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いぶすき秀水園 湯通堂温社長、松尾亮史調理長インタビュー プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選「料理部門」40年連続1位

2024年3月23日
編集部:増田 剛

2024年3月23日(土) 配信

インタビューはいぶすき秀水園で行われた

 鹿児島県・指宿温泉の「いぶすき秀水園」(湯通堂温社長)は、旅行新聞新社主催のプロが選ぶ日本のホテル・旅館100選の「料理部門」で、1985年から40年連続で1位という偉業を続けている。3月1日には、同館で特別表彰式を開くとともに、湯通堂温社長と、松尾亮史調理長に、宿の歴史から、料理へのこだわり、未来への展望など、「いぶすき秀水園の料理」について語っていただいた。

【聞き手=本紙社長 石井 貞德】

新たな試みと研究で進化を 調理場の働き方改革に着手

 ――いぶすき秀水園の創業から現在までの歴史についてご紹介をお願いします。

湯通堂 温(ゆつどう・あたか)社長

 湯通堂:私の父であり、先代の保(たもつ)が1963(昭和38)年8月に、焼酎蔵元の別荘を和室8部屋の純和風旅館「喜楽(きらく)」として創業したのが始まりです。
 母方の家業として焼酎の造り酒屋を営んでいましたが、蔵元の代表銘柄が「喜楽」でした。
 焼酎も時代とともに大きく変わり、戦前は地元での消費が多かったのですが、次第に日本酒や洋酒、ビール、ワインなどに押された時期でもありました。
 旅館を始める当初、父は鹿児島市内の料理屋さんに相談に行っていたのですが、ことごとく「旅館はやめなさい」と言われたそうです。
 ただし、「料理の良い(美味しい)旅館だったら、成功するかもしれない」と言われたことで、食べることが好きだった父は、宿の創業を決意しました。
 その後、1977(昭和52)年に石井正治が調理長に就任したことで、秀水園の「味」を広めることになりました。
 85年には、旅行新聞新社主催のプロが選ぶ旅館・ホテル100選の「料理部門」で1位に入選いたしました。以来、40年連続で1位を続けて来られたことは、大変名誉なことだと感じています。
 現在は、調理長に松尾亮史を迎えています。松尾調理長は関西で働いていましたが、石井前調理長のもとで1年間働くなかで、調理技術、人間性ともに太鼓判を押され、6年前に調理長に就任しました。

 ――どのような努力によって“料理の秀水園”は確立されていったのでしょうか。

 湯通堂:81年に新館を増設し、特別室4室を作ったころから先代の保社長と石井調理長が二人三脚で料理の改革に取り組み始めました。基本的な考え方として、「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」召し上がっていただけるように実践していきました。
 なかでも、お客様に「嫌いなもの」をお伺いすることは、他の旅館に比べて早かったのではないでしょうか。
 直接お客様に電話をして料理のお好みを聞くというやり方で、今でも旅行会社からの宿泊客を含め、すべてのお客様に直接「嫌いな食べ物はございませんでしょうか」、「アレルギーはございませんでしょうか」と予約時に一度お聞きし、到着時に再度確認しております。
 このため、フロントと調理場とのコミュニケーションがとても大事になってきます。私たちは「イエローカード」と呼んでいますが、お客様の嫌いな食材を3枚綴りで複写して、それを調理場に持っていき、仲居さんにも渡すといった細かい作業を努めて継続してきました。このことがお客様のニーズに応えられたのかと思います。
 今でこそ、IT化により携帯端末を駆使していますが、当時はカードを使って情報共有に努めていました。
 調理場の現場は、「嫌いなもの」が多くなるほど混乱して大変でした。失敗してお叱りを受けたこともたくさんありましたが、次第に慣れてきて、今ではほぼ問題なく対応できています。
 最近はとくにお子様のアレルギーが多くなりましたので、細心の注意を払っています。

 ――とても柔軟に対応できるかたちになっているのですね。

 湯通堂:料理を召し上がっている途中であっても、その日の体調の変化などによって「特定の料理が食べられない」というケースも出てきます。その場合、接客スタッフが調理場に連絡をして、変更できるもので対応いたします。
 例えば、牡蠣が苦手なお客様には、「あわびは大丈夫ですか」とお聞きし、調理長に報告します。調理長が不在の場合には代わりのスタッフに伝え料理を変更します。魚料理全般が食べられないお客様には、お肉料理に変えるなど調理後でも柔軟に対応しています。
 事前の情報が正しく入ればいいのですが、完璧ではないので接客スタッフの協力をいただきながら、できるだけお客様にお食事を楽しんでいただけるような対応を心掛けています。嫌いなものを事前にお聞きしているために、食材のロスはほとんどなくなりました。

 ――なかなかそこまで徹底している宿は少ないのではないかと思いますが、取り組みのきっかけは。

 湯通堂:お出しした料理を残されることが一番辛いと感じます。
 毎日のミーティングでお客様が残された料理などを報告するのですが、先代の父の時代には指宿の名物であるウナギや豚骨などは、女性はあまり召し上がられない時代でした。
 このため、肉質を柔らかくする大豆を入れて、旨味を引き立てた豚の角煮など新たなメニュー開発も行いました。お客様が食べたいと要望されたものを何とかメニューにできないかと創意工夫してきました。 
 石井前調理長が創った料理の中では、「柿釜ふろふき焼き」や「黒豚やわらか煮」などは、今も松尾調理長が引き継いで提供しています。
 リピーターの方には幾つかの選択肢の中からお好みの料理をお伺いしてお出しすることもあります。

 ――経営者と調理場のコミュニケーションについて。

 湯通堂:刺身は一般的には、市場から鮮魚店経由で旅館に入ってきますが、知り合いの船頭さんから「大ぶりの星ガツオが揚がった」と連絡が入ると、南さつま市まで往復で約80㌔ありますが、現地まで行って松尾調理長と食材として使えるかを相談しながら仕入れています。
 そのほかにも指宿温泉でホテル・旅館の調理長とオーナーが一緒に参加する現地研修旅行を毎年実施しています。
 先日は、神戸のホテルと、淡路島の旅館に宿泊して料理の研修を実施しました。当館は松尾調理長と、息子の洋(ひろし)副総支配人も参加しました。料理に対する“想い”の強さは、先代のころから続く指宿温泉の大きな特徴だと思います。
 毎週火曜日の休館日には、松尾調理長が若手スタッフを人気の料理店などへ連れて料理の勉強をすることもあります。
 今は「調理場の働き方改革」を松尾調理長と共に着手しています。
 週1日を休館日にしている一番の理由は調理場のためでした。良い仕事をするにはしっかりと休みを確保することを重視しています。

 ――調理場は何人体制ですか。

松尾 亮史(まつお・りょうじ)調理長

 松尾:社員が6人、調理補助スタッフが4人で、このうち3人が女性です。今年4月に新入社員が2人入るので社員は8人になります。早番と遅番の2交代制への移行に向けて準備を進めている最中で、これによって残業がほぼなくなるのではないかと考えています。

 ――いぶすき秀水園の料理の特徴は。

 松尾:日本料理で一番大事なものは「季節感」だと思っています。石井前調理長の「あわび素味噌焼き」や「美味豆富」などは今も人気が高いメニューで、名物料理として必ず入れながら、地物の食材や、流行りの食材、旬の食材などをそれぞれの季節に合わせて、新しい調理法なども取り入れながらお出ししています。
 指宿港で揚がった魚について漁師さんから連絡があるので、極力地元の魚を使用しています。そら豆も生産者から直接買っています。湯通堂社長と一緒に現地に行って相談しながら、食材選びをしています。生産者の顔が見えるというのはとても大きいですね。
 加えて、お客様のニーズに合わせた「秀水園でなければ食べられない」や「また泊まりに来て食べたい」と思っていただけるような料理を提供できるように日々努めています。

いぶすき秀水園の料理(一例)

 湯通堂:当館の料理の基本姿勢は、「お出ししてすぐに召し上がっていただける料理」を心掛けています。
 例えば、自分で火をつけて召し上がっていただくのはしゃぶしゃぶくらいです。それ以外はお出ししたらすぐに箸を付けられる状態にして提供しています。これは石井調理長のころからずっと一貫しています。
 食事のスタイルは、部屋食と個室食事処、和食堂の3つの選択肢をそろえ、予約時にお客様に選んでいただいています。仲居さんと調理場が密に連絡を取りながらお出しするタイミングをはかっています。お肉も固形燃料を使用せず、焼いたものをスタッフがスピーディーに運んでいく“時間との闘い”です。
 これは調理場だけでなく、すべてのスタッフの協力がなければ成り立たちませんので、コミュニケーションをとても大事にしています。

 ――外国人旅行者も増えています。

 松尾:ハラール、ビーガンなどに対応できるように、調理場スタッフも背景となる宗教や国の文化などを、もっと勉強していくことが必要になると考えています。

 湯通堂:私たちは外国人旅行者にも日本の料理をお出しするしかできません。宗教上の理由などでお肉がダメな場合、湯葉や豆富を使った料理を提供したり、野菜のお寿司を握ったり、臨機応変にやりますが、松尾調理長はさまざまな勉強会にも積極的に参加していますので、着実に進化してきていると思います。
 指宿温泉の調理長が集まってさまざまな食材を研究して商品化していく郷土料理研究会もほぼ毎年継続して開催しています。

 ――これからの旅館の料理について。

 松尾:日本人の主食である米にこだわない食の多様化が進むなかで、パンやパスタ、麺類を懐石の中に取り入れることや、洋風のソースや綺麗な盛り付けなどを含めて、新しい食材を「探して、見つけて、追求していく」ことが非常に大事だと思っています。
 「この調理法だったら美味しく食べられる」といった新たな試みや開発に取り組んでいかなければ、時代の流れに取り残されてしまいます。真空パックといった新しい調理法なども研究しています。
 一方で、一汁三菜や、和食器、走り・旬・名残といった季節感など、本来の日本料理からかけ離れないように仕上げていくことも常に心掛けています。思考を柔軟にして取り入れられるものは何でもチャレンジしていこうと考えています。
 話題づくりとして、ウナギの刺身をかば焼きと並べて握りにしてお出ししても面白いと思います。最近は鰹節をふんだんに使った出汁を楽しんでいただけるメニュー作りにも力を入れています。

 湯通堂:これから昼食も再開しようと考えています。あまり人手を掛けずにやっていくには、真空調理法などの研究も進めていかなければならないと思っています。
 リピーターのお客様がとても多くいらっしゃいますのも当館の特徴であります。新しい時代にも対応しながら、いぶすき秀水園の料理をお客様に満足していただけますように精進して参りたいと思います。

 ――ありがとうございました。

特別表彰式後に記念撮影

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