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「観光人文学への遡航(47)」 ライドシェア導入に対する疑問⑤

2024年4月30日(火) 配信

 ライドシェア導入の議論は、単にライドシェアがタクシーの穴を埋めるための枠組みを作るという代物では決してない。日本人が主体的に生きられるか、未来永劫搾取され続ける存在となってしまうのか、その分岐点に私たちは今立っている。

 人間の真の自由とは、労働時間を自分で決められるといったそんな表面的な自由ではない。首根っこを得体の知れないものにつかまれ、公の議論もできないまま、その得体の知れないものの意のままに枠組みが作り変えられる中に一般市民が無抵抗の状態で入れられるということだ。

 プラットフォーマーは、最初は要員を確保するために手数料率も低く抑えていい顔をしてやってくるが、ひとたび要員の確保ができた途端、その手数料率は有無を言わさず上げてくる。ウーバーイーツをやったことのある人に聞いたことがあるが、当初は1配達に付き600円程度の収入があったが、現在では大体300円くらいになっているそうだ。これはすなわち、当初喧伝されていた片手間で手軽に多様な働き方を実現できるなんて代物にはならなかったということだ。 

 ライドシェアは労働者としての権利もなく、プラットフォーマーはその運送に関してまったく責任を負わなくてよい。こんなプラットフォーマー側だけを利するうまい話が許されていいのか。

 また、ドライバーは乗客による評価システムで常に評価にさらされている。乗客はいい人もいれば、安全運行を阻害するような行動をとる人もいる。それに対して注意したことで逆ギレし、低評価をつけるといったことも十分に考えられる。タクシー事業者であれば、たとえお客様からクレームが上がったとしても、管理者がドライバーに対してヒアリングをして、ドライバーに正当な言い分があればそれを聞くことでより公平公正な評価につなげることができる。しかし、単なるプラットフォーマーであれば、乗客の評価を1つ1つ検証したりはしない。そして、あらかじめ定められた基準を下回ったら、チェックもせずに自動的に契約解除を言い渡す。既に飲食業ではグルメサイトの評価におびえる構図が定着し、多くの弊害が報告されている。

 人を評価するという行為は責任を伴う。現在は、単純にムカつくから低評価をつけて憂さを晴らす人が野放しだ。ネット上には口汚い言葉が並んでいる。お互いを信用しないで評価というツールで均衡を保っている状況をバルコニーの上から高みの見物をして、何の責任も取らずに中抜きするプラットフォーマーだけが得をしてゆく。

 ライドシェア導入は、我が国もそのような得体のしれないものに操られる社会になるということだ。タクシーが駆逐されたら、もう元には戻らない。引き返すなら、今しかない。

 

島川 崇 氏

神奈川大学国際日本学部・教授 島川 崇 氏

1970年愛媛県松山市生まれ。国際基督教大学卒。日本航空株式会社、財団法人松下政経塾、ロンドンメトロポリタン大学院MBA(Tourism & Hospitality)修了。韓国観光公社ソウル本社日本部客員研究員、株式会社日本総合研究所、東北福祉大学総合マネジメント学部、東洋大学国際観光学部国際観光学科長・教授を経て、神奈川大学国際日本学部教授。教員の傍ら、PHP総合研究所リサーチフェロー、藤沢市観光アドバイザー等を歴任。東京工業大学大学院情報理工学研究科博士後期課程満期退学。

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