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〈旬刊旅行新聞4月11日号コラム〉木に目が行く―― 調度品の「本物」度合いで宿を選ぶ

2022年4月9日
編集部:増田 剛

2022年4月9日(土) 配信

 運動不足が続くと、休日には川沿いの細い道を数キロ歩く。ただ歩くだけではつまらない。自然と何かに目が行く。その「何か」は、現時点で自分が関心のあるものだ。

 

 最近は、木に目が行くようになった。老人である。

 

 自分が何に興味があるのか、まったく分からなくなることがある。何に対しても興味や関心が湧かない状況は、あらゆる思考や束縛から解放されて、まったくの自由で、心地よさもないではない。しかしながら、新聞記者という生業で、周囲には信じられぬほど「意識の高い」人々に囲まれるなか、さすがの私も「これではマズイ」と思うこともある。そのようなとき、大型の書店に立ち寄る。

 

 脳内は完全なるニュートラルな状態で書店に入る。一生かけても読むことができない大量の本の背表紙や、平台に積まれてある最新刊のタイトルなどを眺めているうちに、自然と手が伸びる本がある。そうすると、止まらなくなり、書店を出るころには、自分が興味を持っているものが明瞭になる。

 

 

 「木に目が行く」というのは、枝先の美しい花や葉ではなく、幹を覆う分厚い皮の質感や、全体のフォルムである。

 

 木に興味が向かう引き金になったのは、我が家に住むヘルマンリクガメの影響が大きい。

 

 彼はまったく言葉を発しないが、毎朝彼が生きていることを確認するだけで、私は勇気をもらえる。小動物の生命など、いつ絶えても不思議ではない。しかも、爬虫類は冬の間は危険だ。常に温かくしてあげているが、動きが悪い。しかし、目の前をノコノコと歩くこんもりとした甲羅を眺めていると、「何一つ不満を言わずに生きること」の幼気さを感じてしまう。

 

 木も同じだ。無言だが、しっかりと生きている。地面から養分や水分をしっかりと吸い取って、光合成の過程で二酸化炭素が固定され、酸素を発生している。街ゆく人々よりも長くこの世界に住み、毎年花を咲かせる。若いころは屋久杉などに関心がなかったが、今は樹齢1千年を超える歴史を刻んだ、その雄大な姿を見上げたいと思う。

 

 

 4月1日からプラスチック資源循環促進法が施行された。歯ブラシなどプラスチックを使ったアメニティグッズの見直しなどを行っている宿泊施設も多いだろう。プラスチック製品は安価で便利なため、「使い捨て」にはぴったりだが、愛着は湧かない。そして大量に廃棄された姿は、美しくない。

 

 

 先日、よく行く骨董屋さんにふらっと入り、大正から昭和初期に作られた大きな欅の箪笥を購入した。金額も決して安くはなかったが、「もう二度とこのような家具と巡り合うことはないだろう」という逸品だった。曲線を織り交ぜた独特のデザインで、100年前の古き良き時代の香りのするものだ。

 

 「ちょっとオシャレで、それっぽく見える」家具をそろえる大型ショップも増えてきたが、それらと比べても、やはり100年の歴史から漂うオーラは、ただ者ではない。

 

 調度品にこだわりのある旅館・ホテルも多い。沖縄・読谷村のリゾートホテル「日航アリビラ」なども、雰囲気のある調度品を置いてある。「木に目が行く」と書いたが、長く滞在するリゾートホテルに宿泊する際には、調度品の「本物」度合いで選ぶ傾向が、最近強くなってきた。

(編集長・増田 剛)

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