エステー・岡部事業部長に聞く 除菌は清掃に組み込みを 持続可能な感染対策を提案

2021年10月13日(水)配信

ビジネス開発事業部 岡部豊事業部長

 エステー(鈴木貴子社長、東京都新宿区)は今年7月、千葉県浦安市で「除菌応援プロジェクト」を発表した。長引くコロナ禍のなか、宿泊業をはじめとした企業に対し、「感染対策とサービスの両立」に取り組めるようサポートしていく。同社ビジネス開発事業部の岡部豊事業部長に、企画の背景や提案内容を聞いた。

【鈴木 克範】

昨夏、除菌剤市場参入

 日用品メーカーのエステーは昨夏、一度のふき取り作業で、約1カ月間除菌効果を発揮する業務用除菌剤「Dr.CLEAN+除菌・ウイルス除去スプレー(ドクタークリーン)」を発売し、除菌剤市場に参入した。宿泊施設などの感染症防止策で、頻繁なアルコール除菌が強いられるなか、「持続除菌」という新しい解決策を提案している。

使用シーン例

 同社は「空気をかえよう」を企業スローガンに掲げ、消臭剤や防虫剤における消費者市場で高い知名度・シェアを誇る。「強みである商品開発力や技術を、業務用分野などにも広げていきたい」という。そのため、現場ニーズの把握も力を入れている。

ニーズ知り策を提案

 今年6月には「コロナ禍の接客業の感染症対策に関する実態調査」(宿泊業や介護施設など接客を伴う6業種に従事する630人から回答)を行った。結果、除菌作業を行う人の約7割が、「感染への不安がある」としたほか、7割以上が「作業に負担を感じる」と答えた。また約4割が正しい除菌方法の理解・実行ができていないことも判った。

 「除菌応援プロジェクト」ではこの結果を踏まえ、企業や社会に対し、除菌の正しい知識や効果的な対策の啓発を行い、「前向きで持続可能な衛生対策が行えるようサポート」していく。7月15日には千葉県浦安市のホテルでワークショップを取り入れた発表会も開いた=本紙8月1日号既報。主力商品「ドクタークリーン」の提案と併せて取り組む。

「持続除菌」で作業負担減へ

 同社が現場課題のソリューションとして提案するドクタークリーン。その仕組みは、ひとふきの作業でアルコール除菌を行うとともに、銀系抗菌剤を含んだ超親水膜でコーティングされ、除菌・ウイルス除去効果が約1カ月持続するという、除菌と抗菌の2つの効果を同時に叶える商品だ。あるホテルでの導入効果では、1日あたりの除菌作業時間は約3分の1に、アルコール使用量は半分に減らすことができたとしている(同社試算)。

 これまで宿泊施設などでは、アルコール除菌と清掃は別々の作業だった。そのため、通常業務に感染対策が加わり、現場への作業負担が重くのしかかっている。ドクタークリーンは同じ場所に塗り重ねることで、より強固な抗菌コーティングを得られることから、「例えば日に一度(同商品を使って)の除菌作業、その後は汚れたときのふき取り清掃」などで最大効果を発揮する。持続可能で効率的な衛生対策という視点から、「今後は除菌作業を、いかに清掃のなかに組み込むかが重要では」と提案する。

ステッカー表示で対策の「可視化」を

 同社では、ドクタークリーンによる衛生対策の実施を伝える告知ステッカーも用意し「対策の可視化」に力を入れる。認知度の高いエステーのロゴが入ったデザインだ。

 ドクタークリーンの販売価格はオープン(エステー直販サイトでの売価はスプレータイプ本体500㍉2本セットで税込5896円)。つめかえ用2㍑もある。

阪急交通社・ベルトラ共同企画 鹿児島で「旅体験」を

2021年10月12日(火) 配信

阪急交通社とベルトラはこのほど、着地型観光ツアーの共同企画を始めた

 阪急交通社(酒井淳社長)とベルトラ(二木渉社長)はこのほど、着地型観光ツアーの共同企画を始めた。地域密着型で商品開発を進める阪急交通社と、現地体験にこだわるベルトラが協業し、新たな強みとなる「旅体験」を創出する狙い。商品は現在4つ。鹿児島県を観光エリアにスタートし、10月末から提供を行う。

 今回の共同企画について阪急交通社は、「日本全国の各支店が地域の素材を発掘し、ベルトラと連携しながら取り組みを進化させていく」と意気込む。

 「ようこそ!かごんま いいとこどり鹿児島市内一日観光(昼食付)」では、1人から出発確定。「さつまおごじょ」のバスガイドが、鹿児島弁で市内の見どころを案内する。ランチには、鹿児島名物の「黒豚ひれかつランチ」や、むじゃき本店の「白熊アイス」、天文館の「焼きドーナツ」が提供される。

 出発日は11月13日(土)~12月26日(日)、土日出発限定。料金は1人当たり6980円(税込み)。

 「屋久島2泊3日『Yamakara屋久島』の縄文杉トレッキング」は、鹿児島港から屋久島観光への高速船+宿泊のパッケージツアー。ベルトラで人気の「Yamakara屋久島」の縄文杉トレッキングツアーがセットになったお得なコースとなる。

 出発日は11月1日(月)~2022年2月28日(月)。料金は、2人1室利用時1人当たり4万4900円(税込み)。

〈観光最前線〉日本遺産サミットでお待ちします

2021年10月12日(火) 配信

小松市は石の文化などが日本遺産認定されている(観音下石切り場)写真提供:石川県観光連盟

 11月13、14の両日、石川県小松市で「日本遺産サミットin小松」が開かれる。開催テーマは「日本遺産で輝く! 地域と人とものづくり」。一般消費者向け展示やステージイベントに加え、13日には、日本遺産を有する自治体と応援する企業との「マッチング商談会」も実施。本紙もブースを設け、「皆様の訪問をお待ちしております」。

 現在104件が文化庁から日本遺産認定を受け、有形無形の文化財を「物語」としてまとめ、発信している。「20年度までに100程度の認定」(文化庁)という目標達成を受け、今年度からは、観光客数や消費額、人材育成などの評価制度を導入し、ブランド力向上に取り組んでいる。

 そのようななかでの、小松大会。情報にとどまらない、「商品」との出会いが楽しみだ。

【鈴木 克範】

熊本県人吉温泉 あゆの里 本格的に再開 水害から復興へ

2021年10月12日(火)配信

8月30日にグランドオープンした「清流山水花あゆの里」

 昨年7月の集中豪雨で大きな被害を受けた熊本県・人吉温泉の旅館「清流山水花あゆの里」(有村充広社長)が8月30日、水害から1年2カ月を掛けて、復旧工事とロビー、客室、レストランなどをリニューアルしたうえで、本格的に営業を再開した。

 工事では水害に遭った地下1階と1階、一部2階を復旧し、ロビーフロアを改修した。チェックインシステムはロビーチェックインに変更した。

 料亭街は下足で利用できるダイニング会場の個室に変えた。レストラン部分は、すべてイス・テーブル式のダイニングにした。これで、1階ダイニングが個人客用のメインダイニングとなった。

 また、旧ライブラリーラウンジは球磨焼酎を自由に楽しめる焼酎ラウンジに転用。焼酎蔵も併設した。

温泉露天風呂付スイートルーム

 客室では901と610号室の特別室を温泉露天風呂付スイートルームに、2間和室7室は温泉露天風呂付きプレミアムルームにそれぞれグレードアップした。露天風呂付客室は21室、半露天風呂付客室が2室となった。

 さらに、7階の屋上ビアガーデンは天空のテラス「KUMAGAWA」へ改修し、人吉を一望する展望ポイントとして整備した。

 厨房システムも抜本的に改革し、ダイニング動線を簡素化して、サービス効率を向上させた。

21年度上半期は4割減の40件 宿泊業のコロナ関連倒産は半数(東京商工リサーチ調べ)

2021年10月11日(月) 配信 

東京商工リサーチはこのほど、2021年上半期の宿泊業倒産状況を発表した

 東京商工リサーチがこのほど発表した2021年度上半期(4~9月)の宿泊業倒産は、前年同期比43.6%減の40件。2年ぶりに前年同期を下回った。このうち新型コロナ関連倒産は21件で全体の5割を占めた。負債総額は同166.0%増の1153億6500万円で前年同期を上回った。同社は、「政府や金融機関による金融支援や、持続化給付金、雇調金などの給付が倒産増加を抑えた」と分析した。

宿泊業倒産は前年から4割減

 東京商工リサーチがこのほど発表した2021年度上半期(4~9月)の宿泊業倒産は、前年度比43.6%減の40件となり、2年ぶりに前年同期を下回った。このうち新型コロナウイルス関連倒産は21件で、全体の5割を占めた。負債総額は同166.0%増の1153億6500万円となり、前年同期を上回った。同社は、「実質無担保・無利子融資や、返済リスケジュールなどの金融支援のほか、持続化給付金、雇用調整助成金などの給付が倒産増加を抑えた」と分析した。

 21年4~9月は、負債1000億円超の大型倒産(東京商事、負債1004億8300万円)が発生し、負債総額を押し上げる結果となった。平均負債額は28億8413万円。

 負債額別では、1億円以上5億円未満が14件(構成比35.0%)で最多に。次いで1000万円以上5000万円未満が11件(同27.5%)。1億円未満の構成比が前年同期比13.6ポイント上昇し、倒産の小規模化が見られた。

 原因別では、「販売不振」が32件(前年同期比28.8%減)で全体の8割を占めた。

 地区別で見ると、増加したのは関東の13件(前年同期は12件)。近畿、中部、中国、北海道、北陸、東北、九州の7地区は前年同期より減少した。都道府県別では、長野県の4件が最多となり、東京都、栃木県、新潟県が各3件で続く。

 20年度上半期は初めて緊急事態宣言が全国に発令され、人流が大幅に減少した影響で、「(前年同期は)宿泊業の倒産は過去20年間で2番目の高水準だった」(同社)。

 一転して、21年度上半期の倒産件数は71件から40件となり、半数近く減少したことを指摘。同社は、「政府や金融機関の支援や給付の効果があった」と振り返った。

 また、東京商工リサーチが今年8月に実施したアンケートによると、宿泊業の78.0%が「債務(負債)の過剰感がある」と回答したことを受け、同社は「今後資金繰り支援が途絶えると、債務の償還に行き詰まる企業が出てくる可能性がある」と危機感を示した。

旅行業倒産は2.6倍に

 一方、旅行業の21年度上半期の倒産件数は16件(前年同期比166.6%増)と2.6倍に急増し、4年ぶりに前年同期を上回る結果となった。

 負債総額は23億7400万円(同91.6%減)と前年同期を下回ったものの、前年6月に発生した旅行業において平成以降最大の倒産(ホワイト・ベアーファミリー、負債278億円)が発生したことによる大幅な反動減となった。

 今期は負債10億円以上の倒産が発生せず、1億円未満が11件(構成比68.7%)と全体の約7割を占めた。

 新型コロナ関連倒産は15件で全体の9割を占めた。残りの1件も、新型コロナ関連倒産となった旅行会社の関連企業のため、旅行業の全倒産が新型コロナ関連倒産と捉えることができる。同社はこの結果について、「長期化したコロナ禍で旅行需要が大きく減退し、疲弊した中小零細企業の息切れ倒産が目立ってきた」と分析した。

クラツー、上川町と連携協定 資源活用で持続的な発展に

2021年10月11日(月)配信

左から上川町の佐藤芳治町長、クラブツーリズムの酒井博社長

 クラブツーリズム(酒井博社長、東京都新宿区)は10月8日(金)、北海道・上川町(佐藤芳治町長)と「観光分野における包括的連携協定」を結んだ。相互の人的や物的、知的資源を有効に活用した協働の活動を推進することで、地域の活性化をはかり、持続的な発展につなげる目的だ。

 今回の協定で、上川町の層雲峡温泉地域や周辺の豊かな自然資源を軸に、新たな自然体験コンテンツの企画から、国内自然観光地としての認知度向上をはかる。さらにはインバウンド観光でも選ばれるよう、上川町とともに層雲峡温泉地域の地域資源を生かした観光振興に取り組んでいく。

 連携の内容には、層雲峡温泉地域の広域観光開発と誘客促進、地域資源を生かした観光振興に関する事項、観光消費の拡大による観光関連事業者支援に関する事項を掲示。さらに、観光関連産業の人材育成に関する事項、上川町のブランディングに関する事項のほかに、これら以外の観光分野での相互の連携協力に関して必要と認められる事項を盛り込んだ。

 なお、既に同社スタッフが上川版町DMOの大雪山ツアーズに出向するなど、人的な資源活用を進めている。

【特集No.593】Airbnb 田邉泰之代表に聞く 好事例つくり、「健全な市場」に変化

2021年10月11日(月) 配信

 住宅宿泊事業法(民泊新法)が2018年6月に施行され、3年が経過した。違法民泊の横行で、騒音やゴミ処理のトラブルなど地域住民に不安が高まるなか制定された同法は、営業日数を180泊までに制限するなど、民泊の普及に向けた壁となっている。Airbnb(エアビーアンドビー)Japanの田邉泰之代表は「民泊産業は健全な市場になった」と自信を見せ、「観光業に寄与する好事例を広めることで、さらに普及させたい」と意気込む。3年間の取り組みと今後の方針を聞いた。

【木下 裕斗】

関係人口の増加で地域活性化へ 騒音などトラブルは動画で防止へ

 民泊の届出住宅数は民泊新法施行後5カ月の18年11月には、1万269軒だった。それから約3年が経過した21年8月には、1万8579軒と約1・5倍となった。「Airbnbで掲載する物件数と利用者数は現在、非公開だが順調に推移している」(松尾崇広報部長)と説明する。

 サラリーマンなどが副業として民泊物件を運営するために、新築で民泊施設を建てたり、古民家をリノベーションして運営するケースが近年、増加しているという。

 旅館業法で営業日数が制限されない「簡易宿所」として、営業許可を得る民泊施設が増えているのも大きな特徴だ。これを受け同社は、各施設を紹介するページで、営業形態を掲示している。

 簡易宿所については、旅館やホテルと同様に住宅街や学校などがある住居専用地域に、開業できないことが都市計画法で定められている。

 一方、宿泊者名簿の作成義務、衛生を保つための設備のほか、消防法で定められた消防設備の設置義務などの内容は、民泊施設とほぼ同じというメリットがある。

オンライン体験 「収束後に訪問を」

 同社と登録する宿泊施設は、手作りのベーグルなど、ホストこだわりの料理の提供や農業、茶道などの体験に最も力を入れている。

 消費者に各体験などの魅力を感じてほしいと願うホストは多い。

 田邉代表は「一部のホストは営業日数の制限がない簡易宿所として営業している」と語る。

 コロナ禍では、多くの施設が、巻き寿司づくりや、生け花企画などオンラインで実施可能な体験を行っている。同社は、「コロナ禍でも新たな収入源を生み出し、新型コロナウイルス収束後に、現地を訪れてもらう」方針だ。

 田邉代表は施行後の3年間について、「掲載施設軒数はコロナ禍直前の19年9月20日(金)~11月2日(土)に開催されたラグビーW杯まで、順調に増加してきた」と振り返る。

 その後、期待が膨らんだ、東京2020オリンピック・パラリンピックでは、「イベントホームステイで物件の増加をはかる計画だったが、無観客試合となったことを受けて、自治体ごとの判断で見送る例が多くなった」と話す。

 コロナ禍前、ビジネスホテルが、都市部で乱立し、宿泊予約が難しかったなか、民泊は代替手段として注目された。

 一方で、違法民泊が蔓延り、騒音やゴミ処理など多くのトラブルが発生し、地域住民に不安を与えていた。

 多くの既存宿泊業者も、しっかりとした法整備がされるまで民泊の普及を歓迎していなかった。

 新法施行直後から、民泊経営を始めている旅館経営者もいるが、最近になって、一部の旅館経営者が地域活性化の一環として、地域の空き家を民泊として活用することを検討している。

 田邉代表は「今後も各自治体やDMOとコロナ後の新しい旅行のあり方を提案する。好事例づくりで、より健全な市場へと変えていきたい」と強調する。……

【全文は、本紙1845号または10月15日(火)以降日経テレコン21でお読みいただけます。】

〈旬刊旅行新聞10月11日号コラム〉観光産業も脱炭素社会へ―― 最新技術を取り入れイノベーティブに

2021年10月11日(月) 配信

 政府は9月30日をもって27都道府県に発出されていた緊急事態宣言と、まん延防止等重点措置が全国一斉に解除され、気分が少し晴れやかになった。 

 
 何よりも新型コロナウイルスの新規感染者数が9月に入り、急激に減少していることが、長く続いている緊張状態を和らげているのだと思う。しかしながら、「第6波が年末にかけて発生する」との見方もあり、引き続き感染拡大防止には努めていきたい。 

 
 10月4日には、岸田内閣が発足した。コロナ以外にも、外交・安全保障、経済の成長と分配の好循環の実現、少子化対策、脱炭素社会への取り組みなど課題は山積だ。今月31日には衆議院総選挙が控えている。各党は日ごろ考え抜いた政策を正々堂々と競い合ってほしい。

 

 
 さて、コロナ禍のなか、レギュラーガソリンは1㍑160円台と、原油価格の高騰が国際的に大きな影響を与えている。

 
 航空会社やフェリー、バスなどの燃料代が上がることで、経営を圧迫していく。これからの季節は宿泊施設にとっても暖房代など頭の痛い問題である。

 
 脱炭素社会に向けて、世界各国が再生可能エネルギーへの転換をはかっているが、やや性急な転換によってエネルギー不足を引き起こし、停電や工場の停止、石油の高騰などへと連鎖し、経済や社会の混乱を招いているのが現状だ。

 
 日本の自動車メーカーも電気自動車(EV)へと急速に舵を切り始めているが、充電スポットの整備など社会インフラが追い付いていない。本当に対応できるのか、多くの人が不安に感じている。移動を伴う観光業界にとっても、脱炭素社会への取り組みは重要な課題である。

 

 
 人間は移動する際にも、仕事や日常生活、寝ている間にもCO2を排出している。生きている限り、温室効果ガスの「排出ゼロ」は不可能である。しかし、小さな努力によって低減化することは可能である。

 
 菅義偉前首相は昨年10月26日、臨時国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。

 
 製造業や運輸をはじめ、さまざまな産業でも脱炭素社会に向けての本格的な努力が始まっている。ゼロエミッションに取り組み、効果を出している企業を優遇し、努力を怠る企業にはペナルティが課せられる仕組みが一層進んでいくだろう。

 
 国は新たな成長産業として、脱炭素社会に向けたイノベーションや、最新技術を生むことを後押しし、日本が世界をリードしていくことを目指している。

 

 
 その意味で、トヨタ自動車が独自に進める水素エンジンへのチャレンジ精神に敬意を表したい。水素エンジンは燃焼の際にCO2を排出しない。アウディやボルボ、ジャガー、メルセデス・ベンツなど欧州の主要自動車メーカーがEV化に舵を切るなか、トヨタは脱炭素社会に向けて技術の単一化ではなく、多様な選択肢を残す理念と飽くなき挑戦を続けている。 

 
 では、観光産業として何ができるか。旅館・ホテルでは客室の個別空調化や、連泊客にはベッドメイクをしない選択を提示するなど省エネに取り組んでいる施設も多い。最新技術や理念を積極的に取り入れて、新たな発想で自然環境を大切に育てるなど、防災・減災とも連動するイノベーティブな動きにも期待したい。

 

(編集長・増田 剛)

「街のデッサン(246)」生きる上での文化行為が観光の本質、危機の時代に直面するツーリズムは

2021年10月10日(日) 配信

敬愛する須田先生の講話が胸を打つ

 社会エントロピーが増大している。コロナ感染の状勢は終息するのか。異常気象の世界的な脅威。そして世界経済の行方。接種を2回終えても、新型のコロナ株が出現し人間の直接接触を抑える対処方法しか無いとなると、群れる人間の本性が摩耗して社会そのものの構造が崩壊していく。そんな危機の時代を迎えた地球の未来が見えない。

 一番大きな問題は、「人新世」という人類の存在そのものが地球環境に影響を及ぼす時代に突入していることだ。これまでの地球は無機物の塊とされ、「地球は一個の生命体」というガイア仮説がラブロックらによって唱えられ始めると、その地球生命系のエコシステムで支えられてきた人間が、逆に地球自体の生命力を阻害して、元に戻ることのできない不可逆な環境破壊の主だった存在であることが自明になってきた。

 そんな時代に、「観光産業」はどんな新しいパラダイムを築いたらよいのだろうか。地球環境の破壊の手助けを、はたして観光事業がしていないだろうか。かつての観光大衆化時代やインバウンドに諸手を挙げ、爆買い現象を再来させるだけでよいのであろうか。

 私は、日本に「産業観光」という新しい分野を拓いたJR東海の会長を務めた須田寬先生の言葉を思い出す。須田さんは「愛・地球博」が開かれた2005年当時、鉄道事業の振興をイメージして、博覧会が開催される名古屋の相対的に少ない観光資源を危惧し、従来の自然景観や歴史資源を補強させる「産業そのものを観光に対象化」させる発想を生み出した。商工会議所など経済団体のつながりを活用し、トヨタを始めとした名古屋に本社を持つ世界的な企業のトップに諮って、人間の生み出した産業資源が観光の重要な資本になることを、説いて回った。しかし、当時の経営者の多くが「産業が観光の対象」という言説を軽くあしらい、「観光とは単なる楽しみであり、そんな遊びに係ることは企業の堕落」と、理解していたという。

 「観光とは人間の生きる上での“文化行為”にほかならない」というのが須田さんの信念。例えば、ソニーを創設した井深大は、子供のころに大阪で開かれた産業博覧会で、プレス機械が鉄をたたく勇壮な姿を見て、事業家になる夢を実現させた。文化人類学者の山口昌男は、言語学者として著名なウンベルト・エーコが「文化の創造性とは、危機の時代に直面する技術だ」と語った衝撃を忘れていない。今一度、観光の本質(パラダイム)危機の時代だからこそ、見直すときが来ているように思える。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。

 

「もてなし上手」~ホスピタリティによる創客~(129) チームのバトンリレーでおもてなしを実行する お客様情報のバトン

2021年10月9日(土) 配信

 

 東京オリンピック・パラリンピックでは、たくさんの感動と元気をもらいました。その中で最も印象に残ったのは、多くのアスリートが発した「開催してくれたことに感謝しています」というコメントでした。

 開催の可否が問われるなかで、不安と共に競技参加して良いのかという葛藤を抱え、どれほど悩み、苦しんだかと思うと、そのコメントに涙があふれそうでした。

 オリンピックの陸上100㍍走は花形競技の1つで、日本のアスリートもレベルアップしてきましたが、まだ「決勝に残ることが快挙」と報道される事実はあります。

 ただ、400㍍リレーでは、各国が世界で注目のアスリートでメンバー構成するなか、金メダルも狙える力を持つのが日本チームです。そのポイントは、世界一のバトンリレーにあります。結果は残念でしたが、多くの人がわくわくと感動の競技となったのではないでしょうか。

 このバトンリレーは、サービス業界でも同様のことが言えます。一人ひとりの優れたサービススタッフが、お客様に喜ばれるおもてなしを実行することは大切です。さまざまな場面で、養ってきたサービス力を発揮して、お客様を笑顔にするのは素晴らしいことです。

 しかし、個別情報のバトンが次のスタッフに受け渡され、現場で実行されたおもてなしは、一人ひとりがバラバラに実行するよりも、お客様の感動はより大きくなります。

 日ごろから、一人ひとりのスキルを高めるのも大切ですが、バトンリレー現場での実行を学べば、より大きな成果を手に入れることにつながります。

 そのためには、まず個別情報を得ることです。お客様からの問い合わせや予約を受けるスタッフが次につないで行く情報を、興味を持って入手できるかどうかです。

 それぞれのスタッフが目の前の行動に一生懸命になるばかりではなく、バトンを生かした行動の実行を意識しながら、より効果的な情報を得るためにお客様との接点を生かせるかにあります。

 ある日、宿泊するホテルで腰に手を当てながらタクシーを降りたとき、「大丈夫ですか。どうかされたのですか」とホテルスタッフが声を掛けてくれました。「少し前から腰を痛めている」と話をすると、チェックインを終えて入った部屋のテーブルには、湿布薬と共に「お役に立てれば」というメッセージカードが添えてありました。

 翌朝には、チェックイン時に聞かれていた出発時間前に内線連絡があり、重いバッグを運ぶために客室まで来てくれたのです。バトンリレーの実行には、部署間を超えたチームワークを強める効果もあるのです。

 

コラムニスト紹介

西川丈次氏

西川丈次(にしかわ・じょうじ)=8年間の旅行会社での勤務後、船井総合研究所に入社。観光ビジネスチームのリーダー・チーフ観光コンサルタントとして活躍。ホスピタリティをテーマとした講演、執筆、ブログ、メルマガは好評で多くのファンを持つ。20年間の観光コンサルタント業で養われた専門性と異業種の成功事例を融合させ、観光業界の新しい在り方とネットワークづくりを追求し、株式会社観光ビジネスコンサルタンツを起業。同社、代表取締役社長。