「オンリーワンのまち」認定第1号、鎌ヶ谷市(千葉県)の「雨の三叉路」

髙津理事長(左)と鎌ヶ谷市・清水市長
髙津理事長(左)と鎌ヶ谷市・清水市長

ふるさとICTネット

 NPO法人ふるさとICTネット(髙津敏理事長)はこのほど、「オンリーワンのまち」に、千葉県・鎌ヶ谷市(清水聖士市長)の「雨の三叉路」を第1号認定した。9月12日には同市の市長室で認定証授与式を行った。「オンリーワンのまち」は、そのふるさとにしかない独特の風土や伝統文化、産物、無形のおもてなしなどに光を当て、全国ブランドの観光資源に育てることで、継続的な地域活性化に結びつけることを目的としている。今後、第2号、第3号認定を予定しており、候補地を広く募集している。

【増田 剛】

当日訪れた分水嶺モニュメント「雨の三叉路」
当日訪れた分水嶺モニュメント「雨の三叉路」

 「オンリーワンのまち」第1号認定となった鎌ヶ谷市は、北総台地の高台にあり、富岡と京塚の交差点付近は、標高約29メートルでありながら、降った雨の水が手賀沼・印旛沼・東京湾の3方向に分かれて流れる全国でも珍しい分水嶺(界)がある地であり、同市の宝として親しまれている。この地に分水嶺モニュメント「雨の三叉路」が市民の発意で建立され、市に贈呈された。最上流部に住む市民として、「川の水を汚さないように」との自然環境保全への意識も高まっている。

 髙津理事長は「高山や峰の頂きではなく、中心市街地にある分水嶺は、市民や観光客がいつでも訪れることができる」ところを高く評価。「市と市民が心を合わせ、自分たちのふるさとの環境維持活動に取り組まれている姿勢」も認定の大きな判断材料となった。

 9月12日に開いた認定証授与式には、ふるさとICTネットからは髙津理事長をはじめ、理事の東京成徳大学教授の秋山秀一氏、同事業の公式メディアとして参加する旅行新聞新社社長の石井貞徳氏らが出席するなかで、髙津理事長から清水市長に認定証が手渡された。

 清水市長は「第1号認定に、鎌ヶ谷市が選ばれたことはとても名誉なこと。これまで『分水嶺』が顕在化する機会はあまりなかったが、『オンリーワンのまち』認定をきっかけに、広く市民に知られ、環境意識もさらに高まるのではないかと期待している。『雨の三叉路』という名前も詩的で、歌などが生まれるといいですね」と語った。

 ふるさとICTネットは、自薦、他薦問わず「オンリーワンのまち」の候補地を募集している。今後、認定条件に合えば第2、第3の認定を行う計画だ。

 問い合わせ=NPO法人ふるさとICTネット 電話:03(5800)4787、公式メディア・旅行新聞新社 電話:03(3834)2718。

観光庁関係に101億円、東南アジアを5市場並みに

13年度予算の概算要求

 観光庁は9月7日、2013年度予算の概算要求をまとめた。観光庁関係の概算要求は、12年度予算(100億400万円)に対し、1・01倍の101億400万円を要求。主要事業の「訪日外国人3000万人プログラム」の予算は前年度予算比1・06倍の88億2200万円。このうち「日本再生戦略」の重点要求枠として「東南アジア・訪日100万人プラン」の5億9900万円を新たに盛り込んだ。また、別枠扱いで設けられた復興庁計上分の「復興枠」では、前年度予算比3・21倍の10億7200万円を要求した。
【伊集院 悟】

復興枠で10億7200万円要求

 概算要求の項目は(1)訪日外国人3000万人プログラム(2)観光を核とした地域の再生・活性化(3)観光産業の再生・活性化(4)ワークライフバランスの実現に資する休暇改革の推進(5)観光統計の整備――の5本柱と、復興庁計上分の東日本大震災からの復興枠。

 メイン事業となる「訪日外国人3000万人プログラム」は、前年度予算比1・06倍の88億2200万円。中核となる訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン事業)は同1・19倍の58億4300万円を要求した。13年度は5大市場(韓国・中国・台湾・米国・香港)の現地旅行者向け事業と、5大市場に豪州・タイ・英国・カナダ・シンガポール・フランス・ドイツ・マレーシア・インドネシアを加えた14市場に対する現地旅行会社向け事業、在外公館等と連携する海外現地オールジャパン連携事業などを中核事業に据える。

 韓国など放射能不安の残る市場においての「観光客目線での風評被害対策」や、ニューツーリズムについて外国人目線で有望かつ受け入れに積極的な地域を「モデル地域」として選定、支援する「ニューツーリズムのインバウンド展開」、成田・羽田など国際拠点空港と連携し新規就航と増便、訪日促進プロモーションを展開する「オープンスカイ連携訪日促進プロモーション」など「訪日需要創出事業」にも注力していく予定だ。

 また、「日本再生戦略」の重点要求枠として新規事業「東南アジア・訪日100万人プラン」に5億9900万円を盛り込んだ。震災後も高い伸びを示すタイ・マレーシア・シンガポール・インドネシア・フィリピン・ベトナ

ムの6市場を韓国・中国などの5大市場に並ぶ市場へと成長させるため、旅行業者ではなく、主に現地消費者向けのイベントや広告でプロモーションする。ポータルサイトを作成し、在日の東南アジア人や現地の日系企業に記事を書いてもらい、日本の魅力を発信し、訪日需要を創出していく予定だ。

 「観光を核とした地域の再生・活性化」分野では、同1・23倍の3億6700万円を要求。このうち、新規事業として「観光地域ブランド確立支援事業」に2億4500万円、「観光地域評価事業」に5千万円、「テーマ性を持った広域連携のあり方調査事業」に3200万円を盛り込んだ。

 「観光地域ブランド確立支援事業」では、国際競争力の高い魅力ある観光地域づくりを促進するために、観光地域づくりプラットフォームを有する観光圏を支援。地域独自の価値を活かした「ブランド」が確立された日本の顔となる観光地域を評価し登録していく。

 「観光地域評価事業」では観光地域づくりに取り組む地域における課題や改善点などを明確にするため、さまざまな指標による評価制度を構築し数値化する。恒常的な評価・分析にもとづくコンサルティングを行う。

 そのほか、「観光産業の再生・活性化」分野では同1・18倍の2億100万円を要求。このうち新規事業として5千万円を盛り込んだ「地域宿泊産業再生支援事業」では、経営悪化など困難に直面した地域の宿泊産業と、観光経営や地域づくりについての知見を蓄積した、意欲ある地域・近隣の大学を結びつけ、地域全体の力を結集して、宿泊産業が自立して継続的に再生できるようにする仕組みの構築を狙う。

 また復興庁に計上される復興枠では、復興基盤が整いつつある太平洋沿岸エリアの旅行需要回復と、東北観光博の仕組みを踏まえた滞在交流型観光の実施に対する支援を行う「東北地域観光復興対策事業」に3億円、福島県が実施する風評被害対策と震災復興に取り組む観光関連事業に補助をする「福島県における観光関連復興支援事業」に7億2100万円、12年度からの継続となる「災害時における訪日外国人旅行者に向けた情報提供のあり方に関する調査事業」に5200万円を要求した。

No.321 全旅連青年部全国大会に向けて - 横山部長×山口次期部長対談

全旅連青年部全国大会に向けて
横山部長×山口次期部長対談

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の青年部(横山公大部長)は9月27日、沖縄県宜野湾市の沖縄コンベンションセンターで「青年部全国大会in美ら島沖縄」を開く。「利他精神~夢を語り背中を魅せる」をテーマに、東日本大震災からの復興や、各委員会活動を行ってきた第20代青年部長・横山体制の集大成となる全国大会を目前に、横山部長と山口敦史次期青年部長が対談した。青年部の将来像や、旅館業の課題、あるべき姿などを熱く語り合った。

【増田 剛】

もっと夢を語り合おう― 横山氏
変わり続け未来に進む― 山口氏

 ――横山体制(11年4月―13年3月)がスタートする直前に東日本大震災が発生しました。今期を振り返った感想は。  

横山:ビジョンも明確になり、新体制始動の準備も整い、気分が高揚しているときに、これまで経験したことのない未曽有の大震災に直面し、「このままスタートしていいのか」という不安が大きく、何をしていいのかまったく分からない状態でした。

 

※ 詳細は本紙1475号または9月27日 以降日経テレコン21で お読みいただけます。

「オンリーワンのまち」事業 ― ふるさとの“宝”を発掘

 東日本大震災をきっかけに多くの人々が、自分の生まれ育ったまちや、かつて住んだ思い出のまち、そして今住んでいるまちに対する思い入れが強くなったのではないだろうか。大津波や原発事故の恐ろしさを知り、在りし日の風景を失った人々、ふるさとに帰りたいのに帰れない人々の強い思いが、多くの人の胸に浸透しているのだろうか。東京で昼夜なく働くビジネスマンも、旅先で一瞬薫る草いきれに切ない気分になる――あの甘い、ふるさとへの郷愁の念を胸に宿しているはずである。

 知名度の高い「全国区」の観光地でないかぎり、大都市であっても、自分の生まれ育った地域が「オンリーワン」の場所だと胸を張ってあまり考えないものだ。そしてつい、「どこにでもあるまちです」と自己紹介してしまう。私の生まれた小さな町も、この東京では誰も知らない。京都や鎌倉のように有名で、誰もが憧れるようなまちを羨んだ時期もあったが、今となっては、やはり自分が生まれたまちは、かけがえのないまちなのだと遅まきながら最近そう考えるようになった。ふるさとのまちの素晴らしさは分かっていても、未だそれを上手く他人に伝えることはできない。

 NPO法人ふるさとICTネット(髙津敏理事長)はこのほど、千葉県鎌ヶ谷市(清水聖士市長)を「オンリーワンのまち」第1号に認定し、9月12日に同市の市長室で認定授与式を行った。鎌ヶ谷市といっても、千葉県民以外には、それほど知名度は高くないはずだ。人口11万人弱で東京都心から成田空港に行く途中にある長閑なまち。だが、ここは全国でも珍しい「雨の三叉路」の地でもあるのだ。同市の中心市街地は標高約29㍍程度でありながら、降った雨は、手賀沼、印旛沼、東京湾の3方向に分かれて流れる分水嶺(界)であり、その場所に市民の方々がモニュメントを設置し、市に寄贈している。実際、このモニュメントの傍らに立ったが、3方向に分かれる分水嶺だという実感は湧かない。しかし、水はここを頂きに下流に向かって行く。市民の環境保全への意識も、「知る」ことによってさらに高まっていくだろう。

 どのまちにだって素晴らしい「オンリーワン」の風土や、文化、自然がある。ふるさとICTネットは、それらまちの宝を今後もどんどん発掘していく考えだ。

(編集長・増田 剛)

【10/27.28】にっぽん元気マーケット 東日本の女将も参加

にっぽん元気マーケットin東京国際フォーラムは、盛況のうちに2日間の日程を終えることができました。
皆様のご来場誠にありがとうございました。

 東日本大震災により被災した中小企業225社が一堂に会し、1000点以上の商品を展示即売する「にっぽん元気マーケット」in東京国際フォーラムが10月27、28の両日開催されます。この催しに東日本の5軒のお宿のおかみさんも参加(予定)し、テレビショッピング(27日)やステージ企画(28日)への出演、展示ブース(27、28日)出展を通じて、宿や地域の魅力をPRします。入場料は無料です。旅することも、買うことも大切な支援の1つ。都内近郊のみなさん来月はぜひ、イベント会場に足をお運びください!!

■5人で出演の打ち合わせをした後、会場前で一致団結!!(9月12日)

★写真左から順に
村田明美さん(茨城県、五浦観光ホテル
大澤幸子さん(岩手県、ホテル対滝閣
磯田悠子さん(宮城県、ホテル松島大観荘
畠ひで子さん(福島県、匠のこころ吉川屋
高橋知子さん(宮城県、篝火の湯緑水亭

テレビショッピングでは最王手「ジュピターショップチャンネル」が5時間半にわたり会場から生中継します。おかみさんも、地域や宿の魅力を伝えるほか、宿泊券プレゼントも企画しています。翌日のステージ企画「女将さんいらっしゃい!」には、5人のおかみさんが交替で舞台に上がり、震災後の取り組み報告するほか、親しみの湧くステージになればと一芸を披露します。展示ブースは2日間常設し、各館が持ち寄ったお茶菓子のプレゼントやパンフレット配布を行います。

にっぽん元気マーケットは中小企業庁が主催しています。東日本大震災で被災した中小企業の新たな販路開拓を支援するため、これまで3度にわたりバイヤー(小売店等の商品の買い手)向けの商談会を開いてきました。一連の事業の総仕上げとして来月27、28の両日、東京国際フォーラムで一般消費者を対象に展示販売会を開きます。2日間で5万人の来場を予定しています。

 

富岡製糸場と絹産業遺産群

「富岡製糸場」(群馬県富岡市)
「富岡製糸場」(群馬県富岡市)

 世界遺産に推薦、2014年夏の登録目指す

 政府は8月23日、外務省で世界遺産条約関係省庁連絡会議を開き、2014年の世界文化遺産登録を目指し、群馬県の「富岡製糸場と絹産業遺産群」を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦することを正式決定した。今後は9月末までに暫定推薦書をユネスコに提出。形式審査の後、内容を仕上げて来年2月1日までに正式な推薦書を提出する。

 ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イモス)が来年夏ごろに同遺産群を現地調査し、14年夏のユネスコ世界遺産委員会で世界遺産登録の可否が審議される。

 同遺産群は、明治政府がフランスから近代製糸技術を導入して1872(明治5)年に設立した国内初の官営製糸工場「富岡製糸場」(富岡市)を中心に、繭の生産に貢献した近代養蚕農家の原型「田島弥平旧宅」(伊勢崎市)、養蚕技術の教育機関「高山社跡」(藤岡市)、自然の冷気を利用した日本最大規模の蚕種貯蔵施設「荒船風穴」(下仁田町)の4資産で構成。高品質な生糸の大量生産を実現し、絹の大衆化をもたらした。

 群馬県の大澤正明知事は同日、「世界に向けた新たな一歩を踏み出すことになったと感じている。7月に推薦が内定し、さらに高まってきた県民の期待と励ましの声を大変心強く思っている。今後は全国の方々にも応援していただけるよう努めていきたい。まずは9月の暫定版推薦書の提出に向け、文化庁や関係自治体とよく連携して、しっかりと取り組んでいきたい」とコメントを発表した。

現地レポート(3) 震災から1年半 南三陸ホテル観洋のいま

志津川湾。奥に見えるのが「ホテル観洋」だ。取材日は館内に22の団体・グループが訪れていた
志津川湾。奥に見えるのが「ホテル観洋」だ。
取材日は館内に22の団体・グループが訪れていた
 前進を考え続ける毎日

 震災から1年半。「南三陸 ホテル観洋」の現状から、被災地の復興と課題を見つめていくシリーズも3回目となった。マスメディアによる被災地のニュース報道は減少している。しかし本紙では、一つの施設の状況を定期的に追うことで、状況の推移と、考え方、取り組み方を学ばせてもらおうというスタンスだ。今回も、疑似体験しよう。

<取材・文 ジャーナリスト 瀬戸川 礼子>

志津川湾から振り返った風景。どこまでも津波の爪痕が続いている
志津川湾から振り返った風景。
どこまでも津波の爪痕が続いている

◆復興と解体

 人口1万7666人・5362世帯だった南三陸町は、津波で62%に当たる3299世帯が消滅した。現在の湾は美しく穏やかだが、後ろの町を振り返ると、視界のずっと先まで、建物がない。広がる平地には、皮肉なほどすくすくと雑草が伸び、初めて来た人は、もともと野原かと勘違いすると聞く。脳裏に浮かぶ「風化」の文字を、頭を振って、払いのけた。

 現在、南三陸町では、被災のシンボル的な施設の解体が進んでいる。見るのも辛い建物を消し去りたいという思いや、すっきり新たな町づくりをしたいとする思いがあるのだろう。

 しかし一方では、被害を後世まで語り継ぐために、ある程度は残しておきたいと考える人もいる。見学者が引けも切らない南三陸だからこそ、「ここに来たら防災意識が高まる」と認識される学びの地であり続けたいという声だ。

 筆者の推測だが、こういうとき被災地の女将さんたちは声を挙げづらいかもしれない。未来のための純粋な意見でも、観光業だからと思われかねないからだ。

 ホテル観洋の阿部憲子さんは、避難所として600人の被災住民を受け入れていた立場から、「何らかの遺構は必要」と考える。「おじいさんやおばあさん、親から言い伝えられたことを守った人たちは、避難の考え方や備蓄に違いがあると感じるのです。被災した建物もまた、将来にわたって、大切なことを無言で語ってくれるように思います」。

 
ホテル観洋女将の阿部憲子さん
ホテル観洋女将の阿部憲子さん

◆ホテルの役割

 ホテル観洋は、昨年夏から通常営業を再開。稼働率はすでに震災前(85―90%)に戻っている。修繕や仕入れ先の確保、スタッフへの配慮など、苦労の賜物だろう。

 震災後は、来館客の住むエリアがぐんと広がった。以前は、東北の人が60~70%を占めたが、現在は東京、関西、九州も。これまで出会えなかったエリアの人に、南三陸のよい思い出を持って帰ってもらうのも大きな役割だとする。

 大型ホテルの観洋がにぎわっていることで、その分、地元の魚が消費され、酒屋に発注が行き、仮設商店街にも人が流れる構造がある。

 また、ボランティアによる館内イベントの申し込みにも協力的で、地元住民を招いて楽しみのひとときを提供する。ひと月のうち10日間、60歳以上の地元住民に温泉施設を無料解放するサービスも続行中だ。互いに助け合い、感謝し合う環境と言えよう。

 だが、どの被災地も同様だろうが、被災地の中でも格差が広まっている。そんななか、「町全体との共存バランスをどう取っていくか」は、前進する会社であるほど、新たな課題となるかもしれない。

南三陸町の被災シンボルの一つ「防災対策庁舎」
南三陸町の被災シンボルの一つ「防災対策庁舎」

30の仮設店が軒を連ねる「南三陸さんさん商店街」もにぎわっていた
30の仮設店が軒を連ねる
「南三陸さんさん商店街」もにぎわっていた

◆できることから改善

 自分たちでできる改善はスピードを持って当たっているホテル観洋。近々、館内に念願のATMが設置されそうだ。

 「長期滞在のお客さま、スタッフ、町の方。みんなに便利なものですから、館内にATMがあればいいなと思っていたのですが、金融機関に打診すると『周辺に家は何軒あるんですか』という収支の話になるんですね。自然災害で多くを失った地域は復興も容易ではありません」

 しかし、阿部さんはあきらめず2行、3行と聞き続け、とうとう6行目で願いが叶いそうだ。「現地の実情を知ってもらえたのが良かったです。どんな方に出会えるかが結局は大きいのですね」

 また町のインフラ面では、「BRT」(バス高速輸送システム)の運行が始まったのも改善の一つだ。

 JR「気仙沼線」は、石巻の前谷地駅と気仙沼駅を結ぶ路線だったが、南三陸町の手前の柳津駅から北は、復旧の目処が立っていない。

 そこで、代替的な運送手段としてBRTが導入された。BRT の運行当初は、大勢が利用するホテル観洋の前を素通りしていたが、理解を得られて停留所の形が取られた。

震災後、7月に初めて再開された「体験プログラム」の様子。 アメリカから視察に来た学生が受けてくれ、何隻にも分かれて行われた
震災後、7月に初めて再開された「体験プログラム」の様子。
アメリカから視察に来た学生が受けてくれ、
何隻にも分かれて行われた

◆南三陸町観光協会

 南三陸町観光協会とホテル観洋は、互いに不可欠な存在だろう。同協会によると、ここ数カ月、毎月2千人の視察者を手配しているという。この人数は、ガイド付きの視察参加数で、実際は協会を通さずに訪れる人も多いはずだ。よって、少なくとも2倍以上(4千人以上)の人々が、毎月、南三陸を訪れていると見ている。

 1日当たり133人もの集客は、口コミと旅行会社からの受け入れで成り立つ。南三陸町観光協会主査の佐藤昭洋さんは次のように語る。

「当協会が手配するツアーは最小遂行人数10人で、これまでの最大は学校単位で来られた400人です。100人前後の団体さんも多いですよ。民間企業や有志の会、学校が多くを占め、消防団や自治体など行政団体は約20%です。繰り返し来てくださる方も多いですね。被災された語り部の話を聞いて帰った人が、感銘を受けて周りに話す。すると、聞いた方が自分も現地で話を聞きたいと思う。また一度、来た方が『南三陸はどうなっただろう』と、気にしてまた来てくれる。そうした連鎖が見られ、励みになります」

 視察ツアーは、学校教育や企業研修にはうってつけの場だと思う。草むしりやがれき処理も同時に行うと、なお学びが深いという。生きるとは何か、働くことの有り難さ、親や周りへの感謝など、これほど一度に学べる場所がほかにあるだろうか。南三陸に限らず、被災地は絶好の学び舎だ。

 

◆観光の使命

 震災観光の増加は喜ばしいが、職員の方々はほかにも仕事があり、休みは格段に減ったであろう。1年半、走り続ける原動力はどこから来るのだろうか。

「みんな全力で走って来ましたが、まだまだゴールは見えません。でも、いま我々ががんばらないと。震災観光を普通の観光につなげるために、視察に目を向けてもらっているときに、語り部のみなさんと協力して、できるだけ情報を発信しておきたいと思っています」(前出・佐藤さん)

 この夏、同協会ではうれしいことがあった。震災後初めて、震災前から行っていた体験学習を再開できたのだ。「ホタテやホヤの収穫体験でした。アメリカから来た学生さんが体験して喜んでくれ、我々もすごくうれしかったですね」(同)

 また、視察者から寄せられる手紙にも元気づけられるという。テレビで見て分かった気になっていたが、現地はまるで違うこと、もっと大変で、もっとがんばっていると思ったこと、身内を亡くした方が、辛さに耐えて語ってくれる体験は本当に貴重で、苦労の度合いが伝わってくることなど、参加者の感想はみんなの財産となっているようだ。

 

◆心根の持ち方

 南三陸を訪れるたびに思うのは、心根をどう持つかということである。元気なほうと、沈んだほう、どちらに影響を受けるかで、その後が決まってくるように思われる。

 たとえば、語り部たちはシニア世代だが、地元の人によると、妹さんや弟さんじゃないかと思うくらい若返っており、苦しみを背負いながらも使命感を持って生きているからだろうという。人の役に立ちながら懸命に生きることは自らも救い、感動も与えるのだ。

 ホテル観洋の阿部さんは4日間、家族の安否が分からなくても「目の前の現実に向かっていくことが役目」と考え、不安感をおくびにも出さなかった。未来を信じ、再開へのスタートダッシュが早かった。あのとき躊躇していたら、1周も2周も遅れていたでしょう、と阿部さんは考える。

 この1年半、阿部さんが休んだ日はなさそうだ。「休むという感覚はないんですよね。とにかく前進を考え続ける毎日です。私は、頭は弱いけれど、心は強いようで(笑)。親に感謝ですね」

 

◆これからの課題

 時間に追われて全体ミーティングの時間が持ちにくくなってきたことと、人材不足が課題だという。「お客さまが来てくださるのは本当に有り難いのですが、スタッフが足りません。当館はこの夏、創業40周年で初めて人材派遣会社に頼みました。地元の人に働いてもらうことが地域貢献と思ってきましたが、いないことには仕方ありません」と阿部さん。

 しかし、ほかの地域からのスタッフが増えることで、また新たな文化や勢いが生まれるかもしれない。阿部さんのもとであれば、良い結果になることだろう。

 半年後の2周年、3周年と、どのように課題を乗り越え、復興へ向かっていくのか、学び続けていきたいと思う。

 
著書『つなみのえほん』を手にする工藤真弓さん
著書『つなみのえほん』
を手にする工藤真弓さん

語り継がれる「つなみのえほん」(工藤真弓・著)

 南三陸町の丘に鎮座する「上山八幡宮」の神職・工藤真弓さんは、あの日、家族と神社の裏山へ逃げ助かった。しかし家は全壊、現在は40分離れた仮設住宅で暮らしながら、神事とまちづくりのアドバイスに力を注ぐ。大自然への畏命や命の大切さを伝えるために書いた「つなみのえほん~ぼくのふるさと~」は、紙芝居にもなって語り継がれている。

 
 
 
 
 
 
 
 

グランプリは松江女子と鶴岡中央

グランプリの島根県松江市立女子校
グランプリの島根県松江市立女子校

第4回「観光甲子園」グランプリは松江女子と鶴岡中央、応募は76校158プラン

  全国の高校生が地域の資源を生かした「観光プラン」を競い合うコンテスト、第4回「観光甲子園」(同大会組織委員会主催、石森秀三委員長)が8月26日、兵庫県神戸市の神戸夙川学院大学で開かれた。

 グランプリの文部科学大臣賞を島根県の松江市立女子高校、観光庁長官賞を山形県の県立鶴岡中央高校が受賞。松江女子は4回連続本選出場の甲子園常連校で、2010年の第2回大会でもグランプリの観光庁長官賞を受賞している。

 今大会には全国から76校が参加して158プランを応募。書類審査を経て予選通過した10校が本選出場を果たし、8人の審査員を前に12分間パワーポイントを使い、パフォーマンスを織り込みながらプランを発表した。

 松江女子は「自信が持てず、自分が嫌い」という人に、松江での「自分を変える旅」を提案。鶴岡中央は東北震災復興を願い、被災地も庄内も元気になる「癒し」のプランを提案し、復興へ向けたメッセージを発信した。

 なお、準グランプリには3校、優秀作品に5校が選ばれた。また、本選以外で特別賞として8校に旅行新聞新社社長賞など贈られた。

 受賞校は次の通り。

【グランプリ】
文部科学大臣賞=島根県松江市立女子高等学校「Lets’縁きりふれっしゅ~松江ではじまる新しい自分旅~」
観光庁長官賞=山形県立鶴岡中央高等学校「“脱・ありきたりの旅”PART2~被災地と庄内を結ぶ“Win Win”な癒しツアー~」

【準グランプリ】
大会組織委員長賞=清真学園高等学校「宙ガール、“星のリゾート”茨城に行く。~茨城をソラカラ復興支援~」
兵庫県知事賞=岩倉高等学校「自然満喫ハートフル旅行in兵庫~ローカル線&クルージングでバリアフリーな旅を!~」
神戸市長賞=長崎県立五島海陽高等学校「Wonderful Adventurous Natural Town~自然を体験できる素敵な街in五島~」

【優秀作品賞】
日本観光振興協会会長賞=愛知県立半田商業高等学校「知多半島の『ひと』めぐり、幸せ感じる感幸(観光)プラン~商都・半田で『ちたりあん』!?~」
日本旅行業協会会長賞=大阪府立能勢高等学校「能勢の味覚と悠久の時間を求めて-伝統の味で綴る旅-」
全国旅行業協会会長賞=島根県立邇摩高等学校「時を刻み夢の世界へいざなう~寝ても覚めても仁摩町ワールド~」
西宮市長賞=山形県立新庄南高等学校「本日開店、新庄トライやる!塾~親子の絆再発見ツアー~」
日本ホテル協会会長賞=奈良県立奈良朱雀高等学校「大和茶でほっこり?記紀万葉の旅~高校生プロデュース://奈良@時代.jp~」

【特別賞】
兵庫県教育長賞=岩手県立宮古商業高等学校▽ひょうごツーリズム協会理事長賞=長崎県立島原農業高等学校▽神戸市教育長賞=神奈川県立神奈川総合産業高等学校▽神戸国際観光コンベンション協会会長賞=京都府立桂高等学校▽西宮市教育委員会賞=和歌山県立新翔高等学校▽NHK神戸放送局長賞=岐阜県立加茂農林高等学校▽旅行新聞新社社長賞=青森県立弘前実業高等学校▽日本ヘルスツーリズム振興機構理事長賞=岡山県立林野高等学校

“日本一のおんせん県”

西田陽一会長(ホテル白菊社長)
西田陽一会長(ホテル白菊社長)

10種の泉質を大阪でPR、大分県

  湧出量、源泉総数ともに日本一を誇る温泉王国の大分県を「おんせん県」として売り出そうと8月31日、旅行会社や報道関係者を招き大阪市内で「日本一のおんせん県♨情報発信会」が開かれた。

 7月25日に発足した大分県内の宿泊・観光施設などで組織する「おんせん県観光誘致協議会」(会長=西田陽一ホテル白菊社長)が主催。西田会長が「大分を“日本一のおんせん県”としてさまざまなかたちで売り出していく」と宣言した。

森竹嗣夫大分県観光・地域局長
森竹嗣夫大分県観光・地域局長

 森竹嗣夫大分県観光・地域局長は「8月28日に県の2015年までの観光振興計画を策定した。今後は官民一体となり『日本一のおんせん県おおいた♨味力(みりょく)も満載』をキャッチフレーズに、日本一の温泉と素晴らしい食の魅力を、古くから関係の深い関西へ積極的にPRしていく」と述べた。

 説明会では、7月の九州北部集中豪雨による風評被害地として日田、竹田、中津市が現状を報告。JR久大本線の全線復旧により特急「ゆふいんの森」「ゆふ」は8月28日から通常通り運行、阿蘇市と竹田市を結ぶ国道57号の通行止めも8月20日に解除され、「元気な日田、竹田、中津市へお越し下さい」とPRした。

 さらに、別府八湯温泉Gメンリーダーで、おんせん県観光誘致協議会顧問の斎藤雅樹氏が「湯の個性と機能温泉浴」と題して講演。「世界に11ある泉質の内10種類がそろう大分はまさに“温泉のデパート”。草津温泉と同じ泉質なら別府の明礬温泉など、全国の名湯巡りが県内で楽しめる」と語った。

 さらに、「まず硫黄泉の明礬温泉で肌の老廃物を取り除き、次に保湿効果の高いメタ珪酸の鉄輪温泉に入ると美肌効果が高い」など、2湯を組み合わせて「美肌」「ダイエット」「癒し」などの効果を生み出す入浴法「機能温泉浴」を紹介した。

東北にもう1泊

来年2月まで福幸CP、東北観光推進機構

 東北観光推進機構は大手旅行会社5社の協定旅館ホテル連盟と共催で、東北エリアの宿泊施設に泊まると、抽選で東北の宿の宿泊券が当たる「もう一度東北!もう一泊!東北福幸(ふっこう)キャンペーン」を来年2月28日まで実施している。

 JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、トップツアー、名鉄観光サービスの協定旅館ホテルに泊まると、抽選でペア500組(1千人)に、キャンペーンに参加する東北の宿泊施設のなかから希望する施設に宿泊できる宿泊券をプレゼント。さらにWチャンスで3千円相当の食事・土産利用券が1千人に当たる。キャンペーンチラシの応募ハガキに、宿泊した旅館等の押印を受け応募する。抽選は2期に分け実施する。