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〈旬刊旅行新聞6月21日号コラム〉コロナ禍の生活  生きる営みのしぶとさが美しくもある

2020年6月20日
編集部:増田 剛

2020年6月20日(土) 配信 

生きている限り、人は生活を続ける

 朝目が覚めて、顔を洗い、簡単な食事をする。Yシャツに着替え、マスクを胸のポケットに入れて、駅までの道を歩く。

 
 住宅街の小さな裏道を選んでいるために、あまり人とすれ違わない。だから、マスクは外している。
 
 そうすると、色々な木々や季節の花の匂いがして、自分が生きていることを実感できる。10分も歩くと駅の構内に入る。私はマスクを取り出して、鼻と口を覆う。
 
 朝の通勤電車は少しずつ混み始めているが、新型コロナウイルスの感染が拡大し始める前に比べると、圧倒的に少ない。リモートワークなどをされている人が増えているのだろう。
 
 電車の中は皆、無口のため車内は静かだ。リモートワークが難しい職種や、環境が整備されていない人たちが都心に向かっていく。
 
 会社に着くと、入口で両手をアルコール消毒する。一番早く出社した者が、窓やドアをすべて開け、換気を良くする。
 
 それから、いつものようにパソコンの電源を入れて、メールのチェックや、FAXで届くさまざまな情報を確認する。新聞社には、毎日驚くほどの記者会見や発表会の案内が届く。だが、緊急事態宣言が出されてからは、記者会見の案内は皆無になった。そして、緊急事態宣言が解除された今も、まだほとんどない状態だ。
 
 6月の中旬になって、ようやく会社に来客が増えてきた。
 
 訪れる人は、みんなマスクをしている。数カ月ぶりに会うので、「お元気でしたか?」と声を掛け合う。ひと通り世間話をして、人の移動と交流が制限されている観光業界の今と、未来を予想し合い、「早くコロナが終息してほしい」という“願い”に着地する。
 
 昼食は会社に近い、いつものコンビニエンスストアで弁当を温めてもらい、自分の机で食べる。金銭の受け渡しは手ではなく、一度トレイに置く。どのくらいの効果があるのか、よくわからない。
 
 夕方まで集中して仕事をし、早めに帰宅するようにする。
 
 家に帰ると、お風呂に入って、軽く缶のレモン酎ハイを飲みながら、夕食をとる。お酒の量は随分減ったと思う。安価で美味しいつまみが年々好きになる。高価な食材には、あまり興味はない。それから眠くなれば寝る。
 
 翌朝目が覚めると、前日と同じようなことを繰り返す。 
 
 こうしてコロナ禍の1日を文字にしていくと、つまらない生活のように感じるが、本人はわりと満足している。
 
 新型コロナウイルスの感染が拡大してからも、私の生活自体は激変していない。以前と異なるのは、外出中の大半はマスクをしていること、手洗いをしっかりとするようになったこと、アルコール消毒を小まめにしていることくらいだ。
 
 そしてもう一つ、「旅が思うようにできない」と感じることが大きな違いだ。しかし、それも少しずつ解消されていくだろう。なぜか。旅も仕事と同様に、生活の一部だからだ。
 
 人はどんなに大きなダメージを受けても生きている限り、生活を続ける生き物だ。生活とは良くも悪くも生命維持への繰り返しだ。生きる営みの個々は見苦しくもあるが、そのしぶとさが、美しくもある。旅も立派な生活であるため、再び活動を始める。
(編集長・増田 剛)

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