「観光ルネサンスの現場から~時代を先駆ける観光地づくり~(232)」大津港に繋がった琵琶湖疏水船(京都市・大津市)

2024年5月5日(日) 配信

琵琶湖疏水のゲート大津閘門

 そろそろ桜が見ごろの3月下旬、個人的には3回目になる琵琶湖疏水船に試乗させていただいた。3月28日から解禁となる疏水船は、今年から乗下船場をミシガンやビアンカなどが停泊する大津港に移動しての新規オープンである。

 船は、大津港から琵琶湖周航の歌碑が残る旧三高艇庫を経由して京阪電車石山坂本線の下をくぐると、正面に石造りの大津閘門が見えてくる。大津閘門は、琵琶湖と疏水の約1メートルの水位差を調整する閘門式ゲートである。重厚な扉は、今回の大津港延伸合わせてすべて電動開閉に改装された。

 閘門の正面からは、伊藤博文の揮毫「気象萬千」(さまざまに変化する風光は素晴らしい)の扁額がかかった全長2436メートルの第1トンネルの入口が見える。

 琵琶湖疏水のことは本紙でも何度か紹介した。琵琶湖の水を都に引く構想は、古くは平清盛の時代にまで遡る「奇想」であった。とくに、地盤が固く湧水の多い第1トンネルの掘削工事は誠に困難を極めた。工事に先立ち2本の竪坑が掘られた。これも工期短縮をはかる「奇想」であった。琵琶湖と京都蹴上までは約8キロ、この間の水位差は4メートル、平均2000分の1という超緩勾配の難工事であった。工事を指揮したのは工部大学校(後の東京大学)を卒業したばかりの若手技師・田邉朔郎。まさに日本最初、日本人だけの手による世紀の大土木工事であった。

 1869(明治2)年の東京奠都により、京都の産業は急激に衰退、人口も激減した。「狐と狸しか棲まない」とまで揶揄された京都の復興を託された世紀のプロジェクトであった。

 この事業は1930年代、世界大恐慌時のテネシーバレー開発を想起させる。疏水工事のあいだ、田邉らはアメリカ・コロラド州アスペンに赴き、水力発電所を視察した。そこで得た知見から、それまでの計画を大幅に修正し、蹴上と岡崎間の落差を生かして、日本初の営業用発電所(蹴上発電所)を提案した。その電力で、京都・伏見間に日本初の電気鉄道(路面電車)を走らせ、紡績、伸銅、機械、タバコなどの新しい産業の振興をはかったのである。まさに京都再生の切り札となった。

インクライン下岡崎船溜と琵琶疏水記念館

 琵琶湖疏水は2020年に文化庁の日本遺産(京都と大津を繋ぐ希望の水路琵琶湖疏水)に認定された。その物語を含め、疏水建設の記録は、琵琶湖インクライン下の琵琶湖疏水記念館に集大成されている。この館を核に、疏水全体をフィールドミュージアムとする計画(文化観光拠点計画)も認定された。

 明治の一大プロジェクトを肌で感じることができる琵琶湖疏水の周辺は、まさに近代京都を生み出した記念すべきエリアである。歴史都市京都のもう一つの顔でもある近代京都の建設。これをテーマとした新しい文化観光拠点づくりが、誠に期待される。

(観光未来プランナー 丁野 朗)

「津田令子のにっぽん風土記(108)」犬も猫も家族もハッピーに~ 東京都・椎名町 編~

2024年5月4日(土) 配信

西武池袋線椎名町駅近くのトリミングサロン「L&M」
トリミングサロン「 L&M」 代表 小岩井千尋さん

 西武池袋線椎名町駅近くにL&Mというトリミングサロン(2007年開業)を構える小岩井千尋さん。当時飼っていた犬Lucy(ルーシー)とMaple(メープル)の頭文字をとって名付けたという。

 そこを拠点に新たにペットシッターとしての活動を始めたのは2年前。「この職業を志したのは、中学生のころ、友達から子犬をもらったのがきっかけで犬に携わる仕事に就きたいと思うようになった」という。「動物関係の専門学校に進学し、動物看護師、トレーナー、トリマーを総合的に学ぶコースに進学するなかでトリマーの仕事をやりたいと思うようになりました」と話す。「最初の勤務先は動物病院でした。『気になる事があれば獣医に即報告・相談』という習慣が身に付き今でもまめに飼い主さんに報告・相談するようにしています。そのおかげで病気の早期発見につながる事もありました」と振り返る。

 トリミングサロンのお客様がペットシッターを始めたのがきっかけで新たな役割も加わった。「トリマーとは違った角度で動物に触れ合える働き方を模索していたのでチャレンジすることにしました」と語る。今は、本業の傍ら1人でお留守番をしている子(わんちゃん、猫ちゃん)のご飯やトイレ、そしてお散歩などシッティングの仕事を織り交ぜながら精力的にペットや飼い主を支えてくれているのだ。

 生まれは、母方の実家のある福島県。転勤族だった父親の関係で生後すぐに大宮に引っ越し、その後神奈川県厚木市、豊島区に移り住み、20歳のころに椎名町に引っ越して来られた。椎名町の印象を「長閑な住宅街で、小学生くらいの子供たちが遊んでいる風景をよく見かけます。夕方にはお散歩中のワンちゃんとよく出会います」。また、アットホームなお店がたくさんあり生活していてとても楽しく住みやすくて気に入っていると話す。

 休みの日には愛犬と駅近くにある「なゆたカフェ」をよく訪ねるという。「お寺のお庭を見ながらご飯やスイーツを食べる事ができ、自然の中にいるような気分になり落ち着きます。ルナとテラス席で過ごせるのは至福の時間です」と語る。

 「夢の夢ですが、室内ドッグランがあるペットカフェもやってみたいですし、最近では旦那さんもペット業界に参入し、一緒にペットがさらにハッピーになれたり、わんわん人生がより素晴らしいものになれるお手伝いができたら」と語る小岩井さんの弾けるような笑顔が印象に残る。

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

「観光革命」地球規模の構造的変化(270) 大阪・関西万博の行方

2024年5月3日(金) 配信

 大阪・関西万博は、来年4月13日の開幕まで残り1年を切った。残念ながら、盛り上がりを欠いており、今後の行方が心配になる。

 万博は19世紀に先進国による産業見本市として誕生し、その後に列強による国威発揚の場として使われた歴史を持つ。フランス・パリに本部を置くBIE(博覧会国際事務局)は1994年に「地球的課題解決の場」と万博を位置づけ直した。

 そのため大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」を基本テーマに掲げており、健康寿命や気候変動など「人類共通の課題解決」を標榜していることは妥当である。しかし展示の詳細が不明であり、70年万博の「月の石」のような目玉を欠いている。

 今のところ161カ国が万博への参加を表明しており、そのうち当初56カ国が参加予定であったタイプAパビリオン(参加国が独自に設計・建設)から8カ国が建設断念、16カ国が建設業者未定だ。タイプAは「万博の華」と呼ばれ、期待が集まるために万博の成否に影響する。工費高騰や人手不足による海外パビリオン建設の遅れが危惧されている。

 会場整備費は当初想定の2倍近い2350億円に膨らみ、運営費も1.4倍の1160億円に膨らむようだ。ハコモノに巨額の公費を投入し、催事で経済効果をはかる手法は「時代遅れ」という批判がなされている。

 万博の想定入場者は2820万人であるが、各種調査では万博に行きたい人の比率が下落し続け、気運が盛り上がっていない。気運低迷は万博協会がさまざまな批判に率直に向き合わず、開催意義理解を求める姿勢の不足が原因といわれる。

 ようやく万博協会は訪日外国人客の誘客に本腰を入れ始めたようだ。協会は海外から約350万人(全体の約12%)の誘客を目指している。しかし旅行会社サイドは万博そのものの内容や魅力が定かではないためにプロモーションへの意欲が高まっていない。今後は万博と国内観光地をリンクさせるツアーなどが企画されるようだ。

 建設業や運送業で時間外労働の規制が強化され、人手不足が深刻化する「2024年問題」が既に現実化しており、万博の行方は予断を許さない厳しい状況が継続する。今こそ「いのち輝く未来社会のデザイン」の本領が発揮されることを切に期待している。

石森秀三氏

北海道博物館長 石森 秀三 氏

1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。

 

 

Airbnb Japan、新たな検索カテゴリ追加 世界的な作品をテーマにした体験集める 

2024年5月2日(木) 配信

田邉泰之代表

 Airbnb Japan(エアビーアンドビー、田邉泰之代表)はこのほど、世界で有名という人物や作品をテーマとした旅体験を集めた検索カテゴリ「アイコニック」を追加した。

 5月2日(木)に開いた発表会で田邉代表は、airbnbが消費者から泊まる場所を確保するためのサイトとして認知されていたことから、「宿泊以上の楽しい体験を提供していることを知ってほしい。これによって民泊の認知度向上につなげたい」と趣旨を説明した。

 同社はこれまで、着せ替え人形バービーの家をモチーフにした施設や、東京タワーに泊まる体験などを不定期に実施。宿泊だけでなく体験にも力を入れていることをアピールするのに効果的だったことから、定期的に行うことを決めた。

 具体的に同カテゴリでは、アニメ映画「カールじいさんの空飛ぶ家」を再現した施設(メキシコ・アビキュー)や、フェラーリ博物館(アメリカ・ニューヨーク)、ミュージシャンプリンス主演の映画「パープル・レイン」に登場したアメリカ・ミネアポリスの家など11件を掲載した。 

能登地震で被災した子供たちへ遊びの機会提供 300万円目標に支援金募る(アソビュー、カタリバ)

2024年5月2日(木) 配信 

 

 アソビュー(山野智久代表)は、子供たちの学習支援や居場所づくりを行うカタリバ(今村久美代表理事、東京都杉並区)と共同で、能登半島地震で被災した子供たちに遊びの機会を提供するために、5月3日(金)から「アソビュー!」上で、支援金を受け付ける。目標金額は300万円。

 被災地に暮らす子供を持つ家庭に、アソビュー!で使えるポイントを1家庭1万円分、合計300世帯へ提供する。支援対象者は、石川県輪島市・珠洲市・七尾市・能登町(2次避難先:金沢市・加賀市)に在住する小学生から高校生までの子供がいる家庭とした。

 利用対象施設は、アソビュー!に掲載している全国約1万施設。提供時期は、7月15日(月)~12月31日(火)を予定している。

 また、アソビューは、「地震発生から4カ月以上経った今も、復興活動が続けられている。被害の大きかった地域の子供達も、間借りしている学校へ通う、仮設住宅に通うなど、心のケアの必要性が叫ばれている」との認識のもと、カタリバと合同で調査を行った。

 4月19(金)~22日(月)の期間で、カタリバの被災地支援を受けた家庭154人に対し、「遊びの機会」について調査を行った結果、8割以上の家庭が震災後に「外出・お出かけの機会が減った(なくなった)」と回答した。

 今年のGWの予定については、約8割が外出やお出掛けの予定がないと答え、「家の修理や片付けで休みが潰れる」「子どもの遊び場がない」とのコメントが寄せられた。

 震災の影響でお出掛けの機会が減ったと回答した人に理由をたずねると、7割以上が「経済的な理由」とした。

 この結果を受けてアソビューでは、「生活インフラの復旧と同様に、子供たちにとって遊びの機会を届けることも必要なことである」とし、支援金募集の取り組みを始めた。

SLやまぐち号5月3日運転再開、約2年ぶりに復活(JR西日本)

2024年5月2日(木)配信

SLやまぐち号

 西日本旅客鉄道(JR西日本、長谷川一明社長、大阪府大阪市)は5月3日(金)、新山口駅(山口県山口市)―津和野駅間(島根県・津和野町)の山口線を走る人気観光列車「SLやまぐち号」の運転を再開する。蒸気機関車に付随する炭水車の不具合のため2022年5月から運転を取りやめていた。

 6月を除く、11月までの土・日曜日・祝日を中心に1日1往復する。6月の運転日の設定はない。

 SLやまぐち号は、同区間の62・9㌔を片道約2時間かけて走行する。

 運転再開に合わせ、車内サービスを充実させる。3号車の車内販売で、ご当地ラスクや山焼きだんごなどの新商品、車内限定のSLグッズを取り揃える。Wi-Fiも新たに設置し利便性を高める。

高松市に観光交流拠点開設 市場の活性化や観光情報発信(JTB)

2024年5月2日(木)配信

1階の飲食店「クセモノズ」

 JTB(山北栄二郎社長、東京都品川区)は5月2日(木)、香川県高松市の同市中央卸売市場内の「うみまち商店街」に、観光交流拠点「SICSサステナブルラウンジ」を開設した。

 「サステナブルな交流拠点」をテーマにした2階建て施設で、1階に市場で破棄されてしまう未利用魚や野菜などを使った料理を提供する飲食店「クセモノズ」を設置した。営業時間は午前11時から午後2時と、午後6時から同9時まで(ディナータイムは金・土曜日・祝前日のみ営業)。水曜日休み。

 2階はコミュニケーションラウンジで、地域と旅行者をつなぐようなイベント開催のほか、レンタルスペースとしても活用する。

 JTBと高松市は2月、商店街の店舗が減少傾向にあるなか、「高松市中央卸売市場を中心とする地域活性化に向けた包括連携協定」を締結。新たな人流創出に向け、飲食と交流スペースからなる施設を整備し、市場内のフードロスの減少をはかるとともに、高松市や瀬戸内エリアの魅力発信をはかる。

日旅G・エムハートツーリスト 情報セキュリティの国際規格ISO27001の認証取得

2024年5月2日(木) 配信

エムハートツーリストはこのほど、国際規格ISO27001の認証を取得した

 日本旅行(小谷野悦光社長)のグループ会社であるエムハートツーリスト(辻本直哉社長、大阪府守口市)はこのほど、国際標準化機構(ISO)から発行された情報セキュリティの国際規格ISO27001(ISO/ICE27001:2022)の認証を取得した。

 同社は、出張手配や各種イベント・会議の運営支援などの法人向けサービスを中心にした旅行会社として1980年に設立。2006年から日本旅行グループとして、法人旅行事業を展開している。

 認証取得について同社は、「クライアント企業よりお預かりする情報に対するセキュリティ目標を実現し、より一層安心してサービスを利用してもらうために取得した。今後は強固な情報管理体制のもと、法人向けソリューションを提供する」考えだ。

旅館・ホテルの60%が「景況感良い」、75%が「販売単価が上昇」(帝国データバンク調べ)

2024年5月2日(木) 配信

 帝国データバンクがこのほど発表した2024年3月の景気動向調査によると、「旅館・ホテル」の60・0%の企業で景況感を「良い」と回答した。他方、「悪い」とする企業は16・7%にとどまった。前年同月は「良い」が61・5%、「悪い」が21・2%と堅調に推移している。

 3月は春休みシーズンを迎えるなか、企業からは「海外を含め、国内のお客様も多い」「ようやくコロナ前の売上水準に戻ってきた」など、明るい声が寄せられているという。

 また、「販売単価が上昇した」とする割合は、22年8月以降20カ月連続で60%を超え、直近の24年3月は75・3%と、全体の4分の3が上昇したと捉えている状況だ。

 コロナ禍で低下していた設備稼働率は、「上昇した」が59・7%に対し、「低下した」が19・4%となった。帝国データバンクは「観光・レジャー需要に加え、出張需要の復活なども好材料となっている」と分析する。

 一方で、深刻化する人手不足への対応のほか、食材やアメニティ、リネン関連費用、冷暖房費の高止まりなどは企業収益を圧迫する要因とし、今後も「宿泊料金の値上げは続く」と見込む。

 この結果、国内のリベンジ消費が一巡する方向にあるなかで、消費者の宿泊離れを回避するためには、「独自性や希少性、高級感などへの対応が迫られることとなり、生き残りをかけ優勝劣敗が顕著となっていく」(帝国データバンク)と予想している。

鉄印で台湾を応援、「台湾応援デジタル鉄印」発売

2024年5月2日(木) 配信

台湾応援デジタル鉄印(イメージ)

 第三セクター鉄道等協議会は、台湾・花蓮沖を震源とする地震の被災地を支援するため、Webアプリ「鉄印帳デジタル」上で、「台湾応援デジタル鉄印」を5月2日(木)から売り出した。売上金は、決済手数料などを控除したうえで、日本赤十字社を通じて台湾の被災地に寄付される。

 台湾東部沖で今年4月3日(水)に起きた地震は、花蓮県を中心に多くの被害が発生し、余震が続いている。第三セクター鉄道等協議会は、加盟する鉄道会社の10社以上が台湾の鉄道会社と姉妹鉄道協定を結んでいるなど深い関係を築いてきた。このうえ、台湾からは東日本大震災や熊本地震、能登半島などの日本で災害が起きるたびに温かい支援を受けてきたとして、鉄印帳デジタルを活用した被災地支援を決めた。

 鉄印帳デジタルは、読売新聞大阪本社と読売旅行の子会社である旅行読売出版社が、第三セクター鉄道等協議会に加盟する鉄道各社と協力し、今年3月にサービスを開始したWebアプリ。通常は、駅などに設置されたQRコードを読み取り、NFT(非代替性トークン)化された「鉄印」を購入できるものだが、台湾応援デジタル鉄印はアプリ内で購入できる。価格は税込550円、販売期間は5月31日(金)まで。