【2026年年頭所感・金子恭之国土交通大臣】 次期観光計画は3つの施策柱に

2026年1月5日(月) 配信

金子恭之国土交通大臣

 国土交通省の金子恭之大臣は1月1日(木)、2026年の年頭所感を発表した。内容は以下の通り(抜粋)。

                 ◇

 能登半島地震の発生から2年、そして、復興中の奥能登を襲った豪雨から約1年3カ月が経ちました。先月も、青森県において最大震度6強を記録する大規模地震が発生したところです。被災された方々におかれましては、心よりお見舞い申し上げるとともに、震災や豪雨によって亡くなられた方々の御冥福を改めてお祈りいたします。国土交通大臣就任後、直ちに能登半島の被災地へ視察に行って参りました。能登半島地震、東日本大震災をはじめとする被災地の賑わいと笑顔を1日も早く取り戻し、被災された方々の生活やなりわいの再建が叶うよう、国土交通省を挙げて、復旧・復興を、急いで参ります。

 本年も、引き続き、「国民の安全・安心の確保」、「力強い経済成長の実現」、「個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり」を重点的に取り組む3本の柱として、全力で取り組んで参る所存です。

□個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり

持続可能な観光の推進

 観光は、人口減少が進む我が国にとって成長戦略の柱、地域活性化の切り札です。昨年は、堅調な訪日需要と航空便の回復などに加え、持続可能な観光立国の実現に向けて官民一体となって取り組んだ結果、訪日外国人旅行者数や消費額は好調な状況です。一方で、インバウンドの観光客が都市部を中心とした一部地域に偏在する傾向も見られるほか、観光客が集中する一部の地域や時間帯等によっては、過度の混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響などへの懸念も生じております。

 本年3月には次期観光立国推進基本計画を策定する方向で検討を進めておりますが、観光客の受入れと住民生活の質の確保との両立のための施策により重点を置くべきであると考えております。また、地方誘客の促進のための交通ネットワークの基盤強化や観光まちづくりなどとも相まって、観光が地域住民に裨益し、観光地が持続的に発展していく姿を国民の皆様に示していくべきであると考えております。そのような考えのもと、次期観光立国推進基本計画では、3つの施策の柱を設定する方向で検討を進めております。

 第1に、「インバウンドの受入れと住民生活の質の確保との両立」です。インバウンドの受入れと住民生活の質の両立をはかるために、局所的・地域的に生じているオーバーツーリズムへの効果的な対策の強化をはかって参ります。また、地方誘客を進めるための広域的な体制、観光コンテンツ等の整備、そしてリピーターの拡大、未訪日層等も含めたさまざまな国・地域からの誘客を強化して参ります。さらに、地方空港、クルーズ船、空港アクセス、国内航空、新幹線利用などの交通ネットワークの機能の強化にも強力に取り組んで参ります。

 第2に、「国内交流・アウトバウンドの拡大」です。国内旅行の促進に向けて、ワーケーション・ラーケーションの促進等を通じた休暇の分散・平準化の促進、第2のふるさとづくりプロジェクトを通じた新たな交流市場の開拓に取り組んで参ります。また、海外旅行の促進に向けて、海外教育旅行を通じた若者のアウトバウンド促進や、地方空港を活用した双方向交流の拡大に取り組んで参ります。

 第3に、「観光地・観光産業の強靱化」です。観光産業における生産性向上のための観光DXの推進や、業務の効率化・省力化に資する設備投資への支援、民泊(住宅宿泊事業法)の適切な運営等の健全な競争環境の整備、ユニバーサルツーリズムなど多様なニーズへの対応に取り組んで参ります。

 また、こうした観光施策をより充実・強化するための財源に充てるため、国際観光旅客税の拡充をしていくことが、政府の税制改正の大綱に盛り込まれたところです。

 国土交通省としては、2030年訪日外国人旅行者数6000万人、消費額15兆円などの政府目標の達成、そして、観光によって日本の魅力・活力が持続的に継承・発展されていく姿を国民一人ひとりが実感でき、観光によって我が国が豊かになっていくことこそがまさに観光立国である、との気概のもと、官民一体・関係省庁一丸となって取組を進めて参ります。

各分野における観光関係施策

 昨年、我が国へのクルーズ船の寄港回数は、前年比で約2割増加しており、コロナ後のクルーズの回復が着実に進んでいます。また、寄港するクルーズ船の大型化が進む一方で、小型のクルーズ船が全国のあらゆる地域へ寄港するなど、船型や寄港地が多様化してまいりました。この流れをさらに加速させ、「2030年訪日外国人旅客数6,000万人・消費額15兆円」や「日本人クルーズ人口100万人」の目標達成に向け、各地域の皆様と連携し、多様なクルーズ船の受入環境整備や寄港促進に向けた取組、地域経済効果を最大化させるための取り組み、地方誘客促進に向けた取り組み、クルーズ旅客の裾野拡大等の取り組みを推進し、全国津々浦々に賑わいを創出して参ります。

 各地域に存する個性ある歴史資源を有効に生かした魅力的なまちづくりが全国で展開されるよう、歴史まちづくり計画作成の対象を拡大する制度の拡充や支援の強化に向けた検討を進めて参ります。また、地域の老朽化した建物群を官民連携で連鎖的にリノベーションし、エリア一帯で景観再生と活性化をはかる制度創設に向けた検討を進めます。こうした新たな景観・歴史まちづくりの取り組みによって、地方都市に投資を呼びこむとともに、街並みの再生をはかり、増加する訪日客をはじめ地方への誘客を強力に推進して参ります。

 「道の駅」は、地方創生や観光の拠点を目指す「第3ステージ」に入り、「まち」と「道の駅」が一体となって発展する「まちぐるみ」の取り組みや、災害時に防災の拠点となる防災機能強化の取り組みを進めて参ります。

 地方の誘客促進に向け、「観光の足」を担う交通機関において、多様な輸送手段を用いた二次交通手段の確保、交通手段に関する情報提供の充実、多言語による案内表示・案内放送の充実、キャッシュレス決済への対応、モビリティポートの設置、MaaSの推進等の取組を進めて参ります。

さいごに

 本年も国土交通省の組織が持つ「現場力」・「総合力」を最大限生かし、国民の皆様の命と暮らしを守り、我が国の経済成長や地域の生活・なりわいを支えるという重要な任務に全力を尽くして参ります。国民の皆様の一層の御理解、御協力をお願いするとともに、本年が皆様方にとりまして希望に満ちた、発展の年になりますことを心から祈念いたします。

【国土交通省】人事異動(1月1日付)

2026年1月5日(月) 配信

 国土交通省は1月1日付の人事異動を発令した。

 大臣官房付・派遣〈公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会業務執行理事・事務次長〉(大臣官房総括審議官〈併〉大臣官房地方室長)千葉信義

 大臣官房総括審議官〈併〉大臣官房地方室長(大臣官房付)甲川壽浩

 港湾局付・即日辞職(近畿地方整備局副局長)小林知宏

 近畿地方整備局副局長(近畿地方整備局神戸港湾事務所長)石原洋

 港湾局付・即日辞職(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会運営統括室担当室長兼会場運営局長)福西謙

 大臣官房付(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会交通局長兼会場運営局担当局長)淡中泰雄

 大臣官房付(佐賀県県土整備部長)永松義敬

 大臣官房付・派遣〈公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会国際出展工事推進部長〉(中日本高速道路本社経営企画本部経営企画部担当部長)坂井康一

 物流・自動車局付・即日辞職(独立行政法人自動車技術総合機構交通安全環境研究所リコール技術検証部長)真下一則

レストラン運営「三好観光」(徳島県)破産手続き開始へ(帝国データバンク調べ)

2026年1月5日(月) 配信

 三好観光(谷藤洋平代表、徳島県三好市)は2025年12月8日(月)に徳島地裁から破産手続き開始決定を受けた。帝国データバンクによると、負債は約1億8000万円。

 同社は1977(昭和52)年6月に設立されたレストランの運営業者。「レストハウスウエノ」の店名で、団体観光客や個人客を対象に多様なメニューを提供していたほか、仕出し弁当の販売も行っていた。

 しかし、徳島自動車道の開通などで集客力は徐々に低下。近年はコロナ禍の影響もあって業況は好転せず、厳しい資金繰りが続くなか、「25年12月1日までに事業を停止、事後処理を弁護士に一任し、翌2日に自己破産を申請していた」(帝国データバンク)という。

Loco Partners、中国のホールセラーDida Travelと連携 世界各国の旅行会社へ流通拡大

2026年1月5日(月) 配信

 ホテル・旅館の宿泊予約サービス「Relux(リラックス)」の運営会社Loco Partners(鷲野宏治社長、東京都港区)はこのほど、香港や韓国、アメリカ、ヨーロッパを含む200以上の国・地域にネットワークを保有する中国のホールセラーDida Travel(ダリル・リーCEO、中国・深圳)と連携し、同社のネットワークを通じた宿泊商品の販売を始めた。

 今回の連携により、Reluxに掲載されている宿泊施設は、Dida Travelのネットワークを通じて、宿泊商品を世界各国の旅行会社やOTAへ一括配信できるようになった。従来は直接つながることが難しかった訪日客に対し、海外の旅行会社を通じて宿泊体験を届けることができる。

 訪日客数が最多となるなか、Loco Partnersはこれまで、海外OTAとの連携を通じてグローバル販売を展開。Dida Travelと連携し、より多くの旅行会社やOTAに宿泊商品を提供できる体制を構築する。

ホテルルートイン大牟田が開業 福岡県内12軒目のルートイン

2026年1月5日(月) 配信

ホテルルートイン大牟田

 ルートインジャパン(永山泰樹社長、長野県上田市)は2025年12月26日(金)、福岡県大牟田市に「ホテルルートイン大牟田」(福岡県大牟田市岬町6-67)を開業した。県内で12軒目、ルートインホテルズ365号店目となる。

 西鉄天神大牟田線・JR鹿児島本線大牟田駅から車で約5分、有明沿岸道・大牟田ICから車で約2分の好立地。客室数は328室・総収容人数は467人。平面駐車場は234台用意する。

 大浴場「天然地下水 有明海の塩湯『旅人の湯』」は午後3時~午前2時、午前5~10時まで営業しており、男女それぞれ露天風呂とサウナも備える。無料朝食は午前6:30~9時まで、「Restaurant NAGOMI」で用意している。

 また、同日に別棟の「海鮮ダイニング九州美蔵(びくら)・焼肉華蔵(かぐら)」をオープン。夕食に利用できる。

 なお、ルートインホテルズ公式アプリでは新規ホテルオープン記念として、宿泊代が1000円割引になるクーポンを配信している。対象宿泊期間は3月31日(火)まで。

【阪急交通社・酒井敦社長 年頭所感】 時流を捉えた商品、サービス開発を

2026年1月5日(月) 配信

酒井敦社長

 阪急交通社の酒井淳社長は1月5日(月)、新年にあたり2026年の年頭所感を発表した。内容は以下の通り。

                   ◇

 旧年は、継続する物価上昇が、暮らしの負担となったほか、旅行商品への消費マインドに影響を及ぼしました。訪日旅行は、記録的な伸長を遂げた年となった一方で、海外旅行では、円安や燃油の高止まりによる厳しい環境が継続しました。日本人の旅行市場においては、旅行業界として、工夫や対策が必要な年であったと言えます。

 こうしたなかで開催された大阪・関西万博は、日本経済や旅行業界に大きな追い風となり、当社においても旅行商品の創意工夫や研鑽の機会となりました。国内旅行のほか、各事業部門における万博への取り組みが順調に進み、当社全体に好影響を及ぼす結果となりました。

 2026 年は、新内閣の経済政策が具体的に実施される年となり、事業環境も変化することが予想されます。物価高や円安のみならず、日中関係の影響を受けた両国間の国際線減便など新たな課題も生じつつあります。また、消費においては節約志向が進む一方で、価値を重視する消費行動もあり、二極化傾向が見られます。市場の見通しが難しい年になりますが、時流を捉えた新しい商品やサービスの開発に注力し、それぞれの品質を一層高めることで、顧客満足度の向上につなげていきます。

 国内旅行は、祭りや花火をはじめ、話題のイベントと観光を組み合わせた商品企画を全国各地発着で推進するほか、テーマ型商品の拡充をさらに進めます。海外旅行は、全国各地の空港から発着する高付加価値商品の開発を今後も継続します。訪日旅行は、今後も旺盛な需要が継続することが予想され、事業基盤の増強をはかります。また、引き続き重要なテーマである地域創生や、自治体の課題解決に向けたソリューション事業に取り組んでいきます。

 このように、2026 年は国内経済の動向や国際情勢など、日本を取り巻く環境は変動要因も多く、対応力が問われる年になりそうです。こうしたときこそ、ポジティブに変化をチャンスと捉え、社会に必要とされる企業を目指して邁進して参ります。

 本年は、冬季オリンピックや FIFAワールドカップなど、世界的なスポーツイベントが開催される年でもあります。このようなイベントが、旅行業界に新たな活気をもたらすことを期待しつつ、新年のごあいさつとさせていただきます。

【伊豆・坐漁荘オーナー 葉 信村総裁インタビュー】人材育成、「温泉旅館文化」継承を

2026年1月4日(日)配信

台湾・CIVIL-GROUP-総裁 葉–信村(Ye-Shintsun)氏

 静岡県・浮山温泉郷の「ABBA RESORTS IZU―坐漁荘」は現在、春の南館新築開業に向け、急ピッチで工事が進んでいる。施設オーナーは「CIVIL GROUP」(本社=台湾台中市)の総裁・葉信村氏。同グループでリゾートホテル事業を手掛ける「ABBA RESORTS」が運営を担い、24年には10周年を迎えた。本紙はこのほど、葉総裁の来日に合わせインタビューを実施。話題は坐漁荘の運営から新しい施設に託す思い、さらには人材育成、温泉旅館文化の継承に及んだ。

【聞き手=石井 貞德本紙社長、構成=鈴木 克範】

 ――一昨年開業10周年を迎え、良い方向に進化を遂げられています。

 企業経営には「理念」と「利益」、2つの要素が不可欠だと考えています。これは私が(台湾で)CIVIL GROUPを創業して30年間、常に抱いてきた信条でもあります。日々の経営の中で、常にこの2つを大切にしてきました。

 もしどちらかを捨てなければならないとしたら、私は利益を捨てて理念を残します。なぜなら、100年続く企業や宗教、国の多くは、理念があるからこそ永続的に存続できるのです。利益だけでは、企業は長くは続きません。理念の実現を信じるなら、人は迷わずその道を進むはずです。

 「ラストサムライ」という映画があります。トム・クルーズ演じるオールグレン大尉は、南北戦争で活躍した英雄です。映画の中で、(明治)天皇がオールグレン大尉に「武士のリーダーである勝元(盛次)がどのように死んだかを教えてくれ」と尋ねる場面があります。大尉はこう答えます。「どのように死んだかではなく、どう生きたかをお話ししましょう」と。この言葉に深い意味があると思います。理念を貫くためにどう生き抜いたか。これこそ私たちが考えるべきことです。

 坐漁荘を引き継いでからの10年間を振り返るよりも、実際に何が起こり、それをどう乗り越えてきたかを話したいと思います。これは私の性格でもあり、強いこだわりです。坐漁荘を引き継ぐきっかけは、1枚の浴衣から始まる美しい物語です。私は日本文化が好きで、その美しい誤解の中で坐漁荘を引き継ぐことを決意し、日本のおもてなし、温泉旅館文化を永続的に継承していくことを決めました。

 ――温泉旅館、日本文化の継承はどのように進めましたか。

 よく坐漁荘の管理職や旅行業者に、「温泉旅館に泊まらなければ日本に来たとは言えない」と話します。日本の魅力は温泉旅館文化にあります。これが失われたら、日本には何が残るのでしょうか。世界中を見渡せば、日本にあるものは他国にもあります。高層ビルや風景、街並みなど、どの国にも独自の魅力があります。日本にしかないもの、それが温泉旅館文化です。

 坐漁荘を引き継いでから、刀や着物を集め、茶道を広めることを通じて、温泉旅館文化の継承に力を注いできました。これを坐漁荘に根付かせ、外国人や日本人観光客が日本固有の文化を再認識できるようにすることが私たちの目標です。

 多くの日本人従業員から「あなたは日本人以上に日本人らしい」と言われます。しかし、先ほども言ったように、温泉旅館文化を失えば、日本には何が残るのでしょうか。その継承こそ私たちの目標です。この過程には、称賛もあれば無関心もあります。企業経営において、理念は利益よりも遥かに重要です。利益ばかりを追求することは意味がありません。

 ――課題はありますか。

 坐漁荘を引き継いでから、日本人が自国の文化を忘れつつあることに気づきました。これは非常に残念なことです。私たちが外国人に刀や着物を紹介すると、驚き、感動してくれます。一方、日本人にはそれがありません。非常に不思議で、悲しいことです。

 温泉旅館のソフト面も保存、継承されていません。坐漁荘を引き継いだ当初、従業員から「坐漁荘は旅館なのか、それともホテルなのか」と聞かれました。この質問には違和感を覚えました。外国では「ホテル」という言葉は旅館も含まれていて、規模が違うだけです。私の答えは明確です。「旅館もホテルも同じです」。なぜなら、顧客へのサービス、さらに期待を超えるおもてなしの精神は、名称に関係なく共通だからです。

 この10年、成果もあれば、多くの挫折も経験しました。なぜ温泉旅館の従業員は自分たちのことをホテルの従業員よりも劣っていると感じるのでしょうか。私たちはこの問題を深く掘り下げ、さまざまなことに気づきました。

 伝統的な温泉旅館では女将が「軸」であるという考えが根強いです。ほかの従業員は自分の意志を持たずに、女将の指示に従い、動いているだけです。これでは「お客様第一」ではなく、「女将第一」のサービスです。

 ただ、私は女将を否定しているわけではありません。女将は非常に大変で、尊敬される仕事です。しかし、企業が女将を中心に据え、他の従業員がロボットのように指示通りに動くだけでは、顧客のニーズを満たすことはできません。

 ――問題を乗り越えるために取り組むべきことは。

 日本の伝統文化、さらにはマネジメントの知見をもった人材の育成が必要です。

 私は大学にホテルマネジメント学科があるのに、なぜ「温泉旅館学科」がないのかが疑問です。世界中のさまざまなホテルに宿泊してきましたが、日本の温泉旅館は特別です。家族のような温かいおもてなしを提供し、心の安らぎを与えてくれます。一般的なホテルでは、チェックイン/アウトのときしか従業員に会いません。だからこそ、ここで強く訴えたいのです。温泉旅館の人材を育成する団体や第三者機関が必要です。

 育成機関で温泉旅館文化を支え、継承することで、持続的な発展が期待できます。1つの企業が永続的に経営できるのは、ハードではなくソフトに支えられているからです。

 今ならまだ間に合います。育成機関を設立し、温泉旅館の従業員がホテルマネジメント学科の卒業生と同等の評価を受けられるようにすべきです。育成機関の課程を修了すれば、「文化師」や「日本文化継承者」などといった資格を取得できるようにします。これこそが、激しいブランド競争や多店舗展開競争の中で生き残るための重要な法則です。

 経営が厳しくなっていく宿も多いなか、資源を共有し、その独自性をアピールしないと存続は難しいでしょう。今こそ、温泉旅館の皆さんが一致団結してほしいと思います。温泉旅館文化の継承は、我われ世代にかかっています。その協力は惜しみません。 

 ――温泉旅館の本質は。

 坐漁荘の従業員は非常に忠実に職務を果たしてくれています。とくに調理部門は、和食文化や創作料理を通じて、坐漁荘のこだわりを表しています。しかしながら、温泉旅館は食文化だけではありません。館内施設や庭園の紹介も重要です。これは世界中を見渡しても、ほかには見られない、特別な意味とスタイルを持っています。

 温泉旅館の従業員は、「四季折々の庭園の美しさを紹介できますか?」「料理人が和食に込めた思いや、おもてなしの心を料理で表現していることを説明できますか?」。

 これは私が最も痛切に感じる部分です。今回のインタビューを通じて、旅館業界全体に提案をしたいと思います。旧態依然とした考え方に縛られるべきではなく、現状を打破するのです。

 国際化やAI時代の到来に対応しながらも、人と人との触れ合いの中で感じる温かさや熱意を伝えることができるのが、テクノロジーではなく、温泉旅館です。これこそが温泉旅館の本質です。

 ――今春には南館が新装開業します。

 南館は築50年以上が経過し、老朽化が進んでいました。坐漁荘の規模を考慮し、より多くの子供たちが文化に触れられるよう、家族向けにメゾネット客室(4部屋)と露天風呂付きヴィラ棟(2棟)を新築します。

南館 外観(イメージ)

 「知は力なり」という言葉があります。私は台湾で子供たちにたくさん本を読んでもらいたいという思いから、図書館を設置しました。幼いときから、さまざまな知識を得ることは、人の成長に大いに役立ちます。南館での宿泊体験が、より多くの子供たちに、日本の温泉旅館文化を理解してもらうきっかけになればと願っています。

 さらに、日本の若者たちにも、祖先や両親がどのように歩んできたかを知ってもらいたいです。温泉旅館でスローライフを体験し、文化の雰囲気を感じてほしいのです。

 新しい南館は、日本の古典文学である「和歌」に着目し、宿泊客に単なる滞在以上の、奥深い日本文化の体験を提供します。コンセプトは「和歌に誘われる日本文化の旅」です。

 館内デザインは万葉集の世界観を取り入れます。6つの客室はそれぞれ異なる和歌の世界を表現し、宿泊客の五感に訴えかけます。泊まること自体が、豊かな日本文化に触れる旅となるでしょう。

南館客室リビング(イメージ)

 ――コンセプトがどのようなカタチになるか楽しみです。ありがとうございました。

 2014年設立。台湾をはじめ、中国や日本で事業を展開。傘下企業の事業分野は、旅行業、ホテル運営のほか、投資や電子商取引など幅広い。

■ABBA RESORTS
 2014年設立。台湾をはじめ、中国や日本で事業を展開。傘下企業の事業分野は、旅行業、ホテル運営のほか、投資や電子商取引など幅広い。

〈観光最前線〉プレミアムステイ静龍

2026年1月3日(土)配信

「プレミアムステイ静龍」和モダンツインベッドルーム

 栃木県の「鬼怒川グランドホテル夢の季」で昨年秋リニューアルオープンした「プレミアムステイ静龍」に宿泊してきた。「泊食分離型」のルームチャージ制を導入した、和モダンベッドルームの館内別旅館として誕生したもの。

 静龍フロアには専用カードキーを持つ宿泊客だけが出入り可能となった。客室は3タイプで和モダンベッドルーム(ツイン、ダブル)のほか、同館唯一の露天風呂付きスイート「翠嶺」も完成した。

静龍フロア宿泊者限定露天風呂「竜宮」

 新設された専用プレミアムラウンジでは、ワインやビール、ソフトドリンク、菓子類などが自由に楽しめる。静龍フロア宿泊者限定で露天風呂「龍宮・小槌」が利用可。プライベートサウナは大谷石で造られており、サウナが苦手な人でも大丈夫な、栃木県ならではの「癒しのサウナ」が堪能できる。

【古沢 克昌】

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その57- 銚子の飯沼観音巡礼(千葉県銚子市) 十一面観音のお力に触れる旅 日本百観音の最東端の寺院

2026年1月2日(金) 配信

 東京からみて、一番東になる千葉県銚子市には、鉄道ファンのみならず、多くの人たちに愛されている銚子鉄道があります。銚子駅から終点の外川駅の間には「観音駅」があり、その駅の近くには、「銚子の観音様」と親しまれている、今回の精神性の高い旅先である「飯沼観音」がいらっしゃいます。

 東京駅から、特急しおさいで銚子までは、1時間50分程度で到着。JR総武本線「銚子駅」から徒歩約15分であり、銚子電鉄「観音駅」からだと徒歩5分程度とアクセスが良く、思い立ったが吉日でお参りできます。海辺の近くにありますので、磯の香りを味わいながら、十一面観音菩薩様と静かに心の対話ができて、充足感が深くなるでしょう。心の中に溜まっている不安や悩みを、そっと十一面観音菩薩様に打ち明けてみたら、心身ともに楽になれるかもしれません。

 

 

 飯沼観音は、正式名称は「飯沼山圓福寺」。坂東三十三観音霊場の第27番札所としても知られ、古くから信仰を集めてきました。坂東三十三観音霊場とは、神奈川県、埼玉県、東京都、群馬県、栃木県、茨城県、千葉県にまたがる観音霊場で、祈願の成就を願って巡礼するものです。また、西国三十三観音・坂東三十三観音・秩父三十四観音を総称して「日本百観音」と呼ばれています。

 さて飯沼観音は、約1300年前の神亀5年、観音様のお告げにより、漁夫の清六と長蔵が観音様を引き揚げたことが縁起といわれています。圓福寺にお祀りされているのは「十一面観音菩薩」と呼ばれる頭部に11の顔を持つ観音様です。

 そして、十一面観音菩薩様は病気平癒、財福授与、勝利、延命などの現世利益と、地獄に落ちず極楽浄土へ行けるといった来世の功徳をもたらすとのこと。頭上の11の顔であらゆる方向を見渡し、人々を苦しみから救い、願いを叶える観音様。

 信仰の歴史と広がりとしましては、十一面観音菩薩様は、奈良時代から広く信仰され、延命や病気治療などを願って多くの場所で祀られてきました。千手観音菩薩様と並んで人気の高い観音様であり、六観音の一つとして修羅道に迷う人々を救うとされています。

 

飯沼観音本堂

 圓福寺は、観音様がいる「本堂・飯沼観音」と、歴史的に貴重な寺宝を展示する「本坊・大師堂」の2つのエリアに分かれています。戦後の区画整備の影響で現在は道路で分断されていますが、かつては一つの広い敷地でした。

 本堂は参拝や祈願・祈祷をする場所で、本坊は、納経や御朱印集めを目的に訪れる場所。順序としては、まず本堂・飯沼観音を参拝してから本坊に立ち寄るのが良いとのことです。

 本堂の前には、1711年に造立された約5・4㍍の銚子大仏(阿弥陀如来坐像)がいらっしゃいます。ご本尊の飯沼観音がいらっしゃる本堂にある、賽銭箱の頭上から下がる五色の紐を握ることで、観音様とつながることができます。

 

飯沼観音銚子大仏

 また、賽銭箱の脇にはお釈迦様の弟子の一人「おびんずる様」が鎮座。おびんずる様は「なでると病気が回復し健康になれる」といわれていて、参拝に来た人たちは自身の不調な部分をなでていくようです。

 本堂は自由に見学することができ、中に入ると、圧巻の広間にある天井図をご覧ください。美しく凛とした「坂東三十三観音」のすべての彩り豊かなお姿を鑑賞することができます。反対側の天井には、「四国八十八ヶ所」のすべてのご本尊が描かれています。心機一転、銚子の観音様パワーで新年を迎えてみませんか。

 毎月8の付く日(8日、18日、28日)、土日に加えて、年末年始の12月下旬―翌1月3日は、飯沼観音本堂と五重塔がライトアップされます。

 

旅人・執筆 石井 亜由美
カラーセラピスト&心の旅研究家。和歌山大学、東洋大学国際観光学部講師を歴任。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。

【特集 No.675】2026年新春インタビュー 内藤耕氏に聞く 革新「清掃・洗濯の内製化」へ

2026年1月1日(木) 配信

 人手不足に加え、賃上げや物価上昇が続く旅館業界。コスト上昇に比例して売上が増えない時代において、工学博士の内藤耕氏は、経費の巨大な塊である「清掃」や「洗濯」を現行スタッフの余力を使って内製化し、固定費を下げることを勧める。ポリエステル性の新素材シーツや、浴衣に代わって作務衣の導入も提案する。洗濯業務の内製化によって「コスト上昇分を上回る利益」をつくる革新的な取り組みが、既に幾つかの旅館で始まっている。

【本紙編集長・増田 剛】

賃上げ、物価上昇続く時代 現行スタッフの余力で利益を

 ――宿泊業を取り巻く市場環境をみると、人手不足の問題に加え、賃上げと仕入れのコスト上昇分をいかに価格転嫁してそれらを上回る売上を求めていかなければならない、とても厳しい状況にあります。

 おっしゃる通り、賃金の上昇や原材料などの仕入れ価格の値上げ分を何としても単価アップで価格転嫁できなければ企業経営を続けるだけでなく、スタッフの雇用や生活の質の向上も実現できません。しかし、現実としてインバウンド客が集まる一部を除いて、ほとんどの地域では人口減少に起因する地域経済の疲弊で需要が縮減し、さらに過当競争の激化も相まって、現状ではなかなか宿泊単価や売上高を増やす状況にありません。

 一方で賃金や物価上昇は今後も続くことが予想されています。売上高や客単価だけに着目する方法だけではなく、これまで以上に日々の固定費をどのようにコントロールし、それを抜本的に下げていくことも同時に考える必要がますます重要になってきています。

 ――確かにそうですが、具体的にどのようにしたら良いのか、どこの施設も試行錯誤しています。

 宿泊業において、最も大きなコストの塊が人件費で、その管理方法についてまずマルチタスクという視点から紹介します。今回はさらにそれ以外の清掃やリネン類、食材といった仕入れの固定費と捉えられるコストについても考えていきます。とくにこれらの費用は、現場のサービス品質や顧客満足の維持向上に直結しますが、どのようにそれらを毀損させず、同時にコスト削減も具体的に実現していくかの工夫がさまざまな施設で始まっています。

 そもそも宿泊業の宿命としてお客がいるところで多くの業務が執り行われるサービス提供の「同時性」が存在します。例えばフロントスタッフが業務効率を上げてチェックインをよりスピーディーに対応しても、お客が次々と連続して来館しなければ、結果として手待ち時間というムダをより多く作るだけ、ということが起こります。加えて手待ち時間ができた結果、現場がその状態を基準と認識してしまうと、瞬間的に忙しい時間帯を人手不足と感じてしまい、これにより現場で働くスタッフが人員増を要求する状況をもたらします。

 つまり、この問題を解決するために、業務効率化への取り組みによって生じたこのわずかな手待ち時間で「別の業務をやりましょう」ということが大事だということです。この取り組み自身は、既に多くの現場で「マルチタスク」として認識されています。しかしこのマルチタスクは、「言うは易し行うは難し」です。

 仕事に慣れていないスタッフがいきなりわずかな時間だけ来ても戦力にならないだけでなく、業務方法をその都度教える時間も入れたら現場レベルでは必ずしも効果的ではないことになります。つまり、マルチタスクに取り組むには課題が意外と多くあるということです。

 マルチタスク化による生産性向上で最も大事なのが業務の「単純化」と「標準化」です。これが実現しなければ教育の負担が現場のスタッフにその都度のしかかるほか、練度の高い人材にしか業務ができない状態になってしまいます。このため、昨今多くの現場で利用が進んでいるスポットワーカーの募集サイトをみても、結果的に「経験者求む」という条件が多い印象があります。このマルチタスクを行うスタッフとは、いわば社内スポットワーカーと見ることができます。

 このため、お客がいないときにフロントスタッフが売店スタッフを掛け持ちし、必要に応じてレジを打つ場合などは、相互に移動しやすいだけでなく、フロントと売店が同時に見渡せるような空間レイアウトがとても大事になってきます。

 また、とくに大型旅館でしばしば見られますが、専任のスタッフが数人張り付き、またそれをお客がいない日中に専用の設備を使って食器洗浄している光景です。これと真逆の方法として、食事処で下膳しているホールスタッフがレストランの横に設置した小型の食器洗浄機で下膳から連続してこまめに食器洗浄する方法もあります。

 この食器洗浄で問題なのが、大きな食器洗浄機を導入しようとすると広いスペースが必要となり、結果としてレストランから離れた場所に設置しなければならなくなることです。

 このように場所が離れると、下膳後に食器の整理や残食の廃棄、運搬、洗浄後の分別と保管といった業務工程が細かく分割され、投入しなければならないスタッフ数が多くなるだけでなく、各工程の間で食器類が停滞を引き起こして業務量が増え、結果として会社として利益を生みにくい体質となってしまいます。

 つまり、このように運ぶ距離や時間が長くなり、また業務の種類も増え、自然に分業してまとめて作業するようになってしまい、だからこれまではホールスタッフと食器洗浄は別々の専門チームが担っていたのです。

 逆に、こまめに洗浄することで小さな食洗器で対応できるようになると、それを食事処の横に設置できるようになります。そうすると下膳と洗浄が同時に連続して一体になってマルチタスクでできるようになります。さらに余剰となった食器洗浄スタッフも下膳に回れるようになり、食事処に投入できるスタッフ数が増え、客回転を上げることで待ち時間を減らせてサービスレベルもより上げることができます。

 つまり、このレイアウトへの設備投資と業務フローづくりに取り組まなければ、マルチタスクは細かいところで動かなくなるということです。また、施設ができ上がってしまうと施設変更の工事は難しいので、マルチタスク推進への改革には、業務方法だけでなく、施設レイアウトや設備の選択といった視点が大事になってきます。

 そして誰でもその日から現場の即戦力になるよう、業務フローの単純化・標準化が必要です。旅館の厨房でその日のプランに合ったお皿を人数分そろえることを指示されても、プランごとにどのお皿を使い、どこに収納してあるかをすべて覚えるだけでも高度な技能職になってしまいます。

 このため、ある旅館の調理部は、エクセル上でコース料理を管理しているので、コース名と人数を入力すると、自動的に必要なお皿のリストが表示されるようにしました。そして、次に問題となったのが、お皿の名前がすべて漢字表記だったことです。これをローマ字と数字の組み合わせによる記号表記にして食器庫に定位置保管するようにしました。

 これにより、日本語に不慣れな外国人スタッフでも、プランに合ったお皿を人数分すぐに間違いなく持ってくることができるようになりました。つまり、それぞれの業務に慣れていない、例えばベテランの事務スタッフでさえも、スキルレベルだけを見ると日本語に不慣れなスタッフと同じ水準で、マルチタスク化を現場で進めていくには、このように業務の単純化・標準化が大事となり、それによって生産性向上により固定費の削減につながっていきます。

 ――業務の内製化を強く勧められています。

 旅館やホテルといった宿泊施設では清掃や洗濯、食材の仕入れなどが外注されています。当たり前のことですが、これら費用の中には必ず人件費が含まれています。分かりやすいのが日々の清掃業務で、その大部分は人件費です。食材などの仕入れも、食材費だけでなく、それに取り次ぎや加工、運搬といった手間が掛かっていて、それらが人件費として食材に上乗せされています。

 もしこのようにアウトソーシングしているさまざまな業務の一部だけでも、直雇用する社内スタッフによるスポットワークで内製化することができれば、外部に流出し続けている多くの人件費を、追加の賃上げとして支払っていくことができるようになります。

 ――業務の内製化についてもう少し具体的に教えてください。

 既に多くの前例がある宿泊業にとって必要不可欠な日々の清掃業務で、そうしていない施設があればこの内製化を積極的に進めていく価値があります。

 清掃業務の多くは一般に時給制のパートスタッフによって執り行われ、その肉体的負担から離職など流動性も高く、どこも定着率の低さに課題があります。応募者数も少なく、地域によっては人材が周辺にいないこともあります。

 内製化に着手しようとしても「そもそも人手不足なので、内製化するとさらに現場が回らなくなる」と言われることもあるでしょう。

 しかしながら、幾つかの施設で清掃の内製化に取り組んできましたが、結論から言えば、いずれの旅館もスムーズに移行できました。マルチタスクや業務の単純化などによって、人件費を減らして既存の固定費の中で回るようになった施設さえあります。

 この清掃業務を外注しますと、旅館側は清掃業務の生産性向上への取り組みに関心が希薄になりがちです。それは、清掃業者と1部屋当たりの清掃単価で契約していることが多いためで、生産性向上に取り組んで清掃業者にメリットがあったとしても、宿泊施設側にそれが無いからです。

 そのうえで、清掃方法に手を付けて外注業者の負担が少しでも増えると値上げ交渉されてしまうケースもあります。パートスタッフ中心の清掃業務は最低賃金が上がっていけば、その経費も価格転嫁されて上がっていきます。

 このように清掃のアウトソーシングは課題山積です。この意味でも清掃の内製化は、売上が増えない時代における会社全体の生産性向上によって生まれた人員の余力を使って、マルチタスクで進められる、とても大きな業務となります。この外注している清掃はとても大きなコストの塊のため、内製化し、清掃自身の生産性向上によって固定費をさらに下げることができれば、会社にとってすぐに大きな効果が出てきます。

 ――タオルやシーツ、浴衣といったリネン類の洗濯も、経営コストの大きな塊として存在します。

 洗濯の内製化に取り組む宿泊施設はまだほとんどありませんが、ゴルフ場では自分たちでタオルを洗っている施設は多い。健康ランドではタオルだけでなく、作務衣(部屋着)も自分たちで洗濯しています。

 このように他業種で洗濯業務を内製化している施設を数多く見てきた経験から、それほど難題だとは思っていません。ただし宿泊施設で問題となるのはシーツ類と浴衣です。これを上手く対応できれば、内製化へのハードルは一気に突破できます。

 旅館の部屋着は浴衣が中心ですが、多くの健康ランドでは作務衣を導入しています。浴衣の素材は綿製がほとんどで、洗濯後に糊付け・プレス(アイロン掛け)をしなければならず、どうしても大型の設備が必要になってきます。

 一方、作務衣は生地の特性上、プレスをする必要がない。近年は作務衣を導入する旅館も増えてきており、これにより洗濯業務の内製化のハードルの一つを解消できます。

 もう一つのハードルが敷き布団・ベッド、掛け布団、枕用のシーツ類ですが、最近大きな解決策が見つかりました。プレスが不要な伸縮性のある業務用にも耐えられるシーツを、ある繊維メーカーと共同開発しました。これを現在2つの宿泊施設で使用していて、この前例に触発されて、さらに複数の宿泊施設が洗濯業務の内製化の検討を始めています。

 一般的に使われているシーツ類の素材は綿です。綿は浴衣のようにしわができやすいため糊付け・プレスが必要ですが、今回開発したシーツの素材はポリエステル製です。最近のスポーツシャツはほとんどがポリエステル製になっていて、その肌触りも絹(シルク)のように滑らかで、最大の特徴である伸縮性によってしわになりづらいため、プレスせずにそのまま使えることが大きなメリットとなっています。

 一般にベッドメイクや布団敷は2人がかりの大変な肉体労働です。シーツをプレスしないため、4面立方体の3面を箱型の形状のベッドマット用のフィットシーツが実現しました。これはベッドの四つ角にそれぞれひっかけて覆うだけのベッド用フィットシーツで、ベッドメイクの肉体的負担も大幅に軽減されただけでなく、1人でベッドメイクができるようになりました。同様に敷布団や掛け布団用のシーツも同時に開発しました。

 専門業者と開発したこのベッド用のフィットシーツは1枚4千円(税別)ほどで、毎日使用して洗濯したとして、長期間は繰り返し使用できる耐久性もあります。業務用洗濯機などのランニングコストを入れても、ベッドメイクの負担軽減も加味すれば、これまでの洗濯の外注費に比べて圧倒的に経費が圧縮できます。

 ――内製化により、洗濯のコストや作業負担が増えるのではないでしょうか。

 これまでの実績として作業負担はそれほど増えていません。

 まずベッドメイクが非常に楽になること。もう一つは、外注の場合、すべてのリネン類を種類別に仕分けし、外注業者に引き渡す通用口までは施設側で運ばなければなりません。

 つまり、通用口まで運んでいたリネン類を、洗濯機まで持っていくことの違いで、あとはこれらシーツ類の仕分けの代わりに、洗濯機への出し入れがあるだけです。既に洗濯を内製化している施設では、フロア単位で仕分けすることなく色々なリネン類を同時に洗濯し、洗濯・乾燥後に同じフロアに戻すため、在庫保管も不要となるメリットがあります。

 光熱費についても、省エネ化への取り組みが進んでいることもあって、導入した施設ではコストが上がったという認識はありません。

 洗濯を業者に頼むと引き渡し、洗濯、納品に数日要しますので、各施設ではどうしても数日分の在庫を抱えることとなります。一方、洗濯業者はできるだけ保管したくないので、施設側は繁忙期にタオルなどが不足する事態も発生するとも聞きます。内製化すると、その日に施設内で洗って再びお客に提供することを繰り返すことで、その不足を心配することもなくなります。

 ――専従のスタッフは必要ですか。

 社内の既存スタッフのスポットワークによるマルチタスクで対応できています。洗うのは洗濯機なので、基本的な作業は出し入れと部屋着やタオルの畳みだけとなります。外注の場合でも、タオルを客室に入れる場合には、スタッフが畳まなくてはなりません。どうせ畳む作業があるのであれば、内製化しても作業量が大きく増えることはありません。

 フロントの裏側や事務所で、スタッフの手待ち時間にタオルや部屋着などを畳むことも可能です。また自ら洗濯することで、お客がタオルを何枚使っても会社は経費を心配しなくて済むようになり、顧客満足も上げられます。

 ――洗濯機の導入コストは。

 業務用の洗濯機と乾燥機を一台ずつで設置工事も合わせても数百万円ほどの初期費用で、これに消耗品となるリネン類の購入費用が継続的に加わります。

 大型旅館の場合、当方の経験ではそれぞれ洗濯機と乾燥機が2台ずつあれば対応可能で、洗濯の外注コストに年間数千万円を支払っている状況を考慮すれば、これらの初期投資は短期間で回収できる試算になります。

 ――物価高騰により、旅館では食材コストも大きな塊となっています。

 食材も清掃や洗濯と同じように、生産者や卸売事業者の人件費が上乗せされています。ということは、加工品ほど人件費が多くなります。できるだけ加工品を使わず、材料から調理をしていく。社内に調理人という職人を抱える旅館は、このような問題点も解決できます。

 料理のお品書きは、どこまで決めなくてはならないのか。最近は料理の写真も〈イメージ〉と書いておけば許容されるようになってきました。

 作ったメニューを基に食材を仕入れるのではなく、仕入れた食材からメニューを組み立てることを幾つかの旅館で議論し、実践し始めています。

 旅館側は食材原価率を下げたい。しかし、メニューが先に決まっていると、季節が多少ずれるだけで、遠方から食材を取り寄せなければならなくなります。つまり、各日に仕入れた「安くて美味しい旬の食材で何を作るか」を考えた方がコストは小さくて済みます。

 ある大型旅館では、刺身にどんな魚種を盛るかをお品書きにも事前に特定せず、地元でその日に水揚げされた旬の魚を仕入れによって提供するようにしました。

 野菜や魚といった食材の旬と言われる期間は一般に短く、おおよそ2週間ほどです。四季ごとにメニューを変えている旅館も多くありますが、そのほとんどの期間が地元の旬を外れています。そうすると遠方から運ぶこととなり、仕入れ値はどんどん上がっていきます。

 仕入れ業者に定額の予算の中で旬の食材をお任せするやり方もあり、それを始めた旅館もあります。厨房スタッフも箱を開けるまでどのような種類の食材が入っているか分からないのですが、原価率を下げる有効な取り組みの一つと言えます。安くて美味しい旬の食材を使って原価率を下げつつ、旬の良い材料を使った方が調理人のモチベーションも上がります。

 私は美味しさの定義を「出来立て」と、もう一つは「好きな料理を出すこと」と割り切って考えています。つまり、肉が苦手な人に肉を出しても喜ばれません。好きなものを食べてもらうには、お客自身が食べたい料理や好きな料理を選択できた方が良いに決まっています。

 ある旅館では、肉や魚、野菜といった原価率の異なる食材の料理の選択制にしたところ、どれも均等に選ばれました。お客は食べたい料理を選ぶ人も多く、必ずしも原価の高い食材を選ぶとは限らないのです。

 さらに、お客が食べているときに調理することで、出来立て料理が提供できるようになるだけでなく、好き嫌いだけでなく、量への対応も可能で、結果として残食も減らすことができます。ある旅館で、好きな量だけ提供するようにしたら、お客の多くが「一口だけ」と言い、結果としてこれまで作り過ぎだったことが分かりました。つまり、お客の嗜好に合わせていくことも原価率を下げる方法の一つとなります。

 このような新たな視点も取り入れて食材仕入れコストをコントロールする取り組みも始まっています。

 ――ありがとうございました。

【本紙1966号または1月6日(火)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】