2017年度版「プロが選んだ日本のホテル・旅館100選」書籍発売!

17年度版100選本、8月から全国書店発売

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 2017年版「プロが選んだ日本のホテル・旅館100選&日本の小宿」の書籍が、8月から全国の書店で発売されました。定価 は2,160 円(本体 2,000 円 + 税8%)、A4変形判、オールカラー 168ページ。発売元は自由国民社(東京都豊島区)です。

 今年1月に発表した「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」入選施設と、選考審査委員特別賞「日本の小宿」を受賞した歴代の宿、計104軒をセレクト。料理やもてなし、温泉など、各施設の魅力をカラー誌面でご紹介しています。一部の宿で「2次元バーコード」も掲載したほか、弊社が事務局を務める「ピンクリボンのお宿ネットワーク」加盟施設はロゴマークを付けてご紹介しています。

 巻末には「総合100選」のほか「もてなし」「料理」「施設」「企画」各100選の入選施設一覧をリストとして掲載しました。まさに、ホテル・旅館のガイドの決定版!といえる本です。ぜひお手にとってご覧ください。

 全国の書店、当ホームページ上部の「刊行物お申込み」からご購入できるほか、
アマゾンや楽天
(自由国民社様の本書紹介ページへリンクしています)でもご購入いただけます。

【8月26‐28日】新潟県関川村で「大したもん蛇まつり」を開催

第29回大したもん蛇まつりチラシ

 新潟県関川村の夏の一大イベント「大したもん蛇まつり」が8月26―28日まで開かれる。今年で29回目。

 大したもん蛇まつりは、関川村で1967(昭和42)年8月28日に発生した羽越大水害と村に伝わる大蛇伝説をテーマに、88年から実施している。メインイベントの大蛇パレードでは、長さ82・8メートル、重さ2トンの竹とわらでつくった大蛇を担ぎ、村内を練り歩くユニークで勇壮なまつり。大蛇は竹とわらで作った世界一長い蛇として、01年ギネスブックに認定されている。

 大蛇パレードのほかにも花火大会、盆踊り大会、福まきなども行われる。このほか、ゲスト出演パレードに兵庫県から「南京玉すだれ」と、福島県の阿波踊りうつくしま連による「阿波踊り」がゲスト出演。ギネス認定大蛇のパレードと合わせて、日本の伝統芸能も楽しむことができる。

 そのほか、今年はJR米坂線全線開通80周年を記念して、28日に快速「べにばな」が記念列車として運行され、越後下関駅で歓迎セレモニーが行われる。運行区間は新潟―米沢駅間を1往復運行で、往路が午前8時43分新潟発、同11時31分米沢着(越後下関着は同9時45分)。復路が午後6時32分米沢発、同9時22分新潟着(越後下関発は同8時21分)を予定する。

【イベント概要】
■期 間 : 8月26日(金)~8月28日(日)の3日間
■会 場 : 「関川村役場(新潟県岩船郡関川村大字下関912)」周辺
■内 容 
開催日:8月26日
 ◎8・28羽越水害殉難者供養祭

  午前10時~ (湯沢観音公園)
 ◎安全祈願祭・ミニ大蛇パレード
  午後5時30分~ (蛇喰おりのの碑)

開催日:8月27日
 ◎花火大会

  午後7時~ (高瀬温泉周辺)
 ◎大盆踊り大会
  午後8時~ (高瀬ふるさと会館前駐車場)

開催日:8月28日
 ◎大蛇パレード

  午前9時30分~12時15分 (垂水の里~関川村役場)
 ◎ステージイベント
  午前10時15分~ (関川村役場前)
  内容:龍泉太鼓披露、よさこいソーラン、ズンバなど。
 ◎ゲスト出演パレード
  午前11時~ (「道の駅」関川~関川村役場)
  内容:南京玉すだれ(兵庫県)、阿波踊りうつくしま連による阿波踊り(福島県)。

など、詳細は関川村ホームページ(http://www.vill.sekikawa.niigata.jp/)から。

「日本橋」の上空 ― 日本の首都の観光の力が敗北した姿

 銀座や日本橋界隈は、同じく東京を代表する魅力的なエリアの新宿や渋谷、池袋にはない“粋”を感じる。老舗の寿司屋や鰻屋なども点在する一方で、流行の最先端を行く店舗も次から次に進出し、街に緊張感が漲っている。そんな粋な銀座・日本橋ではあるが、いつも残念に思う瞬間がある。それは、国の重要文化財に指定される「日本橋」の上を跨ぐ首都高速道路を目にする時である。

 前回の東京オリンピックが開催された前年の1963年に、日本橋の真上を横切るように首都高速道路が建設された。そして、再び4年後に東京五輪が開催されようとしているが、日本橋の上の首都高速道路は、今も半世紀以上前の日本の社会状況と人々の意識を映し出したままだ。

 日本橋は、江戸幕府を開いた徳川家康が1603年に全国道路整備計画に際し、木造の橋を架けたのが始まり。五街道の起点として、また江戸らしいにぎわいと活気に溢れ、絵師・安藤広重など浮世絵の風景画としても数多く描かれている。

 日本人の旅のスタイルは、五街道整備の影響を大きく受けており、東京における日本橋の「物語性」は計り知れなく大きい。当然のように首都高速道路の地下への移設を求める声や運動もあるが、移設費用との兼ね合いもあり実現していない。現在の日本橋の状態は、「観光の力」が十分に発揮されておらず、経済損失の方が大きいのではないかとも感じる。

 発展途上にある国の都市は活気があり、魅惑的だ。“混沌”も一つの文化として面白いし、興味深いものではあるが、一方で抑制の不在を感じる。多くの人々が生活する都市は、さまざまな層の欲望がぶつかり合う。そして、最終的に政治力や経済力の強い者の力に引っ張られていく。そうすると、その強引さと引き換えに、必ず「負」の遺産が現れる。つまり、安っぽい“アメ玉”をしゃぶらせられた末に、一部の経済的欲望に屈服した都市の恥部があちこちに散見されることになる。世界的に人気を集める都市や美しい田園エリアは、安っぽい“アメ玉”に簡単に屈しない矜持があり、威厳が漂う。これこそが観光の力を発揮している姿である。

 東京のような大都市には、人・金・モノ・情報が集中するので多種多様な力学が働き、抑制が難しい。逆に、地方の過疎部は、それらが集まらない。このため、多くの自治体が避けたがる「産業廃棄物の集積場」などを誘致しなければならず、観光の力が無力化され、挙句に、地域の自然環境との調和を崩す。

 東京の文化と歴史を象徴する「日本橋」上空に首都高速道路が跨ぐ状態は、日本の首都の観光の力が敗北した姿である。美しい田園風景に、産業廃棄物を受け入れる姿勢に通じる。観光の力とは、経済に屈服してみじめな姿を晒さない構造を作ることである。いわば戦いである。

 今は無理かもしれないが、数十年後に、首都高速道路が地下に移設され、日本橋の上に青空が広がれば、そのときは、日本全体に大きな意識の変化があったことになるだろう。“日本橋の上を跨ぐ高速道路”のような状態は、全国のあらゆるところで見つけられる。観光立国を目指す日本は、訪日外客数の拡大を一つの指標としている。だが、本当の観光立国の意味するものは、国民全体の意識の中にある。

(編集長・増田 剛)

No.437 「ピンクリボンのお宿」シンポin諏訪、おもてなしを深化させる

「ピンクリボンのお宿」シンポin諏訪
おもてなしを深化させる

 ピンクリボンのお宿ネットワーク(会長=畠ひで子・匠のこころ吉川屋女将、事務局=旅行新聞新社)は6月24日に、RAKO華乃井ホテル(長野県諏訪市)で「ピンクリボンのお宿シンポジウムin諏訪」を開いた。NPO法人HOPEプロジェクト理事長の桜井なおみ氏や、ワコールリマンマ課の小高恵氏、すわ姫会の白鳥和美会長らが登壇し、各々の立場から「おもてなし」に対する熱い想いとノウハウについて語った。会場には、関係者からマスコミまで、多くの聴講者が詰めかけた。

【謝 谷楓】

 
 
 シンポジウム冒頭、畠ひで子会長は「旅館やホテル、医療機関が参画する同ネットワークは、手術後のあとを気にしてしまう女性が、何回でも旅にでて、心行くまで旅先で入浴を楽しんでもらうためのもの」と、同ネットワークの取り組みを再確認しつつ、「同ネットワークは現在129会員。設立から5年で会員数は2倍以上に増えた。今年はホームページも刷新し、情報発信にも力を入れる」と語り、一層の躍進を約束した。

 これを受け、来賓の小松仁長野県衛生技監兼保健・疾病対策課課長は、「それぞれの特徴に合わせた生活のしやすさを社会がサポートしていかなくてはならない。そのために、我われ行政やピンクリボンのお宿ネットワークはある」と今後の飛躍に期待を示した。また、金子ゆかり諏訪市市長は、4 月に制定された障がい者差別解消法に触れ、「同法のなかには、女性であるが故に、複合的な困難に直面していることに配慮しなくてはならない理念がある」と語り、乳がん患者や体験者にサービスを提供する同ネットワークの活動に理解を示した。…

 

※ 詳細は本紙1637号または8月2日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

ポケモンGO 配信開始、観光産業との連携に期待

ポケモンGOに夢中な外客(東京・秋葉原)
ポケモンGOに夢中な外客(東京・秋葉原)

 アメリカに本社を置くNiantic,Inc.は7月22日に、日本でのスマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」の配信をスタートした。先立って配信されたアメリカでは、2千万以上のダウンロードがなされ、一大ムーブメントを引き起こしている。

 同ゲームは、地図と連動し、現実世界を移動しながらポケットモンスターを捕まえるもので、観光産業での活用に期待がかかる。

 陣取りゲームの要素も兼ね備えており、日本でも、歩きスマホや運転中の余所見などトラブルが発生している。

 その一方で、鳥取県の平井伸治知事は、「砂の多い砂丘でありますので、スナ(砂)ホ・ゲームであるということでございまして、鳥取砂丘スナホ・ゲーム解放区の宣言をここにさせていただこうと思います」と知事記者会見で語り、「ポケモンGO」を県内への誘客の一手段として捉える姿勢を見せた。

 出歩かなければ、成果を得られない仕様となっており、観光産業との連動に注目したい。(6面に関連記事)

【謝 谷楓】

訪日数1千万人突破、震災からの早期回復目指す、田村長官

 田村明比古観光庁長官は7月20日に行った長官会見で、今年1―6月の訪日外国人旅行者数が1171万3800人と、初めて半年で1千万人を超え過去最高となったことについて「東アジアを中心としたクルーズ船の寄港回数の増加や、航空会社との共同キャンペーン、そして熊本地震からの旅行需要回復が見られたことが訪日需要を引き上げた」と報告した。

 田村長官は今後の訪日者数増加に向けた対策として、「夏期休暇などの旅行シーズンに向けて、震災の影響からの早期回復を目指す」とし、先日取りまとめられた「九州の観光復興に向けての総合支援プログラム」に掲げられた施策を確実に進めていくと述べた。

 また、7月8日に行われた第1回「旅行業界情報流出事案検討会」で大手企業と中小企業のセキュリティ対策方法を分けて考えるべきとの意見が出されたことについて、田村長官は「個人レベルでも必要となってくる、アンチウイルスソフトの更新などが十分にできているのか疑問が残る」と述べ、今後有識者たちからの意見を踏まえたうえで、中間取りまとめを行っていくと語った。

ポケモンGOで地域の魅力を

 海外では日本よりも先に配信され、世界各地で社会現象となっているスマートフォン向けゲームアプリ「ポケモンGO」。プレイヤーからは地元の魅力を再発見でき、観光案内マップとして利用できると注目を集めている。

 ポケモンと位置情報ゲーム「Ingress(イングレス)」を掛け合わせたゲームで、スマートフォンの位置情報を利用し、実際に歩き回ってポケモンを集めることができる。地図上の現実世界と連動した観光名所をめぐる必要があり、まちの人気スポットから石碑や壁画などの隠れた名所まで見つけられる。周遊観光客として、ゲームを通じて地域の魅力に触れられるのだ。

 今後、ゲーム製作側に動きがあれば、まち巡りのほか、周遊バスや人力車などと組み合わせた観光客も増えるかもしれない。

【長谷川 貴人】

認知症予防策拡充へ、高齢化社会を見据えて(クラブツーリズム)

小山佳延社長(右)と、瀧靖之教授
小山佳延社長(右)と瀧靖之教授

 クラブツーリズム(小山佳延社長、東京都新宿区)は7月6日に東京都内で、東北大学加齢医学研究所(所長=川島隆太教授、宮城県仙台市)と産学連携し、7月から共同研究を始めたと発表。具体的には、「旅行」と「認知症予防、抑制」の相関関係について医学的見地から調査・研究するもの。これにより同社は「高齢化社会の進行を見据えた旅行業の発展」を、同研究所は「誰にでも実践しやすい認知症予防策の拡充」を目指す。

 5月には同社の顧客で60歳以上の男女45人に、事前調査を実施。旅行が認知症予防・抑制に効果的であるという可能性に期待が持てる結果が出たと報告。小山社長は、「我われの事業がいきいきとしたシニア文化の創造に、貢献できることが実証できたと考えている」と述べた。

 同社の顧客層は60歳以上が約65%を占める。同研究を通じ、旅行による健康改善効果や脳・認知機能への影響を究明できれば、旅行需要の喚起、拡大、さらには社会福祉貢献に寄与することができる。

 既に2003年からデイサービス施設を運営し、旅行と介護を合わせた介護支援事業を展開。そのほか、家事代行サービスやフィットネスなどの事業も起こした。テーマ旅行部の野島光晴部長は、同研究が開始されたことを踏まえ、「今後は、これらの事業を巻き込み、地域連携、ヘルスケアビジネスなどにつなげていく」と語った。

 同研究所の瀧靖之教授は、「健康寿命とは日常的に介護を必要としないで、自立した生活を送ることができるまでの期間」と説明、日本人の平均寿命と健康寿命の差は10歳ほどあると話した。この原因は認知症が大きな要因を占め、認知症をいかに抑えるかを研究してきた。 

 認知症予防に科学的な確からしさがある要因として(1)運動(2)趣味、知的好奇心(3)コミュニケーション、社会との関わり――の3つ挙げた。

 これら要因を網羅するのが、「旅行」だと言う。瀧教授は「旅行の行程がすべて重要だが、とくに旅行中が大事。新しい場所、経験などで知的好奇心が刺激され、歩行などの運動があり、同行者との会話、旅先でのコミュニケーションがある」と説明。

 今後は共同研究の実施にあたり、「旅行」と「脳の健康」に関する各種ツアーや講義、イベントなどを実施。また、「旅行頻度の高い高齢者は主観的幸福感(自分は幸せだと思う気持ち)や対処能力が高く、認知機能が保たれている。また、旅行前後で脳に変化があり、主観的幸福感は向上、認知機能は低下抑制が見られる」という仮説を、今後3年間かけて検証する。

日本遺産を読み解く

「祈る皇女斎王のみやこ  斎宮」パンフレット
「祈る皇女斎王のみやこ 斎宮」パンフレット

 「日本遺産」という言葉を聞いて、それがなにかを答えられる人はどれだけいるだろうか。この文化庁の新事業は文化財を「保存」から「活用」へと方針転換し、地域主体で活用と発信を行い、地域の活性化をはかるもので、2020年東京オリンピック・パラリンピックまでに100カ所が認定される予定。“認定後がスタート”ともいわれる日本遺産について、7月1日岐阜県岐阜市で行われた「日本遺産サミットin岐阜」の内容を中心に、その取り組みを紹介していく。
【後藤 文昭】

「保存」から「活用」へ、物語で地域を活性化

■日本遺産の目的と2種のストーリー

 今まで文化財は、国指定史跡や県指定無形文化財のように一つひとつで保存・活用されていた。その結果、文化財同士のつながりが無く、まちの振興や観光では非常に扱いにくい状態になっていた。これらの文化財をストーリーで結び付け、面で活用できるようにしたものが「日本遺産」だ。ストーリーを語るうえで不可欠な“魅力ある有形・無形の文化財群”を地域が主体となって総合的に整備・活用し、国内外に戦略的に発信することにより、地域の活性化をはかる目的がある。認定後には、文化庁も「日本遺産魅力発信推進事業」として、人材育成などのソフト事業への経費補助を行うほか、今年度から日本遺産プロデューサーの派遣を開始。

岐阜市「川原町」のまちなみ
岐阜市「川原町」のまちなみ

 日本遺産には単独の市町村内で完結する「地域型」と、複数の市町村にまたがって展開する「シリアル型」の2つのストーリータイプがある。「地域型」の場合は、その地方自治体の歴史文化基本構想、文化でまちづくりをする基本方針を用意することが必要になる。現在日本遺産には37のストーリーが認定されており、内訳は「地域型」が12、「シリアル型」が25となっている。シリアル型には隣接する愛媛県と高知県、徳島県、香川県内57市町村が一体となってストーリーを紡ぐ「『四国遍路』~回遊型巡礼路と独自の巡礼文化~」や、宮城県仙台市と塩竈市、多賀城市、松島町など県内のいくつかの市町村が一体となってストーリーを紡ぐ「政宗が育んだ“伊達”な文化」。さらに茨城県水戸市と栃木県足利市、岡山県備前市、大分県日田市のように隣接していない地域が紡ぐ「近世日本の教育遺産群―学ぶ心・礼節の本源―」とさまざまな結びつき、展開がある。このシリアル型は「今後も増えていくのではないか」との声が多く、また隣接していない市町村同士が共通する素材で結び付いて紡ぐストーリーへの関心も高い。

 しかし、隣接していない市町村が共同でストーリー認定を受けた場合、「文化や風習などが違うので、他の地域の考え方も聞けることが新鮮」というメリットがある一方、離れているから日程調整などが難しく、共同PRイベントなどが行いにくいといったデメリットもある。シリアル型は1度に完結できない分、次の土地への来訪が促され、人の流れが広域に広がることも予想できる。実際認定されたストーリーのなかでは、隣接する県との連携や同じ県内にある世界遺産との連携を模索する動きもあり、効果的な誘客手段の確立も大きな課題として挙がっていた。

認定書の交付 (左)馳文科大臣
認定書の交付
(左)馳文科大臣

■PR展開は色々な視点で

 「日本遺産サミットin岐阜」では、認定37団体すべてがブースを出していた。そのなかでも鳥取県三朝町の「六根清浄と六感治癒の地~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~」のように、タイトルに人を惹きつけるワードが加わっているものや、ストーリーに登場する額田王に「仕事も恋もモテ系女史」というフレーズを加えてわかりやすく紹介している奈良県明日香村と橿原市、高取町の「日本国創成のとき―飛鳥を翔た女性たち―」などのブースは来場者の関心が高かった。三重県明和町の「祈る皇女斎王のみやこ 斎宮」のパンフレットは、個々の写真が大きく、情報が最低限であるため、内容情景がイメージしやすい。また広島県尾道市の「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」のパンフレットも、尾道市の日常風景の写真が多く、まち全体が日本遺産だと一目で実感できるようになっている。ほかにも女性向けの旅の提案をしているものなどがあり、配布されている情報誌に関しては、「読みやすさ」が1つのカギになるのではないかと感じた。

 今回の取材では見ることができなかったが、今美術館のなかには子供向けの解説シートや、プレゼント付きクイズラリーなどを用意し、楽しみながら美術に触れる機会を提供しているところも多い。「ストーリーがあると、知識が無い人にも興味を持ってもらえる」という声の通り、今後はいろいろな層に分けたPRを展開していくことも重要になると感じた。

 日本遺産に認定されたストーリーを構成する文化財は建築物だけではなく、山や川、料理や器、祭など多岐に渡る。 

 例えば島根県津和野町の「津和野今昔~百景図を歩く~」は、栗本里治(号・格齋)の描いた百枚の絵とその詳細な解説をまとめた「津和野百景図」に描かれている町の風景や伝統、風習などの多くが今も守られている津和野が舞台。自然と歴史文化、四季、食文化の4つで津和野を旅できるようになっていて、暮らす人も含めて日本遺産であると、紹介している。このように五感すべてで楽しめるのも1つの魅力ではないだろうか。

細江茂光岐阜市長
細江茂光岐阜市長

■見えてきた次なる課題

 日本遺産の現状で最大の課題は、認知度の低さである。昨年認定された団体は、ボランティアガイドの育成や紹介施設の開館、多言語アプリの開発などの環境整備とフォーラムの開催やパンフレット作成などの周知活動を行っている。また、住民への周知拡大のために、日本遺産認定記念イベントを開催している場所もある。

 岐阜市では「市内の外国人観光客の宿泊者数が前年度比約8%増えた」という報告があり、ほかにも「観光消費額が増えた」などの良い報告もあったが、取材した多くのブースでは、地域住民への浸透、観光資源としての浸透の難しさなどを理由に、「認知度の低さを改善するための活動が難しい」という声も聞かれた。また、数が増えることで目立たなくなることを心配する声や、「日本遺産全体での情報発信の機会を増やしてほしい」などの要望も聞かれた。ただ、見方を変えれば「世界遺産だって、今は登録されたら話題になるが、はじめのころは話題にもならなかった」という声があるように、始まって2年目であることを考えると、色々な挑戦ができる段階だともいえる。

 座談会の中で多くの団体が観光庁との連携を期待するなか、観光庁の蝦名邦晴次長は「理解してもらうことが地域の魅力を高めることにつながる。相手側にとってどう受け取ってもらえるかを考え、外国人、新しい日本の観光客の発掘をしていかなければならない」と発言した。文化庁の宮田亮平長官はPRに関してしたたかさが大切であるとの考えを示し、「掘り起こしたときに出てきたものを大切にし、文化財を活用していくべきだ」と語った。また、細江茂光岐阜市長は観光地整備に関して「外国人と日本人の感じる魅力は、生活の背景、歴史、文化が違うので必ずしも一致するとは限らない。日本人が自分でみて良いと思ったものが必ず海外の人にも良いはずだと思い込まないことが大切」と話し、「本当の日本の良さはありのままの良さと認識し、外国人受けするために手を加える、または観光客に迎合するのではなく、ありのままの良さで勝負する感覚も個人が持たなくてならない」と強調した。「おもてなしレベルの向上のために日本遺産申請をした」という言葉が取材の中で一番心に残ったのは、そこに通ずるものだからかもしれない。そこに住む人が自分のまちの良さに気が付き、自信と誇りを持ち、磨き上げる。多くの人がそう話すように、まち全体での取り組みが大きなカギとなる日本遺産。次回サミットは、京都府で開催される。その場ではサミットの座談会の最後にもあったように、課題や成果の発表がさらに挙がることを期待したい。

鍵は“ストーリー”、地域振興へ、研究会開く(余暇ツーリズム学会)

(右)から丁野氏、渡邊氏、松田氏、栗原氏
(右)から丁野氏、渡邊氏、松田氏、栗原氏

 余暇ツーリズム学会観光地域ストーリー研究部会(丁野朗会長)は7月9日、東洋大学白山キャンパス(東京都文京区)で第2回研究会を開催した。「地域振興の鍵になるのはストーリーである」を前提に、大学関係者や観光業関係者、地方自治体職員、日本遺産認定を目指す団体関係者などが集まり、熱い議論が交わした。

 第1部では、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の加藤弘樹参事官による基調講演「『日本遺産』におけるストーリーの価値と狙い」が行われた。加藤氏は日本遺産創設の背景や仕組みなどを詳しく説明。「日本遺産にとってストーリーは鍵。そのストーリーは産・官・学・金・労・言と地域住民で考えてほしい」と思いを語った。

(右)から矢ヶ崎氏、森本氏、加藤氏
(右)から矢ヶ崎氏、森本氏、加藤氏
井上博文氏
井上博文氏

 第2部では、加藤氏に加え、栗原博氏(日本商工会議所地域振興部長)、矢ヶ崎紀子氏(東洋大学国際地域学部准教授)、松田優一氏(横須賀市経済部担当部長)、森本昌憲氏(藤田観光元会長・本部会副会長)、渡邊正範氏(十日町市産業観光部長)がパネリストとして登壇。進行役は丁野朗氏が務め、パネルディスカッションと公開ブレーンストーミング「観光まちづくりに求められる地域ストーリーとは?」が行われた。栗原氏と松田氏、渡邊氏がさまざまな事例を用いて、ストーリーによる地域振興の例を紹介。今後の観光業に対して「企画大量生産的な考え方ではなく、個人が共感して動き出しているのだから、個人の感情に訴えなければならない」、「ストーリーはシビックプライド醸成の現場になる」という意見が出たほか、「受け手側に対する検証」や「文化財を経済的にも活用はできないか」などの課題や展望も挙げられた。

 同部会副会長の井上博文氏(東洋大学名誉教授)は、「地域の中でも『これから何かをやりたい』と思う機運を全国的に盛り上げ、自分のところでもできると考えていただきたい」と語った。