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「提言!これからの日本観光」 「旅行」(観光)と〝音楽〟

2023年1月29日(日) 配信

 休日、何気なくラジオの音楽番組を聞いていたときのことである。突然聞こえてきた往年の名歌謡曲のなかで歌われた観光地の地名を聞き、懐かしさのあまりそこへ今すぐ言ってみたいという衝動に駆られた。

 早速、時刻表を調べて、日帰りで、その曲に登場する美しい山並みの見える駅まで何時間も掛けて赴くという〝衝動旅行〟に出掛けた。忙しい仕事が一時途絶えたのと何年ぶりかに聞いたラジオからのなつメロが昔を思い出し、懐旧の〝旅心〟を刺激したのだと思う。思い返すとその歌が爆発的な流行歌になったのは戦後復興期のことであった。

 しかし、流行当時は急に行きたいと思っても鉄道は混雑が常態化していて、急に利用できる状況になく、しかも当時の列車の速度では優に半日以上掛からなければ行けない〝遠く〟の地だった。何年かあと、自由に旅行ができるようになって真っ先にそこを訪れた。天気も良く素晴らしい歌の文句にあるような山並みを見て、感激したことを今も忘れられない。

 私の〝心〟のなかにこの曲の余韻と景色がいつまでも残っていたことが、その衝動旅行の動機になったのだと思う。現在は、当時と違い、音楽会や映像、音声、メディアを通し音の洪水ともいえるほど、さまざまな音楽が絶えず流れている。音楽の〝日常化〟とも考えるべきか、戦後まもなくの時代のように音楽に接する機会はラジオの一部の番組に過ぎない時代とはまったく異なっている。

 しかも、近年成功した大規模観光キャンペーンでは、テーマ音楽やテーマソングがヒットしたものが成功していると考えると音の洪水のなかで、キラリと光る心に残る音楽がもつ〝旅心〟への刺激効果の大きさを痛感する。「遠くへ行きたい」や「いい日旅だち」のヒット曲がなければ「ディスカバージャパン」「いい日旅だち」の大型観光キャンペーンはあそこまで盛り上がらなかっただろう。

 新しい音・曲がどんどん発表され、しかも大音響と激しいリズムで迫ってくる音の洪水のなかで落ち着いた昔ながらの情緒を漂わせる曲の印象が、人々の忘れかけていた〝旅心〟の琴線に触れたからではないか考えられる。

 思い出したくないことだが、戦時中の軍歌や行進曲で私たち若者の日常の歩き方まで変わった。そして戦意を向上させられたのである。音楽にはこのように人の心に訴える不思議な力があり、それも時代の音楽の流れに竿をさすような異端ともいえる曲のなかに潜んでいたように思う。

 コロナ禍で低迷している旅行(観光)を再活性化する鍵はそのような音楽の中から生まれてくるように思われてならない。

 音楽は人々の〝心〟をゆり動かす不思議な力をもつ芸術だと思う。この不思議な力で〝旅心〟を大きく動かす「音楽観光キャンペーン」ができないものか。その時期は観光が復興の兆しをみせ始めたまさに「今」ではないだろうか。

 

須田 寛

 

日本商工会議所 観光専門委員会 委員

 
須田 寬 氏
 
 
 
 

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