「観光革命」地球規模の構造的変化(286) 特区民泊の極端な現実
2025年9月14日(日) 配信
大阪・関西万博は8月20日(水)に入場者1500万人を超えた(会期末目標は2820万人)。大阪府大阪市は万博特需による国内外からのビジターで賑わっているが、宿泊施設が限られており、これまで行政的に「特区民泊」推進に邁進してきた。
アベノミクスの一環で2013年に国家戦略特別区域法が制定された。大胆な規制・制度改革を実行し、産業の国際競争力強化と共に国際的経済活動の拠点形成をはかり、国民経済の発展などへの寄与が目的だった。さらに訪日客増加に対応するために一部の地域の旅行業法の特例として導入されたのが「特区民泊」制度で、16年から実施されている。
当初は最低6泊7日以上の宿泊という要件があったが、その後2泊3日宿泊に緩和された。内閣府の特区民泊施設数統計(5月末時点)では、大阪市6331件(全体の94.5%)、東京都大田区313件(4.6%)、その他(0.9%)で、大阪市内に集中している。しかも大阪市認定の特区民泊の約4割が中国人もしくは中国系法人による運営とみなされており、外国人による不動産取得の温床ではないかという批判が生じている。
大規模な特区民泊施設づくりも進められているが、開業に当たって義務化されている近隣住民に対する説明会開催すら杜撰なため、近隣住民による営業中止運動が起こっている。特区民泊の乱立による騒音、混雑、ゴミ問題などで地域住民の暮らしへの影響が憂慮されるのは当然のことだ。住宅密集地での民泊事業の制限や民泊事業への宿泊税徴収などの検討が必要だ。
大阪府寝屋川市の広瀬慶輔市長は市民の暮らし満足度を最大化する地域づくりを重視しており、旅行業法の規制を緩和してまで旅行者などを受け入れるのは不要と判断して、寝屋川市を特区民泊可能エリアから外すための申立書を大阪府に提出し話題になっている。市長が市民の暮らし満足度を重視して「特区民泊を必要としない都市」を目指している点は高く評価できる。
私は03年に小泉政権の下で内閣官房に設置された「観光立国懇談会」の一員として、「住んでよし、訪れてよしの国づくり」という観光立国政策の策定に参画した。インバウンド観光立国は大切であるが、住民の暮らし重視が前提であることは言うまでもない。

北海道博物館長 石森 秀三 氏
1945年生まれ。北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授、北海道博物館長、北洋銀行地域産業支援部顧問。観光文明学、文化人類学専攻。政府の観光立国懇談会委員、アイヌ政策推進会議委員などを歴任。編著書に『観光の二〇世紀』『エコツーリズムを学ぶ人のために』『観光創造学へのチャレンジ』など。


