旅館の海外展開探る、加賀屋らが中国で調査事業

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 日本旅館の海外展開の可能性を探るプロジェクトに取り組む石川県和倉温泉の加賀屋を中心とした事業共同体は3月14日、金沢市内のホテルで、中国を対象に実施した調査事業の報告会を開いた。

 同プロジェクトは、経済産業省の「クール・ジャパン戦略推進事業」の採択事業。おもてなしに代表される日本の接客や、精巧な建築技術、素材を生かした日本料理、器や調度品に見られる精緻な工芸品など、日本のサービスや技術力が集約された日本旅館をまるごと海外展開することで、経営ノウハウやプランニング、人材育成、設計建築、日本食や工芸品の輸出など、日本が得意とする産業を海外に売り出すビジネススキームの確立を目指す。

 事業に取り組む「日本旅館海外展開プロジェクト共同体」は、加賀屋のほか、旅館の建築設計などを手掛ける金沢建築企画、金沢市内で料理店やホテルを経営する浅田屋、金箔工芸を製造販売する箔一、調査プランニング会社の計画情報研究所と、いずれも石川県に基盤を置く企業で構成。中国ビジネスのコンサルタントを手掛けるアルプ企画も特別協力する。

 中国を対象に実施した2012年度の調査事業は、日本旅館の海外展開に向けて課題とされる(1)日本旅館のサービスが中国人消費者に受け入れられるか(2)中国で日本旅館のサービスを供給するための人材(接客・建設技術者)を確保できるか(3)日本旅館を運営する現地の経営者や投資家を確保できるか――の3点について検証を行った。

 おもてなしを核とした日本旅館のサービスの可否については、在日中国人に加賀屋などで宿泊してもらいアンケート調査を実施した。スタッフのきめ細やかな接客や、金箔などの工芸品に対する評価は高かった一方、布団で寝ることや、魚主体の料理構成、味付けなどの点で、違和感を覚える声も多く、日本らしさを失わずに中国人が快適に感じるおもてなしの確立が、今後の課題として浮かび上がった。

 また、海外展開に向けた人材確保の調査では、在日中国人に向けた日本旅館スタッフによる人材育成講座、中国本土での現地大学生を対象とした日本旅館の紹介や文化講座を実施。おもてなしなど、日本旅館のサービスに対する理解度は高く、日本旅館への就労意欲も高いことがわかった。

 日本旅館の運営者については今年3月1日、中国・大連市で現地投資家やデベロッパーなどを対象に、体験型プロモーションを実施。宿泊施設経営者や開発事業者、政府関係者など100人を超す参加があり、関心の高さがうかがえた。

加賀屋の鳥本専務
加賀屋の鳥本専務

 報告会で、共同体の代表を務める加賀屋の鳥本政雄専務取締役は「文化が異なる国で、日本旅館のスタイルをただ押しつけるだけでは、ビジネスとして成り立たないことはわかった」と難しさを指摘する一方、既に現地から10数件の引き合いがあり、うち3件は具体的な内容であるとして「実現には、まだまだ課題も多く、決して簡単ではないがビジネスチャンスはある」と可能性の高さに期待を寄せた。

 また「この事業は海外からの訪日客を増やすことが目的ではないが、この取り組みが結果としてインバウンド増加にもつながっていく。今後、チャンスがあれば、ほかの国でもトライしてみたい」とさらなる展開に意欲を示した。

 
 

500会員が東旅協、一般社団化で臨時総会 (ANTA東京支部)

青山能久支部長
青山能久支部長

 全国旅行業協会東京都支部(青山能久支部長、628会員)は3月15日、4月1日に「一般社団法人東京都旅行業協会」を設立するのにともない、臨時総会と設立説明会を開いた。新団体に加盟する意思のある会員は500社を超えるというアンケート結果を発表し、新団体への加盟に改めて理解を求めた。

 臨時総会は、東京都支部の残余財産を新団体の東京都旅行業協会に引き継ぐことを承認。その後、説明会で新団体の定款や規約などについて報告した。

 青山支部長は「今まで支部は独立した活動をしてきたが、本部の一般社団化で本部と直轄した支部は、法定5業務しかできなくなる。都支部でいうと、地区制度も設けることができない。そこで、各支部がこれまでの業務を行うために、本部の指導のもと、4月から全国に各都道府県旅行業協会を作る」と新体制について説明した。新団体加盟への意向アンケートで約110社が東京都旅行業協会に入会しない見込みだが、体制に大きな影響はでないという。一方、今後本部のみの会員には東京都独自の事業案内が送付されないことなど、注意点も促した。また、入会金と会費の変更も報告。会費は東旅協が定額2万円だが、本部会費が低くなるため、東旅協に入会した場合でも実質、現行の会費から変更はない。東旅協の入会金は1種10万円、2種7万円、3種3万円、地域限定3種2万円。現在の都支部会員に入会金は発生しないが、移行期を過ぎたあとは新規入会扱いになる。

創立60周年祝う、“強く存在感を示す”(埼玉県旅行業協会)

埼旅協60周年を祝い記念撮影
埼旅協60周年を祝い記念撮影

 埼玉県旅行業協会(浅子和世会長)は3月21日、宮城県・秋保温泉のホテルニュー水戸屋で創立60周年記念式典を盛大に開いた。

 浅子会長は「埼旅協は1953(昭和28)年6月に埼玉県旅行あっ旋業協同組合として設立し、66(昭和41)年6月に旅行業界の健全なる発展に向け埼玉県旅行業協会を発足。この60年間に大きく成長し発展してきた」と振り返り、「私たちは10年、20年後を見据え、4月1日から一般社団法人埼玉県旅行業協会として、新たな決意と会員の協調によって、強くて存在感を示す協会を目指していく」と力強くあいさつした。

 地元・埼玉県出身の全国旅行業協会の鈴木明治副会長は「多くの先輩たちが築いてきた埼旅協に誇りを持って仕事をしてほしい。浅子会長のもと、4月からの新しいスタートに期待している」とエールを送った。

2013―14年度版発刊、東京総合案内所名簿

 東京総合案内所連合会はこのほど、2013―14年度案内所名簿を発刊した=写真。同名簿は5年目を迎え、新たに参加した案内所を含め36社、4859施設が掲載され、内容も検索しやすい改訂版になっている。

 同連合会は加盟案内所に配布しているが、希望者には送付する(送料別途)。詳細は、新橋会、レストチェーン、東海予約センター東京、北の国旅館連盟まで。

 【掲載案内所】アーバンネットワーク▽Nの案内所▽ガイドセンター亀井▽カワムラチェーン▽関西予約センター▽掬泉会▽紀行会▽北の国旅館連盟▽九州観光旅館連盟会▽山水会▽山友会▽信濃路会▽新橋会▽スパネット▽全温予約センター▽大京予約センター▽中国四国フロント▽東案(旧・プレッサ)▽東海予約センター東京▽東京リザーブセンター▽東北信予約センター▽殿岡案内所▽新潟交通▽西日本インフォーメーション東京▽白鳥会▽ふくいリザーブセンタ―▽北海道ツーリストセンター▽本州会▽まゆみリザーブセンタ―▽むさしの手配センター▽もみじ会▽森谷案内所▽M.YADOROKU▽予約センター東京企画▽リザーブバスセンター▽レストチェーン

星のや東京、開業へ準備

完成予想図
完成予想図

 星野リゾート(星野佳路社長)は3月15日、「星のや東京」の開業への準備に入ったと発表した。同社のラグジュアリーブランド「星のや」としては、軽井沢、京都、竹富島に次いで4軒目。現在、三菱地所が進めている「丸の内再構築プロジェクト」の一環に位置し、「国際水準の宿泊施設として、日本旅館の哲学と運営手法を取り入れるホスピタリティ事業の手法を世界に発信していく」(同社)としている。

 所在地は東京都千代田区大手町1丁目5番1他(地番)。地下3階、地上18階で、高さは約90メートル。客室数は84室、延べ床面積は約1万2千平方メートル。日本料理レストランやスパ、カンファレンスルーム、ショップなども入る予定。駐車台数は30台。新築の工期は14―16年度を計画している。

CP応募数13万通、13年はFBの機能拡充、JATAもう1泊CP

吉川勝久委員長(左)
吉川勝久委員長(左)

 日本旅行業協会(JATA)の国内旅行推進委員会(吉川勝久委員長)は3月21日、「『もう一泊、もう一度』プレゼントキャンペーン2012」の抽選会を行った。「もう一度コース」「もう一泊コース」「家族旅行コース」「友人旅行コース」の合計応募総数は、前年度比19・7%増の13万1608通。13年度の同キャンペーンの継続も合わせて発表した。

 抽選を行った吉川委員長は「応募数も年々順調に増えており、4年間の総数は34万通にも達した」と報告。「宿泊数で計算すると12年度は19万9090人泊になり、国内観光の魅力を訴求するとともに、宿泊旅行拡大に寄与している」と語った。

 12年は若年層需要の掘り起こしのため、フェイスブックを導入。13年は新たに、ユーザーが国内旅行の風景や思い出の写真を投稿できるアプリ「日本のいいね!みんなの写真帳」の開発や、「旅を探す楽しさを演出」するなど、機能の充実をはかる。また、JATA会員旅行会社のサイトでの購入者は宿泊を証明する書類を準備し、サイトから応募できるようにした。13年は1泊で応募できる「もう一度コース」、2泊で応募1口となる「季節の彩りコース」、3泊で応募1口となる「もう1泊コース」の3コースを設定。応募期間は13年4月1日―14年2月28日。

訪日PRを抜本転換、3Cで「日本人」を切り口に(観光庁)

阿波踊りのメイン映像
阿波踊りのメイン映像

 観光庁はこのほど、ビジット・ジャパン事業10周年を機に海外プロモーションを抜本的に転換し、「訪日観光の3つの価値(3つのC)」を踏まえ、PR映像やウェブサイト、ガイドブックなどで「日本人」を切り口にPRするよう一新した。17言語で展開するメインPR映像では「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN」をテーマに、リオのサンバカーニバルとも比較される「阿波踊り」を入り口に、楽しく情熱的な「日本人」を紹介する。

 12年8月から行われてきた、海外6カ国8人の外国人を含む11人の委員による「普遍的な日本の魅力の再構築・発信に関する検討会」では、新たな観光プロモーションの切り口として震災時に称賛を浴びた「日本人」に着目し、「訪日観光の3つの価値(3つのC)」を取りまとめた。3つのCでは、(1)高い美徳や規律、礼儀正しい気質、シャイだけれど親切で、「わびさび」や五感を超えた「暗黙知」など、日本人の神秘的で不思議な気質「日本人の気質(Character)」に触れられること(2)歴史や伝統を継承する「匠」による作品や、世界一「ハイテク」な作品、「自然」への畏怖や感謝をもとに自然と一体化することで生まれる作品、山海の素材の持ち味を引き出した「日本食」などの「日本人の作品(Creation)」に出会えること(3)四季や伝統が深く入り込み、現代と「融合」した生活や、「お客様は神様」が合言葉の完璧な「おもてなし」、都市から田舎まで全国どこでも「便利」「清潔」「安全」な生活など、日本人の普段の「生活」にあるちょっとしたこと「日本人の生活(Common Life)」を体験できること――をあげる。

 メインのPR映像は、日本語、英語、ハングル語、簡体字、繁体字、タイ語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、ポルトガル語、イタリア語、スペイン語、アラビア語、マレー語、ベトナム語、インドネシア語、ヒンディー語の17言語で作製。そのほかにも新設のウェブサイトに合計で160本以上の動画を準備し、「知られざる日本」を発見してもらうことを狙う。

 井手憲文観光庁長官は3月21日の会見で、同サイトが3月15日の開設から19日までの5日間で、世界90カ国から1万8千アクセスあったことを報告し、「同サイトの注目度は高い」と語った。また、10年目を迎える訪日プロモーションについて「今までは日本の魅力発信に工夫が足りなかった。日本食がヘルシーでおいしいことや、電車の時間が正確なことなどは、当たり前すぎてあえて発信していなかった。BtoCで映像をうまく使っていきたい」と話した。

【特集No.336】ホテルナンカイ倉敷 居心地の良い空気づくり

2013年4月1日(月) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第11弾は、岡山県倉敷市水島でビジネスホテルを経営する田中安彦社長と、田中正子支配人が登場。工学博士で、「サービス産業生産性革新」を専門とする内藤耕氏との対談(1月29日)で、立地条件や客層など、さまざまな特殊要因があるなかで、ニーズに合ったビジネスホテルに変化していった過程を探った。

【増田 剛】

 田中(社長):この地は、もともと父が市役所を辞めて、まったくの素人なのに割烹旅館南海という料亭を経営していた場所です。水島地区は昭和30年代後半に埋め立てを行い、企業を誘致し大規模な工業地帯となりました。ちょうどそのころ、1957(昭和32)年に企業の接待として使われるような料理屋を開業し、のちに宿泊もできる施設へと改修しました。68年に割烹料理屋、78年には居酒屋もオープンしましたが、本元の割烹旅館南海は、接待として利用する法人需要の減少により1988年に廃業し、現在も経営している。2つの料理屋に集約しました。

 田中(支配人):割烹旅館南海は客単価は9千円―1万円と高めで、私は結婚してすぐのころ、着物を着て少し手伝っていました。

 内藤:割烹旅館を廃業したのち、土地の有効活用のために95年に客室数111室のビジネスホテル「ホテルナンカイ倉敷」としてオープンされました。

 田中(社長):私たちはホテル経営の経験がまったくない素人でした。開業前に研修も経験していません。でも今から考えると、先入観のない素人から始めて良かったと思います。当時私は37歳で、妻の支配人は35歳でした。

 田中(支配人):オープンした95年は阪神・淡路大震災が起こった年で、開業した1月9日の直後に地震が発生しました。ただ、オープン直後で稼働率も低かったので震災の影響は大きなものではありませんでした。

 田中(社長):1月、2月は予約がほとんど入りませんでしたが、「トレーニング期間」と前向きに捉えていました。4月以降ようやく稼働率が上がっていきました。

 内藤:開業当時は「こういうホテルにしたい」という理想やビジョンはあったのですか。

 田中(支配人):とにかく無我夢中で、来て下さった目の前のお客様に「喜んでいただきたい」という気持ちだけでした。若い経営者である私たちも、スタッフもほとんど未経験で、ホテルとしてかたちを成すのかどうかが心配でした。何かの理想を目指すというよりも、「お客様に安心してお休みいただける」ことだけを考えました。

 ――稼働率は4月から大きく上がっていったのですか。

 田中(社長):水島は特殊な地域で、コンビナートの定期修理が年に2―3カ月あります。毎年春と秋の定期修理の時期には、全国から技術系の方が来て1カ月くらい滞在されます。
 最初の1年はとにかくお客様によく怒られました。「ビジネスホテルなので、そこまでのサービスはできない」と断ったためにお客様とケンカになったこともありました。その積み重ねが今のホテルナンカイ倉敷のかたちになったと思います。

 内藤:具体的にはどのような要望があったのですか。

 田中(社長):「客室の冷蔵庫に氷を入れておいてくれ」と言われたり、部屋からレストランに降りて来たお客様に「自分の席が確保されていない」と怒鳴られたり。今はどのような要望も受け入れていますが、最初は無茶な要求を拒否していました。でも、次第に「それではいけない」と思い、お客様との関係の中で、現在のサービスのかたちに育てられたのだと思います。

 田中(支配人):長期滞在のお客様は生活の場をこちらに移される方もいます。長ければ1年間滞在されるお客様もいます。そうするとお客様と一緒に生活しているような感覚になります。朝は「お早うございます」、夜は「おやすみなさい」と声を掛けます。ビジネスホテルなのですが、家族的な下宿のような感覚ですね。お客様にとっては「もう一つの家」という感覚でしょうか。今は「居心地がいいね」という言葉をいただくことも増えてきました。

 内藤:工場から出迎えの人がホテルに立ち寄ると、その方たちにもお茶を出していますね。

 田中(社長):最初のころは「お金がかからず、継続できるサービスをしよう」とよく話していました。それがお茶出しとお見送りでした。

 田中(支配人):開業から継続しているのは、お客様が朝お出かけになるときにホテルの外まで出てお見送りをすることと、ロビーのソファーに座られたときに、こぶ茶や麦茶を出すことです。朝はコーヒーやジュースもお出ししています。

 田中(社長):私たちはまったくの素人でやっていたので、お客様を怒らせることが多々ありましたが、「とにかくお帰りのときには笑顔で帰ってもらおうね」と話していました。支配人がお客様に対して常に「何かありませんでしたか?」と声を掛けていました。

 田中(支配人):お客様が、何か不満があるのでしたら先に聞いてさしあげようという考えでいました。お客様も私たちに先に言われると、「ああ、気づいとったんか」と気持ちが和み、こちらがそれ以上のことをしてあげると逆に喜んで下さるということが多かったですね。そういう意味ではアンテナを常に高く張り巡らせています。お客様から、たまに「痒くないところまで手が届く」と言われることもあり、少々おせっかいな面があるのかもしれません。

 内藤:ずっと割烹をやられていたので、料理に関してはほかのビジネスホテルとの差別化は考えていましたか。

 田中(支配人):長期の出張のお客様は「晩ごはん」として召し上がる方が多いので、主婦の手料理、つまり“おふくろの味”で、きんぴらやおから、ひじき、煮物などの手作りの料理をお出ししています。メインが選べる定食など数種類の定食を用意しているほか、ビールとのセットメニューや居酒屋の一品料理などもお出ししています。

 内藤:ホテル側としては料理を提供するときに、どうしても「豪華なものを出した方がいいのではないか」と考えがちですが、家庭料理にした方がいいと考えられたのはどのような理由からですか。95年ごろは、ビジネスホテルで家庭料理という発想は一般的ではなかったのではないでしょうか。

 田中(社長):当時はビジネスホテルにレストランを入れるところが多かったのですが、大体宿泊客の1割程度しか利用しない。私たちのホテルでは、1泊のお客様の場合にはどこからかお誘いがあって、倉敷や水島の繁華街に食べに行くケースが多いですが、長期滞在のお客様にとってはホテルの周りには食堂など何もない環境ですので、だったら「いつも食べている家庭料理を安く提供しよう」と思いました。食事で利益を上げようとは考えてなく、私たちの食事を気に入ってくださったお客様に泊まっていただければいいという考え方です。

 田中(支配人):長期滞在のお客様は昼間働き、毎晩遅く疲れて戻られるので安くて親しみやすい料理の方がいいのではないかと思いました。出張続きだと、どうしても野菜不足になりがちで、ご本人も、ご家族の方も健康を気づかうなかでお惣菜などを求める声が多かったですね。品数や種類も少しずつ増えています。病気のお客様には、メニューにはないのですが、雑炊やお粥を客室に持っていってあげたりもしています。

 内藤:家庭料理をホテルで出すのは一番難しいですよね。ホテルで家庭料理を提供するとなると、どうしても肩に力が入ってしまいがちです。

 田中(社長):きんぴらをささがきにするのもすべて手作りで、家庭と違って量がものすごいですから、厨房スタッフも「お惣菜を作るのが一番大変だ」と言っていますね。

 田中(支配人):朝食に出すお惣菜もすぐになくなってしまいます。作るのはものすごく時間がかかりますが、なくなるのは一瞬です。

 田中(社長):おそらく水島という特殊な地域の客層だからこそ生き残れる独特のやり方を私たちは覚えてきただけで、これがどこか他の場所に出したからといって受け入れてもらえるかはわからないと思います。

 内藤:長期滞在が多いとか、技術系の職人が多いなど、たしかに特殊要因はありますね。しかし、どの宿にも特殊要因はあり、その「特殊要因に合った宿」にできるかどうかが勝負の分かれ目になるわけです。

 田中(社長):その意味では、私たちはたしかに水島工業地帯という特殊要因に対して精一杯柔軟に対応してきました。

 ――料理ではどのようなところに気をつかわれていますか。

 田中(支配人):たとえば、ナスがお皿に残っていたりしたら、「ナスがお嫌いでしたか?」とすぐにお聞きし、次回からは別のものに変えてお出しします。バイキングだと嫌いなものは手を付けなくてもいいですが、うちでは決まったものしかお出しできないので、嫌いなものがあれば違うものに変えてあげたいと思うのです。また、ご飯とお味噌汁はしっかりと召し上がっていただきたいので、おかわり自由にしています。
 若いスタッフもお客様をよく見ているので色々なことに気づいてくれます。フロントスタッフは全員が正社員で、お客様も、いつも同じスタッフがいる方が安心されます。

 内藤:スタッフとお客が会話し、交流することで喜んでもらえる一方、宿としてはお客様の情報が得られ、より深く理解できるメリットがありますね。

 田中(社長):そうですね。お客様と会話できる機会は大きなチャンスだと捉えています。冬の時期は朝、フロントガラスが凍った車にお湯を掛けると、仕事に急がれるお客様にすごく喜ばれます。そのときにも少し会話ができます。
 旅館などでは玄関前でお見送りをされることがありますが、日常の意識の強いビジネスホテルから職場に向かうタクシーや車に向かって、スタッフが笑顔で見えなくなるまでお見送りをすると本当に喜ばれ、感動されます。そして嫌いな食べ物を、好きな物に変えてもらえたらうれしいと感じていただけるのです。

 田中(支配人):「お仕着せ」は嫌いなんです。お客様が嫌いなものを一方的に出して、嫌いなものがそのまま残って戻って来るのは本当に申し訳ないと思うんです。ごはんの量もお客様に合わせたかたちでお出ししたいので、お客様の好みなどはレストランホールスタッフからすべて私やフロントスタッフに伝わり、すぐにデータベースとして、フロントにも調理場にも伝わるように情報を共有しています。
 長期滞在されるお客様の中には最後に奥様を呼んで宿泊され、周辺を観光して帰られることも多いですね。奥様から「主人がホテルの食事でお野菜もきっちりと取れる」と感謝されることもあります。最近はインターネットの関係で、家族連れのお客様も増えてきています。

 田中(社長):食事はできるだけ相席にはならないように心がけています。でも、大規模な定期修理のときは朝の7時ごろは社員食堂のように混み合います。朝食のときにはフロントのスタッフも全員で手伝います。

 内藤:カウンター横でシャンプーも貸出していますね。

 田中(支配人):最初は入浴剤などを置いていたのですが、お客様が喜ばれたので、シャンプーや他のアメニティをたくさん置くようになりました。最近の若い男性はおしゃれで、男性用ではなく、あえて女性用の化粧水(乳液)や洗顔フォームを持っていかれる方もいらっしゃいます。

 ――ホームページを作られたのは最近のことだと聞きました。

 田中(支配人):2008年12月からです。これもお客様から言われて始めました。それまでは電話で受けていました。

 内藤:ホームページを作る前はお客様はどうしてこのホテルを知ったのですか。

 田中(支配人):インターネットの口コミではなく、それこそ昔ながらの口コミです。広告宣伝もしていなかったので、お客様が同僚などに「良かったよ」と伝えてくださる宣伝マンになってくださっていたようです。「タクシーの運転手さんが『ここはいいよ』と言っていたから来た」というお客様もいました。

 内藤:広告宣伝に力を入れる施設もありますが、ホテルナンカイ倉敷では「来ていただけるお客様に全力を尽くすのがベスト」だという考え方ですね。

 田中(社長):うちのような小さなホテルが大手チェーンのように知名度を上げようと、どれだけ多くの広告宣伝費を使っても無理です。

 内藤:ハード面はどうですか。

 田中(支配人):施設自体を大がかりに変えることはできませんが、浴室は瞬時にシャワーの温度調整をできるようにしたり、部屋のコンセントの数を増やしたり、すぐ沸くポットを入れたり、こまごましたところでお客様が少しでも快適に過ごせるように改善していっています。お客様アンケートでは、客室の評価は「普通」が一番多いですね。ですから、そのほかの部分で満足してもらえるように、サービスと食事の部分を特化していきたいと思っています。 私たちが目指しているのは「なんかこのホテル居心地がいいね」と言われることです。お客様が「ここは空気がいいよね」と施設ではなく、空気を褒めてくださったことがとてもうれしかったです。

 田中(社長):どんな店でも、特別何かがあるわけでもなく、新しいわけでもないのに、なぜか居心地の良い空気の店ってありますよね。そういうホテルでありたいと思っています。

 内藤:どの施設でもそうですが、日々清掃をしていると、いつまでも清潔な状態を維持できる。ホテルにとって清潔であることは極めて重要だと思います。初めてここを訪れたときに、細かいところをきちっと清掃されているなという印象が強かったですね。何か特別すごいことをやっているのではなく、地道に当たり前のことを積み上げているところが、ホテルナンカイ倉敷のすごいところだなと思っています。

ピンクリボンのお宿ネットワーク ― 観光と医療をつなげよう

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将)の鼎談企画を、3月31日付のタブロイド版「第24回全国女将サミット2013福島特集」で紹介している。同ネットワーク副会長の池山紀之氏と、乳房再建の第一人者でもある市立四日市病院形成外科部長の武石明精氏、総合病院土浦協同病院の乳がん看護認定看護師の関知子氏が医療現場から観た観光業界への期待や課題について語っている。本紙4月21日号で、同鼎談を拡大版として紹介する予定だ。

 「ピンクリボンのお宿ネットワーク」は昨年7月に発足して1年にも満たないが、初年度事業として、昨年12月に会員施設の旅館・ホテルの情報を紹介した冊子を10万部作成した。現時点で会員施設や、全国の主要550病院、冊子を要望する個人の方々などに約5万部が配布されている。

 武石先生は、乳房を再建される患者さんに手渡しで冊子を差し上げている。乳がん患者さんは、「医療に関すること」以外の質問を病院の医師に相談しづらいなか、武石先生は旅館の情報が載っている冊子を自ら手渡している。現在の医療の役割が患者さんの傷や病気を治すことだけでなく、以前のように温泉旅行に行ったり、スポーツができるようになるまでの心身のケアの必要性、つまり、クオリティー・オブ・ライフ(QOL)を重視する医師の信念によるものだ。武石先生の病院では冊子は「あっという間になくなってしまう」という。ネットワークの事務局を務める旅行新聞新社に「冊子をどんどん送ってほしい」と要望された。

 乳がん看護認定看護師の関氏は「患者さんへの退院指導の際に冊子を渡すようになって以来『本当に自分は温泉に行ってもいいんだな』と笑顔になる患者さんが増えた」と話す。「もっと、お宿のネットワークが広がるといいですね」と医療現場からの声を伝えていただいた。

 課題もある。ネットワークに加盟する宿は、経営者だけでなく、スタッフ全員が意識を共有することが大切である。

 ピンクリボンのお宿ネットワークは、全国の医師や看護師、医療関連企業とのつながりが強み。旅館単館での講習会や、温泉地が一体となったセミナーも可能である。観光業界と医療の現場との情報共有をもっと深めよう。

【編集長・増田 剛】

【3/30&31】千葉の富津で「アースディ」イベント開催 

 東京で、そして世界でおしゃれな環境イベントとして広まりつつあるアースディ。

千葉県富津市の金谷地区では、その趣旨を『鋸山(のこぎりやま)の保全』というテーマ一本に絞り、地域住民や企業と共同で地元密着した、そして継続できる(鋸山バウム基金も始まりました)地に足の着いたアースディを目指しています。

鋸山のエコガイド&コンサートツアー、害獣のイノシシのふるまいなどのイベントのほか、また、地域の恩恵というつながりで、海山の食育ライブキッチンや地元素材を使ったバウムクーヘンの野焼きなど、食の体験イベントも盛りだくさん。出展ブースもあります。

【名称】EARTH DAY KANAYA 2013
【場所】ザ・フィッシュ(千葉県富津市金谷2288)駐車場
    その他 鋸山百尺観音前など
【日時・時間】3月30日(土)・31日(日)11時~15時

詳しくはホームページをご覧ください。
ウェブサイト:http://www.thefish.co.jp/topics/earthday/index.html