重要性増す「食」 ― 地方創生には農業と観光の連携を

 2014年の訪日外客数が1300万人に届きそうな勢いである。安倍首相も観光による地域活性化の重要性を口にする機会が増え、ようやく日本にとって観光振興が大きな柱であることが、国政でも日常的に話題に上るようになってきた。

 衆議院が11月21日に解散した。前回の約2年前の選挙のときは立候補者から「観光は票にならない」という話をため息交じりに聞いた記憶があるが、今回も同じだろうか。それとも、地方創生がキーワードの一つとなっているなか、面白い切り口で「観光」による地域活性化を本気で語る候補者が現れるだろうか。とにかく、ただでさえせわしない年末に日本中を選挙カーが駆け巡る。内容が薄く、声だけが大きい残念な候補は「アマリ近クニ来ナイデネ」。

 11月の中旬に佐賀県を訪れた。佐賀県には嬉野温泉や武雄温泉、古湯温泉など歴史ある温泉地がたくさんある。唐津焼、有田焼、伊万里焼などやきものも有名だ。それ以外にも、呼子のイカや、佐賀牛、佐賀海苔、竹崎かになどの「食」も、全国の食通を呼び寄せるパワーを持っている。佐賀県はタマネギやアスパラガスなど農産物にも力を入れている。地方創生には、観光と農林水産業との連携がとても大切で不可欠であると思い知った旅でもあった。

 そういえば先日、「旅行業界におけるクレーマーの意義に関する社会学的一考察」(旅行新聞新社発行)などを著した関西学院大学総合政策学部講師の奥野圭太朗さんと雑談をしているときに、「今はドライブが趣味という人は少ない」というような話になった。免許をとりたての20代のころ、バイトをしてはレンタカーでクルマを借りて、行き先などどこでもよく、とにかくドライブをしていたが、あれから20年も過ぎ、単にクルマを運転している時間が好きで趣味だという人は、このご時世、希少生物なのかもしれない。

 お金と時間の余裕があれば、クルマを運転して、海岸線沿いや山の中を走り、海辺の宿に泊まって美味しい魚介を食べ、山の宿で温泉に浸かる日々を送りたいと日々想像している身である。そう考えたときに、農業や水産業に恵まれた土地は旅先として最適だ。日本の「美味しい」を探しに海岸線をドライブしながらゆっくり旅をしたい、と想いを馳せる。先日、「二つのアルプスが見えるまち」長野県の飯島町にも訪れた。リンゴやナシやマスカットが美味しく、フルーツ三昧の旅となった。美味しいフルーツに囲まれる旅も素晴らしいと感じてしまった。ふと思い出したが、佐賀県でも袋一杯に入った甘いみかんが100円とか、150円で売っていた。みかん好きとしては「ここは天国ではないか」と疑ってしまったほどだった。

 中国の食肉工場で期限切れ肉を提供するなど食の問題が話題になった年でもあった。今後食の重要性はさらに増していく。人口が少なく産業も廃れた過疎地はたくさんある。しかし、安易に電力会社を誘致して解決をはかる道を選ばぬ候補者が今こそ必要だと思う。農業や観光は未来の可能性を秘めている。観光業界でいえば旅行会社はもっと農家とも連携を強め、都会の若者と交流できるプランや、新しいグリーンツーリズムが企画されることを期待している。食の素晴らしさを伝え、観光と結び付けるスタイルを発信してほしい。

(編集長・増田 剛)

百貨店の外客売上120%増、免税制度改正で大幅増に

 日本百貨店協会がこのほど発表した、10月の外国人観光客の売上高・来店動向によると、調査対象の外国人観光客誘致委員会委員店46店舗の外国人観光客の総売上高は約86億7千万円で、前年同月比118・3%増と大幅に増加した。10月1日からの外国人向けの消費税免税制度改正効果を背景に、大きな伸びを示したと分析している。

 免税制度改正で新しく対象となった化粧品や食料品などの消耗品の売上総額は約10億5千万円で、全品目の総売上高の12・1%にあたる。化粧品と食料品の割合は約9対1。新しく対象となった消耗品を除く、一般物品売上高は同92・0%増の約76億2千万円。購買客数は同152・2%増の約11万6千人と大幅に増加した。一方、1人あたりの購買単価は、同13・4%減の約7万5千円と減少している。

 免税手続きカウンターの来店国別順位はトップが中国本土で、2位台湾、3位香港、4位タイ、5位韓国、6位シンガポール、7位マレーシア。10月は国慶節休暇期間にあたり、中国人観光客が大幅に増えた報告が目立ったという。

 外国人観光客に人気のあった商品は1位がハイエンドブランドで、婦人服飾雑貨、婦人服、化粧品、リビング・家庭用品と続く。

有休取得の義務化を

 ハッピーマンデーにより7月第3月曜日とされた「海の日」の再固定化議論が起こっている。久保成人観光庁長官は観光需要への影響に懸念を示し、業界からも不安視する声が聞こえる。確かに3連休が減れば旅行機運が減るのはまちがいないだろうが、間の平日に有給休暇を使い、「プチ長期休暇」に、ということもできなくはない。

 日本人の低い有休取得率は、さまざまな掛け声はよく耳にするが、実態としてなかなか変わらない。いざ上司に有休申請すると、微妙な顔をされるという話もよく聞く。経営者や上司の意識が変わらないことには、現場はなかなか休みが取りづらいのが現状だ。いっそのこと有休取得を義務化するぐらい大きく出てみてはどうか。「観光に来て」と呼びかけ他人任せにするのではなく、観光業界自らが社員に有休取得を義務づけ、観光を盛り上げていってはどうだろうか。

【伊集院 悟】

海の日 固定化に懸念、久保長官「観光需要に影響」

 観光庁の久保成人長官は11月19日の会見で、議論の起きている「海の日」の固定化について、「明らかに観光需要に影響が出る」と懸念を示した。

 国民の祝日の一部を月曜に固定し土・日曜日と3連休にするハッピーマンデー制度のもと、7月20日の海の日は2003年に、7月の第3月曜日へと変更された。久保長官は、ハッピーマンデー効果で鉄道や航空の輸送量、旅行需要が増加したことをあげ、固定化については、観光業や地域経済への影響を懸念。「さまざまな意見はあると思うが、観光需要への影響を踏まえて、丁寧に議論してほしい」と観光庁としての考えを示した。

 海事思想の普及や海事産業の振興については、「海から受ける恩恵など『海』について認識することはとても大切」とし、観光サイドとして「3連休でもっと『海』を訴えたり、旅行商品に組み込んだりしていってはどうか」と提案した。

好調なインバウンド、1300万人前後で着地

 10月の訪日外客数が、前年同月比37・0%増の127万1700人となり、1―10月累計で前年同期比27・1%増の1100万9千人と、すでに13年の年間過去最高値を上回ったことを受け、14年の訪日数の着地点を上方修正し、「1300万人前後では」と見通しを語った。

 好調なインバウンドの要因について久保長官は(1)アジアの経済成長や円安など、まわりの環境が整ってきたこと(2)東京五輪や富岡製糸場の世界遺産決定など、日本に注目が集まる機会が増えていること(3)ビザ要件の大幅緩和や免税拡充、CIQ体制の充実など、観光立国推進閣僚会議を立ち上げ、政府一丸となって取り組んでいること(4)観光庁とJNTOの的確な訪日プロモーション――などを挙げた。

 また、旅客船沈没事故の影響で船舶での訪日が大幅に落ち込んでいた韓国市場については、「九州への船舶での訪日が少しずつ戻ってきている」と現況を報告した。

大阪に新潟地酒の立ち飲みバル

 今年10月、大阪のビジネス街・天満橋に、地酒立ち飲みバル「新潟ぽんしゅバル・お越しや」が登場し、仕事帰りのビジネスマンらでにぎわっている。来年3月の北陸新幹線開業で、大阪から約3時間30分と近くなる新潟県をPRしようと、新潟県観光協会大阪観光センターがプロデュースした店舗。来年3月31日までの期間限定営業となる。

 ビルの地下1階に設けた、10人ほどでいっぱいになる小さな店舗には、新潟自慢の地酒が常時30種類ほどそろっており、1杯380円(税別)から楽しめる。約30種類ある料理メニューも、新潟伝統の家庭料理「のっぺ汁」、新ご当地グルメ「新潟メンチ」、新潟おでん、佐渡産「丸干しイカ」など、新潟の味覚がいっぱい。締めは、やっぱり新潟産コシヒカリのおにぎりで。

【塩野 俊誉】

ビッグホリデー50周年、1千人の関係者が祝う

会場には1000人を超える関係者が集った
会場には1000人を超える関係者が集った
岩崎安利社長
岩崎安利社長

 ビッグホリデー(岩崎安利社長、東京都文京区)は11月19日、東京都港区の東京プリンスホテルで創業50周年記念「感謝の集い」を開き、1千人を超える業界関係者が集まり盛大に祝った。

 岩崎社長は「50年前の1964年は東京オリンピックが開催され、新幹線や首都高速道路が開通した年。海外自由化や1ドル360円の時代でもあった。旅行についてはまだ黎明期であったが、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などが飛ぶように売れたモノの時代。それだけに日本経済が大きく転換し『これからの日本は明るいなあ』と感じられた時代だった」と振り返った。「その後、70年代からは、モノから『こころの時代』と言われるようになり、当社も順風満帆に業績も伸び、やりがいもあった。それがバブル崩壊とともに世の中が大きく一変し、SARSや、鳥インフルエンザ、リーマン・ショック、東日本大震災などが発生し、残念ながら倒産した会社も多くあったが、当社は皆様のご支持もあり、なんとか切り抜けることができた」と謝辞を述べた。「涙が出るほどうれしいのは、『ビッグホリデーは俺が育てたんだ』と言ってくださる身内のような方々がたくさんいること。このような方々のためにも、恥じない会社になるように社員一同、頑張っていきたい」とあいさつした。

 ANAホールディングスの伊東信一郎社長は「1977年の全日本空輸航空券の販売代理店認可取得から、37年の長いおつきあい。良い時も、厳しい時も我われの営業にとって盟友であり、戦友。常に新しいマーケット、需要を見て行動に移されてきたのは、岩崎社長のチャレンジ精神の表れだと思う」と語った。

 東日本旅客鉄道の原口宰常務は「JR東日本と委託販売契約を結んだのは1998年と、そんなに昔の話ではない。ただ、我われの旅行商品『びゅう』を厳しく、優しく育ててくれたのは、類まれな人脈と信頼、人間力を持つ岩崎社長で、心から感謝申し上げたい」と述べた。

 03年に同社とテーマパークの予約券取扱契約を結んだオリエンタルランドの加賀見俊夫会長は「岩崎社長とは仕事よりも個人的なつきあいの方が長い。決断力、行動力、お人柄に深くはまっていった。50周年は通過点で今後さらに発展するためのスタートラインであり、今日はキッフオフの日だ」と祝辞を述べた。

 当日、会場に歌手の堀内孝雄さんが友情出演したり、グループ社員総出演のビデオ「LOVEマシーン」を上映するなど和やかな雰囲気に包まれた。

 ビッグホリデーは1964年4月に東京都板橋区大山で「北日本ツーリスト・ビューロー」として創業。69年9月にブルーバス(現・千葉中央バス)と販売提携し「東京ブルー観光」に社名変更。79年2月にブランド名を「ビッグホリデー」に決定。85年7月には社名を「ビッグホリデー」に変更した。14年4月に創業50周年を迎えた。

外国人に人気の宿発表、日本らしい“趣”が人気(トリップアドバイザー)

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 トリップアドバイザーはこのほど、「外国人に人気の日本の旅館2014」「外国人に人気の日本のホテル2014」を発表した。ランクインした施設は、細やかなサービスを高く評価する口コミが多く寄せられ、旅館では露天風呂や部屋食のスタイル、畳の間など日本らしい趣が人気となった。

 13年10月から14年9月までの1年間に、日本のホテル・旅館に投稿された日本語以外の口コミを、5段階評価の平均、口コミ投稿数などをもとに独自のアルゴリズムで集計した。

 旅館のトップは「料理旅館 白梅」(京都府京都市)。次いでベスト10には、「澤の屋旅館」(東京都台東区)、「一茶のこみち 美湯の宿」(長野県山ノ内町)、「ファミリーイン西向」(東京都豊島区)、「山の茶屋」(神奈川県箱根町)、「志美津旅館」(大分県由布市)、「湯田中温泉 清風荘」(長野県山ノ内町)、「洗心館松屋」(長野県山ノ内町)、「元奈古」(京都府京都市)、「強羅花壇」(神奈川県箱根町)と続いた。

 ベスト20のうち、長野県山ノ内町が4軒、京都府京都市が4軒、東京都が3軒、神奈川県箱根町と熊本県南小国町が2軒ずつランクインし、特定の地域に偏る結果となった。

1―10月で1100万人、17市場で過去最高(10月訪日数)

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 日本政府観光局(JNTO、松山良一理事長)がこのほど発表した10月の訪日外客数は、前年同月比37・0%増の127万1700人と、10月としてだけでなく、年間を通じた単月としても過去最高を記録した。1―10月累計では前年同期比27・1%増の1100万9千人。13年に記録した年間の過去最高値の1036万人をすでに上回り、14年累計は1300万人前後となる見込みだ。

 3月から8カ月連続で月間の訪日客数100万人を突破中。消費税免税制度の拡充や大型クルーズ船の寄港、各市場において紅葉の魅力を集中的に発信したことが増加につながった。主要18市場すべてで前年同月比2ケタ増の好調な伸びとなり、ロシアを除く17市場が10月として過去最高を記録した。ドイツは単月としても過去最高を更新。中国、ベトナムに続き、1月から10月までの累計で、台湾、タイ、マレーシアがすでに年間の過去最高を上回った。

 重点市場の動向をみると、10月の訪日数が一番多かった台湾は同21・9%増の26万300人で、13年2月から21カ月連続で各月の過去最高を記録。宿泊施設やバスの手配価格、航空券価格の高騰などでツアー価格が値上がりしたが、東北方面への紅葉観賞を目的とした旅行商品は早期に完売するなど、販売状況は好調だった。

 韓国は同57・7%増の24万9600人と、10月の過去最高を記録。釜山と大阪を結ぶフェリーを利用した高校生の修学旅行が5カ月ぶりに再開した。

 中国は国慶節休暇の訪日が増加したほか、休暇後も需要が継続し、同84・0%増の22万3300人となった。

 香港は、同23・8%増の7万7300人となり、13年2月から21カ月連続で各月の過去最高を記録している。

 そのほか、フィリピンが同78・4%増、マレーシアが同35・1%増、ベトナムが同34・6%増となるなど東南アジアも好調に推移。タイが31カ月連続、ベトナムが34カ月連続で各月の過去最高を記録中だ。

 なお、出国日本人数は同5・3%減の141万7千人と、5カ月連続でマイナスとなった。

海外からアニメ聖地へ、メディア・ブロガー招請(関東運輸局)

コトブキヤで説明を受ける訪日メディア(手前)
コトブキヤで説明を受ける訪日メディア(手前)

 関東運輸局は11月17―21日に、地方自治体や民間企業と連携した海外観光プロモーション(ビジット・ジャパン地方連携事業)の一環で、関東でアニメの舞台になった地域や施設に台湾と香港のメディアやブロガーを招請するファムトリップを実施した。17日には東京都立川市で、立川商工会議所の案内でアニメの舞台視察と立川市内にあるプラモデル・フィギュアメーカー「壽屋(コトブキヤ)」を訪問した。

 舞台視察では、アニメ舞台になった場所や、アニメと連携した地域の商店などを訪問した。訪日メディアは、舞台となった立川駅前の交差点で、ガイドブックと景色を照らし合わせる、写真を撮るなど、いわゆる日本の「アニメ聖地巡礼」を行った。

 ツアーに参加した香港からのトラベルライター兼ブロガーのペース・チェンさんは「香港では日本のアニメは人気なので、日本に行ってアニメの舞台を見に行く人もいます」と話した。

 プラモデル・フィギュアメーカーの「コトブキヤ」では、同社の清水浩代副社長と戦略開発部戦略開発課の比留間誠課長が同社の歴史や地域振興をするに至った経緯を紹介した。

 比留間課長は「日本のお箸のデザインにスターウォーズのライトセイバーを採用するなど、クールジャパンを意識し、日本文化に合わせた商材も作っている」と語った。国内向けのフィギュアもアジア圏を中心に現在人気という。

 訪日メディアからは「台湾でフィギュアイベントはあるのか」「海外ホラー映画のキャラクターを美少女アニメ風にさせるのはなぜか」など、日本のフィギュア文化にも関心を見せるなど、活発な情報交換の場となった。

 18日以降は、埼玉県秩父市や茨城県大洗町など、現在人気のアニメ聖地の舞台視察に向かった。同事業は広域の地方連携事業で、実施主体は関東運輸局のほかに、埼玉県、秩父市、大洗町商工会、久喜市商工会、立川市商工会議所、東武鉄道、西武鉄道、時代村と多岐に渡る。

旅館で全国初耐震改修、中原別荘

耐震工事を完了したホテル正面外観
耐震工事を完了したホテル正面外観

10月完成、安心・安全で差別化

中原明男専務
中原明男専務

 建物の耐震化を義務づける「改正耐震改修促進法」が昨年11月25日に施行されて全国の旅館で初めて、鹿児島県鹿児島市の中原別荘(中原国男社長)が全面的な耐震工事を行い、10月20日から営業を開始した。

 同ホテルは1963年築の4階建て、67年築の6階建て、72年築の7階建て、そして2階建てレストランの4棟がつながる形で構成されており、「今後営業継続するなかで、改築より耐久を目指した工事を2012年から計画し、約800万円をかけて独自に耐震診断を行った」(中原明男専務)。

 結果、「補強すれば大丈夫」という診断を受け、動き出そうとした矢先、昨年5月に耐震法が閣議決定。11月に法律が施行されたなかで、改めて国の認定を受けるため2回目の耐震診断を受けた。

 ただ、中原専務は「耐震補強をしても、現在の耐震基準に沿った強度が出るかを一番心配した」という。診断の結果、同ホテルのコンクリートの状態は良好と判断され、これで計画が前に進んだ。

 中原専務は「銀行からは25年で融資を受けたが、借金の返済が終了したときが建物の寿命だと思っている。25年後が次の事業を考えるとき」と割り切る。とくに今回の工事では、耐震補強と合わせ、今年4月に改正された消防の表示制度への対応も重視した。

 工事では構造計算をあい設計、施工を竹中工務店、建築事務所はDAI建築デザインに依頼した。工事費は7億5千万円となった。国の補助は約3千万円だ。

 工事期間は5月30日から8月26日までの3カ月間、全館休業して耐震工事を行い、10月20日に完成した。社員は6割の休業補償を支払い、完成後には全員が復帰した。

 工事は複合型で強度を出すことが大きなポイント。ホテルの外側は学校などに使われるブレースのピタコラム工法にした。通常は鉄骨のブレースだけだが、鉄筋を入れコンクリートでかぶせて、さらに強度を高めさせた。

食事会場
食事会場
客室内部の耐震補強
客室内部の耐震補強

 柱は強固にするため繊維巻きにし、食事場所は柱の芯を太くするため土台をコンクリートで分厚くした。さらに耐震壁を7階まで設け、客室の一部にはブレースをはっている。

 また、耐震改修に合わせ、全館禁煙にも踏み切った。

 中原専務は「年間1万人の教育旅行を受けているが、東日本大震災以降、耐震改修済みや、基準を満たすホテルを希望する学校が増えた」と話し、「生徒の安全、保護者の安心に応えられることが、ほかとの差別化にもなる」と自信を見せる。

 今回の改修を機に、社名も「温泉ホテル中原別荘(全館禁煙、耐震改修済)」として、耐震に向けた決意を看板にも掲げた。