2025年6月3日(火)配信
魚さばき体験(民泊体験会)
和歌山県の中部、紀中地域に位置する御坊市、美浜町、日高町、由良町、印南町、みなべ町、日高川町の1市6町からなる日高エリアが、官民一体となった教育旅行の誘致に力を注いでいる。2025年度の同エリアへの教育旅行の予約は好調に推移しており、受入人数が過去最高となる見通し。23年度に記録した3906人を超え、5000人到達も視野に入れる。
【土橋 孝秀】
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日高エリアでは21年に官民が連携した教育旅行の誘致態勢を構築した。同年2月に行政主導で設立した「御坊日高教育旅行誘致協議会」と、同年3月に発足した旅行会社や学校からの問い合わせ・予約対応など総合窓口を担う民間団体「紀州体験交流ゆめ倶楽部」が連携し、受入態勢を整備してきた。
民泊体験会での交流のようす
地域資源を活用した豊富な体験コンテンツと、家庭的な交流の場となる「民泊」が充実していることが特徴で、学校関係者からの評価が高いという。農業や漁業、林業、狩猟など自然と共生する地域ならではの実地体験を通じて、自然との関わりや生きる力を育む学びの場となっている。加えて、15年、国連食糧農業機関(FAO)によって世界農業遺産に認定された「みなべ・田辺の梅システム」をテーマにした探求型学習も注目を集めている。
学校や旅行会社へのプロモーション活動が実を結び、教育旅行先としての知名度が徐々に高まりつつある。22年度の受入人数は2696人だったが、23年度には3906人(うち海外522人)へと大幅に増加。24年度は南海トラフ巨大地震臨時情報の発表の影響などで3210人とやや減少したが、25年度は旅行費用の高騰で遠方を敬遠する動きがあり、関西圏の学校を中心に、埼玉や神奈川県など関東の高校からも予約が増え、5千人近い受け入れを見込んでいる。
こうした拡大の背景には、地域一体となった受入態勢の充実に加え、質の高い体験コンテンツと、家族の一員のように温かく迎え入れる民泊の存在がある。
熊野古道道普請
体験コンテンツの農業体験ではミカンや紀州南高梅の収穫や農作業を体験し、食の大切さを体感できる。漁業体験では地引網や漁船クルーズ、干物づくりなどを通じて、古くから海とともに生活してきた人々の生業を学ぶ。さらに、間伐や狩猟体験のほか、各種手作り体験や郷土料理教室を含めると60種類以上の豊富なメニューがそろい、オーダーメイドのアレンジにも柔軟に対応しているのが特徴だ。
なかでも最近力を入れているのが、みなべ町と隣の田辺市で受け継がれてきた世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」を通じた学びだ。急斜面を利用して薪炭林を残しながら梅林を配置し、400年にわたり高品質な梅を持続的に生産してきた農業システムで、その特徴や次世代への課題などを総合的に学べる。探求型学習を重視する昨今の学習指導要領とも合致しており、学校側からのニーズも高い。
民泊はエリア内で現在70軒が登録されている。一緒に食卓を囲み、ときには農作業を手伝ったり、周辺スポットを巡ったりと短い時間のなかで心温まる交流が生まれ、別れを惜しむ児童・生徒の姿も見られるという。
協議会やゆめ倶楽部は、民泊の登録軒数の拡大が、教育旅行のさらなる受入拡充に不可欠として、地域の小学生を対象とした「民泊体験会」を例年夏休み時期などに実施。受け入れる家庭の新規掘り起こしに力を入れ、将来的に民泊100軒体制の構築を目指す。実現すれば一度に150人を超えるような団体も受け入れ可能になる見込みだ。
一方、海外からの受け入れも積極的だ。これまでマレーシアや台湾などアジア各国からの受け入れ実績があり、日本の農村文化や日常生活を体験できる場所として評価されている。
今年4月にはリニューアルした専用パンフレット「和歌山県日高エリア教育旅行 日高が選ばれる5つの理由」を発行。A4判全8㌻で、地域で提供する多彩な体験メニューや受入態勢を紹介している。
県日高振興局の小路哲生局長は「探求型学習をテーマにした体験メニューの充実と、受入環境の整備に力を注いでいる。教育旅行の行き先として日高エリアを選んでいただきたい」と話している。