も考えています。
内藤:一案ですが、「部長クラスの出張宿」などもいいと思います。会社の出張費の上限あたりに値段設定し、美味しい朝食と、夕食も少し贅沢できるような雰囲気をつくり出すといいのではないかと感じました。千草ホテルの客室も和風モダンですごく落ち着いて雰囲気はいいですね。
小嶋:「昭和のいい感じ」とお客様に言われたことはありました。
内藤:1人当たりの客室単価はどのくらいですか。
小嶋:6千―7千円の間くらいです。
これまで宿泊は全社の収益の2%分ということもあり、手を付けずにいた面もありました。今でもすべて私の目が届いているわけでもありません。だからこそ週1回のマネージャーミーティングで、ある程度現場主導で少しずつ改善していくムードを作りたいと思っています。エクセルを使っての分析なども、1つの布石だと思って取り組んでいます。
内藤:これからも現場の細かな改善によって進化し続けることを期待しています。
※ 詳細は本紙1640号または9月15日以降日経テレコン21でお読みいただけます。