12年ぶりの東京事務所、「夏までに必ず完全復興」 (別府市)

長野恭紘別府市長
長野恭紘別府市長

 大分県別府市(長野恭紘市長)は5月31日、東京都内で12年ぶりとなる東京事務所開所のレセプションを開いた。長野市長は「熊本地震の影響で宿泊客のキャンセルが相次ぎ、経済的に大きな打撃を受けた。しかし、観光で生きる街として、その分市民の結束は強まった。別府はいつもどおり、変らず元気だ」と笑顔を見せ、「つらい時期こそ互いに励まし合い、協力する。必ず夏までに完全なる復興を成し遂げる」と語った。

 地方創生については「日本には少子高齢化など課題が多数あるなか、どこにも真似できない世界一の『尖ったまち』を作ることで、地方創生を実現していく」と強調した。

 また、11月21―22日の2日間開催される別府ONSENアカデミアについて」、「日本一の源泉数と湯出量、多様な性質を誇る温泉市別府の地域資源を活用し、温泉文化をさらに発展させていきたい」と述べた。

 さらに現在、温泉と言えば「ホットスプリング」と連想することに触れ、今後は「横文字の『ONSEN』をさまざまな価値のそろった、ただの温泉ではないという意味を世界へ発信し、世界共通言語にしたい」と高調した。同イベントではこの「ONSEN」を具体的に知ってもらうために、温泉を介して美容や健康、食、芸術、文化、エネルギー、歴史、伝統などを体験できるさまざまなプログラムを予定している。

 レセプションでは、鳥天や地獄蒸しプリンなど別府の美味しい地元の料理も提供され、誘客を呼びかけた。

 別府東京事務所開所レセプションは盛大に行われた
別府東京事務所開所レセプションは盛大に行われた

600万人の早期実現を、17年開催地は四国(日台観光サミット)

 日本旅行業協会(JATA)は5月26日に定例会見を開き、5月19―22日に日本観光振興協会と台湾観光協会とともに実施した「日台観光サミットin 宜蘭」の活動報告を行った。9回目となる今回は、相互交流600万人を早期に実現するため、「双方向交流拡大検討会議」を新設し、2020年の日台間の双方向交流のビジョン策定を行うことなどを決定した。そのほか、17年の開催地は四国とし、「鉄道観光フォーラム」を新たに催すことも発表した。

 越智良典理事・事務局長は、台湾から日本への渡航者数が約367万人と、日本からの渡航者数約163万人を大きく上回っていることに触れ、「日本から台湾への渡航者数も伸ばすことが、日本と台湾にとっての共通認識だ」と語った。そのうえで、「台湾当局との交流関係は良好で、定期的に対話する場も設けている。キャンペーンなども、相談をしながら実施を決めてきた」と述べ、日本からの渡航者数増加についても、対話の場のなかで検討していく方針を表明した。

 四国デスティネーションキャンペーンも実施される17年、「日台観光サミット」は、香川県と愛媛県での広域開催となる。開催には、両県の同サミットに対する関心の高さも影響している。越智理事・事務局長は、「日本と台湾にとって、地方を盛り上げていくことが共通課題であるなか、2県にまたがっての広域開催は、地方への観光客誘導につながるもの」と述べ、日本の観光資源の再発見につなげられるよう、広域開催を成功させたい考えを示した。

 「鉄道観光フォーラム」は、東武鉄道や京浜急行電鉄、江ノ島電鉄と台湾鉄路管理局間の相互交流が活発なことも影響し、10回目となる節目における新たな試みとして、開催が決定した。動向が注目される。

取消料の特約可能に、受注型BtoB約款、7月から

 日本旅行業協会(JATA)は5月26日に開いた定例会見で、7月1日から申請可能な相手方が事業者の場合に限り、両者の合意で取消料を設定できる「事業者を相手方とする受注型企画旅行契約約款(通称=受注型BtoB約款)」について、背景や特徴、注意点などを説明した。

 標準旅行業約款は1982年の制定時からほとんど変わっておらず、現行の取消料規定と実務が合わなくなっていることから、JATAは2011年に観光庁に標準約款の見直しを要望。検討会が開かれたが、「取消料規定」「旅程保証制度」の見直しは消費者庁との合意に至らなかったため、それぞれの問題に対し、観光庁は「個別認可」で対応してきた。このなかで、14年7月には、旅行サービス提供機関が旅行会社に課す取消料・違約料実額の合計額以内の額を旅行の取消料にできる「受注型実額精算約款」(通称)、15年8月にはLCC運賃を含むPEX運賃の取消料・違約料を旅行の取消料に反映できる「募集型ペックス約款」(同)、グレードアップされた宿泊機関への変更は変更補償金の支払い対象とはしない「旅程保証約款」(同)を制定。7月からは「受注型BtoB約款」が定められることになった。

 背景にはJATA会員へのヒアリングの結果、受注型企画旅行のうち、海外旅行は87・1%、国内旅行は99・1%が団体旅行が占め、旅行会社はホテルなどに対し早期に予約金を支払わなければならない一方、標準約款の取消料収受期間前に取り消しになった場合、旅行会社は相手方からは取消料が収受できず、背負うリスクが大きいという問題があった。しかし、内容は招待旅行や報奨旅行など、契約の相手方は事業者が多く、情報量や交渉力の格差から保護すべき消費者との契約ではないという解釈から「事業者間の契約」の場合に限り特約で取消料を定めることを可能にした。リスクを軽減することで、高度な企画の提案を促す。

 取消料の特約は、旅行会社と事業者間で定められるが、招待旅行などで事業者が旅行参加者と参加を取りやめた際の負担金を定めている場合、それが標準約款の規定の上限を超える負担になっていると、消費者保護の観点から、旅行会社と事業者間の特約も無効となる。このため、JATA法務・コンプライアンス室の堀江眞一室長は「旅行会社は事業者と旅行参加者の契約をよく確認すべき」と注意喚起する。また、例として招待旅行の招待者に全額自己負担で参加する同行者とは、受注型BtoB約款とは分けて契約する必要があることなども注意点として挙げた。

 なお、今回の個別認可を受けた場合、約款の構成は今までの5つの部に、「事業者を相手とする受注型企画旅行契約の部」を追加し、6部構成に変更する必要があり、「別紙『特別補償規程』」の前に挿入する。

熊本でボランティア、330人が瓦礫撤去(JATA)

撤去作業中のようす
撤去作業中のようす

 日本旅行業協会(JATA)は5月28日に、「JATA熊本地震ボランティア活動」を実施し、九州地方をはじめ全国から会員会社の社員ら、約330人が参加した。参加者らは、個人宅庭での瓦礫撤去や、室内の清掃などに従事した。

 参加者からは「現地に足を運んでよかった。外観は無事のようだが、室内は大変な状況になっているお宅も多い。テレビを通しては知ることができない被災地の実情に触れることができた」といった声が多くあった。

 全7チームで臨んだ今回、6チームが熊本市災害ボランティアセンター東区サテライトに、1チームが御船町災害ボランティアセンターに到着。参加者らは、ボランティアセンターに寄せられた、個人の要望にもとづいて、作業にあたった。

【講演会 たびすけ代表 西谷雷佐氏】点と点を紡ぎ物語を編む、着地型商品で地域活性化

西谷雷佐氏
西谷雷佐氏

 「たびすけ」(青森県弘前市)代表の西谷雷佐氏はこのほど、「あるものを活かして地域発信!」と題した講演会を、ささや(長野県上田市)で行った。主催は、長野県旅館ホテル組合会青年部会。西谷氏は暮らしぶりを生かした着地型の商品化、物語、感動などをキーワードに講演を進め、「暮らしぶりに気づき、点と点を紡ぎ物語を編むことで、地域活性化の原動力となるコンテンツ造成は可能だ」と強調した。

 「たびすけ」は、青森県の活性化を大きな目標に、着地型観光商品の造成に取り組む旅行会社。

 話題となったツアーの1つ「弘前りんごツーリズムin winter」は、地域の暮らしぶりに着目。地元で人気なレストランで美味しい焼きリンゴを食する前に、寒いなか、客は生産者指導のもと、畑での剪定作業を体験する。客は、作業を通じて生産者と交流をはかり、リンゴが育まれるまでの物語に触れる。その後、地元のレストランに赴き甘い焼きリンゴで疲れを癒す。

 青森のリンゴを食したことのある人は多いが、それを育てた生産者の想いや地元のシェフが作る料理に触れ、味わうことは稀だろう。リンゴという大きな文脈のなか、モノ・生産者・加工者という点が結ばれることで、地元住民にとっては単なる日常であったはずの暮らしぶりが、観光客に感動を与えうる物語となる。

 物語を編むことで、地域の暮らしぶりはお金を産む商品と化す。まさに“あるものを活かして”の地域発信といえる。

 企画力が評価された同ツアー。「東北12の物語」(観光庁発行)にも選ばれ、観光地域づくりの参考とされている。

【謝 谷楓】

新会長に鶴田氏、事務局は大分県に移転(日本旅館協会九州支部総会)

通常総会のようす
通常総会のようす
鶴田浩一郎新会長
鶴田浩一郎新会長

 日本旅館協会九州支部連合会(中原国男会長)の2016年度通常総会が5月25日、福岡市内のホテルで開かれ、2015年度事業、決算報告を了承、16年度事業計画・予算案を決定した。

 役員改選では退任する中原会長の後任に鶴田浩一郎氏(ホテルニューツルタ)を選出。ほかに副会長、理事、監事9人が交代した。

 中原会長は「2005年の国観連九州支部長就任から、12年に日本旅館協会九州支部連合会会長となり計11年間務めた」と振り返り、「12年から2年間は大変だったが、14年に針谷本部会長が誕生し、さまざまな改革を断行され、下部組織として活動ができるようになった」と感謝を述べた。 

 同日は針谷了会長から本部報告も行われた。民泊問題では、フランスホテル協会が発表した、パリのホテルが11万ベッドに対し、民泊が22万8千ベッドに上り、観光客が増加してもホテル稼働率が下がった、という実態を報告。「ベルギーも7月から厳しく規制する。世界的に先進国は民泊規制の方向で、緩和に動く日本はナンセンス」と懸念を表明した。

 支部報告事項では、会員5人を満たした沖縄県支部の存続、熊本地震支援策などの本部提出議題など9項目を報告した。

 また、会長交代で事務局を鹿児島県から、大分県に移転することも決定。7月には移転先を決定する。事業計画では6月6―8日まで福岡市で開催の福岡ギフトショーへのブース参加など決定した。

 なお、総会前には全国の連合会から熊本地震に係る義援金200万円が同連合会に贈られた。また、女将、永年勤続優良従業員会長表彰も行われた。

売上高が過去最高に、北陸地区の販売額大幅増(JTB連結)

髙橋広行社長
髙橋広行社長

 JTB(髙橋広行社長)は5月27日、2015年度通期(15年4月―16年3月)連結決算を発表した。売上高は前年度比1・5%増の1兆3437億円となり過去最高を記録した。営業利益は同45・1%増の161億4700万円、経常利益は同19・6%増の223億5300万円、当期純利益は、前期にサンルート売却にともなう売却益66億円が発生しているため、同14・7%減の125億7900万円となった。

 旅行事業を取り巻く市場環境は、3月の北陸新幹線の開業や、6年ぶりとなる9月の大型連休などの影響により、国内個人旅行・法人営業が好調に推移した。その一方で、海外旅行は円安基調や国際情勢不安などの影響から、3年連続で低調となった。

 国内旅行部門の売上高は同5・0%増の6046億5100万円。個人・グループ旅行は、商品改革を進めてきた国内パッケージツアー「エースJTB」の15年度取扱額が過去最高となった。早期申し込みの促進や、着地型コンテンツを組み込んだ商品の販売が取扱額の増加に寄与したとみられる。方面別では北陸・関西・沖縄が引き続き好調に推移しており、とくに新幹線開業効果が根強い北陸地域で、下期に「日本の旬 北陸」キャンペーンなどを行った結果、北陸地区の販売額が大幅に増加した。法人営業は、企業のインセンティブツアーやMICE、職場旅行の需要拡大により好調に推移した。

 海外旅行の売上高は同9・0%減の4804億1400万円。個人・グループ旅行は、円安や国際情勢不安の影響により、引き続き低調となっている。一方でそのなかでも比較的需要が堅調なFIT市場で、フライトやホテルを自由に組み合わせることができるパッケージツアー「エアホ」の設定数を大幅に増加。その結果、FIT市場は前年並みに推移した。

 訪日旅行の売上高は同39・6%増の668億円。訪日個人旅行者向けのWeb販売の強化や、訪日個人旅行者向けと、国内向けの宿泊仕入を一元化し商品を拡大。その結果、前期を上回り好調に推移した。

 同日の記者発表に出席した髙橋社長は今年度からスタートする中期経営計画「躍進2018計画」について、「仕入を制する者が、営業を制する」とし、訪日観光客の増加などにともない仕入環境が変化しているなかで、買取やチャーターを含めリスクテイク型の仕入れを強化していくと報告。また、東北に訪日観光客を誘客するため、紅葉や雪など魅力的な観光素材のPRも行っていく。

 16年度の見通しは、売上高が同2・7%増の1兆3800億円、営業利益が同23・9%増の200億円、純利益が同14・1%減の108億円。

窪田会長が続投、会員数は50社に(長野県観光協力会)

あいさつする窪田裕一会長
あいさつする窪田裕一会長

 長野県内の宿泊や観光施設、交通機関、観光協会、総合案内所などで構成する長野県観光協力会(窪田裕一会長)は5月25日、東京・上野で2016年度定期総会を開き、前年度の事業報告、収支決算報告、会計監査報告に引き続き、役員改選、年2回以上の例会や現地視察会の開催などの事業計画案および収支予算案などを承認した。

 16年度の事業計画は(1)勉強会を含む会員例会の開催と支援(2)次年度有益な素材となり得る観光地や施設の見学研修会の開催と支援(3)会規約による年2回以上の例会と年1回の総会の開催(4)その他、会員相互に有益な情報発信・情報収集事業――が挙げられた。

 新年度の役員改選では現体制の窪田裕一会長(東北信予約センター)以下、副会長(斑尾高原ホテル、浅間企画、中央アルプス観光、松代宮坂酒造店、千曲バス)、会計監査(アルピコ交通)、参与(銀座NAGANO)、顧問(旅行新聞新社)すべての役員がそのまま継続となった。

 新規入会会員は観光施設の「富士見パノラマリゾート(富士見町)」と「旬花咲く黒姫高原(信濃町)」、交通運輸の「スターバス(長野市)」の計3社。交通運輸の「長野交通」と「飯綱観光バス」が退会したため、会員数は50社になった。

No.432 全旅連・北原会長インタビュー、震災支援・民泊・耐震 方向性問う

全旅連・北原会長インタビュー
震災支援・民泊・耐震 方向性問う

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(北原茂樹会長)の全国大会が6月8日、東京・新宿の京王プラザホテルで開かれる。4月に発生した熊本地震の被災者受け入れなどの支援や風評被害対策、新ルール策定に向け動き始めた民泊問題や、耐震問題などさまざまな課題が挙げられる。これら課題の早期解決に向け、今後全旅連としてどのように取り組んでいくのか、方向性も含め北原会長に伺った。

【聞き手=増田 剛編集長、構成=松本 彩】

 
 
震災支援
 ――熊本地震での被災者受け入れや風評被害対策。今後の需要回復に向け、全旅連としての支援の方向性を教えてください。

 熊本・大分で実際に被災された宿泊施設以外は、営業できる状況にありますので、受入体制を強化して無料宿泊というかたちで受け入れを行っていきたいと思っています。今回、国からの補助も付けていただいて「1泊3食7千円(外税)」という設定にしていただきましたので、あとは地方の自治体の補助も合わせて検討していきたいと考えています。

 ただ、実際にゴールデンウイーク中などは、まだ受入体制が整っておらず、被災者の方が他県に移動されるという状況に至っていなくて、熊本でも災害弱者の方が優先になっていたので、受入施設に被災者の方が訪れるケースは少なかったです。現在少しずつ増えては来ていますが、まだ余震が続いている状況ですので、なかなか自分の家を離れて旅館に泊まってゆっくりしようという段階に至っていないのが現状です。

 今後ある程度余震が落ち着き、いろいろなものが復旧し、仮設住宅の建設が始まるなかで、到底仮設住宅だけではまかなえない状態になります。我われは、中越地震のときに延べ22万人泊、東日本大震災のときに延べ550万人泊を受け入れましたので、今回の地震では中越地震のときを上回る数になると予測し、現在九州7県の理事長たちがしっかりと体制を整えています。

 いずれにしても、九州全県において宿泊のキャンセルが相次いでいて、すでに55万人分程度のキャンセルが発生しています。キャンセルだけではなく、新規に発生するべき予約が「九州は止めておこう」という状態になってきており、いわゆる“風評被害”が九州7県の旅館にとって、実際に被災された旅館以外にも影響を及ぼしています。…

 

※ 詳細は本紙1629号または6月7日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

旅館の稼働率37.8% ― 多様な宿泊スタイルに柔軟な対応も

 観光白書の16年度版を見ると、15年の年間外国人の延べ宿泊者数は、前年比48・1%増の6637万人泊と、日本における延べ宿泊者数全体5億545万人泊の13・1%を占めたことになる。

 また、14年から15年にかけての延べ宿泊者数の推移では、3大都市圏は2907万人泊から4118万人泊へ41・6%増加。一方、地方部は1575万人泊から2519万人泊へ59・9%増加し、3大都市圏の伸び率を大きく上回った。

 宿泊施設の客室稼働率の全国平均は60・5%。東京都や大阪府は80%を超えたが、長野県は35・7%で最も低く、50%を割ったのは12県もあり、全国的に見れば、客室はかなり余っていることがわかる。

 宿泊施設のタイプ別の客室稼働率は、シティホテルは79・9%と約8割、ビジネスホテルも75・1%と高水準。リゾートホテルは57・3%で、旅館は37・8%と厳しい。また、外国人延べ宿泊者の割合を宿泊施設タイプ別でみると、シティホテルが30・8%と最も多く、約3割を占めた。次いでリゾートホテルが13・1%、ビジネスホテルが11・0%と続き、旅館は6・8%にすぎない。

 一方で、注視すべきデータも表れている。日本百貨店協会が発表した16年4月の外国人観光客の総売上高は前年同月比9・3%減の約180億円と、39カ月ぶりに前年を下回った。それも1割近くの減少だ。3年以上続いた“爆買い”現象も、終わりを告げるときが来たのかもしれない。

 これら数値も踏まえながら、政府は規制改革の一環として、民泊を解禁する。ここに民泊というカテゴリーが加わると、シティホテルやビジネスホテル、旅館などの勢力地図に少なからず変化が生まれるだろう。「都市部で食い合い、地方部にはあまり影響を与えない」という考え方もあれば、「現状でも低い旅館の稼働率がプラスに働く要素はない」という捉え方もあるかもしれない。

 だが、民泊はもはや宿泊業界だけの問題ではない。空き部屋がある場合、定期家賃収入よりも、民泊として部屋を提供した方が収益が見込める場合、家主はどちらを選ぶだろうか。近隣とのトラブルがさらに増え、家賃の上昇などさまざまな影響も考えられる。

 ホームセキュリティのALSOK(アルソック)は、民泊を始めるオーナーや事業者に対して、民泊物件の運用に必要となる消防設備の設置や、火災の遠隔監視など防災・防犯対策、応急救護に必要なAEDの販売・管理、清掃業務などをワンストップで提供する「民泊運営サポートソリューション」サービスの提供を始めた。

 規制緩和とは、こういうことだ。新しいビジネスが瞬時に生まれ、空白地帯や隙間部分に液体が忍び込むように広まっていく。

 新しいビジネスの土壌では、旅館も革新が必要だ。シティホテルは平日のビジネス出張が見込めるのに対し、休日前しか客室が埋まらない温泉地の旅館は、雇用の面でも厳しい。

 平日も1泊2食での対応が主体では、今後も稼働率の上昇は期待できない。なぜ、旅館の稼働率が低いのかを真剣に考えなければならない。長期滞在など、多種多様な宿泊スタイルに対応できる柔軟さも必要ではないか。

(編集長・増田 剛)