日本は正しい選択をしているか ― 原発賠償「観光予算の500年分」

 旅で、少し早めに旅館やホテルにチェックインするのが好きだ。午後3時のチェックインだったら、7―8分前に宿の玄関に向かう。少し迷惑な客かもしれない。でも、まだ客のいない宿のロビーの雰囲気が好きなのである。大きな旅行鞄を横に置いて、客を迎える準備を整えるようすを眺める。どうかしたら、「待っている時間が申し訳ない」と思われるのか、お茶を持って来てくれることもある。口開けのバーで飲む一杯のマティーニが一番美味しいように、銭湯の一番客が最も気持ち良いように、まだ観光客によって空気が汚されていない宿の清らかな空気が好きなのだと思う。

 チェックインを早くするのには、もう一つ理由がある。釣り竿を持って、海に糸を垂らすのがこのところの習いである。釣りの最中は、海を眺める。海の向こうを眺める。誰もいない海で、1人釣り糸を垂らすのが好きである。釣れても、釣れなくてもどっちでもいい。知らない土地の初めての海に、細い糸を一本海に垂らすだけで、すでに8割の満足感を得ている。釣れた魚は、友人のように親しみの気持を覚える。「君は、ちっちゃいなー」などと話しかけながら、海に戻してあげる。

 海を間近に眺めていると、透明度の高い青い海には心が洗われる。でも、黒く汚れた海を長時間眺めていると心が濁ってくる。自然に対する思いが自分の中でも大きく変わってきているのを、最近強く感じる。

 日本とトルコは友好国として両国の間では知られている。1890年に和歌山県串本町沖でオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」が遭難し、串本町の住民らが救助を行い69人を救出したことも両国の絆を強める要因となった。このように、友好関係を世界各国と築いていくには相当の時間がかかるし、簡単なことではない。そのトルコに日本政府は原発輸出に向けた動きを加速させようとしている。また、アジアでも日本と良好な関係にあるベトナムに対しても、原発輸出を計画している。

 京都大学大学院准教授の伊藤正子氏の論文などを読むと、ベトナムでは、「原発の安全神話を築くために、日本の原発プローモーションがベトナム語で流されている」とのこと。原発予定地は開発が遅れている地域であり、原発に対する情報が圧倒的に少ない状況にある。ここにも原発マネーが流入している。原発輸出と原発の安全神話はセットである。多くの日本人がいつか見た景色である。

 トルコは地震が頻発する地域である。ベトナムには津波が何度も襲っている。日本国内をみると、福島の原発問題はまったく終わっていない。汚染水は今も海水に流れている。この現状のまま、一方で、海外の友好国に原発を輸出することが日本の正しい選択だとはどうしても思えないのだ。

 昨年12月に東京電力から追加要請のあった原子力損害賠償支援を国が認めると、計4兆7888億円にものぼる。別の補償金と合わせると約5兆円。14年度の観光予算98億円の約500年分である。国のお金の流れが歪な構造になっていないか。

 そして、今年は消費税増税の年だ。新年会では政界、経済界、そして観光業界も景気の話に始終するだろう。大きく、逞しい権力を持つ強者の声に押し消されがちな「小さな声」を拾い上げ、紙面で伝えていきたいと思う。

(編集長・増田 剛)

第39回 プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選発表

第39回
プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選発表

秀水園が料理部門30連覇、加賀屋が34年連続総合トップ

 旅行新聞新社が主催する第39回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」、第34回「プロが選ぶ観光・食事、土産物施設100選」、第23回「プロが選ぶ優良観光バス30選」と選考審査委員特別賞「日本の小宿」10施設が決まった。総合100選は、石川県・和倉温泉の加賀屋が34年連続1位に選ばれ、料理部門は鹿児島県・指宿温泉のホテル秀水園が30年連続のトップに輝いた。部門別の上位入賞、各賞入選施設を紹介する。表彰式は1月24日、東京・新宿の京王プラザホテルで開かれる。

 

 

 「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」は全国1万6560の旅行会社(本社主要部門、営業本部、支店、営業所を含む)に投票用紙(専用ハガキ)を配布。昨年10月1―31日までの投票期間中に「もてなし」「料理」「施設」「企画」の各部門で優れていると思われる旅館・ホテル、観光・食事施設、土産物施設、観光バス会社を選出してもらった。11月26日には、旅行業団体関係者や旅行作家、旅行雑誌編集者らで構成される「選考審査委員会」が開かれ、100選ランキングが決定した。

 「ホテル・旅館」の総合では、加賀屋(石川県・和倉温泉)が今年も1位に選ばれ、34年連続1位とさらに記録を伸ばした。2位は日本の宿古窯(山形県・かみのやま温泉)、3位は白玉の湯泉慶・華鳳(新潟県・月岡温泉)、4位は稲取銀水荘(静岡県・稲取温泉)、5位は水明館(岐阜県・下呂温泉)、6位はホテル秀水園(鹿児島県・指宿温泉)、7位は萬国屋(山形県・あつみ温泉)、8位は草津白根観光ホテル櫻井(群馬県・草津温泉)、9位はあかん湖鶴雅リゾートスパ鶴雅ウィングス(北海道・阿寒湖温泉)、10位はホテル鐘山苑(山梨県・富士山温泉)となった。1位の加賀屋と2位の日本の宿古窯は第1回から39年連続でトップ10入選。白玉の湯泉慶・華鳳は昨年の4位から1ランクアップ、萬国屋は昨年の8位から1ランクアップ、あかん湖鶴雅リゾートスパ鶴雅ウィングスは昨年の10位から1ランクアップした。また、昨年と比較して、今年は新たに7施設が総合100選入りした。

 部門別にみると、「もてなし」部門は加賀屋がトップに輝き、「料理」部門はホテル秀水園が30年連続1位という偉業を達成した。「施設」部門は昨年悲願の1位に輝いた白玉の湯泉慶・華鳳が首位を守り、「企画」部門は日本の宿古窯が18年連続で1位に選ばれた。

 第34回「プロが選ぶ観光・食事施設100選」の1位は浅間酒造観光センター(群馬県・長野原)、2位は伊達の牛たん本舗(宮城県・仙台)、3位は平泉レストハウス(岩手県・平泉)、4位はザ・フィッシュ(千葉県・浜金谷)、5位はおぎのや佐久店(長野県・佐久インター)、6位はサッポロビール園(北海道・札幌)、7位はアサヒビール園(北海道・札幌)、8位はSUWAガラスの里(長野県・諏訪)、9位はマザー牧場(千葉県・鹿野山)、10位には阿蘇ファームランド(熊本県・阿蘇)が入りトップ10に再入選となった。

 「プロが選ぶ土産物施設100選」の1位は浅間酒造観光センターで、10年連続で観光・食事と土産物の両部門で1位に輝いた。2位は蔵元 綾 酒泉の杜(宮崎県・綾)、3位は御菓子御殿(沖縄県・読谷)、4位はいちごの里(栃木県・小山)、5位はえびせんべいの里(愛知県・美浜)、6位は庄内観光物産館ふるさと本舗(山形県・鶴岡)、7位は上杉城史苑(山形県・米沢)、8位はお菓子の壽城(鳥取県・米子インター)、9位は庵古堂(群馬県・伊香保)、10位は道の港まるたけ(千葉県・鴨川)が選ばれた。御菓子御殿は昨年の5位から2ランクアップ、道の港まるたけは初のトップ10入りを果たした。

 23回を迎えた「プロが選ぶ優良観光バス30選」は、はとバス(東京都大田区)が13年連続で1位。2位は名阪近鉄バス(愛知県名古屋市)、3位は名鉄観光バス(愛知県名古屋市)、4位は山交バス(山形県山形市)、5位はアルピコ交通(長野県松本市)、6位は日の丸自動車興業(東京都文京区)、7位は新潟交通観光バス(新潟県新潟市)、8位は三重交通(三重県津市)、9位は関鉄観光バス(茨城県土浦市)、10位は三八五バス(青森県八戸市)が上位入選を果たした。関鉄観光バスは初のベスト10入りとなった。

 選考審査委員特別賞「日本の小宿」に推薦された10施設は2面で紹介している。

 「100選」ロゴマーク

「100選」ロゴマーク

 

※ 詳細は本紙1531号または1月17日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

燃油、協議の場設置へ、観光庁がJATA要望に回答

 観光庁は2013年12月24日、日本旅行業協会(JATA)が同年5月24日付で提出していた燃油特別付加運賃(燃油サーチャージ)と運賃の一本化などを求めた要望書について書面で回答し、実務者レベルの協議の場を設置するとした。JATAは長年に渡り、同様の要望書を航空局に提出してきたが、今回、観光庁の働きかけで初めて前進したかたち。

 回答は観光庁の久保成人長官名で、JATAの菊間潤吾会長に宛てた。そのなかで、「観光立国の実現に向けては、旅行業界と航空業界が従来よりも一段と連携を深め、両者に関係する諸課題について、緊密に議論を重ねていくことが大変重要」と述べたうえで、「航空局の協力を得て、燃油特別付加運賃を含む諸課題について、関係者の実務レベルで協議を行う場を設置することとした」と記した。

 JATAは12月25日に開いた定例会見で同件に触れ、中村達朗理事長が「実情を訴えていくための場としたい」と歓迎。サーチャージだけではなく、空港の施設利用料など諸問題についても協議していきたい考えを示した。

 初回は観光庁観光産業課と航空局航空企画ネットワーク課の行政側と民間側からJATA、航空業界団体の定期航空協会が参加する予定という。開始時期は未定。

ひとことの効果

 今年の正月は、南の島から出てきた親戚とともに、浅虫温泉に出掛けた。夕食の料理にはしゃぶしゃぶがあり、従業員の方が火をつけて回った。

 僕らは酒を酌み交わしながら何年かぶりの再会を味わい、いざしゃぶしゃぶに手をつけようとしたときには、すでに火は小さくなっていた。慌ててしゃぶしゃぶしてみたが、時すでに遅し。従業員の方に新しい固形燃料をもらい事なきを得たが、なんだか心にひっかかる。

 酒を頼んでいたので、飲みながらのゆっくりな食事になることはあらかじめ分かっていたはずだ。火をつける際に、火が消える前に食べるよう、または食事の途中で消えたら声をかけるよう、ひとこと付け加えてくれていたら、僕らは違和感を覚えることなく、固形燃料を余分に使うこともなかったかもしれない。

 ひとこと添えるか添えないかは小さいことだが、満足度は大きく変わってくる。

【伊集院 悟】

福島の観光支援事業、補助金6千万円を追加認定(観光庁)

 観光庁は2013年12月20日、早期の観光復興促進を目的とした福島県が実施する観光関連復興支援事業への補助金制度に基づき、福島県からの追加事業の補助金申請を受け、交付を決定した。今回決定した補助金総額は6200万円。

 観光庁は13年度予算で「福島県における観光関連復興支援事業」に3億7700万円を計上。13年9月18日には総額2億8300万円の支援事業への補助金を決定しており、今回はそれに続くものとなる。

 認定事業は、国内と海外の風評対策で、総事業費7700万円、補助率は80%で補助金合計は6200万円となる。

 国内風評対策は国内の誘客を促進するため、首都圏での観光キャラバン実施と連動した広告展開、首都圏の情報発信拠点PRを行う。海外風評対策は、韓国に特化した旅行会社とメディアの招聘、福島の観光素材を発信する観光PR用多言語DVDの制作を行う。

心動かす深海の世界

 2013年は深海生物が大きな注目を集めた。ダイオウイカの特集がテレビ放映されたことを機に、東京で開かれた深海展は連日、長蛇の列。関連本も多数出版された。沼津港にある深海水族館はオープンから2年で入場者が50万人を突破。人気は一過性に止まらず、リピーターや熱心なファンを生んでいる。

 まだ見ぬ深い海の底に息づく神秘的な生命に、その世界観に、ブームを超えた普遍的な魅力があふれているということ。「きれい」「可愛い」とは一線を画する深海生物たちが、これほどまでに人々の心を動かし、魅了するとは誰が想像しただろうか。

 新しい年が明けた。今年もさまざまなモノ・コトがスポットライトを浴びる瞬間を、今か今かと深い海の底、じっと待っているに違いない。

【森山 聡子】

12月に40周年式典、次世代見据え「継承と共創」(日本秘湯を守る会)

佐藤好億会長があいさつ
佐藤好億会長があいさつ

 日本秘湯を守る会(佐藤好億会長、184会員)の第39回定時社員総会が昨年12月19日、静岡県・熱海温泉の熱海大観荘で開かれ、今年12月15日に40周年記念式典を開くことなどを決めた。会場は、創立会場である東京都の上野精養軒で300人規模のイベントを予定している。

 また、40周年式典のメインテーマを「継承と共創」とし、「先達から受け継いだ理念を次世代に継承し、同じ理念のもとで集まった仲間が共に新しい未来を創造していく」ことで一致した。「継承」については、「旅はなさけ、ロマン。山の中でもできることがある」「旅人の心に添う。秘湯は人なり」など秘湯の宿の理念を継承するほか、「共創」では、スタンプ招待事業のさらなる発展や、Web事業の進展による秘湯ファンの増大、温泉文化や地域文化の維持保全などに取り組む。40周年記念事業として1月から自動読み取り方式のスタンプ帳を導入する予定だ。

 佐藤会長は「会を立ち上げた昭和50年ごろは『秘湯』という言葉すら認知されることのない社会状況にあったが、まさか40年を経て生き残れる会になるとは想像もしなかった。しかし、40周年を機に、この会も次の世代のことを徹底的に考える時期にきた」との考えを述べた。

 次世代に対しては「社会にはさまざまな経済的なルールが存在するが、広範囲な勉強をお願いしたい」とし、「パートナーである朝日旅行がなければ日本秘湯を守る会は存在しない。組んではならない相手もある。この視点を忘れると、社会から葬られるだろう」と話した。さらに、「旅人を想う個性的な山の宿は将来的に貴重な文化財になるのではないか」と語った。

 13年度のスタンプ事業は2、5、10、11月の4回、計8万部のスタンプ帳を作成。会員宿の宿泊スタンプを10個集めると1泊招待する宿泊者数は12年11月―13年10月までの1年間で1万4590人で前年比で943人の減少となった。また、公式ホームページからの予約実績(宿泊額)は同1246万円減の4億3121万円だった。

大谷恭久氏が社長に、JTB国内旅行企画

大谷恭久氏
大谷恭久氏

 JTBは2013年12月20日、14年2月1日付で「JTB国内旅行企画」の社長に大谷恭久氏が就任予定と発表した。同社は4月1日から運営を開始する同グループの新会社。就任は臨時株主総会で決定される。

 大谷 恭久氏(おおたに・やすひさ)。1958年栃木県生まれ。80年北海道大学法学部卒業。同年日本交通公社(現JTB)入社。2000年JTB営業企画部海外企画チームマネージャー、02年同社海外格安専門電話販売センター所長兼エイ・ビー・アイ代表取締役社長。12年JTB執行役員旅行事業本部長などを歴任。13年から同社取締役旅行事業本部長、国内商品事業本部長CS推進担当の現職。


新設の観光庁参与に本保氏、国際会議出席で交渉・調整役に

 観光庁は1月1日付で、新設の観光庁参与に、初代観光庁長官で首都大学東京都市環境学研究科観光科学域教授の本保芳明氏を任命した。

 同庁は12月26日付で「観光庁参与の設置に関する訓令」を定め、観光庁参与を新設。英文名称は、「Special Adviser to the Japan Tourism Agency」。任期は2年。観光庁は本保氏の任命理由について、観光行政に精通し、国際的経験や交渉力が豊かなことを挙げる。今後は、観光庁が依頼するUNWTO(世界観光機関)などの国際会議への出席や、国内外の課題について関係機関との交渉や調整を行っていく。

過去最高約640万人へ、沖縄13年観光客数

新石垣空港の開港式典(昨年3月)
新石垣空港の開港式典(昨年3月)

新石垣空港開港効果で

 沖縄県の2013年入域観光客数が、11月までに589万8200人に達し、過去最高を記録した08年の604万人を上回る見通しとなった。12月も堅調に推移した模様で、最終的には640万人弱になる見込み。

 数字を押し上げているのは、八重山入域観光客数の好調ぶりだ。昨年3月、石垣島に新石垣空港が開港し、機材の大型化や便数の増加に加え、格安航空会社(LCC)が関西―新石垣路線に就航。4月以降、毎月、単月における過去最高記録を更新し、8月は11万4684人に上った。10月までに81万3106人となり、過去最高の78万7502人(07年)を大幅に上回り、13年の合計は90万人台半ばまで伸びる見込みだ。

 県では、沖縄観光の好調の要因として、(1)円安にともなう海外旅行から国内旅行へのシフト(2)沖縄発着航空路線の拡充(3)本島への台風接近の減少――などを挙げる。

 円安により割安感のある訪日旅行需要が台湾、韓国を中心に伸び、外国人観光客は、1―11月は51万4600人で、前年同期比46%増加した。