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〈旬刊旅行新聞2月11日号コラム〉冬の箱根をドライブ―― 目的のない旅は1人が心地いい

2022年2月10日
編集部:増田 剛

2022年2月10日(木) 配信

 
 立春を迎えたが、寒い日が続いている。冬至から夏至に向けて、少しずつだが日が長くなっていることは、長い冬の日々の大きな希望の1つだ。

 
 その真冬の寒さの中で、部屋に閉じこもってばかりいても仕方ないので、横浜に出掛けた。山下公園で氷川丸やマリーンルージュ号を5分ほど眺め、ホテルニューグランド近くのマクドナルドで、てりやきバーガーを食し、コーラを飲んだ。

 
 その後、横浜市内の野毛山動物園を訪れた。この動物園は無料なのに、ライオンやキリン、ツキノワグマなどもいる。爬虫類館では、さまざまなリクガメや、ヘビ、ワニなど観察することができる。

 
 冬の動物園は人影も少ない。目の前の寒そうな動物たちに「寒くないかい?」と聞いて回った。動物たちは「もの好きな客が来ているな」という目で、ダウンジャケットのポケットに手を突っ込んで、笑顔でぶるぶる震えるこちらを見ていた。今回はコンドルの大きさにとても驚いた。

 

 
 別の日には、東京都内の神宮外苑の銀杏並木までドライブした。冬枯れした銀杏並木は尖った枝を真っ青な空に突き刺すように幾何学模様を描いていた。

 
 少し歩いて、国立競技場に辿り着いた。何一つイベントもやってなく、静寂に包まれていた。「半年前にはこの地で東京五輪が開催されていたのか」とスタジアムを見上げたが、歓声の残音すら感じ取れなかった。

 
 「そうだった……。あのオリンピックは無観客だったのだ」と、改めて感じた午後だった。

 
 それから、私はずっと気になってはいたが、入館したことのない聖徳記念絵画館に入った。抑制の効いたステンドグラスと高い天井の建物の中に、日本の近代史を象徴する出来事が絵画として残されていた。フランス人の若者が数人いたほか誰もいない絵画館で、久しぶりに日本の芸術と歴史に触れた。

 

 

 1月の終わりには、箱根の強羅温泉で1泊した。人生でさまざまな旅をしてきたが、小さいながら目的らしきものはあった。だが、今回はまったく目的のない旅だった。私は1人、強羅温泉の安宿に宿泊した。

 

 事前の期待度が低かったため、客室も料理も簡素で質素だったが、それなりに満足した。客室で缶ビールを1本ずつ空けていい気分になり、少しずつ日が暮れる真冬の強羅の風景を見ていたら、小雪が舞い始めた。

 

 私は最近、温泉旅館に宿泊しても、温泉には1回か2回しか入らなくなった。理由は多々あるのだが、しかし、この日は夕食前と、寝る前、そして翌朝に3回温泉に浸かった。

 

 白濁した湯は地底のパワーを蓄えていた。湯も適温だったため、目を閉じると眠りたくなるほどだった。個性的で、力のある温泉と不意に出会うと、忘れかけていた「湧き立つ血」が、再び騒ぎ出した。

 

 
 強羅の朝はとても気持ちがいい。古いクーペに乗って、強羅から仙石原、芦ノ湖の湖尻方面に向けて1人ドライブをした。

 
 星の王子さまミュージアムを抜け、仙石原のススキが広がる付近では、窓を全開にして冬の冷たい空気を肺に吸い込んだ。数々のモータージャーナリストも絶賛する箱根の曲がりくねった道を疾走し、湖尻の寂れた湖畔でクルマを停め、エンジンを切って、大きく深呼吸した。目的のない旅は、やはり1人が心地いい。

(編集長・増田 剛)

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