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〈旬刊旅行新聞8月11・21日合併号コラム〉コロナと猛暑 今夏は読書や人のいない場所を楽しむ

2020年8月20日
編集部:増田 剛

2020年8月20日(木) 配信

のどかな感じがいい「矢切の渡し」

 8月に入って、暑い日が続いたので室内で読書が進んだ。

 
 睡眠前などに多種多様の本を読んだが、とりわけ面白かったのは、英国の女性小説家メアリー・シェリーが書いた不朽の名作「フランケンシュタイン」(訳・小林章夫)だ。

 
 天才科学者フランケンシュタインが造り上げた「怪物」は、愛と理解者を求めるが、その醜悪な姿であるがゆえに人間たちに拒絶され、孤独と憎しみの感情が沸き上がり、苦悶する悲しい物語である。人間に理解してもらえることを諦めた「怪物」は、自らの創造主(神)であるフランケンシュタイン博士に、自分と似たような醜悪な怪物を「もう一体」造ってほしいと懇願するシーンは、切なすぎて胸を打たれた。

 
 人間であれ、怪物であれ、この世界に「ただ1人」の理解者すらいない孤独の辛さを浮き彫りにしている。200年以上前の作品ではあるが、人間の本質を見事に描いているために、決して古びた印象はない。また翻訳された小林章夫氏の手腕も大きいのだろう。

 
 この小説「フランケンシュタイン」の舞台は、ジュネーブや、インゴルシュタット、ロンドン、エディンバラ、アイルランド、北極周辺の氷山など移り変わり、さながら旅行記を読んでいる気分にもさせてくれる。

 
 19世紀初頭の欧州の庶民が営む日常生活も垣間見えて、興味深い作品だった。

 

 
 読書だけではつまらないので、外出も楽しんだ。

 
 梅雨が明けて、8月の初旬には東京都葛飾区の柴又を訪れた。私は九州から上京して30年以上経ったが、実は映画「男はつらいよ」の舞台、柴又を訪れたことは1度もなかったのだ。

 
 20年ほど前、北九州市出身の同僚が「昨日、彼女とデートで柴又を散策してきた」という話を聞いて、感心した記憶があった。当時の私にとっては、「そのような彼女との1日の過ごし方は渋いな」と思ったのかもしれない。

 

 
 しかし、それから20年近く経つというのに、私は柴又を訪れなかった。このまま行くと、本当に柴又を訪れないままに、私は東京という街を離れてしまうかもしれないと考えたのだ。

 
 想像よりも小さな街だったが、私はすごく満足した。猛暑日で帝釈天の参道にも人影はあまりなかった。大奮発して宇治金時ミルクのかき氷を食べた。そして、少し足を伸ばして「矢切の渡し」に辿り着いた。

 
 青い空が広がる江戸川は、世界的な疫病の流行を忘れさせるほど新鮮な空気で満ちていた。

 
 草いきれのすごい船着き場で、1人の男が「今日は暑いからぐるっと回っても200円でいいです」と声が聞こえた。こちらからは、その男の姿は見えなかった。私は素朴な文字で書かれた「矢切の渡し」という木の看板がいたく気に入った。観光客がいない渡し場は、3密とは無縁の世界だった。

 

 
 別の日、私はクルマに乗って、松本市方面へ国道20号線をのんびりと走った。長野方面は中央自動車道を使った旅ばかりだったので、今回は下道のみの旅行をしたかった。緑あふれる森林の中ではエアコンを止め、窓を開けて思いっきり深呼吸をした。帰りは八ヶ岳に寄り道をして涼み、高原リゾートの底力を感じた。新型コロナウイルスと猛暑が重なるこの夏は、読書や、人のいない場所で、自分なりの楽しみを見つけていこうと思う。

(編集長・増田 剛)

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