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〈旬刊旅行新聞9月21日号コラム〉移動に重点を置いた旅――日本らしい風景を眺めながら走り続ける

2022年9月21日
編集部:増田 剛

2022年9月21日(水) 配信

 小学生のころから地図帳を眺めるのが好きだった。大人になって色々な場所を旅行したり、仕事で出張したりした際に「ここは地図帳で覚えた町だ」と妙に感慨深くなることがある。土地の名前の響きだけで旅情がかきたてられる地名も多く、少年・青年期に記憶した地名はいつまでも忘れないものだ。

 

 

 幾つか思いつくままに挙げてみると、北海道でいえば、稚内市や猿払村、青森県のむつ市、秋田県の能代市、岩手県の遠野市、石川県・能登半島の珠洲市、三重県の相差町、和歌山県の串本町、鳥取県の倉吉市、高知県の四万十市、長崎県の島原市、熊本県の天草市、鹿児島県の指宿市、そして沖縄県・西表島などが思い浮かぶ。実際にその土地に足を踏み入れたときに、特別の想いが沸き起こり、達成感のようなものを覚えてしまう。

 

 大都市、中堅都市のように知られ過ぎてはいないからこそ、どこかに秘密めいた風景や裏路地があるのではないかという期待感が生まれる。

 

 そういえば、私が中学校に入学し、もう使わなくなった古い図帳は、旅好きな祖母が暇なときに、畳に寝そべって飽きずに眺めていたのを思い出す。今も福岡の実家に戻ると、ロードマップなどさまざまな地図が本棚に並んである。元々がドライブ旅好きの家族なのだ。そのような環境に育ったこともあってか、私自身も移動に重点を置いた旅が性に合っていると思っている。

 

 私が最も好きな旅とは、長年親しんだ愛着のあるクルマやバイクで日本らしい景色を眺めながら、ゆっくりと走り続ける旅である。運転しながらコースを考えるのは好きではないし、不慣れな道を選んで不安になったり、次から次にカーナビによって指示されたりするのもつまらない。理想は海岸線に沿った、少し寂れた国道を制限速度で走り続ける旅だ。

 

 

 その道すがら、子供のころに地図帳で学んで知った観光名所や、遺跡、神社仏閣など立ち寄るのもいいし、ひっそりと佇む食堂で新鮮な刺身定食や、地元のラーメンを食べるというのも楽しい。

 

 宿は清潔であれば、安いほどいい。蝶ネクタイをした支配人や着物を着た女将が出迎えてくれる一流名旅館を目的とした旅ではないので、フロントに少しくたびれた感じの宿主か、妙な艶めかしさが漂うマダムなどが座っていると、尚いい。こういった妖しい雰囲気を纏った宿は、先述の地域なら存在するのではないかと、旅の楽しさを増幅させる魔力を持ち合わせている。

 

 日本各地には立派な温泉地が存在する。とても誇らしい気持ちになる。一方で、少し寂れた無名の温泉地や秘湯宿も、旅人の想像力をどこまでも膨らませる余白を十分に残しているから面白い。

 

 

 最近、全国の県庁所在地の都市はどこも小ぎれいで明るく、健康的に変貌している。良いことだが、表通りを歩いていると、どこも似たような街に映ってしまうことが多くなった。その土地の匂いが感じられない旅は、どこか寂しい。国道をゆっくりと走りながら、旅情あふれる小さな町でその晩の安宿を探し、翌朝再びエンジンをかけ、土地の空気を肺に吸い込んで走り続ける旅をしたいと、夢見ている。

 

(編集長・増田 剛)

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