金太郎温泉(富山県) 滞在中、宿と地域を“奥深く”案内
2026年4月2日(木) 配信
金太郎温泉(木下荘司社長、富山県魚津市)は、旅行新聞新社が取材などを通じて見聞きした観光業界の取り組みのなかから、創意工夫の見られるものを独自に選び表彰する「日本ツーリズム・オブ・ザ・イヤー2025」(2025年12月1日号発表)の優秀賞を受賞した。同館は、温泉管理施設を見学する「温泉の裏側全部見せますツアー」や「大人の遠足ぶらり旅」を実施し、地元の一員として深い関係を生かし、地域のさらなる発展を目指している。木下社長と浦崎将寿取締役支配人に話を聞いた。
【木下 裕斗】
□温泉管理施設を巡るツアー 入浴の価値高め単価向上へ
――金太郎温泉の歴史からお話しください。
木下社長:金太郎温泉は1964年の東京オリンピック選手村を移築し、翌65年に日帰り温泉施設「金太郎温泉天神山健康センター」として設立しました。創業者の石黒七平氏が「金太郎のように全身に力が溢れ、元気一杯で、健康になるように」という願いを込めて、名付けています。
開業当初は日帰りのみを受け入れる入浴施設として、大規模な食事処や休み処などを併設していました。こうしたなか、宿泊需要も高まり同年、大衆向けの温泉宿もオープンしました。82年にはお客様の満足度を高めるため、本格的な温泉旅館として金太郎温泉光風閣を竣工。収容人数の拡大へ、88年には光風閣別館も建てました。宿泊施設を開業した当時から周辺に温泉旅館がまったくない一軒宿として営業しています。
2005年には地下1千㍍まで掘削し、約75度の温泉を毎分1500㍑自噴する3本目の源泉を開発しました。
現在は旅館「光風閣」と、日帰り温泉施設「カルナの館」を営業し、両館において加水・加温を一切行わない源泉100%掛け流しの大浴場を備えています。
――泉質の良い温泉が魅力の1つとなっています。
木下社長:金太郎温泉は、酸化の元となる活性酸素を消去する還元系温泉で、食塩泉と硫黄泉が混合している国内でも珍しい泉質です。美肌のほか、冷え性や貧血などの改善を期待できます。お客様アンケートでは「温泉に浸かった翌日、肩の痛みが軽減した。友人の膝も楽になった」「血流が改善し、体が温まった」など健康維持につながった声も挙がっています。
また開業当時、高知県の仁淀川から銘石を取り寄せ、大浴場などに設置しました。現在でも活用しており、総面積約800坪のカルナの館には、魚津市内から見ることができる立山連峰をイメージした「立山連峰パノラマ大浴殿」を設けています。
光風閣の約300坪の大浴場には、石川県出身で文化勲章を受章した浅蔵五十吉氏による九谷焼陶板の壁画を飾っています。浅蔵氏の作品において壁画ほどの大きさの作品は珍しく、温泉に浸かりながらダイナミックな芸術鑑賞をゆっくり楽しめる空間を提供しています。
このように、温泉施設には大変力を入れてきました。
□個人客への対応
――個人化への対応はどのように進めていますか。
木下社長:光風閣は開業から長年、団体向けの温泉旅館として営業してきました。旅行の個人化に対応するため、10―22年の「リ・ボーンプロジェクト パート1」では、畳を残したうえで、個人客からの要望が高まっていたベッドを設けた和風ツインの客室「別邸『峰の界』」をオープンするなど、約10億円を掛けて改装を行いました。
個人化へ一層対応するため、24年には「リ・ボーンプロジェクト パート2」による改修が完成しました。大宴会場「瑞兆」は24年、個人客用ダイニングとしてリニューアルしています。
□温泉の裏側全部見せますツアー
――宿泊者を対象とした温泉管理施設を巡る「温泉の裏側全部見せますツアー」を始めた理由は。
浦崎支配人:現在、光風閣のお客様は個人客が約7割、団体は3割ほどとなりました。個人旅行については、宿泊以外の旅行計画を立てずに訪れるお客様が多くいます。こうしたお客様からチェックイン前やチェックアウト後、連泊中に楽しめる観光スポットの問い合わせをいただくことがあります。
この際、お客様の満足度を高めようと、約20年前からさまざまなツアーを実施してきました。この1つとして25年6月、温泉の裏側全部見せますツアーをスタートしました。
ツアーでは、金太郎温泉の代名詞でもある温泉を支える地下の管理室を中心に、源泉から大浴場まで続く配管や75度の源泉と水を熱交換し、温度を調整しながらシャワーへ適温に届ける装置、源泉の熱を暖房の温風に変える機器、浴槽への湯量で温度調整する機械などを巡っています。温泉管理施設への道中、旅館の業務で使用する洗濯機置場や物置なども通ります。
所用時間は約40分で、1日10人ほどの個人旅行のお客様が参加しています。申し込みがあれば、1人でも行います。お客様にはチェックイン時やフロントロビーの案内看板、ホームページなどでアピールし、申し込みを促してきました。団体旅行については、お客様の人数に応じて、複数のグループに分けて実施しています。ツアー料金は無料です。
参加者には、何回も温泉に入ったことがある地元のお客様も多くいます。当社の温泉設備は日本最大級の規模で、見学後「これは本当に良かった」と目を輝かせて話す人もいます。
木下社長:温泉の裏側全部見せますツアーを通じて温泉の価値をより深く理解していただき、ブランド力を高めることで、宿泊単価の向上につなげています。リピーター化や口コミの拡散で新規顧客を獲得することもできました。SNSで宿泊施設の魅力を調べる消費者が増えるなか、口コミは自社で情報を発信するよりも、信用があり効果的だと考えています。
さらに普段、温泉施設を管理し、接客を行わないスタッフも積極的にあいさつするようになりました。お客様を想う気持ちが高まり、仕事にも表れています。
多くのホテル・旅館が温泉の管理を高度なコンピューターなどで自動化しているなか、当社では温泉を強力なセールスポイントとしているため、機器に不具合が生じた際、早急に対処し通常運転へと復旧させるべく、熱交換や浴槽への湯量の調節による温度管理については、メンテナンスが容易な手動によって操作する設備で行っています。
□大人の遠足ぶらり旅
――このほかのツアーとして、宿泊施設の周辺を周遊する「大人の遠足ぶらり旅」も実施しています。
浦崎支配人:「大人の遠足ぶらり旅」は、私や当社スタッフが観光地ではない地元に住んでいるからこそ知っている、旅館周辺の奥深い魅力的な場所を中心に案内します。ありのままの地域を案内することがお客様の印象に深く残り、特徴ある旅を楽しめる旅館として、リピートにつながると考えています。
具体的には漁船やレジャーボートを留め置く船溜まりの隣にあり、立山連峰と能登半島と一望できる釣り桟橋や、地域内のさまざまな場所に湧く水「清水(しょうず)」、昆布店「四十物(あいもの)昆布」などを巡っています。予め数カ所の候補を決めたうえで、当日のお客様の反応や状況を見極めながら、最適な行き先を柔軟に追加しています。
さまざまなツアーを展開することで、館内での必要な滞在時間が延び、連泊も増やすことにつながっています。
――ツアーを通じた地域活性化へ、どのような想いで臨んでいますか。
木下社長:当社は「宿泊施設から地域を活性化する」という一方的な立場でなく、街の一員として我が街を発展させていく想いで旅館を経営しています。
これは、当社が多くの地域住民に株主となっていただき、少しずつ出資してもらうことで設立されたからです。現在も、約1300人の株主の多くが地域住民となっています。私をはじめ、多くのスタッフも地域で暮らしています。このため、地域との関わりの深さが当社の特徴です。
資源である温泉や住んでいるからこそ知っていることを生かして、地域全体がさらに活気づくよう努めています。
□ビジネスホテルの宿泊客カルナの館に
――市内のビジネスホテルの宿泊客を日帰り温泉施設「カルナの館」に誘客し、旅館「光風閣」への宿泊需要の喚起につなげています。
浦崎支配人:ビジネスホテルへ宿泊した人にも温泉に入浴し、地域での滞在をより楽しんでもらおうと、毎日夕方から夜に、市内のビジネスホテル3軒とカルナの館を結ぶ無料シャトルバスを3便運行しています。
3軒のホテルによる宣伝協力も得ながら、入浴や食事などを通じて、当社の売上増加につながっています。さらに、ビジネスホテルへの宿泊需要の拡大に加え、後日、家族や友人などを連れて金太郎温泉に宿泊してもらうことも目指しています。
――今後の方針を教えてください。
木下社長:現在、4本目の源泉の掘削に向けて調査を実施しています。3本目の温泉は75度ですが、4本目の源泉は100度程度の高温源の確保を目指します。これによって、温泉を活用したバイナリー発電やビニールハウスでのイチゴの栽培など、新たな事業を始めることが可能になります。入浴だけでなく、温泉を活用した新たな観光コンテンツを提供し、地域全体の魅力向上に貢献していきます。
発電については、電気の供給のほかに、見学場所や施設の解説パネルなどを設け、ツアーを実施する予定です。イチゴ狩りも行うことを考えています。
ビジネスホテルへのバスや送迎バスなどにおいて、自動運転バスの導入も検討しています。労働者の減少に対応していくことが目的です。
完全無人運転のバスについては、現状では法規制や安全面の課題があり、実現までにはまだ数年を要します。今後、国や自治体、地域の事業者などの関係機関と連携しながら、進めていきます。
また、バスの車内では多言語対応のイヤホンガイドを通じて、温泉の効能や地域の観光情報、食文化などを紹介するサービスも構想しています。お客様が興味に応じて情報を選択できるようにすることで、旅の体験をより充実させることが可能です。
こうした取り組みは、機械化や自動化によって効率化できる部分と、人が行うことで価値が生まれる、おもてなしを上手く組み合わせ、地域全体の観光体験をさらに向上させることを目指しています。
そのうえで、今後も金太郎温泉のブランド力を高め、入浴するために訪れるお客様を増やし続けていきます。さらに、街の一員として、地域を一層活性化してきたいと考えています。








