哀悼 野口冬人さん ― 歩く後ろ姿に旅行作家の真髄を見た

 野口冬人さんが年末に亡くなった。野口さんには温泉のことや、旅について色々教わった。感謝の言葉しかない。

 最初に野口さんにお会いしたのは、私が旅行新聞に入って間もない1999年のころだ。何かのパーティーで、遅れて来た野口さんが会場の後ろの方でグラスを片手に立っていた。スーツ姿がひしめくなか、渋いジャケットを着た野口さんは、際立っていた。

 私は恐れ多くも野口さんに近づいて行った。まだ温泉のことを何も知らない業界紙の新人記者が、すでに大家となられていた野口さんに最初に尋ねた言葉は、「最近面白いと思った温泉地はどこですか?」だった。何という不躾な質問だろう。

 野口さんは、答えるに値しない、そんな漠然とした質問にも丁寧に答えてくださった。いくつかの温泉地の名前を挙げられたが、新人の私は、ほとんどの温泉地を覚えられず、そのなかで「東鳴子温泉」という名前はなぜか頭に残り、その後、何度も訪れ、その理由を探した。

 野口さんは伊豆の観音温泉にしばしば行かれていた。15年12月、観音温泉に野口冬人「温泉・山・旅」資料室がオープンしした。鈴木和江社長と野口さんの対談企画などで私も同行取材したことがある。あるとき、下田駅からの帰りに、野口さんは「久しぶりに下田に来たので、せっかくだからちょっと街を見てくる」と、東京に戻る私に告げた。相当に高齢になられていたが、背中にリュックサックを背負い、「下田の街を歩く」と言うのだ。おそらくもう何十回も下田の街を歩いて来られただろう。しかし、それでもまっすぐに帰らずに、自らの足で歩いて、何か一つでも発見して帰ろうと歩き出した後ろ姿に、旅行作家の真髄を見た気がした。

 大分県・長湯温泉のB・B・C長湯に「林の中の小さな図書館」が、ひっそりとある。野口さんが長年蒐集した山岳図書が天井高くまで並んでいる。別名「冬人庵書舎」だ。野口さんが山登りをしていたころの登山靴も展示している。私は九州の実家に帰省した折には、湯も、温泉街の雰囲気も好きな長湯温泉にときどき行くのだが、これからは、また別の意味で感慨深い温泉地となる。

 東京・高田馬場の「旅の本」に囲まれた現代旅行研究所で野口さんと旅行作家の竹村節子さんと話し込むと、近くのファミリーレストランに移動して食事をするのが決まりだった。「車イスでも食事しやすいから」と、野口さんと竹村さんはよく利用していたのだが、間もなく店が無くなるというので最後に食事をしたとき、野口さんはとても残念そうな顔をしていた。

 本紙は毎月1日号で、野口さんと竹村さんが交互に執筆する「宿にひとこと」を連載しているがこの数カ月、野口さんは休筆していた。野口さんの原稿は手書きである。専用の原稿用紙に独特の筆跡で書かれる。それを私は毎回パソコンのキーボードを叩きながら楽しんで書き写していた。初めて野口さんの原稿を見て、すぐに書き写せる人はいないだろう。私も腕を組みながら、これは「何て字だろう」と10分くらい眺めることが多々あった。一生懸命に野口さんの語り口調を思い出すうちに、天から文字が降りてくるように解読できたのは不思議だった。しかし、もうそのような努力もいらなくなったと思うと寂しい。

(編集長・増田 剛)

ツアー自粛考えず、「望みは来ていただくこと」(糸魚川市観光協会)

 新潟県糸魚川市で昨年12月22日午前10時20分ごろ、「糸魚川市駅北大火」が発生。消失面積約4万平方㍍、消失棟数144棟の被害を生み出した。これを受け糸魚川市観光協会の山下建夫会長は29日に「糸魚川市の火災についてのお願い」を発表。「フォッサマグナミュージアム」や「谷村美術館・玉翠園」などの観光施設、駅前通りに面した飲食店が平常営業をしていることを説明し、「市全体がツアーの遅延や不催行、自粛を考えていない」ことを表明した。「今、糸魚川市に来ていただくことが私たちの最高の望みであり、切なる願いです」と強く訴えた。

 今回の火災では新潟県最古の「加賀の井酒造」の酒蔵が全焼。蔵見学を中止しているほか、駅周辺のまちめぐり左方向部分ができない状況になっているが、駅前通り両脇は被害を受けていない。そのため、市内観光への不便は生じていない。

ローカル路線バスの旅

 今年1月2日に放送されたテレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」で、太川陽介と蛭子能収の名コンビが遂にファイナルを迎えた。2007年にスタートした同番組も足かけ10年。第25弾まで続いた人気の旅(!)番組だ。

 路線バスだけを乗り継いで3泊4日でゴールを目指すというシンプルな番組企画なのだが、毎回ガチンコの真剣勝負でハプニングの連続なのが面白い。最終回も常識で考えれば有終の美を飾って番組終了となるはずだが、結局はゴールできずに失敗で終わってしまうというのが、実にこの番組らしかった。拍手喝采。

 今春から新シリーズも始まるそうなので、太川&蛭子コンビに負けない珍道中を期待したい。そうそう、同じテレビ東京で制作が決定した「孤独のグルメ」の最新シーズンも楽しみだ。

【古沢 克昌】

責任問われる時代、16年観光産業振り返る(JATA)

越智理事・事務局長
越智理事・事務局長

 日本旅行業協会(JATA)の越智良典理事・事務局長は12月22日の定例会見で、2016年の総括を発表した。国際連合が17年を「開発のための持続可能な観光の国際年」としたことに触れ、「観光産業は環境に対する影響も含め『責任』が問われる時代になった」と振り返った。そのほか海外旅行復活や訪日旅行の個人化など、市場分析を交え説明した。

 日本人海外旅行者は16年1―11月累計で対前年5%増となった。12年の1849万人を最後に減少傾向にあったが、年間1700万人台まで増える見込み。市場を詳しくみると12年以降訪中・韓は減少傾向で、ほかの市場は09年から微増傾向だった。

 15年から16年で円高傾向となり動きが変わった。燃油サーチャージの下落も影響し、訪中・韓は回復の兆しをみせた。越智氏は「訪中・韓が戻れば1850万人はすぐに到達できる」と述べた。

 ただ16年の旅行会社の売上高は伸びが鈍く、市場の動きと乖離した。要因の1つに旅行先の変化で単価が下がったことを指摘。テロの影響などで、高単価な欧州は減少し、廉価な近隣地域が伸びたことが響いた。

 もう1つの要因に燃油サーチャージの下落を挙げた。燃油サーチャージは売上高の4―5%を占め、下落すれば基本的に減収増益となる仕組みとなっている。越智氏は「過去にも例は多くある。変化にどう対応するかが重要」と強調した。

 訪日旅行の個人化では、中国のビザを発行するために必要な、形態別身元保証書発行比率の推移を説明。14年からの2年間に訪日個人ビザの取得者は、人員ベース構成比で16・3%上昇した。5人に2人が個人ビザで日本を訪れる。越智氏は「日本人が数10年かけて行った海外旅行市場の変化を、中国人はもっと早い期間で行うはず」と分析した。

受講者216人を認定、温泉観光実践士講座開く

12回目の養成講座開く
12回目の養成講座開く

 温泉を正しく理解し、温泉観光地の活性に寄与する人材の育成を目的にした実践科目を学ぶ「温泉観光実践士養成講座」(主催・温泉観光実践士協会)が昨年12月3、4日の2日間、東京都大田区蒲田の大田区産業プラザpioで開かれた。

 全国の旅館や旅行業の従事者、観光業界への就職を目指す学生など216人が受講。2日間にわたり、「温泉地と旅行企画」(崎本武志江戸川大学准教授)や「温泉と健康」(阿岸祐幸北海道大学名誉教授)、「温泉施設とテクノロジーの融合」(藤原翔平ソフトバンクロボティクス)、「観光地・温泉地の活性化法」(遠間和広新潟県赤倉温泉観光協会長)、「温泉旅館の再生」(飯島賢二飯島経営グループ代表)、「温泉旅館の経営」(浦達雄大阪観光大学教授)など8つの講義と甘露寺泰雄中央温泉研究所専務理事の基調講演が行われた。終了後、参加者は温泉観光実践士に認定された。

 同講座は2009年に大阪観光大学でスタートし、今回が12回目。東京での開催は2回目。過去11回の講座の599人と今回の講座の216人を合わせ815人が温泉観光実践士の認定を受けた。

 今後の講座は3月25、26日に大分県別府市(場所未定)で、7月1、2日に和歌山県・花山温泉で開講する。

6月17日運行開始へ、豪華寝台列車「瑞風」(JR西日本)

トワイライトエクスプレス瑞風(イメージ=JR西日本提供)
トワイライトエクスプレス瑞風(イメージ=JR西日本提供)

 JR西日本は、豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の運行を6月17日から開始すると発表した。料金はロイヤルツイン(2人利用)1泊2日で1人27万円から。6―9月出発の1期分は昨年12月5日から申し込みを受け付けており、締め切りは1月末まで。申し込み多数の場合は抽選に。

 コースは、山陰・山陽を巡る1泊2日の片道4コースと、2泊3日の周遊1コースの全5コースを設定。1泊2日の山陽コース(下り)の場合、京都・大阪を出発し途中、倉敷駅で下車し「大原美術館」、南岩国で「錦帯橋」などに立ち寄り、観光して下関に向かう。1泊2日の山陰コース(上り)は、下関を出発し、出雲で「出雲大社」、鳥取で「鳥取砂丘」などに立ち寄り、大阪・京都に向かう。

 山陽・山陰を周遊する2日3日のコースは、京都・大阪を出発し、1日目に岡山で「岡山後楽園」、2日目は宍道でたたら製鉄の遺構「菅谷たたら山内」、松江で茶の湯文化を堪能する「明々庵」、3日目は東浜で世界ジオパーク認定の「浦富海岸」に立ち寄り、京都・大阪に戻ってくる。

 山陽コースでは明石海峡や瀬戸内海、山陰コースでは余部橋梁や宍道湖など、いずれのコースも日本の原風景や美しい自然が堪能できるビュースポットがいくつも用意されている。

 料金は、6―8月出発の1泊2日(4コース共通)がロイヤルツイン(2人利用)1人27万円、ロイヤルシングル(1人利用)同33万円、ザ・スイート(2人利用)同75万円。9月出発はいずれも3万円増。2泊3日コースは、6―8月出発がツイン同50万円、シングル同62万円、スイート同120万円。9月出発はいずれも5万円増。ロイヤルシングルは2人、ザ・スイートは4人まで利用できる。

 「瑞風」は10両編成で運行。最大の特徴といえるのが、1両すべてを使ったスイート。1両1室の構成は世界的にも珍しく、バスタブ付きのバスルームを備えるなど、広さだけでなく随所にこだわりをみせている。

 料理は、フードコラムニストの門上武司氏プロデュースのもと、京都「菊乃井」3代目の村田吉弘氏ら7人による、食の匠の監修による沿線の食材を盛り込んだメニューを提供する。

昨年11月29日の発表会見
昨年11月29日の発表会見

 昨年11月29日に開いた発表会見で、同社の来島達夫社長は「瑞風は美しい日本の素晴らしさと、鉄道の旅の醍醐味を感じていただける、まったく新しい列車になる。地域の皆様と沿線の魅力を発信し、より多くの人にこの地を訪れていただき、地域全体を盛り上げていきたい」と意気込みを語った。

 また、来島社長は会見で「より多くの人に気軽に鉄道の旅を楽しんでいただけるよう、瑞風とは別の新たな長距離列車も検討している」と、さらなるクルーズ列車の導入を示唆した。

旅行取消料を免除、〝安心・頼りになる〟商品へ(ルックJTB 17年度上期)

生田亨社長
生田亨社長

 JTBワールドバケーションズ(生田亨社長)は昨年12月1日、東京都内で2017年度「ルックJTB」上期商品発表を開いた。17年度から、体調不良などさまざまな事情により、急に旅行を取り消す場合でも、「次回の旅行を予約・参加することで取消料をもらわない」制度を導入することを発表した。

 生田社長は冒頭、昨今の旅行業界の大きな特徴として、オンライン旅行会社(OTA)を中心としたダイナミックパッケージツアーが好調に推移していることを報告。この状況を踏まえ、17年度商品は「安心・頼りになるパッケージ商品の強化」をコンセプトに商品造成を行っていく。

 今年度も10年度から導入した「ルックJTB独自の旅程保証」、16年度から導入した「ルックJTB遅延お見舞金制度」を継続。これに加え、17年度は「くつろぎの旅」「心ゆく旅」「地球の詩」の3商品で、申込み前に添乗員に直接相談することができる窓口「添乗員がお答えする 旅えらび相談メール」を、すべての添乗員付きルックJTB商品には、申込み後に現地での過ごし方を添乗員に相談できる窓口「添乗員がお答えする タビマエ相談メール」をそれぞれ新設し、旅行者に安心・頼りになるサービスを提供していく。

 17年度の強化方面は昨年、日本との外交樹立50周年を迎えたシンガポール。16年度は外交関係樹立50周年記念商品としてルックJTB「GO!GO!シンガポール」を設定し、約1500人の旅行者の利用があった。17年度は同社グループ一丸となって、年間を通してシンガポールをクローズアップし、魅力ある商品を展開していく。

 生田社長は17年度の仕入れ戦略として、訪日外国人の急増により、航空座席の確保が難しくなっていることなどから、17年度も16年度に引き続き、座席数の確保に取り組み、ホールセラー商品の増設に務めていく。

 16年度の取扱見込み人員は、テロなどの外的要因があったが、日本人の出国率が伸びていることなどから前年度比5・0%増の113万8千人となる見込み。17年度は“安心〟、“頼りになる”をキーワードに商品造成を行い、同4・0%増の118万人を目指す。

羽田京急バスとアルピコ交通東京、「羽田空港―白馬線」共同運行

式典で記念撮影
式典で記念撮影

訪日外国人ターゲットに新路線

 京急バスグループの羽田京急バス(岩田信夫社長)とアルピコ交通の連結子会社であるアルピコ交通東京(関謙一社長)は、昨年12月17日から「羽田空港―白馬線」の共同運行を開始した。

 羽田空港―白馬線は京急バスグループの空港バス路線の中でも訪日外国人をターゲットにした路線で、通常のリムジンバス使用車両ではなく、長距離の夜間高速バスで採用している「独立3列シート車両」で運行を行うほか、羽田空港のバス停を国際線ターミナルのみにするなど特徴をもった新路線となる。

 運行期間は3月5日まで(年末年始を除く)の冬季期間限定。1日2往復で、運賃は大人(12歳以上)9千円、子供(小学生)7千円。停留所は羽田空港国際線ターミナル(6番のりば)、白馬五竜、白馬駅、白馬八方バスターミナル。

 長野県の白馬村は、もともとウィンタースポーツを目的とした観光客の多いエリアで、近年は訪日外国人にも非常に人気の高いスポット。

 今回新設された白馬線は、羽田空港国際線ターミナルから白馬地区までの直行便で大きな手荷物を持った客でも乗り換えなしで目的地まで利用できるのでたいへん便利。

 独立3列シートのほか、トイレ装備、Wi―Fiサービスおよびブランケットのレンタルなどの基本的なサービスに加え、外国人利用客へスムーズな案内を行うため、通訳用のタブレットを導入。また車内モニターでは英語案内を行うなど、羽田空港から訪日する観光客にゆっくりと寛いでもらえるよう対応した。

* * *

 共同運行開始を記念して開業日の昨年12月17日に、羽田空港国際線ターミナルで開業記念式典が開かれた。テープカットなどセレモニーには長野県の吉澤猛観光部長、白馬村の下川正剛村長をはじめ、京浜急行バスの平位武社長、羽田京急バスの岩田社長、アルピコ交通の古田龍治社長、アルピコ交通東京の関社長が参列した。

 式典では主催者を代表して平位社長が「羽田空港からの高速バスとしては49路線目の運行となりました。今回開業した羽田空港―白馬線を契機に、より多くのお客様を長野県・白馬村に安全第一でお届けし、地域活性化の一助となるよう、引き続き利便性の向上に努めていきたい」とあいさつ。アルピコ交通の古田社長は「これまで訪日外国人のお客様に向け、成田―白馬線、東京駅―白馬線を運行してきましたが、念願だった羽田空港からの直接アクセスが実現しました。安全安心には細心の注意を払い、大都市から信州への路線をさらに拡充し、地域振興に努めたい」と抱負を語った。

強羅花扇 強羅花扇早雲閣 円かの杜 箱根の3館、新たな挑戦でブランディング

円かの杜のエントランス
円かの杜のエントランス

「円かの杜(まどかのもり)」開業から3年目迎える

 岐阜県高山市で「飛騨亭花扇」(全48室)と「花扇別邸いいやま」(全15室)を展開する花扇グループ(飯山和男社長)は、2009年に神奈川県・箱根温泉に進出。強羅花扇(全20室)、強羅花扇早雲閣(全24室)、最上級グレードの「円かの杜」(全20室)の3館がそれぞれのコンセプトでブランディングを進めている。“木の美学”や飛騨牛に代表される食材を追求する一方で、新たな仕掛けや挑戦、そして、日本文化を継承する要である人材教育と育成を地道に取り組んでいる。

円かの杜308号室「春蘭」
円かの杜308号室「春蘭」
強羅花扇の玄関口
強羅花扇の玄関口

人材教育や育成を地道に

 新宿区の保養施設を取得して09年に強羅花扇を開業。翌年には強羅駅前の老舗旅館を「強羅花扇早雲閣」としてオープンした。早雲閣の自家源泉は箱根の中で最も高い場所に湧き出ている。その独特の濁り湯を掛け流す早雲閣の湯は、隣接する花扇と共有している。

 14年12月には花扇グループの最上級グレード「円かの杜」が開業し、現在3年目を迎える。

 「旅館は日本の文化」などといわれるが、客室係やフロントなどスタッフが、しっかりと日本文化を身につけ、継承していくベースづくりが最も難しい。

 花扇グループ箱根3館の人材教育や育成を一手に担っているのが、女将の松坂美智子さんだ。

 「一度だけでなく、継続してお越しいただけるには、客室係やフロントスタッフの力がとても大きいと感じています」と松坂女将は話す。チェックアウトしたあとの時間などに、お客様と直接対面する客室担当者一人ひとりと「次につなげるために、何ができるか」など日々コミュニケーションを取っているという。楽天トラベルやじゃらんなどの口コミは毎日チェックしている。「すぐにでも改善できるもの、また時間はかかるが、取り組まなくてはならないものなどを判断し、決断するのが経営側の最も大切な仕事」と話す。

 飯山社長をはじめ、花扇グループは一体となって、東京オリンピックが開催される2020年後も見据え、人材を確保するために戦略を練って奔走している。飯山雅樹専務も「時代は変わっている」ことを感じている。「休暇制度やシフトなどを含め、労働環境の大変革をしていかなければ、今の若い世代に魅力的には映らない」と強調する。

 昨年7月26日には、箱根ロープウェイが再開し、8―11月まで通常の状態に戻った。しかしスタッフ不足の問題にも直面した。毎日満館になるほどの勢いを感じるなか、スタッフの出勤シフトに応じて部屋数を決めて予約を出している状態が続いている。これは箱根に限らず、全国の旅館に共通する問題だ。

再開した大涌谷へのロープウェイもにぎわう
再開した大涌谷へのロープウェイもにぎわう

 強羅花扇、早雲閣、円かの杜の各旅館10人ずつ計30人の客室係が最低限必要だが、数人ずつ不足している状況にある。

 松坂雄一取締役総支配人は「さまざまな人的ネットワークを駆使しながら、粘り強く取り組んでいます」と語る。その結果は徐々に表れている。テレビや雑誌などを見た若者から「ぜひ就職したい」という問い合わせもでてきている。メディアなども戦略的に活用しながら、毎年10人程度の新卒を見込む。

強羅花扇「千本格子の和風シャンデリア」
強羅花扇「千本格子の和風シャンデリア」
強羅花扇「早雲閣」の外観
強羅花扇「早雲閣」の外観
早雲閣の大浴場「結の湯」露天風呂
早雲閣の大浴場「結の湯」露天風呂

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 花扇グループが箱根に進出してから約8年、各旅館のそれぞれの個性を最大限活かすブランディングに取り組んできた。この3館の棲み分けは明確だ。

 「強羅花扇」の部屋タイプは同一。一方、円かの杜は部屋タイプが20室すべて異なるため、「自分の好きな部屋にゆっくりしたい」と予約の段階で部屋を指定してくる宿泊客が多い。一番くつろげる客室を選べるように意図して設計しており、そのようにプロモーションもしている。「ハードリピーターが多いのも特徴です」(飯山専務)。

 円かの杜では、雑誌とのタイアップ企画で「ディスカバー・ジャパンルーム」なども取り組んでいる。今年はさらなる仕掛けにも着手している。

 「ブックディレクターの幅充孝氏と一緒に、館内を本で彩るライブラリー(図書館)を計画しています。館内の至る所に『本がある風景』をつくり出し、くつろげるように椅子も置きます」(松坂取締役総支配人)。「宿泊客が滞在するなかで、『当館にはこのようなことを提供できる引き出しがありますよ』というスタンスです。いかに今の時代に宿を合わせていくかを常に考えています」と語る。1人の単価が5万円以上の高級宿には「特別感」が必要だ。押しつけのサービスやおもてなしではなく、あらゆる過ごし方のバリエーションを用意しておくことが大事という。円かの杜開業から3年目を迎える17年に、花扇グループは新たな挑戦を始めた。

ナビタイムが外客誘致の講演会実施、1月17日まで参加者を募集

 ナビタイムジャパンは1月25日、地域誘客をテーマとした「インバウンド観光セミナー」を東京国際フォーラム(東京・丸の内)で開催する。対象は、各自治体でインバウンド対策に従事する実務者ら。観光客の動態分析や、地域の魅力発信をサポートする構えだ。当日は、相談会も実施。課題を共有し、アドバイスを行う。

 松山良一日本政府観光局(JNTO)理事長が、「観光立国ニッポンの実現と地方創生」と題し特別講演を行うほか、早野陽子JTB総合研究所主任研究員と大西啓介同社社長も登壇。ビッグデータの活用方法などについて語る予定。

 問い合わせ=同社インバウンド観光セミナー事務局 電話:03(3402)0827。