別府温泉 杉乃井ホテル 新棟「虹館」7月開業 ツイン中心5タイプ155室

2021年6月1日(火) 配信

新宿泊棟「虹館」

 大分県別府市の「別府温泉 杉乃井ホテル」は、新しい宿泊棟を7月1日に開業する。

 「虹館(にじかん)」と名付けられた新棟は、ホテル敷地内にある屋内プール「アクアビート」に隣接し、地上8階建てとなる。

 ツインルームを中心に、ホテル初となるメゾネットタイプのロフトルームや、2段ベッドなどを配したファミリールームなど、全5タイプ全155室を備える。

 ツインルームはテーブルやイスなどを壁面収納にし、快適なスペースを確保した。安心して小さな子供の添い寝ができるよう、ベッドは1600㍉と1400㍉幅のものを配した。

 ロフトルームやファミリールームは、家族・グループ利用に最適。室内は間接照明で雰囲気を高める一方、カラフルなインテリアを取り入れるなど、カジュアルでわくわくするような空間演出を施した。

ロフトルーム

 1階ロビーラウンジには、非接触型の自動チェックイン機を設けた。エントランス近くには、宿泊客は無料で利用できるロッカーを設置し、チェックイン前に、アクアビートや大展望露天風呂「棚湯」を利用する際の利便性を高める。

 虹館の宿泊料金は2人1室で1人1万5千円から(夕・朝食付き)。食事は人気のバイキングレストラン「シーダパレス」となる。

 虹館オープンに合わせ、ホテルロゴマークを刷新。「乃」のフォントに温泉の湯気を感じさせる「ゆらぎのモチーフ」を加えるなど、シンプルで上品なロゴになった。

 同ホテルは2025年の工事全面完了を目指し、大規模リニューアルを実施中。虹館とは別に、もう1棟の客室棟や立体駐車場を新設するほか、既存の「Hana館」も建て替える予定だ。

NAA、2004年の民営化後初めて赤字 営業収益は約7割減に

2021年5月31日(月) 配信

営業損失は約575億円。新滑走路建設のため次期も赤字を見込む

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)がこのほど発表した2020年度連結決算(20年4~21年3月)によると、営業収益は同69・7%減の718億800万円と2期連続の減収で、04年の民営化以降、最低となった。新型コロナウイルスの拡大による各国の出入国制限や、国内の移動自粛要請などが影響した。

 運用の効率化をはかり、最大限のコスト削減に努めたが、営業損失は575億2300万円(前期407億6700万円の利益)、経常損失は573億3800万円(同391億4600万円の利益)、当期純損失は714億5300万円(同244億2300万円の利益)といずれも民営化後初の赤字となった。

 次期連結業績予想は営業収益が前期比11・4%増の800億円と3期ぶりの増収を見込むが、営業損失620億円、経常損失660億円、当期純利益は670億円と予想する。

 同社は日本国民の多くがワクチンの接種を終えた今秋以降に、国内線から国際線の順に需要が増加すると予測。「本格的な回復は22年度になる」とみる。

 業績予想は最悪の状況を想定しており、今後上向く可能性を踏まえて算定している。

 田村社長は営業損失と経常損失の予想を今期よりも悪化させたことについて、「(NAAは)利用者が収束後、コロナ前より増えると見越している。29年度までに3本目の滑走路を建設しなければならない」と述べた。

 また、東京オリンピックの収益については、海外観客を受け入れないことから「売上への貢献はわずかだろう」との見通しを示した。

ツアーコンダクター派遣会社「ダイヤモンドシステム」 旅のユニバーサルデザインアドバイザー資格受講、スタッフ5人が取得

2021年5月31日(月) 配信

旅のユニバーサルデザインアドバイザー認定状

 ツアーコンダクター派遣会社のダイヤモンドシステム(石井光彦社長、東京都港区)は5月19日(水)、ケアフィット推進機構が認定する「旅のユニバーサルデザインアドバイザー」に同社スタッフが受講し、5人が資格を取得した。

 同資格は、高齢者や障害のある方への理解を深め、ユニバーサルデザイン(UD)と旅の関連性や、接遇を学ぶことを目的としている。

 「専門的なノウハウがない」「社員教育が難しい」など、観光関連産業全体にUDの知識が不足しているなか、基本理念や基礎知識、障害の社会モデルなどの座学に加え、簡単な手話、白内障体験、車イス操作などの実技講習を受講。その後、筆記試験を行う。

 自らも旅程管理主任者(ツアーコンダクター)の資格を持つ、神奈川大学国際日本学部の島川崇教授は「コロナ後の旅行ビジネスの再構築のため、人が介在する強みを持った観光関連事業者が福祉観光市場の開拓に力を入れることは当然の流れ」との見方を示す。そのうえで、これらの原動力となる「現場のツアーコンダクターが『旅のユニバーサルデザインアドバイザー』資格を取得することは、とても有意義なこと」と語る。

 今回受講したダイヤモンドシステムは、日本添乗サービス協会(TCSA)に加盟し、250人以上の登録添乗員を有する。受講者からは「日々の生活の視野を広げ、旅行や接客に役立てていきたい」、「より一層お客様の気持ちに寄り添う添乗業務を心掛けていく」などの感想があった。

 同社は「福祉観光は間違いなくこれから取り組まなければならないマーケットになる」と捉えており、「今後もさらに有資格者を増やし、ノウハウを集約して社の力としたい」考えだ。

NAA 4月、旅客数151%増の35万人 異動などで商業需要回復

2021年5月31日(月) 配信

田村明比古社長

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)が5月27日(木)に発表した2021年4月の総発着回数は、前年同月比50%増の1万907回、航空旅客数は同151%増の35万3641人だった。初めて発出された20年同月の緊急事態宣言時から、駐在員の人事異動など商業需要が増加した。

 一方、コロナ前との比較では総発着回数が19年同月比50%減、総旅客数が同90%減と低水準が続いている。

 国際線旅客便の発着回数は前年同月比58%増の3553回。旅客数は同65%増の11万5131人だった。国内線旅客便の発着回数は同77%増の2318回。旅客数は235%増の23万8510人となった。

 一方、国際線貨物便の発着回数は同67%増の4706回で、貨物量は同27%増の21万7309㌧と過去最高だった。とくにプラスチック製品や自動車部品、果物などが好調。

 旅客便の減便で運べる貨物量が減り、貨物臨時便が多数運航された。このほか、コロナ禍での通販需要の拡大で海上貨物コンテナが不足していることも影響した。

 同日に発表された5月1(土)~22日(土)までの国内線発着回数は前年同期比380・5%増の1522回だった。

 田村社長は「緊急事態宣言が続くため、5月の発着・旅客数は少なくなるだろう」と予測した。

山代温泉 5月10日を記念日に 五十音図・あいうえおの日

2021年5月31日(月) 配信

授与式には萬谷正幸会長(左から2人目)のほか宮元陸加賀市長(左端)らも出席した

 石川県加賀市の山代温泉観光協会(萬谷正幸会長)が申請していた、5月10日に設定した「五十音図・あいうえおの日」がこのほど、日本記念日協会により新たな記念日として認められた。5月7日には同温泉のたちばな四季亭で記念日登録証の授与式が開かれた。

 山代温泉では、温泉街にある薬王院温泉寺の中興の祖である明覚(みょうかく)上人が、現在の日本語の五十音図の基礎を考案した人物とされることから、五十音図発祥の地を掲げ、「あいうえおの郷」として新たなまちづくりに取り組んでいる。

 明覚上人は平安後期の僧で、インドの言葉を研究する学問「悉曇学(しったんがく)」の第1人者だった人物。薬王院温泉寺の住職を勤めていた1093(寛治7)年に著した「反音作法」のなかで、現在の五十音図につながる内容の記述をしており、薬王院温泉寺の山門前には今年春、その記述部分を複製したオブジェも設置されている。

 また、2018年からは、同市とともに「今年のにほんごコンテスト」を開くなど、「にほんご」や「あいうえお」に関わる文化的な事業活動にも取り組んでいる。

 今回の記念日登録は、これらの活動を広く知ってもらうとともに、日本語の素晴らしさを再認識してもらうきっかけづくりとして企画した。5月10日は、「五十音図」の「五」と「十」を当てはめたもの。10日は、明覚上人の月命日でもある。

 萬谷会長は、登録を受け「五十音図・あいうえお発祥の地をもっと発信していきたい」と意気込みを述べた。

 なお、毎年2月15日に発表していた「今年のにほんごコンテスト」は、来年から5月10日に変更して実施される。

〈観光最前線〉高知の未来観光スタート

2021年5月31日(月) 配信

Instagramライブのようす

 高知県は5月12日、観光キャンペーン「リョーマの休日」の新プロジェクトとして、ボディシェアリングロボット「NIN_NIN(ニンニン)」を使った観光地を巡る動画をインスタグラムでライブ配信した。

 「NIN_NIN」は、テクノロジーの力で身体の機能をシェアするロボット。カメラやマイクなどが搭載され、それを付けたガイド役が観光地を歩くことで、映像をウェブ上で共有し、会話しているような音声コミュニケーションができる。

 インスタ配信では、肩にロボットを乗せたガイド役が仁淀川などを散策。公募した1人が「NIN_NIN」とつながり、そのようすを約100人が鑑賞した。6月以降、「あなたの、分身! NIN_NIN観光」も実施する予定だ。

【土橋 孝秀】

〈旬刊旅行新聞6月1日号コラム〉東京五輪の行方 持続可能な観光と上手く結びつかない

2021年5月31日(月) 配信

 

 スペイン風邪が猛威を振るった100年前の1920年8月、オリンピック第7回アントワープ大会が開催された。第1次世界大戦の傷跡も生々しく残るなか、パンデミックと世界大戦の2つの大惨事を乗り越える「平和と復興を讃える祝祭」として記憶されている。だが、実情はスタジアムの観客はわずかで、空席が目立ち、地元ベルギー国民の関心もあまり高くなかったという記録も残っている。

 

 
 過去の五輪で中止となった大会は、夏冬合わせて5回ある。最初の中止は、第1次世界大戦によりヨーロッパ中が戦火に包まれた、1916年のベルリン大会だ。その2年後の18―20年にかけて、スペイン風邪が世界的に流行した。死者数は5千万人~1億人を超えるとも推測されている。そのような状況でアントワープ大会は開催された。

 
 それまでオリンピックの参加・開催国は欧米が中心だった。1940年、アジアで初めてとなる東京大会が開催されるはずだったが、日中戦争により38年に返上し、「幻の東京五輪」となった。当時は夏季と冬季の五輪は同年開催。40年冬季札幌大会も同じ理由で中止となった。

 
 44年に予定していた夏のロンドン大会、冬のコルティーナ・ダンぺッツォ(イタリア)大会も第2次世界大戦のため中止となった。戦争を理由に、夏冬2大会連続の中止である。終戦後の48年にロンドン大会が開かれたが、日本とドイツは戦争責任を問われて参加できなかった。

 
 その後、64(昭和39)年に、戦後からの復興と、高度経済成長の姿を内外に発信する、東京大会が開催されることになる。

 

 
 今回の東京五輪はこのまま中止されなければ、2021年7月23日に開幕する予定だ。五輪の中止は先述の通り5回あったが、延期は初めてで、「TOKYO2020」という名称を引き継ぐ。これは何となく、しっくりとこない。また、100年前のアントワープ大会と状況が似ていると言われているが、当時の五輪と現在では、規模が違い過ぎる。アントワープ大会は、当時としては史上最多ではあるが29カ国の参加である。

 
 開幕まで2カ月を切った現時点でも、開催するのか、観客を入れるのか、中止にするのか判断がつかない状況だ。最近の世論調査では、「開催すべき」派は少数で、「中止すべき」が多数派という結果が出ている。どちらにしても「デメリットが大き過ぎる」究極の選択の様相だ。新型コロナウイルスの感染防止対策で政府や首長の判断が鈍り、不信感が増し、国民も分断した要因の1つに、五輪があったのは間違いない。

 

 
 巨大な利権が絡み、政治色とお金の匂いがプンプンする五輪を、1都市がリスクを含めて背負い込むスタイルは、もはや限界にきている。また、観光と五輪の関係も、持続可能なツーリズムの観点から見ると、あまりに弊害が大きく、上手く結びつかないことが明白になった。

 
 来年2月に中国・北京で冬季五輪が予定されているが、既に政治的な駆け引きが熱い。 

 
 近代五輪の第1回大会は1896年にギリシャのアテネで開催され、冬季は第1回大会が1924年にフランスのシャモニー・モンブランで行われた。原点に返り、夏季はアテネ、冬季はシャモニー・モンブランで固定した方が競技者も集中できるはず。利権にしがみ付く五輪が不幸の火種を生む現実を変えたい。

 

(編集長・増田 剛)

 

【特集No.582】昼神グランドホテル天心 5年ごとに計画的な設備投資を

2021年5月31日(月) 配信

 

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その人気の秘訣を探っていく対談シリーズ「いい旅館にしよう! Ⅲ」の8回目は、長野県・昼神温泉の「昼神グランドホテル天心」社長の今井竜也氏が登場。5年ごとの計画的な設備投資によって、時代に沿った旅館であり続ける考え方や、ハードだけでなく、オペレーションも変えていく設備投資のあり方を探った。

【増田 剛】

 今井:長野県・阿智村は近年、「日本一の星空」で有名になりました。昼神温泉は1973(昭和48)年に旧国鉄の飯田―中津川線新設に伴うボーリング調査中に私有地から温泉が湧出し、村が温泉権を取得して「健全保養型温泉地」の形成を目指しました。
 江戸時代の書物「信州伊奈郡郷村鏡」には、昼神に温泉があった記録があります。湯屋権現社が祀られていたり、「薬師」の地名もあったり、既に温泉が存在していたことが推察されます。
 73年から10年間で温泉宿は16軒(1600人収容)となり、20年間で26軒(3500人収容)へと拡大していきました。現在は若干減って19軒(3100人収容)となっています。

 内藤:どのような方が昼神温泉で宿を始められたのですか。

 今井:地元の人が旅館を始め、その後、村営の保養センターも作られました。また、当社もそうですが、地元企業が土地を買い、温泉権を村から得て、規模の大きい旅館を開いていきました。

 内藤:団体客を受け入れる大型観光旅館ということですか。

 今井:そうですね。㏗9・7の単純泉で、温泉の質が良く、旅行ブームによって隆盛してきた時期でした。80年ごろから地元有志による「朝市」が行われ、今では昼神温泉の名物となっています。
 2005年には阿智村と、旅館なども出資して「株式会社昼神観光局」が設立されました。18年には阿智村観光協会と合併して「阿智・昼神観光局」として、バスや物販、地域ブランド確立事業などを展開しています。
 団体客が減少し、個人客へと移行する12年に「日本一の星空阿智スタービレッジ事業」がスタートしました。初年度は6千人台だったお客様が旅行会社の協力もあり、近年は16万人の集客があります。

 ――それでは昼神グランドホテル天心の歴史を教えてください。

 今井:当館は1980年3月にオープンしました。隣接する飯田市の吉川建設がオーナー企業です。
 オープン時は収容240人ほどで昼神温泉では最大規模でした。当初は皆で布団敷きや片付け、洗い物をする素人集団の運営でしたが、次第に中京、関西エリア、そして関東からも宿泊客に来ていただくようになりました。
 1997年に新棟「天の館」をオープンしたのが転機となりました。38室から77室に増え、収容は2倍の480人に拡大しました。
 当時、私も支配人として出向していました。建設会社の子会社という関係から、「設備投資のタイミング」などの難しい問題がありましたが、周りの旅館が次から次に新設され、大型化するなかで、先代の社長(親会社の会長)が「どうせ設備投資をするなら、旅館の建物が建設会社の広告塔となるような良いものを造る」との方向で舵を切りました。
 バブル崩壊後の投資でしたので、坪単価も3分の2まで下がっていました。このため、当初計画の3分の2の売上で経営できる状況で、ハードルが少し下がりました。

 内藤:社長に就任したのはいつですか。

 今井:99年で45歳のときです。04年にも全面改築をしています。
 親会社が建設業と業種が異なるため、とにかく数字で示していくしかない。社長就任2年目から20年間、12カ月営業は黒字計上を維持しています。旅館経営で親会社から単年度ごとに黒字を求められるのは、結果として良かったと思っています。

 内藤:今井社長は計画的に投資サイクルを決めて実行されています。

 今井:ある勉強会で世界的なマーケティング学者フィリップ・コトラー教授の「もし、これからの5年間、現行のビジネスモデルに固執するのならば、その企業の生存は危うい」という言葉に出会いました。
 それまで設備投資について「どれくらいのスパン(期間)でやればいいか」、「どのくらいの金額をかければいいか」の判断に困っていましたが、コトラー氏の説を基に、「5年に1度ずつ何らかの手を加えていけば、時代に沿って変わっていける」と思いました。
 ただ、あくまでも当社は子会社という立場であり、建物は年々減価償却していくなかで、新たな設備投資の条件として「借金の総額が減っていくこと」という制約がありました。
 そこで「5年間で返済した額の半分を設備投資に回す」という方針を決めました。これを続けていくと、借金全体が減っていきます。……

【全文は、本紙1832号または6月7日(月)以降、日経テレコン21でお読みいただけます】

 

「提言!これからの日本観光」 ワーケーション考

2021年5月30日(日) 配信

 「ワーケーション」という新しい働き方が提唱されている。「ワーケーション」とは“WORK(仕事)”と“VACATION(余暇活動)”を合わせた造語だ。普段余暇を楽しむ場所を仕事場にする新しい働き方の提案である。

 コロナ渦を動機として、自宅やこれまでの職場に拘ることなく、積極的に余暇を楽しむリゾート地などに移動し、滞在して、リモート方式などで仕事をすることで、都会の過密と混雑を避ける。そのうえ、仕事の能率も上げようというコロナ渦時代にふさわしい働き方改革と言えよう。

 同時にこの動きをさらに進めて2地域居住(自宅と新職場所在地)や新職場への移住も実現して、人口減少に悩む地域の再活性化もはかれるという幅広い効果まで考えられ、時宜を得た提案と考えられていた。

 しかし最近、ワーケーション候補地として、熱心に誘致活動をしている有名観光地などの資料を見て、疑問を持たざるを得なくなった。

 有名観光地の見事な海岸の景色が展望できる施設、しかも大ガラス張りの窓側に海に面した横長の机が置かれている。机の前のイスに客が海に面して横並びに座っている。そして、コンピューターを置き、書類を前に仕事をしている。

 そこで疑問を持ったのは、このような素晴らしい1日眺めても飽きないような景色を前にして果たして仕事や勉強に専念できるのか。また、せっかくの観光地の素晴らしい景色を充分味わって体得するなど観光効果が充分に得られるのかどうかという疑念がある。

 つまり、仕事と観光の両方が中途半端に終わる心配である。

 観光地がワーケーション誘致に努力するのも理解できる。しかし、「観光」とは地域の「光」を「心を込めて」観ることと定義されている文化行動でもある。「観光」に力を入れるほど、仕事への集中力は落ちると思う。

 具体的には、私のように海に接していない県の出身で、海への憧れのようなものを持っている人は、見事な眺望を楽しめる場所でのワーケーションは仕事と景色に集中できない時間の浪費になるのではと考えてしまう。

 即ち、ワーケーションは「観光」とは一線を画すものといえよう。ワーケーションは仕事に集中できる季節や適地などを各個人の性格に合わせて選ぶことが望ましい。その結果として観光地が選ばれるとしても、観光地が前述のような写真を掲げて誘致するようなものではないと思われる。むしろ仕事にふさわしい気象条件と医療・教育を含む生活環境、集中できる場所の情報が発信されるべきであろう。

 ワーケーションという新語に惑わされることなく、非日常的な場所で毎日の通勤から解放され、仕事をする適地を選ぶという考え方で臨む必要がある。ワーケーションが気持ちを集中すべき行動でもある「観光」と混同されているのでは、観光の効果や発展などが期待できないと思うことは筆者の杞憂なのだろうか。

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏
 
 
 
 

「ZOOM JAPON(ズーム・ジャポン)(5月号)」

2021年5月29日(土)配信

http://zoomjapon.info

特集&主な内容

 今月の特集では、次の1万円札に肖像が採用され、大河ドラマでも取り上げられて、日本でもようやく再認識されているものの、フランスではまだまだ知られていない渋沢栄一を取り上げました。「日本資本主義の父」渋沢栄一を、近代の英雄として、時代の先を見ていたその思想を専門家の見解も含めて紹介しました。生地の深谷市にある渋沢栄一記念館や誠之堂も取り上げ、NHKの大河ドラマのプロデューサー、菓子浩氏にもお話をうかがいました。文化面では、フランスで翻訳が出版された、任天堂元代表取締役の岩田聡氏のインタビュー集、「岩田さん」を紹介しました。グルメ頁では、BentoやOnigiriが普通にランチの選択肢になっているフランスの読者のために、フランスにある素材で簡単に作れる焼きおにぎりのレシピがあります。

〈フランスの様子〉夏のバカンスの準備を急ぐフランス

ズーム・ジャポン日本窓口 
樫尾 岳氏

 フランスは、マクロン大統領のリーダーシップのもとで、6月30日に完全に通常の生活に戻るべく進んでいる。4月30日に発表された具体的なロードマップは4段階。次の段階は5月19日、昨年から半年以上完全に休業しているカフェやレストランのテラス席の営業再開などがある。◆最終段階の6月30日には、夜間外出制限も店舗や施設などでの人数制限もなくなり、7月からのバカンスシーズンを前にフランスは元の生活に戻る。ワクチン接種も予定を前倒しで、6月中旬までに3000万人のワクチン接種を目指すという。◆5月に入ってからは、観光業にはバカンスの予約が殺到しているという。◆フランスの主要な観光業者からなる商工会、Alliance France Tourismeがリサーチ会社に依頼した調査によると、バカンスにフランス国内を考えていたフランス人は2019年は59%だったが、21年の夏のバカンスでは69%が国内旅行を考えているという。さらに、今年の傾向としては、ぎりぎりまで決めなかったり、ぎりぎりで変更する人も多いという。◆昨年よりもフランスの観光業界は好調になりそうだが、コロナ禍以前よりも好調になるという予測もあるそうだ。

 

フランスの日本専門情報誌「ZOOM JAPON」への問い合わせ=電話:03(3834)2718〈旬刊旅行新聞 編集部〉