JATAの道プロジェクト 宮城・福島で総括シンポジウム開く トレイル活用で地域振興

2022年3月8日(火) 配信

側帯を歩く一行

 日本旅行業協会(JATA、髙橋広行会長)は2014年から、「みちのく潮風トレイル」を活用した東北復興支援活動「JATAの道プロジェクト」を実施している。22年はプロジェクトの総括として、宮城県名取市と、福島県・富岡町、浪江町を1泊2日で訪問。名取市の閖上(ゆりあげ)地区のトレイルコースを歩き、観光資源を活用した商品造成や、観光客の送客による地域振興の意見交換を行った。

 環境省が東日本大震災復興のシンボルとして整備する「みちのく潮風トレイル」は、青森県八戸市から福島県相馬市を1本の自然歩道で結ぶロングトレイル。20年6月9日(火)に、総延長1025㌔が全線開通した。東北太平洋沿岸地域の4県28市町村をつなぐ日本最長のトレイルとなる。

 現在、コースを踏破したハイカーは60人、挑戦中が145人(21年2月時点)。

 このトレイルを活用し、観光交流の活性化や地域経済の振興をはかる目的で、14~21年にかけて計7回「JATAの道」が開催され、昨年最終回を迎えた。

 今回は同PJの総括として2月24(木)、25日(金)の1泊2日で視察を実施。JATA会員各社の経営層や国内旅行者担当者、地元自治体、観光庁、環境省関係者など53人が参加した。

宮城県・名取市 復興と商品造成

 1日目は宮城県名取市閖上地区で、堤防沿い約1・6㌔の道のりをトレイルした。

 津波で被災した閖上地区は、堤防の側帯の上に商業施設「かわまちてらす閖上」をオープンし、被災した人々が個別に事業を立て直すために飲食や物販を中心に26店舗が出店している。周辺には震災復興伝承館やトレイルセンター、サイクルスポーツセンター、仙台空港などがある。

 水辺を生かしたまちづくりを行っているとして、国土交通大臣から「かわまちづくり計画・かわまちづくり大賞」を受賞した。

かわまちてらす閖上

 名取トレイルセンターは、みちのく潮風トレイル沿線にある5つのサテライト施設の情報を集約し、各地域に向けて発信を行う拠点施設。ハイカーが装備を補充できる売店や、洗濯室、シャワー室、芝生のキャンプ場なども備えている。

 ハイカーだけではなく、地域住民や観光で訪れた人がくつろぎ、交流できるように談話室を開放している。トレイル沿線の情報を掲示した大型パネルのほか、国内外のロングトレイルに関する本を自由に読める。

 名取市の山田司郎市長は、「閖上地区から宮城県東部沿岸にかけての回遊性を高め、地域一体で発展していければ。トレイルで歩き自転車で走るような、人力で旅をする文化を世界に発信していきたい」と力を込めた。

トレイル全線を掲示した大型パネル

 1日目の最後には、「JATAの道プロジェクト総括」シンポジウムを開いた。登壇したJATAの原優二副会長は、「アフターコロナにおいては必ずトレッキングのようなアウトドア指向、健康指向の旅が求められる。積極的な意見交換を通じて、国内外の旅行者に宮城・福島、東北を堪能いただけるような魅力を共に創っていきたい」と述べた。

 また、みちのくトレイルクラブの加藤正芳理事は、「兄の則芳は、日本のロングトレイルハイカーの草分け的存在だった。ロングトレイル文化を日本にも根付かせたいという想いで、情熱を注いできた」と話した。「兄は難病で亡くなり、トレイルの完成を見ることはできなかったが、20年6月に全線開通が叶って兄との約束を果たせた」と語った。

 今後みちのく潮風トレイルが世界から高く評価されるには、ビギナーや一般人が気軽に訪れ、「実際に歩いて東北の素晴らしさを感じてもらうことが一番」であると語り、「その為にも官民連携した取り組みに期待を寄せている。今後もぜひお力添えをお願いしたい」と参加者に向けて話した。

 シンポジウムでは、クラブツーリズムがトレイルの企画商品を紹介した。21年下期から販売した「みちのく潮風トレイル・宮城オルレ3日間」では、歩くことに興味のある初心者のお客を対象にハイキングの旅に誘導した。

 商品造成にあたっての課題ではトレイルの「知名度」があった。同社では、「引き続き商品販売とPRをすることで、知名度向上に協力していきたい」と意気込みを述べた。

 読売旅行は、今後の企画商品造成について3段階に分けてトレイル商品を販売すると話した。

 初級では添乗員が同行するパッケージツアー。中級ではトレイルをしながらイベントなどを通じて地域住民と交流することにポイントを置く。上級では、何度も気軽に利用できる個人型のパッケージ商品で、リピーターを増やす。

 日本旅行東北は、教育旅行の視点からトレイルの活用について話した。教育旅行の3要素とは、学ぶ・楽しむ・フィールドワークであると紹介したうえで、「東北でトレイルをしながら、地域の産業や震災を学び、自然景観を楽しみ、農業体験や地域の人と交流してフィールドワークを行うことができる」とした。

福島県・原発エリア 風評対策と富岡の桜

 2日目は福島第一原発事故により被災し、現在も帰還困難区域に指定されている福島県・浪江町、大熊町、富岡町を訪れた。

 経済産業省資源エネルギー庁の木野正登参事官が第一原発の廃炉の状況について講演を行った。

 廃炉に向けての課題は、燃料デブリ(燃料が溶けて固まったもの)、使用済み燃料の取り出し、汚染水対策、ALPS処理水の処分──の主に4つ。

 ALPS処理水は、多核種除去設備(ALPS)などを用いて、汚染水からトリチウム以外の放射性物質を浄化処理したもの。トリチウムはごく弱い放射線を発する水素の仲間(同位体)で、水素と性質が似ているため、水からトリチウムのみを除くことは難しいとされている。

 木野参事官は「トリチウムが体内に入っても蓄積されることはなく、水と一緒に排出される。人体に影響が出ることはない」と説明した。

 「今でも残っている風評、処理水の海洋放出で起こる風評を払拭するために行っているのが、交流人口の拡大。福島の現状をその目で見てもらうことで、復興のようすや安全であることを直に感じてもらう。ぜひ観光に携わる皆様の力をお貸しいただきたい」と語った。

 政府は、風評を生じさせない、または風評が生じたとしても安心して事業を継続・拡大できる環境を整備することに全力を挙げている。これに関連し、観光庁では、海洋放出の風評への対策として、海の魅力を高め誘客と観光客の定着をはかるブルーツーリズム推進支援事業に取り組む。

語り人・渡辺好氏

 

 富岡町3・11を語る会の語り人(かたりべ)である渡辺好(このむ)氏は、富岡町住民の視点から復興の現状を語った。

 20年3月には特定復興再生拠点として富岡町夜ノ森駅周辺道路の避難指示が解除され、JR常磐線が再開通した。

 「富岡町花は桜。夜ノ森では1500本の桜が植えられている」と、桜の名所であることを紹介。「11年越しに、富岡町全面でさくら祭りができるようになった」と嬉しそうに語った。

名取トレイルセンター前で

H.I.S.ホテルHD、ウズベキスタンにホテル開業 大規模開発で旅行需要見込む

2022年3月7日(月) 配信

ホテルの外観。運営施設は世界6カ国の42軒となった。

 H.I.S.ホテルホールディングス(澤田秀雄社長、東京都港区)は、3月1日(火)、ウズベキスタンの首都タシケントに「ホテルインスピラ-S タシケント」をオープンした。同社は初めて、ウズベキスタンで開業する。運営施設は世界6カ国の42軒となった。 

 中央アジアの中心都市として大規模な開発が進むウズベキスタンに注目し、世界遺産も多い同国への旅行需要や、ヨーロッパや中欧諸国へのハブとしての宿泊需要を見込んでいる。

 同ホテルは全140室の4つ星ホテルとして開いた。客室はロイヤルスイートやツイン・ダブル、など全7タイプ140を用意した。レストランは、ウズベキスタンの伝統料理や和食、ヨーロピアン料理などを提供。24時間のルームサービスも行う。さらに、フィットネスジムや会議室、ギフトショップトルコ式風呂ハマム、フィンランド式サウナなども設けた。

 ロビーでは、中央アジアの中心で多様な文化が交わるウズベキスタンの文化・芸術を演出する。また、ウズベキスタンでは初めてとなる館内やホテル周辺を案内する“ロボットコンシェルジュ”を導入した。

 同ホテルは、歴史的な建物が立ち並ぶアルマザール地区に位置する。タシケント国際空港からは車で約20分、市街を走る地下鉄ガフールグラム駅からは徒歩約3分でアクセスできる。人気の観光名所であるチョルスバザールや旧市街などには、徒歩で行くことができ、ビジネス・観光どちらの拠点にも最適な立地だという。

ホテレスセミナー・新時代のホテル運営改革 「Remote LOCK」(構造計画研究所)

2022年3月7日(月) 配信

新しく発売されるリモートロック

 第50回国際ホテル・レストラン・ショー(2月15~18日開催)のHCJセミナーで、構造計画研究所の市場開拓室長・池田修一氏が「ニューノーマル時代のホテル運営改革」をテーマに講演を行った。IoT技術を活用し、宿泊施設の非対面・非接触・省人化をはかる取り組みと自社製品について紹介した。

 池田氏は冒頭、「アフターコロナで求められることは、①非対面②非接触③リモート──の3点。物理カギからキーレス化に移行することで事業者と利用者双方にメリットが生まれる」と語った。

 また、ゲストとスタッフが直接顔を合わせる機会を減らすことは、ホスピタリティの欠如には直結せず、「スタッフと会わないからこそ、よりリラックスして滞在ができるようになる」と、非対面でもゲストの満足度を高めることができるという考えを示した。

 同社が販売する「Remote LOCK」は、複数のドアと入室者をクラウドで一括管理できる入室管理システム。遠隔操作で入室権限を付与できるほか、入室履歴を把握できる。これにより、施設運営の無人・省人化、非対面化を実現した。

 利用者は、事前に発行された暗証番号4~10ケタを入力することでカギを開錠できる。

 Remote LOCKを導入したホテルの従業員からは、「フロントでの事務的な案内を削減することで、スタッフはお客様へのおもてなしに注力できた」という声が寄せられたと池田氏は語る。

 このほかにも、「ルームキーを失くす心配がないため安心」、「複数人で温泉に行く際、カギが1つしかないため待ち合わせをしていたが、キーレス化で問題が解消した」など、利用者から好評だと紹介した。

 また、3月1日(火)には新機種となる「RemoteLOCK 8j―F」と「RemoteLOCK 8j―Q」を発表した。

 8j―Fは、非接触ICカード技術「FeliCa」と連動しており、入室用のカギとしてFeliCaカードを最大1000枚まで登録・管理できる。

 8j―Qは、QRコード読み取り用カメラが搭載。スマホや紙などに表示されたQRコードをかざすと開錠できる。

 今春に発売予定。

Go To不正調査報告 東横インなど7ホテルでクーポン不適切利用(観光庁)

2022年3月7日(月) 配信

観光庁はこのほどGo Toトラベル給付金の不正受給問題について調査状況を報告した

 観光庁は3月4日(金)、JHATなどによるGo Toトラベル給付金の不正受給問題について、調査状況を報告した。調査によると、旅工房からジャパンホリデートラベルに宿泊実体のない契約で給付金を不正受給し、東横インなど7つのホテルで合わせて約9300万円分の地域共通クーポンが不適切に使われていたことが分かった。

 旅工房は法人顧客から提供された名簿の名義を使い、宿泊の実体がない契約にも関わらず、計2億8336万円の給付申請を行った。なお、実際の給付は受けていない。

 旅工房は、ジャパンホリデートラベルに宿泊施設の手配などを業務委託したことが分かっている。本来2万240人泊分のところ、実際に宿泊されたのは1万1014人泊分であることが判明した。

 また、地域共通クーポン計1億2145万5000円分が発行され、うち9363万9000円を実際に使用した。

 これらのクーポンは、法人顧客や宿泊(予定)者には渡されず、手配された複数の宿泊施設(東横イン2施設、ロディソンホテル2施設、ハートンホテル1施設、ベニキアカルトンホテル1施設、ホテルトラッドリプレイ)において、リネン・清掃代などに対して使用されたことが確認されている。

 Go Toトラベル事務局とエイチ・アイ・エス(HIS)の調査の中で、トラベル・スタンダード・ジャパンにも不正受給の疑いが明らかになったため、事実関係の全体像解明に向け調査を進めていく。

 関係する法人については、今後クーポンのうち不適切な使用分の返還を求める。

 今後再開される新たなGo Toトラベルにおいて、JHATやミキ・ツーリスト、ジャパンホリデートラベル、旅工房の参加を停止することを決定。

 また、クーポンを不正に受け取っていたホテル7施設に関してもクーポン取扱店舗の登録を取り消す。

 同庁は、「刑事告訴も視野に入れながら、捜査機関と連携し、引き続き必要な調査を進めていく」方針だ。

Airbnb、内閣府沖縄局とワーケション協定結ぶ 関係人口拡大で、地方創生はかる

2022年3月7日(月) 配信 

田邉泰之代表(左)と、米山茂運輸部長(右)ら

 Airbnb(エアビーアンドビー、田邉泰之代表)は3月2日(水)、内閣府沖縄総合事務局と「ワーケーション連携協定」を締結した。沖縄県内の産業のさらなる活性化や、県内の各地域での関係人口の拡大などを通じて、地方創生や旅行需要の創出につなげる狙い。同局がワーケーション連携協定制度を創設した昨年11月15日以降、民間企業と協定を結ぶのは2回目。

 両者は協定で、沖縄県内におけるワーケーション推進に関する取り組みをはじめ、アンケートや広報活動などの実施を盛り込んだ。また、Airbnbが同局のイベントへの協力を行うことや、参加者などの意見や要望などを収集し、同局の活動に生かしていくことなども明記した。

 具体的には、ゲストと訪問先の地域コミュニティが共に新しい価値を創造していく「共創・共学ワーケーション」の仕組みをつくる。さらに、マリンスポーツや伝統文化・工芸も学ぶワーケーションの提案などを行う。

 ワーケションが普及しているなか、田邉代表は「夏季集中から分散型の滞在への効果に期待を寄せている。ゲストがホストの介在で地域コミュニティと交流する関係人口を拡大させ、沖縄県の発展に寄与したい」と意気込みを述べた。

 内閣府沖縄総合事務局の米山茂運輸部長は、コロナ禍でテレワークが広く定着し、2拠点生活や地方でのワーケーションなど場所に捉われない働き方が生まれていることに触れ、「地域のコーディネーター的役割を果たすAirbnbのホストを中心に沖縄を訪れたゲストと地域が密接につながり、地域の活性化が進むことを期待している」と述べた。

春休み中は小学生以下のリフト券が半額 群馬・たんばらスキーパーク

2022年3月7日(月) 配信

お得に春スキーを楽しもう!

 群馬県沼田市の「たんばらスキーパーク」(竹内健二総支配人)は、3月19日(土)~4月3日(日)まで、小学生以下の子供のリフト1日券を半額で提供する「春休みキッズウィーク」を開く。

 期間中、リフト券売場で小学生・キッズ(4歳以上の未就学児)のリフト1日券を小学生は通常3200円のところ、1600円、キッズは通常2200円のところ、1100円で販売する。同期間は例年天候も安定しており、スキーやスノーボードデビューにおすすめの時期だという。

 たんばらスキーパークは全8コース、リフト6基のスキー場。アクセスは、関越自動車道沼田ICから約30分(19㌔)。なお、今季の営業は5月8日(日)までを予定する。

【精神性の高い旅~巡礼・あなただけの心の旅〈道〉100選】-その11-青岸渡寺&補陀洛山寺 和歌山・熊野を歩く(和歌山県・那智勝浦町)海の浄土と山の浄土を巡る 滅罪行と黄泉がえりの熊野詣

2022年3月6日(日) 配信

 熊野は、樹々が鬱蒼とする森に、自然崇拝というものが広く根付いています。俗世間と遠くかけ離れた、別世界の旅ができる聖地。熊野の「クマ」とは、「神」「隈」を表し、「神々のいらっしゃる奥まった地」という意味であり、人々が簡単には近づくことができない秘境の聖地でした。私自身、以前、和歌山大学で講師をしていたとき、この独特な熊野の深い森の世界に魅了され、実際に足を踏み入れた際には、目に見えない何かに吸い込まれるようで、恍惚とした幸福感を味わった経験がありました。

 

 また、熊野とは紀伊半島南部(和歌山県南部と三重県南部)の総称であり、熊野三山はそこに鎮座している3つの聖地のことです。その3つとは、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社。2004年には「紀伊山地の霊場と参詣道」がユネスコの世界遺産に登録。

 

 

 平安時代には、皇族や貴族が都から熊野を目指す「熊野御幸」が盛んに行われました。民衆の間にも広まり、「蟻の熊野詣」といわれるほど、参拝する人々であふれました。「熊野に詣でる」ということは、黄泉の国に往き、生まれ変わって現世へ戻る、再生するための方法なのです。

 

 熊野も四国遍路もそうですが、険しい巡礼道へ行くことは、あらゆる罪を浄化する「滅罪行」でした。滅罪行には2つあり、1つ目は故人に代わって罪を消滅し、後生安楽ならしめようという代受苦の苦行。また、2つ目は自分自身がおかした罪に対し、来世で受ける苦しみを生前に果たしておこうという滅罪の苦行です。

 

 さて、先に述べました熊野御幸ですが、白河上皇は9回、鳥羽上皇は21回、後白河上皇は34回と、なぜこんなにも多くの貴族たちが都から遠い熊野まで詣でるのでしょうか? 熊野の神様は、現在と未来の幸福を授けてくれるそうです。熊野三山の那智の神様は、長寿を授けるご利益を与え、上皇たちの権力の絶頂を極めた人たちは、何よりも健康を重んじたのかもしれません。さまざまな願いを成就するために、神々の力が宿る熊野の霊験さを強く求めたのでしょう。

 

 ちなみに花山上皇は、陰謀によって帝位を追われて、人生を見つめ直すためなのか、約1年あるいは3年の間、熊野で修行し、こもられたとのこと。熊野には、深い思考力を養うための「こもる」という行動のために、最適な聖地なのかもしれません。

青岸渡寺

 その花山上皇が始めたという西国三十三所の第一番が、天台宗の青岸渡寺。熊野那智大社の隣にあり、那智の滝も境内から見渡すことができます。平安時代から、熊野三山を巡拝することにより、死後、浄土に行くことができるといわれています。古くから日本人の死生観に「人は死んだら、お山へ帰る」といわれ、熊野はまさに山の浄土。

 

 ご本尊は、秘仏の如意輪観音様。右手を頬に触れ、思索にふけるお姿が、真摯に人の悩みに寄り添って、「どうしたらよいのか」と深く考えているところに、胸が打たれるのです。

補陀洛山寺・渡海船の復元模型

 那智山のある青岸渡寺を降りて海際にあるのが、青岸渡寺の末寺である補陀洛山寺。補陀洛山寺は、ここから観音菩薩の住む南の補陀落浄土へ行く舟の出発地でした。平安時代、民衆の人々の罪や穢れを上人たちが一心に受け止めて、死への舟旅に出たのです。一定の儀式の後に舟に乗り、その扉を釘づけにし、出られないようにしました。これは、仏教でいう我が身を捨てて人のために尽くすという「捨身行」。

 

 熊野の補陀落渡海は、江戸時代まで続きました。民衆の浄土への強い願望を感じます。ここは、海の浄土の出発地。海という字の中には「母」という字が入っています。海というのは、母親のような包容力に満ちた安らかな境地になれる場所ではないでしょうか。

 

旅人・執筆 石井 亜由美
東洋大学国際観光学部講師、カラーセラピスト。精神性の高い観光研究部会メンバー。グリーフセラピー(悲しみのケア)や巡礼、色彩心理学などを研究。

加賀屋がインターン受け入れ 金沢大と立教大の学生11人 お見送り体験など

2022年3月5日(土) 配信

学生たちがお見送り体験

 加賀屋(石川県・和倉温泉)は2月21日(月)から24日(木)まで、金沢大学と立教大学の学生11人を観光分野の人材育成へ、インターン生を受け入れた。

 学生たちは、加賀屋グループの「加賀屋」「あえの風」「虹と海」の館内見学や、宿泊客のお見送り体験、おもてなしの心など学んだ。

講演する長谷川明子中女将

 期間中、真崎昌久氏(JTBトラベル&ホテルカレッジ)による「観光について・旅行について」の講演や、長谷川明子中女将による「加賀屋の流儀、日本の文化」の講義、小田禎彦相談役による「観光業・宿泊業の役割、地域創生」の講演が行われた。

 

 参加した尾上朋也さん(金沢大学地域創造学類 観光学・文化継承コース)は、「おもてなしに対する情熱が素晴らしい。学んだことを、社会に出て役立てていきたい」と話した。

 田所遼介さん(加賀屋総務人事課)は「ホテル旅館の働くようすを見てもらうことで、宿泊業界を知るきっかけになってもらえるとうれしい」と語る。

 両校は昨年から人材育成のための協定を結んでおり、加賀屋グループでは今後もインターンシップを実施していく予定だ。

津田令子の「味のある街」「求肥入り一元最中」――一元屋(東京都千代田区)

2022年3月5日(土) 配信

一元屋の「求肥入り一元最中」199円(税込)▽東京都千代田区麹町1-6-6▽☎03(3261)9127。

 

 半蔵門駅のすぐ上にある半蔵門ミュージアムとイギリス大使館の裏手にある、国内外の貴重なカメラや写真を展示している日本カメラ博物館を訪ねた帰りに、1955(昭和30)年創業の「一元屋」さんに立ち寄った。

 

 特製きんつばはとくに有名で、雑誌の特集記事などでお馴染みの「おもたせ」ランキングでも常に上位に名を連ねる老舗の名店だ。

 

 場所柄、ビジネス需要が多く、最も混雑するのは午前中の比較的早い時間だ。売り切れることもあるというが、予約も受けてくれるのでありがたい。

 

 これからの季節は、千鳥ヶ淵の花見のお客が買いに求めに来るので早めに予約を入れた方がよさそうだ。

 

 今回は、特製きんつばではなく「求肥入り一元最中」を紹介しよう。個包装から取り出し口に近づけると皮が香ばしく香る。香ばしさが前面に出るようにもち米を焼いて皮を作っているという。

 

 皮とあんを一体にするために作ってすぐには売らず、あんのみつが皮の裏に徐々にしみこんで馴染んでから店頭に出すという拘りようだ。あんは北海道の十勝産の大納言を使った塩気を効かせた粒あんで粒の食感も十分楽しめる。

 

 1つ食べると、とにかく芳しい皮の香りが漂いもう1つ食べてしまうのだ。甘みを抑えた看板商品の特製きんつばとは異なり、パンチのある甘さが特徴である。

 

 もちもち感あふれる求肥と、パリッとした皮の対比が実にマッチする。大きさは、やや小ぶりの一辺5㌢くらいの正方形サイズ。個包装されているので皮と皮がくっつくこともない。おもたせや進物に最適の一品なのだ。

 

 バラ売りもしてくれるので、疲れたときには1個買って、そのまま店の近くにある、縁結びの梅で知られる平河天満宮に参拝したのちに境内で食べさせていただくことも……。

 

 桜の季節も近いので、この機会に東京一評判の高いきんつば屋さんの求肥最中で「花より団子」というのも乙ではないか。

 

(トラベルキャスター)

 

津田 令子 氏

 社団法人日本観光協会旅番組室長を経てフリーの旅行ジャーナリストに。全国約3000カ所を旅する経験から、旅の楽しさを伝えるトラベルキャスターとしてテレビ・ラジオなどに出演する。観光大使や市町村などのアドバイザー、カルチャースクールの講師も務める。NPO法人ふるさとオンリーワンのまち理事長。著書多数。

「街のデッサン(251)」 一匹の狼のごとく生きる、散逸行動とブラウン運動

2022年3月5日(土) 配信

ドッグランの100匹の犬と、1匹の狼

 なかなか外出が自由にできない。講演やフォーラムの打ち合わせがたくさんあるのに、関係者にも会えず延期になる。自閉と孤立が求められる社会が続いている。そんなときに、私たちはどう日常の行動を生み出したらよいのだろうか。

 私が思い当たるのは、荒野に生きる(現代都市も荒野そのものかもしれない)一匹の狼である。群れを作って集団で暮らす狼たちもいるが、とくに若い狼たちは1匹で生きていくことを強いられる。彼らは普段、原野に生息する弱小な動物や他の強者の食い残しを命の糧にしているが、ときに自分より強く大きな動物を襲うときには孤立した狼でも連携して群れを作る。

 群れには2つのパターンがあるようだ。渡り鳥のように大きな集団を作って自然の摂理に沿った動態で移動していく本能モデル。私たちは海の中を回遊する魚群にも同じように、何か強力な中央制御が働いている意志を持つ集合のように感じる。この群れの動態の秘密を解いたのは、カルフォルニアでコンピューターグラフィックスを専門にしていたグレイグ・レイノルズであった。彼はアニメの中の動物たちに自然の動きを与えるために、カラスの集団をつぶさに研究した。個の動きを見ていると中央制御の意図は読み取れず、個々の鳥たちが3つの規則に従順に従っていると捉えた。①各々が数多くいる方に飛んでいく②各々が飛ぶ速さを合わせようとする③個体が近付きすぎたら離れようとする――実にシンプルな本能だ。

 一方で狼たちが獲物を捕るために明確な意思を持って連携するワーク(仕事)モデル。このモデルを、哲学者・ジル・ドゥルーズは「群れの数量の乏しさ、散逸状態、可変的な距離、固定的全体化や階層性の不可能性、多様な方向のブラウン運動」と分析する。鍵は散逸構造にある。群れの中に活動状態の非平衡が生まれるが、その非平衡性が社会エネルギー創出の“場”となる。すなわち、彼ら孤独な狼たちでも、エネルギーを群生的に社会還流させているのだ。

 これからは、DX(デジタル・トランスフォーメンション)で人々が出会わずに仕事を遂行できる一方、リアルな狼の群れのようにスモールビジネスやマニュファクトリーを自己組織化させ、地域にいくつもの生成変化(類的増殖)を生み出していくメタファーを読み取れる。商店街のカフェなどを舞台に、狼たちのブラウン運動がアジールを生みだす。そして、その意思を持つノマドたちが世界中を遊牧し、旅を重ねて「知」の散逸行動を定常化していくのではないか。

コラムニスト紹介

望月 照彦 氏

エッセイスト 望月 照彦 氏

若き時代、童話創作とコピーライターで糊口を凌ぎ、ベンチャー企業を複数起業した。その数奇な経験を評価され、先達・中村秀一郎先生に多摩大学教授に推薦される。現在、鎌倉極楽寺に、人類の未来を俯瞰する『構想博物館』を創設し運営する。人間と社会を見据える旅を重ね『旅と構想』など複数著す。