加賀屋の商品提供で被災地を応援 岩手・愛隣館

2024年3月4日(月) 配信

売店ではあかもくドレッシングと能登ぽんずを販売

 結びの宿 愛隣館(清水隆太郎社長、岩手県・新鉛温泉)は1月1日の令和6年能登半島地震で被災し、現在休業している加賀屋(小田彦社長、石川県和倉温泉)のオリジナル商品のあかもくドレッシングを夕食・朝食時に提供するとともに、売店ではあかもくドレッシングと能登ぽんずの販売を開始した。

 これは清水社長が23年前、加賀屋および姉妹館のあえの風で2年間研修をした縁もあり、加賀屋からのドレッシングの取り扱い要請に対し、被災地の応援になればと快諾したもの。

 清水社長は「日本一の旅館の味を楽しみつつ、私どもと一緒に被災地の応援をしませんか」と話している。

津田令子の「味のある街」「花菜っ娘」――房洋堂(千葉県館山市)

2024年3月2日(土) 配信

房洋堂の「花菜っ娘(はななっこ)」1個140円▽千葉県館山市安布里780▽☎0470(23)5111。

 千葉県・南房総に位置する館山市を代表する銘菓を紹介しよう。千葉の県花をイメージした黄味餡入りの「花菜っ娘(はななっこ)」だ。「館山には欠かせないお土産として大好評です」と館山市観光協会観光まちづくりセンター室長の木村義雄さんはおっしゃる。千葉の豊かな恵み、人に思いを伝えるお菓子を作っている房洋堂の自慢の一品だ。

 

 房洋堂の看板商品、花菜っ娘は、房総春の風物詩、ふるさとのホイル焼き乳菓で、ふっくら、しっとりした食感でバターの香りと黄味餡の甘さがバランスよく口の中に広がり、1本140円とリーズナブルな価格も購入しやすい。

 

 昨年、房洋堂は創業100周年を迎えた。熟練した職人たちが、商品造りだけでなく新商品の開発・商品の改良に日々励んでいるという。そんな熟練した職人たちが造り出す花菜っ娘は、発売から45年以上が経った。「ふるさとの懐かしい味がするようだ」とリピーターも多いので、ぜひ一度召し上がってみていただきたい。

 

 商品は、1本・4本入・6本入・8本入・12本入・16本入・24本入があるので用途に応じて選んでいただければと思う。

 

 看板商品「花菜っ娘」だけではなく、房洋堂には数多くの人気商品がある。黒潮物語、落花生風土記、おれんじ芋タルト、牛乳せんべい、どら焼三彩などの商品がある。

 

 千葉県南房総市産房州びわを使用したプレミアム房州びわゼリーは、甘くてみずみずしい房州びわの果肉を半身入れた贅沢な味。6月中旬ごろから原料が無くなるまでの期間限定商品として知られている。ほかにも和洋菓子がまだまだある。館山を訪れた際には、ぜひ房洋堂に立ち寄ってはいかがだろうか。

 

 JR館山駅西口の館山市観光協会には、シティサイクルや、スポーツバイク、電動アシスト付き自転車、クロスバイクなど幅広い用途で使える乗り物がそろう。

 

 待望の「道の駅グリーンファーム館山」が2月16日にオープンしたので、そちらまで足を延ばしてみるのもよいだろう。

(トラベルキャスター)

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

JTB、宿泊業の成長支援 旅館再生ファンドに出資へ

2024年3月1日(金)配信 

面的に地域全体の持続的な発展を支援する(概念図)

 JTB(山北栄二郎社長)は2月29日(木)、リアルクオリティ(小林豪社長)が無限責任組合員として運営する「RQ旅館再生ファンド投資事業有限責任組合」(RQファンド)へ出資を決めた。宿泊事業者の持続的な成長支援、面的な地域活性化の取り組みを進める。

 RQファンドは、官民一体型の中小企業基盤整備機構や地域金融機関、民間事業会社が共同出資する宿泊事業者に特化したファンド。旅館・ホテルの再生コンサルティングや運営受託、市場調査などを手掛けるリアルクオリティが2023年に設立した。

 JTBは同ファンドへの出資を通じ、観光事業者の成長支援を含めたエリア開発事業戦略を加速させ、地域への関係人口増加や滞在時間の延伸、観光消費額の向上を実現させたい考え。具体的には、RQファンドと共に個別の支援に限らず、面的に地域全体での事業支援やプロモーション支援、DX支援などを行い、各地域での観光産業の持続的な発展に取り組むとしている。

鎌倉を効率よく周遊 日観振と日本遺産いざ鎌倉協議会がモデルルート策定

2024年3月1日(金) 配信

参詣ルートのトップページ

 日本観光振興協会(山西健一郎会長、東京都港区)はこのほど、日本遺産いざ鎌倉協議会(千田勝一郎会長)と協力し、公共交通機関を使って鎌倉を効率よく周遊できる4つのモデルルートを策定した。同ルートは日本遺産の魅力がストーリーとして体感できるのがポイント。鎌倉市観光ポータルサイト「鎌倉観光公式ガイド」内に日本遺産の構成文化財の情報やルートを掲載している。

 同市は2016年に「いざ、鎌倉~歴史と文化が描くモザイク画のまちへ~」が日本遺産に認定された。市は鎌倉市観光協会などを構成団体に協議会を立ち上げ、日本遺産事業を推進してきたが、ストーリーをより細分化し、具体的な体験として分かりやすく伝えることが課題だった。

 一方、日本観光振興協会は22年12月に有識者検討会議を立ち上げ、「公共交通機関を活用した日本遺産体験周遊ツーリズム事業」に取り組んでいる。日観振は鎌倉の新たな魅力発信や分散型観光を目指して、協議会や地域の交通事業者と2年にわたる協議を実施し、今回の始動となった。同事業では周遊パス「京浜急行バス鎌倉フリーきっぷ」を新たに作成し、江ノ電のフリーきっぷなど既存の3つの周遊パスと併せて効率よくルートを巡ることができる。

 ルートは①鎌倉「参詣」ルート~江戸時代から鎌倉の観光は始まっていた?!江戸時代における鎌倉の定番「参詣」を辿る~②鎌倉文化人ルート~時代の文士・文豪に思いを馳せる鎌倉文学を体験する~③鎌倉“武士道”仏教ルート~鎌倉武家政権に大きな影響を与えた、鎌倉仏教に触れる~④女性の思いを馳せるルート~鎌倉時代から近現代にかけて、それぞれの時代における女性の生活や想いを辿る~――の4つ。

ハズレなしで500円~100万円分の商品券が当たる 富士河口湖1周スタンプラリー、25年2月末まで

2024年3月1日(金) 配信

富士河口湖1周スタンプラリーは2025年2月28日(金)まで

 富士河口湖町観光連盟(山下茂代表理事、山梨県・富士河口湖町)は3月1日(金)~2025年2月28日(金)まで、富士河口湖1周スタンプラリーを実施する。富士河口湖周辺のオーバーツーリズム解消を目指し、富士急ハイランドやSDGsまなび館などでスタンプを集めて、ハズレなしで500円から100万円分の商品券が抽選で当たるキャンペーンとなる。

 昨年から観光客が急増している富士河口湖エリアは、地域の収容能力を超え、オーバーツーリズムが問題となっている。この解決方法として同連盟は、観光客の周遊を促し、まだ知られていない地域の魅力を伝え、楽しんでもらうことを目指す。

 スタンプラリーは、西湖や精進湖、本栖湖など全10エリアを巡ってスタンプを集め、エリア内に設定された2つの観光施設の内どちらか一方のスタンプを押印し、全エリアのコンプリートを目指す。応募フォームから送信し、25年3月22日(土)に開かれる大抽選会で商品が当たる。

 特賞は100万円(2本)、準特賞50万円(9本)、富士山賞5000円(200本)、うの島賞500円(上限なし)を用意している。

10のエリアでスタンプをゲットすると大抽選会に挑戦できる

「NAKED彦根まつり2024桜」、チケット申込受付を開始

2024年3月1日(金) 配信

彦根城で3月22日(金)~31日(日)開催 ©naked inc.

 近畿日本ツーリスト(瓜生修一社長、東京都新宿区)は3月1日(金)、国宝・彦根城(滋賀県彦根市)で3月22日(金)~31日(日)の10日間開く夜間拝観イベントのチケット販売を開始した。同社は彦根市から彦根城の運営管理を受託しており、運営管理団体として同イベントの運営管理も協力していく。

 イベント名は「彦根城夜間特別公開NAKED彦根まつり2024桜 Supported by 三菱UFJフィナンシャル・グループ」。彦根市の企業版ふるさと納税寄附金を財源とした「彦根城夜間公開活用事業」として実施し、クリエイティブカンパニーのネイキッド(村松亮太郎社長、東京都渋谷区)によるデジタルアートで彦根城を彩る。

 国宝に指定される天守に、アーティスト・村松亮太郎氏による、世界とつながる参加型アートプロジェクト「DANDELION PROJECT」の桜バージョンが登場。西の丸エリアでは、本物の桜を彩る夜桜ライトアップも実施し、ひと足早い桜のアートが彦根城を包み込む。

 今回展示される「DANDELION PROJECT」は、彦根市の子供たちとの共創アートとして初披露する。子供たちが描いた桜の絵が彦根城の石垣から天守全体に広がり、華やかな桜色に染まる城を楽しめるという。

 会場は特別史跡彦根城跡(国宝彦根城天守ほか、彦根城有料観覧エリア)。開催時間は午後6~8時(最終入場は同7時30分予定)。チケット代は大人1000円、小中学生500円、未就学児無料。申込受付は彦根城公式Webサイトの特設ページから。

NAA、国際線旅客19年比8割まで回復 韓国など近距離線好調で

2024年3月1日(金) 配信

田村明比古社長

 成田国際空港(NAA、田村明比古社長)が2月29日(木)に発表した2024年1月の国際線旅客数は前年同月比46%増の244万5460人となった。19年比では、初めて8割まで回復した。韓国や台湾、香港線など近距離のアジア路線が好調だったことが主な要因。

 国際線旅客数のうち、外国人旅客数は前年同月比59%増の164万4202人。19年同月比で11%増とコロナ禍前を超えた。日本人旅客数は前年同月比70%増の54万166人。19年同月比では52%減だった。

 国内線旅客数は前年同月比18%増の62万9757人。19年同月比6%増と6カ月連続で19年同月を超えた。

 総発着回数は前年同月比23%増の1万9638回。旅客便のうち、国際線は同42%増の1万2611回。国内線は同4%減の4189回だった。

 田村社長は今後の見通しについて「インバウンドは韓国や台湾、タイ、シンガポールなどが好調に推移するだろう」と予測。日本の学生が春休みを迎えるほか、卒業旅行の需要が高まることから、「アウトバウンドは比較的リーズナブルな東アジアやベトナム、フィリピンのセブなどへの利用が伸びる」と見通した。

台湾などコロナ前超 春節中国19年比5%減

 2月1(木)~24日(土)の国際線出国旅客数は前年同期比62%増の88万800人。

 このうち、韓国線は同45%増の19万2700人。19年同期比では40%増。台湾線は前年同期比63%増の11万7800人。19年同期比では15%増だった。

 春節期間中の1日当たりの中国線の出国旅客数は5000人ほどとなった。19年同期比では約5%減だった。

 田村社長は「予想より多く回復した。円安効果もあり免税店などの構内営業の売上は19年比で約3割増加した」と話した。

CO2を90%削減 改造不要の燃料導入

 NAAは3月4日(木)から、車両のゼロカーボン化を推進する一環で、消防車や給水車など4台空港特殊車両に次世代型バイオ燃料「リニューアブルディーゼル(RD)」を導入する実証実験を行う。

 同社ではこれまで、電気自動車や燃料電池車への置き換えを実施してきた。一方で、空港特殊車両については、電気自動車が開発されていない。このため、改造不要で燃料のみを入れ替えることで、従来の軽油と比べて約90%CO2を削減できる同燃料の導入を決めた。

 RDは、廃棄された食用油や植物を原料とし、CO2を大幅に削減できるジェット燃料SAFの製造工程で副産物として生成される。

 実証実験では、車両への影響を確認するほか、供給体制の構築に向けた検証を行う。CO2削減量は年間で約20㌧となる。

 田村社長は「SAFの製造を後押しできるため、導入を決めた。高コストが課題だが、SAF製造量増加で、RDのコストが低減することを期待している」と語った。

4月から新パンダプラン 南紀白浜マリオット×アドベンチャーワールド 

2024年3月1日(金) 配信

Panda Family Museum Room

 南紀白浜マリオットホテル(笹川昭一総支配人、和歌山県・白浜町)はこのほど、アドベンチャーワールドとコラボレーションした特別ルームに宿泊するプラン「Panda Family Museum Stay(パンダファミリーミュージアムステイ)」を売り出した。パンダをモチーフにしたディナーやドリンクが楽しめるほか、アドベンチャーワールド入園券が1日分付く。同プランの宿泊期間は2024年4月13日(土)~25年3月31日(月)までの設定。

 同ホテルから車で約10分のテーマパーク「アドベンチャーワールド」は4頭のジャイアントパンダの家族が暮らしている。両者はこれまでもコラボルームを展開しており、第4弾となる今回は「アドベンチャーワールドの歴代パンダファミリーに出会える」がコンセプト。パンダファミリーの家系図が楽しめるデザインの部屋で、同園で暮らしているパンダのほか、今は中国で暮らすお父さんパンダの「永明(えいめい)」をはじめとする歴代パンダにも出会える。

 室内はパンダの主食である竹を活用した「竹あかり」などを設置するほか、竹製のオリジナルトラベルラゲッジタグを1人1つプレゼントする。

パンダバーガーディナーセット

 プランの夕食は、アドベンチャーワールドのパンダがデザインされた特製バンズを使用したパンダバーガーとオリジナルフローズンヨーグルトドリンクを用意。和歌山県産の「熊野牛」を使用したバーガーやパンダが好きなリンゴを使用したホイップサンドなどが楽しめる。こちらは部屋食となる。

 大人1人(2人1室利用時)で3万3430円(税込)から、小学生が2万7690円から。4歳以上小学生未満の添い寝利用は入園券と朝食代負担で利用できる。

農林水産省、28の農泊インバウンド受入促進重点地域を選出

2024年3月1日(金) 配信

農水省はこのほど、28の「農泊インバウンド受入促進重点地域」を選定した

 農林水産省はこのほど、インバウンドのさらなる受入促進に向け、これまで農泊に取り組んできた地域の中から、28の「農泊インバウンド受入促進重点地域」を選定した。

 この重点地域に対して、①農山漁村振興交付金(農泊推進型)による追加的な受入体制整備の優先支援②海外旅行会社などとの商談会やモニターツアーなどの設定や海外向けプロモーション③観光庁「地域観光新発見事業」について重点地域を勘案した採択④日本政府観光局(JNTO)による海外向けプロモーション──などの支援を実施する考え。

 このほど重点地域に選ばれたのは次の通り。

▽ころもがわ農泊地域協議会(岩手県奥州市)
▽牡鹿半島浜泊推進協議会(宮城県石巻市)
▽仙北市農山村体験推進協議会(秋田県仙北市)
▽大田原グリーン・ツーリズム協議会(栃木県大田原市)
▽秩父地域農泊推進協議会(埼玉県秩父市・横瀬町・皆野町・長瀞町・小鹿野町)
▽滑川町農泊推進協議会(埼玉県・滑川町)
▽鎌倉農泊協議会(神奈川県鎌倉市)
▽みのぶ農泊地域連携協議会(山梨県・見延町)
▽南木曽「ウェルネス農泊」推進協議会(長野県・南木曽町)
▽SAKU酒蔵アグリツーリズム推進協議会(長野県佐久市)
▽函南町農泊推進協議会(静岡県・函南町)
▽寺泊広域まちづくり協議会(新潟県長岡市)
▽アルベルゴディフーゾ新湊を拓く会(富山県射水市)
▽城端地区活性化協議会(富山県南砺市)
▽白峰林泊推進協議会(石川県白山市)
▽田原市農泊推進協議会(愛知県田原市)
▽大紀町地域活性化協議会(三重県・大紀町)
▽相差地域海女文化活性化協議会(三重県鳥羽市)
▽Inaka Tourism推進協議会(三重県津市)
▽南丹市美山エコツーリズム推進協議会(京都府南丹市)
▽明日香交流人口促進協議会(奈良県・明日香村)
▽宇陀市古民家活用地域活性化協議会(奈良県宇陀市)
▽金剛葛城山麓地区農泊事業推進協議会(奈良県御所市)
▽太田川流域農泊振興協議会(和歌山県・那智勝浦町)
▽にし阿波~剣山・吉野川観光圏協議会(徳島県美馬市・三好市・つるぎ町・東みよし市)
▽てしま農泊推進協議会(香川県・土庄町)
▽うきは中山間地区農泊推進協議会(福岡県うきは市)
▽山都農泊協議会(熊本県・山都町)

【特集No.653】「日本秘湯を守る会」50周年座談会 “共生”の理念 次世代へとつなぐ

2024年3月1日(金) 配信

 1975(昭和50)年4月に東京・上野精養軒で33軒の仲間でスタートした「日本秘湯を守る会」(佐藤好億名誉会長、星雅彦会長、144会員)は創立50周年を迎える。3月13日には有楽町朝日ホール(東京都)で、記念式典「つなぐ秘湯 50周年の歩みと新たな挑戦」を開く。これに先立ち、半世紀にわたり会を牽引してきた佐藤名誉会長、星会長に加え、次世代を担っていく代表者らによる座談会を開いた。会の理念「旅人の心に添う 秘湯は人なり」の継承や、“共生”し “つなぐ”ことの意味を語り合った。

【司会=本紙編集長・増田 剛】

 ――日本秘湯を守る会は、「秘湯」という造語を生み出した朝日旅行会の創業者・故岩木一二三氏の提唱により、1975年に温泉宿33軒が集まり、創立されました。50周年を迎えての想いをお願いします。

 佐藤:右肩上がりの高度成長期のスタートから半世紀が経ち、人口減少時代のなかで、我われは50周年を迎えようとしています。
 経済や、社会構造も大きく変わりましたが、それ以上に旅の中身が大きく変わったように感じます。数字をひたすら追い求める旅行商品づくりがあるなかで、「旅に情けを」という感覚で経営している事業者が少ないのが現状です。現在の感覚との違いがあるとすれば、そことどう折り合いをつけていくかが一番難しい課題だと感じています。
 世の中の価値観が大きく変わったこの時代こそ、岩木先生が生きていてほしかったと思っています。
 我われの仲間は山奥の限界集落に住んでいて、温泉なくして地域の中で生きてはこられなかった集団です。ひと山越えたところの仲間との「共生」を最も大切にしながら宿を営んできました。10年前の会員は179軒でしたが、今は144軒です。できれば「旅人の心に添う 秘湯は人なり」という会の理念に沿った100軒程度まで絞られたあとに、50周年を迎えたかったというのが本当の気持ちです。数字を求めるのであれば、ほかにもさまざまな会が存在します。

 :私が日本秘湯を守る会の会長になってから7年目です。各宿のあり様は「百軒百様」であり、共生を目的とした理念が貴くて、岩木先生、佐藤名誉会長がずっと語り継いできた想いに我われが共感しているわけです。そこが魅力で、理念を共有しながら今日まで歩いてくることができました。理念がしっかりとあり、守ることができたから今も会が続いているのだと感じています。
 地域も特性も異なる宿が、共生の理念を実行していくために会として何をしていかなければならないか。勉強の連続で、会員の皆さんにご指導いただきながら運営しています。

 ――それぞれのお宿の紹介と、日本秘湯を守る会に入会されたきっかけを教えてください。

 安部:山形県・大平温泉滝見屋は、山形県を縦断する最上川の「ここから川が始まる」源流にあり、そこまで最後は長い距離を歩いて行かなければならない一軒宿です。
 例年4月下旬から11月上旬までの限られたシーズンの営業で、山岳の宿の代表ではないかと思っています。
 宿は116年目を迎え、私は5代目になります。会とのご縁は、祖父の代に入会させていただきました。
 当時、祖父の元にお茶を飲みに来るおじいちゃんがいました。幼少時に店番をしていた私を見て「お手伝いをして、えらいな」と声を掛けられた記憶が残っています。 
 後々にその方が岩木先生だったと知り、山奥の一軒宿まで目を光らせていただいていたことを感じました。祖父が岩木先生の指針に沿った宿づくりをやっていた形跡をあちこちで見つけることができます。

 君島:渓雲閣は栃木県の標高約1千㍍の奥塩原で、4軒の宿を共同源泉で営んでいます。
 200㍍ほど離れた場所から噴煙が上がっており、温泉宿がある集落に入ってくると硫黄の匂いが漂ってきます。湯量はそれほど多くないので源泉掛け流しの温泉をどうやって守るか、湯守としても大事にしながら17室の宿を営んでいます。 
 宿は温泉街の奥にあり、周りが静かなため、リピーターが多いのも特徴です。乳白色の硫黄泉が素晴らしく、温泉を目的に2泊ほどゆっくりと過ごされるお客様が多くいらっしゃいます。
 料理はせっかく栃木に来て下さったので、地元特産のヤシオマス(ニジマス)や、イワナのお造りなど、地の食材を中心に提供しています。
 入会したのは親の代ですが、宿は350年以上続いており、「何代目ですか」とよく聞かれますが、私自身も分からない状態です。日本秘湯を守る会創立30周年のときに私は学生で横浜にいましたが、会の理念などまだ十分に理解せずに式典会場に出席したのを覚えています。

 高橋:静岡県の西伊豆にある雲見園は、両親の代に入会しました。高校を卒業後、京都に7年間調理の修業をし、それから宿に戻ってきたので、自分にとって日本秘湯を守る会がどのような存在なのか、今勉強している最中です。
 「宿の目の前に海が開けているので、庭や玄関、お風呂、客室を綺麗にするように」と岩木先生がおっしゃっていたと両親から伝えられ、その言葉をいつも意識しています。「旅人の心に寄り添う 秘湯は人なり」という言葉の意味を考えながら、旅人と接し料理に向き合えば、「秘湯」というものの考えに少しは自分なりに近づけるのではないかと、日々学ぶことばかりです。
 当館は5部屋しかなく、家族4人とネパール人の従業員の5人でやっています。女将も若女将もお客様に積極的に話し掛けていますので、従業員の方にも「料理を出す準備はやっておくから、お客様とたくさんお話をしておいで」と常々言っています。
 温泉や料理を目的にお客様が来られますが、これとは別に「女将に会いに来た」とおっしゃっていただくことも多く、リピーターが8割、9割が占める宿なので、旅人と触れ合うということをとても大事にしています。

 ――宿のこだわり、大切にしている部分は。

 :新潟県・栃尾又温泉の自在館に来られる目的は、自分の体調を整えたいという湯治目的が主の宿です。このため、「温泉に入ることを邪魔しない」ということを最も大事にしています。
 子供のころは、1カ月くらい滞在されている湯治客もいて、気づいたら従業員になっていた人もいましたが、今は3日から5日、長くても1週間程度です。若い方は仕事があり週末しか来られないけど、月に2度、3度来館される方もいます。
 以前は一般的な料理でしたが、湯治客は心身を休みに来られ、あまり多くの食事を召し上がらないので、3―4年前から「一汁四菜」というお膳にしています。湯治を目的とした宿泊客が多い平日は8割が1人1部屋という宿です。
 長い時間入ることが栃尾又温泉の古くからの温泉文化ですが、「温泉がぬるくて上がれない」ので必然的に長湯になったのだと思います。長湯の文化を守っていかないとせっかく訪れてくださったお客様に応えるものを一つ失ってしまいます。
 温泉との関係を失うことは我われにとって致命的なので、「温泉とは二人三脚で歩いていく宿」になっていこうと家族と話しています。
 日本秘湯を守る会に入って、山の宿を営み、存続させる意味や、地域の山岳文化、温泉文化の担い手なのだということを、佐藤名誉会長や仲間の話を聞くたびに、とても励みになります。会の理念に沿って、お客様が訪れてくださる目的を勝手に見誤らないように、心掛けています。

 安部:日本秘湯を守る会の会員である限り、何をもって「秘湯」なのかというのは、それぞれの宿が考えるところだと思います。当館の場合、不便過ぎて、お客様に「秘湯過ぎる」と言われるくらい歩かなくては辿り着けない場所にあるため、宿泊していただくことで自分が一皮むけたような気持ちで帰っていただけるように、難しいですが「引き算」のおもてなしを心掛けています。
 地元の生活を感じられる時間、従業員ともお話ができるような距離感を大切にしています。あまり話されたくないお客様や、何か心の触れ合いを求められているお客様もいらっしゃいます。本当に小さな宿なのですが、関係性が深まっていくところを目指しています。厳しい環境の中で宿が自然や温泉を守っていく姿が、お客様を元気にさせる説得力になるのではないかと考えています。
 「一度は来たかった」というお客様がファンだとすると、「何とかこの宿を守ってやらなければならない」と思ってサポーターになっていただける関係性が理想だと思っています。
 一昨年、大きな雪害と2度の豪雨災害に見舞われて、半年営業なのに3回も大きな自然災害に遭いました。さすがに弱気になり、「山を下りようかな」とぼそっと呟いたところ、地元の仲間やお客様にご支援をいただいたのは、地道にやり続けてきたからかなと思いました。……

【全文は、本紙1932号または3月7日(木)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】