test

「街のデッサン(226)」旅には「差異」と「疑似」が共存する ルーマニアの少女たちに写真をせがまれて

2020年2月9日
編集部:長谷川 貴人

2020年2月9日(日) 配信

ペレシュ城でルーマニアの子供たちと

 旅という行為は国内に増して、海外の場合には「差異」の体験が期待される。

 よくいわれるように「観光」とは、国の光を見ることである。それは他国には無い際立った光、すなわちその国独特の例えば自然景観や、卓抜な手技を施した建築、華やかな伝統舞踊などが売り物になるのであるから、やはり「違い」が基底にある。

 20年ほど前に、ノルウェーのオスローからベルゲンまで、何時間も掛けて列車旅をしたことがあった。車窓の風景は、日本では見ることの無い巨大な奇岩がゴロゴロと転がっていて、赤や青に塗られた住宅が合間に建っている。月面の光景を楽しむような列車の旅で、少しも飽きることはなかった。

 風景だけでない。ベトナムをホーチミンからハノイまで7日間掛けてバスで横断したが、朝から晩までの食事のどれもが日本とは違った美味しさがあった。出会うベトナムの人々の心優しさにも感動したが、食材が日本とさして変わってはいないのに、出される食べ物の微妙な差異の見事さにも感銘を受けた。風土の違いを楽しみ、受容する喜びが旅の醍醐味といえるのであろう。

 しかし最近、差異の文化とは真逆の「疑似」ともいえる経験に出会った。

 ルーマニアを旅し、ドラキュラのモデルとされるヴラド・ツェペシュの足跡を追った。シギショアラにある彼の生家はレストランになっていて、そこで昼食を取った折のこと。丁度、私の座った席の脇にヴラド3世の胸像が飾られ、同行したツアーの仲間からその彼に私が似ているという話になった。そういえば、隣のテーブルをドイツ人の観光客が占めていて、彼らも何となくそんな気分でジロジロ見ているようだ。ヴラドに似ているということは、ドラキュラにも似ているということになるから、私としては複雑な気分だ。

 話題に上る栄誉を得たあとに向かったのは、シギショアラからも近いシナイアの町。ここには、ルーマニア王室のカルロ1世が建てた国内でも最も壮麗で美しいといわれるペレシュ城がある。観光客で込み合った城の中庭でガイドの説明に聞き入っていると、1人の女性が目の前に立った。彼女がやにわに「生徒が写真を一緒に、と願っているのですが」という。その小学校の先生の後ろに何人かの少女が隠れている。彼女たちと写真を撮った。その理由を問いただす間もなく、ツアー仲間は出発している。少女たちは異国のドラキュラに果たして出会ったのかどうか、未だに理由を解せないでいる。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

いいね・フォローして最新記事をチェック

コメント受付中
この記事への意見や感想をどうぞ!

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE
TOP

旅行新聞ホームページ掲載の記事・写真などのコンテンツ、出版物等の著作物の無断転載を禁じます。