被災者224人を招待、水陸両用バスに体験試乗

スカイダックに体験試乗
スカイダックに体験試乗

 日の丸自動車興業は3月19日、東日本大震災の被災者支援特別ツアーとして「SKY Duck & SKY BUSで江東区散策」を実施した。江東区の東雲住宅に避難している224人をツアーに招待し、水陸両用バスの「スカイダック」の体験試乗のほか、2階建てオープンバス「スカイバス」で江東区内の観光名所などを巡った。

 5台のスカイバスに乗った一行は江東区役所を出発し、国内最大の神輿の展示などがある富岡八幡宮で地元のボランティアガイドと共に参拝した。また、屋根がなく、高い位置にある座席からは迫力のある景観を楽しめるため、見晴らしの良い勝鬨橋や台場からのトンネル走行では参加者から歓声が上がった。バスガイドによるとトンネル内はジェットコースターに乗っているような感覚という。2月に開通したばかりの東京ゲートブリッジを経由して若洲海浜公園で「スカイダック」の試乗会が行われた。

 「スカイダック」は日野自動車のトラックをアメリカで改造したものを運用する。現在2台だが、将来的には約20台を予定している。会見で富田浩安社長は「ボストンではレッドソックスが優勝するとこれでパレードを行う」と国内の運行への意気込みを語ると共に「被災者に少しでも元気になってもらいたいと思った。試乗会で気分がよくなってくれれば」とあいさつした。

 水陸両用バスの発着場は秋に整備が予定され、「早ければ11月上旬に運行を始めたい」と富田哲史常務は話す。運行開始後はトータル90分の乗車時間で、3千円から4千円の料金を想定する。

 夫婦で参加していた稲元さんは「視点が高いので見晴らしも良く楽しめた。スカイダックには今度もっと長く乗ってみたい」と感想を述べた。

全国との絆、今夏開花、福島ひまわり里親プロジェクト

匠のこころ吉川屋 企画室長 畠 正樹さん
匠のこころ吉川屋
 企画室長 畠 正樹さん

 福島県と全国各地との絆づくりや、原発事故被害の風化対策に取り組む「福島ひまわり里親プロジェクト」(半田真仁代表)が今年2年目を迎えた。全国から福島県へ届けられたヒマワリの種が県下各地に植えられ、今夏大輪の花を咲かせる。活動メンバーの一員で、各温泉地との橋渡しに奔走する匠のこころ吉川屋(福島県・穴原温泉)の畠正樹企画室長に事業の概要を聞いた。

【鈴木 克範】

≪復興の象徴として≫

 昨年、福島復興のシンボルとして、土壌から放射性物質を吸収するヒマワリを植える動きが広がった。効果については後日、農林水産省が実証実験で「除染効果は実用的でない」と結論づけたが、ヒマワリには見る人を元気にさせる力がある。県内の多くの場所でたくさんヒマワリを植え、被災した人たちに元気と勇気を与える活動はできないか。そんな思いから「福島ひまわり里親プロジェクト」が発足した。

≪事業の目的は4つ≫

 里親プロジェクトは、ヒマワリの育成を通じて、福島と全国各地が結ばれる仕組みだ。プロジェクト事務局からヒマワリの種を購入し、育ててくれる里親を全国から募る。そこで収穫した種を今度は福島県下に植えていく。

 事業には、県内の雇用対策、風化対策、絆づくり、観光振興という4つの目的がある。販売する種の袋詰めを県内の障がい者の作業所に依頼し、雇用を生み出した。里親としての関わりは「福島を忘れない」という風化対策につながる。さらに交流サイクルを築き、続けることで絆を深めていく。観光面では、県外から直接ヒマワリの種を届けてもらうことや、咲く姿を見に来てもらうことが期待できる。

 昨年は福島以外の全国46都道府県、約1万6千カ所に里親が誕生。収穫された種は手紙やメッセージとともに続々と届けられた。早速、福島交通飯坂電車で直筆メッセージを展示した「ひまわり復興列車」が運行(5月連休まで)されるなど、新しい取り組みの輪も生まれた。3月からは新しい里親の募集も始まった。

≪里親との交流も≫

 全国の里親さんとの交流も必要。福島県旅館ホテル生活衛生同業組合青年部が中心となり、ヒマワリをキーワードにした研修会も行われた。応援メッセージの展示やヒマワリの迷路づくり、見学バスツアーなど、アイデアは尽きない。このほど誕生したマスコットキャラクター「ひまぽぽ」君の商品展開も考えたい。

 届いたヒマワリの種は福島復興への思いが詰つまった「希望の種」。大きな財産を役立てられるよう、仲間と取り組みたい。

 プロジェクトの近況は公式ホームページ(http://www.sunflower-fukushima.com/ )から。

加賀の温泉文化の魅力

「加賀片山津温泉 街湯」の外観
「加賀片山津温泉 街湯」の外観

≪新たな総湯でにぎわい創出 加賀片山津温泉 街湯≫ 4月21日オープン

 石川県と石川県観光連盟は3月22―23日の2日間、能登コースと加賀コースに分かれて視察事業を行った。本紙は今回、加賀コースに参加し、4月21日にオープンする片山津温泉の新たな総湯「加賀片山津温泉 街湯」や、小松市のご当地グルメの「小松うどん」づくり体験、能美市の「九谷焼資料館・陶芸館」の見学と絵付けなどを体験した。22日の夜は、山代温泉の名旅館「たちばな四季亭」に宿泊し、加賀温泉郷の歴史ある温泉とおもてなしを体験した。

【増田 剛】

 「小松うどん」

シンプルだがつるつるした食感が美味しい
シンプルだがつるつるした食感が
美味しい

 今回の視察では、まず小松市のご当地グルメである「小松うどん」を実際に作った。小松うどんは「1689(元禄2)年、松尾芭蕉が奥の細道の道中、小松に立ち寄ったお礼に小松の俳人塵生が乾うどん2箱を山中にいた芭蕉に届け、賞賛された」という300年を超える歴史を持つ。

 2010年には小松市が市制70周年を機に、小松うどんで地域ブランド化の取り組みをスタート。加盟店は61店舗を数える。特徴は、細くてほど良いコシのある麺と、ウルメやムロアジ、サバなどの雑節と昆布の合わせだし、地元の醤油で色薄く作る透明感のあるだしは、ツルツルとした麺によく合い、とても美味しかった。

 加賀四湯

 粟津温泉、片山津温泉、山代温泉、山中温泉は加賀四湯とも呼ばれ、半径8キロ圏内にあり、それぞれに豊かな個性を持つ。関西圏や中部圏には馴染みの深い1300年の歴史を有する温泉地であるが、首都圏からは、心理的に「遠い」というイメージも持たれがち。しかし、人情に厚い、独特の文化を持つ加賀温泉郷には数多くの名旅館が存在しており、ぜひとも一度は訪れたいところ。それぞれの温泉地には、「総湯」と呼ばれる共同浴場がある。

 山代温泉のシンボルは、明治19年当時の総湯を復元した山代温泉古総湯。外壁は白木仕上げ、浴室は漆塗りの壁に、九谷焼のタイルとステンドグラスが独特の雰囲気を醸し出している。古総湯と向かい合うかたちで、山代温泉総湯がある。こちらは、地域の住民がよく利用している。売店の「温泉たまご」は源泉に8時間つけて温泉の成分がしみ込んだ一品で、とても人気が高い。

山代温泉の古総湯(手前)と向かい合う総湯(奥)
山代温泉の古総湯(手前)と向かい合う総湯(奥)

 総湯は単なる共同浴場ではなく、温泉が本来持っている医療や福祉、観光、歴史、文化、教育などさまざまな要素を満たしている。住民同士が交流を持てる「温泉コミュニティ施設」としての文化的な意味も持っている。総湯を取り囲むように旅館や町並みが形成されていった、歴史的なまちなみ「湯の曲輪(ゆのがわ)」が再生された山代温泉では、にぎわいの温泉文化を堪能することができる。

 片山津温泉には4月21日、新たな総湯「加賀片山津温泉 街湯」がオープンする。日本を代表する世界的な建築家・谷口吉生氏の設計。外観のほとんどがガラス張りで透明感のある建物は、柴山潟、空、海など周辺の自然に溶け込み、建物からは雄大な白山連峰を背景とした美しい柴山潟の眺望が楽しめる。花火祭りなど多種多様なイベントの開催も、予定され、温泉街のにぎわいの創出に大きな期待が寄せられている。今回、訪れることはできなかったが、粟津温泉、山中温泉も1300年の歴史を誇り、総湯を中心に個性的な温泉文化を築き上げており、ぜひ訪れたい。

国内、海外ともに4%増、海外過去最高の2000年に次ぐ

ゴールデンウイークの旅行動向

 JTB(田川博己社長)がこのほど発表した、ゴールデンウイーク(2012年4月25日―5月5日)の旅行動向によると、1泊以上の旅行に出かける人数は前年比4・2%増の2120万8千人。国内旅行は同4・2%増の2064万5千人、海外旅行は同4・8%増の56万3千人と、国内・海外ともに昨年より増加した。旅行動向はJTB予約状況、航空会社予約状況、業界動向、1200人へのアンケート調査などから推計した。

 今年のGWは4月28―30日の3連休と、5月3日―6日の4連休に別れ、5月1、2日を休めば9日間連続の休みとなる。

 旅行の同行者は、家族や親族とのつながりを大事にする傾向が強く、子供連れが43・5%、夫婦のみが18・8%、その他の家族が16・9%と、家族旅行が79・2%を占める。

 国内旅行をみると、5月22日に開業する東京スカイツリーへの関心が高く東京方面への旅行が増加。開業から1年の九州新幹線効果が続く九州も好調だ。

 また、今年は例年より桜の開花が遅く、東北地方を中心にGWに開花のピークを迎えると予想され、東北応援の傾向も強く、東北方面への人出がさらに増えると予測。3月18日に開幕した東北観光博でもGW期間中に各ゾーンでイベントが多数予定され多くの人出が見込まれる。国内旅行の宿泊は5月3、4日が中心となりそうだ。

 海外旅行をみると、円高基調を背景に過去最高の2000年に次ぐ旅行者数の見込み。方面別では長期の休みが取れるGWを利用した欧州方面の人気が高く、ハワイ、韓国、台湾なども人気を集める。ルックJTBの売れ筋コースをみると、欧州ではイタリア、スペイン、フランスの順となり、中欧東欧、チューリップの季節で人気の高いオランダ、ベルギーも例年以上に急増している。また、ルックJTBの予約状況からみると、遠距離の欧州、米国、ハワイは4月28日、近隣のアジアやグアム・サイパン方面は5月3日が出発日のピーク。

若年層を旅行に誘う、初のオープン懸賞も実施

 日本旅行業協会(JATA)はこのほど、国内旅行宿泊キャンペーン「もう一泊、もう一度」の2012年度の詳細を発表した。昨年度で当初の3カ年計画は終了したが、キャンペーンの浸透度や宿泊旅行の重要性から4年目も継続する。今年度は、宿泊しなくても応募できるオープン懸賞も初めて設け、フェイスブックなども使い、若年層を旅行に誘う取り組みを強化する。

 同キャンペーンの11年度の結果は東日本大震災の影響を受けながらも、前年度比35・7%増の10万9983通と大幅に増加。これに対し、国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は「大変多くの参加があった。震災もあったが、旅が経済の活性化につながることが証明された」と振り返った。今年度については「宿泊は国内旅行にとって大変重要なアイテム。今後も拡大していくという課題は追求していかなければならない。各社からも多くの期待の声がある」と意気込んだ。

 キャンペーン期間は4月1日―13年2月28日宿泊分まで。「もう一泊コース」は年間1泊から応募可能なコース。賞品は旅館・ホテルペア2連泊宿泊券(30組60人)。「もう一度コース」は年間4泊が応募条件で、20人にJATA会員旅行会社10万円分旅行券が当たる。「家族旅行コース」は中学生以下の子供との家族旅行で1泊から応募できる。賞品は家族農業収穫体験ツアー(東京・大阪・福岡発で合計30組120人)。「友人旅行コース」は年間1泊からで、賞品は友人5人で行ける日帰りバス旅行(東京・名古屋・大阪発で合計30組150人)。応募は会員会社でのスタンプが必要。

 また、初のオープンキャンペーンは「日本を『撮って→見て!』」。日本全国から、おすすめの旅のスポット写真・動画の投稿を募集する。実施は7月の予定。 

交換申請は計343件、住宅エコPを旅行引換証に

 日本旅行業協会(JATA)は4月4日、1月25日から始まった「復興支援・住宅エコポイント」の商品交換について、3月末までの「JATA旅行引換証」との交換申請は合計343件と発表した。今後も会員各社への周知や、全国紙への広告出稿などでポイント取得者への訴求をはかる取り組みに力を入れる。

 復興支援・住宅エコポイントは、省エネ法基準を満たす住宅を新築で建てる場合や、断熱改修などのリフォームをした場合に発行されるもので、そのポイントを東日本大震災の被災地の商品やエコ商品などと交換できる制度。JATAは第1次交換事業者に認定されており、会員会社で利用できる「JATA旅行引換証」をポイントと交換している。同引換証は、特定被災区域内に住む人は、会員会社で扱う全国の宿泊をともなう旅行に利用でき、区域外の人は、区域内に宿泊する旅行に利用できる。

 ただ、JATAで初めて扱う共益事業のため、会員への周知徹底が必要不可欠。このため、JATAは2月中に沖縄、中部、中四国、関西、九州支部で説明会を実施。そのほか、支部独自で行った北海道や東北などを含めて各社への告知に力を入れている。

 国内・訪日旅行推進部の興津泰則部長は、会員会社の反応について「制度から尋ねられる場合もあるが、説明するととてもプラスになるものだと理解してもらえる」と会員の期待は高いという。一方、「各社単体ではポイント取得者の一般消費者に告知できない。これこそ、JATAが主体となって行わなければならない」とし、「この制度が最大限利用されるよう全力を尽くす」と意気込みを語った。 

職業能力評価普及へ、ホテル業のマニュアル作成

導入・活用マニュアル
導入・活用マニュアル

 厚生労働省はこのほど、企業が人材育成に活用する「キャリアマップ」と「職業能力評価シート」の普及を進めるため、「導入・活用マニュアル」を、ホテル業など4業種で作成した。3月30日から、同省ウェブサイトの「職業能力評価基準」ページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/nouryoku/syokunou/index.html )で実際に活用した企業の取り組み事例と合わせて公開している。

 同省は、企業が人材育成に取り組む際に職業能力を客観的に評価するため、業種ごとに「職業能力評価基準」を策定しているが、「キャリアマップ」と「職業能力評価シート」は、この基準をより簡単に利用できるように作成したツール。さらに今回は、そのツールのマップと評価シートを活用しやすいようにマニュアルを作成した。マップと評価シートの解説から、実際に導入して人材育成制度を整備する際のポイントと注意点など、人材育成の目的別に、事例も盛り込みながらまとめている。人材育成の目的は大きく(1)企業・職場の人材レベルの把握(2)階層別の人材育成(3)能力チェックの高度化(4)中途採用時の知識・技能レベルの把握――の4つに分けている。

 なお、今回マニュアルを作成したのは、ホテル業のほかスーパーマーケット業と電気通信工事業、在宅介護業。

観光動向調査を開始、4半期ごとに公表へ

  日本観光振興協会はこのほど、4半期ごとに公表する短期観光動向調査を始めた。地域ごとに一般消費者の旅行実績や旅行意向などを調査し、結果を各地域にフィードバックする。本格的な公表は4半期調査が一巡する12年10月以降。

 観光客の入込み状況など、各自治体が独自に実施する観光動向調査はこれまでもあったが、基準が統一されておらず、他地域と比較するのには適していなかった。

 全国一律の基準で観光動向調査を行うのは今回が初の試みとなる。各地方自治体や観光関連業界・企業などは観光戦略の基礎資料として活用できる。

 調査分析を行うのは、「旅行意向の比較」、「旅行実績の比較」、「居住地から目的地への流動」、「旅行者属性別の意向」の4つ。

 「旅行意向の比較」は、性別、年代別の宿泊旅行意向や、宿泊旅行予定回数、地域ブロック別の旅行目的地を調査。地域ブロックは、北海道、東北、関東、甲信越、中部、関西、中国、四国、九州・沖縄、沖縄の10ブロックに分ける。

 「旅行実績の比較」は、実際の旅行回数、旅行目的地を調査する。「居住地からの目的地への流動」は、旅行意向者に居住地(発地)を聞き、目的地(着地)別に旅行者意向の内訳、変化を示す。例えば、「北海道ブロックでは、同じ道内が4割と多く、関東がこれに続き、前期との比較でみると、関西、中部地方からの旅行意向が強くなっている」といった分析が可能になる。

 「旅行者属性別の意向」は、旅行予定の同伴者(子供連れ、カップル・夫婦、友人、1人、その他)を調査する。

 調査の手法は一般消費者を対象としたインターネットによるアンケート。有効サンプル数は全国4千人以上(男女各15―69歳)。調査対象サンプルの配分は、10年度国勢調査の人口構成を基本とし、都道府県ごとに比例配分する。

東電に強く抗議、旅館3団体が値上げ反対

旅館側からは厳しい意見が飛んだ
旅館側からは厳しい意見が飛んだ

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(佐藤信幸会長)と国際観光旅館連盟(佐藤義正会長)、日本観光旅館連盟(近兼孝休会長)の旅館3団体からなる協議会は4月13日、東京電力が4月1日から企業向け電気料金を平均17%値上げしたことに対し、東京電力の担当者を呼び、電気料金値上げに反対する要望書を渡した。

 旅館団体側からは、全旅連の佐藤会長、山梨県旅館生活衛生同業組合の笹本森雄理事長、東京都ホテル旅館生活衛生同業組合の今井明男理事長、茨城県ホテル旅館生活衛生同業組合の村田實理事長、栃木県旅館ホテル生活衛生同業組合の堀口眞利理事長、群馬県旅館ホテル生活衛生同業組合の市川捷次理事長、埼玉県ホテル旅館生活衛生同業組合の山口賢一理事長、千葉県旅館ホテル生活衛生同業組合の平野勝之理事長、神奈川県旅館生活衛生同業組合の榎本孝弘理事長、静岡県ホテル旅館生活衛生同業組合の萩原勲理事長が出席。(1)人件費を含む経費削減と経営の抜本的見直しによる値上げ中止(2)電気料金設定に関する情報開示と事業者へのきめ細かい説明(3)電気料金値上げに同意しない事業所への電気供給停止に対する抗議と、誠心誠意の話し合い――の3点を要望した。

 佐藤会長は「民間なら、経営が大変なら身を切るのが当たり前。値上げをする前に、人件費の大幅削減や役員報酬の大幅カットなど、皆にわかるような努力を見せてほしい」と強く抗議した。

【特集No.308】会津東山温泉 向瀧 宿を守る“磨き”の文化

2012年4月21日(木) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。従業員の職場環境を整え、お客様と真摯に向かい合える仕組みができているのが特徴だ。「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第2弾は、福島県会津東山温泉で、木造建築が国の文化財にも登録されている「向瀧」の平田裕一社長と、産業技術総合研究所の工学博士・内藤耕氏が「労働時間の有効活用」や、向瀧が実践する「建物を磨くことによって、技を磨く、己を磨く」文化の大切さについて語り合った。

【増田 剛】

平田:当館は江戸時代中期から、会津藩指定の保養所でした。会津藩から明治6年に平田家に委ねられて営業を始めて以来139年で、私は6代目になります。建物は江戸の終わりから明治の初めに建てたものを加えていき、今の姿になったのは昭和の初期。この80年間はほとんど変わっていません。現在、部屋数は24室です。

 1991年に東京の旅行会社から会津に戻った私は、まず番頭からスタートしました。当時は「新しい」ことが魅力であり、鉄筋コンクリートで大型化した旅館を見て羨ましく思ったこともありました。今でも夕食、朝食ともにお部屋出しをしているのが特徴ですが、当時はいくつかの部屋を潰して食事処を作ろうと考えたこともありました。もし、そうしていたら、向瀧の独自性が減っていたと思います。

 ――代が変わって、とくにどの部分を改革しようと思われたのですか。

平田:代替わりは02年ですが、施設を変えることはしておりません。ソフトをどう変えられるのかという部分を考えていました。お客様から聞こえてくる声としては、食事の内容についてが多かった。だから、まずは調理場部門から改革していきました。当時は山の宿でありながら、エビやマグロを出していましたが、それらをすべてやめて、お造りを出すにしてもコイやヤマメやイワナといった山国の素材を集めて加工する方針に変えました。

 調理場が総上がりした時期には、私が自ら包丁を持って料理を出しました。今でも手が足りなくなると、包丁を持って調理します。そうすると、バックヤードから見た旅館の働きやすい環境というものも見えてきて、改善のアイデアが浮かんできます。

 ――経営者が厨房に入って包丁を持つことは大事なことですか。

平田:視点が違ってきますね。たとえば、食材を保管するタッパーは、買い足しにより多種類のサイズが氾濫して、蓋を探すのに時間がかかっていました。従業員は会社が購入した箱なので、なかなか捨てることができません。「捨てる」とか、「やめる」という判断を下す経営者が整理して捨てると、作業効率も格段に上がります。無駄が削れ、簡素化ができるのです。

内藤:「山奥でマグロの刺身はおかしい」という論理もあれば、一方で「マグロやエビはないのか?」というお客の声があるのも事実。お客も旅行は「ハレ」の日で、ハレの日と言えばお刺身という気持もある。たぶん両方の言い分は正しいのだと思う。だけど「小さな自分の旅館で、お客様のすべてのニーズに答えるのですか?」ということになる。逆の言い方をすると、マグロやエビを出すことによって、山の幸を食べたいと思っているお客様をすべて捨てることになる。あまり考えることなく、なんとなくこれまで通りにやっているのが今日の旅館の大きな問題だと思います。

平田:向瀧としては、個人で木造建築を静かに楽しんでもらえる人に使ってほしいという方向性が見えてきました。その方たちが会津に来ていただいたときに、会津の特徴的な料理が並ばないと納得してもらえないだろうと思い、すべて会津食に変えました。最初変えたばかりのころは地元の方々に「ぜんぜん食べるものがない」と批判されました。途中で食べるのをやめて、川向うのラーメン屋に行かれたこともありました。でも、いずれ自分の決断を支持してくれるお客様が来てくれると信じていました。地元の人だって、本当はなかなか地元の料理を食べていないものです。

内藤:メニューの種類が増えると、厨房の作業の種類が多くなる。そうすると、同じ食材でも使われる確率が低くなり、在庫期間は長くなる。その分品質は下がっていく。バックヤードの作業の煩雑さが、結果的に品質低下を招いてしまう。数を増やそうとした戦略が、品質ダウンによって、却ってお客様の数をさらに減らすという悪循環に入ってしまうのです。むしろ絞って品質を上げていくことで、お客様を増やしていくということを、辛くてもやらなくてはならないと思う。

 ――これまでの無駄を省いた例はどのようなものがありますか。

平田:仕入業者の選定によって、農家の方々が直接出入りしたりするようになりました。地元料理に変える際に、お米も醤油も品質を上げ、費用が2倍、3倍となりましたが、海の魚など余計なものを買わなくなったので、結果的に仕入コストは劇的に下がりました。

内藤:つまり、無駄を削減したことで、お米や醤油の品質を格段に上げることが可能になったのですね。

平田:そうです。当館はお客様が到着されると、抹茶と羊羹をお出しするのですが、以前は業者から納入し、帰りにお土産で買っていただけるものを出していました。しかし、料理を完全に手作りにしているなかで、手作りではない既製品が一つでもあると、「これも既製品かな?」とお客様に思われてしまうので、調理場は既製品を出すことを嫌がったのです。調理場と客室と帳場の係から「社長、手作り羊羹に変えましょう」と言われ、板長手作りの羊羹を出しています。

内藤:手作りだと、素材だけなので、納入コストも下がる。また、作る作業も空いた時間にやるので、人件費を増やさないで、仕入原価を減らし、品質と顧客満足度も上がったのですね。

平田:「この羊羹を買って帰れないの?」とお客様によく聞かれますが、そのときはこれまで納入していた羊羹屋さんを紹介します。「私たちの羊羹はお持ち帰りはできませんが、会津の美味しい羊羹屋さんの水羊羹がいいですよ」と薦めることによって、地域活性化にもつながるのです。

内藤:手作りで手間をかけるといっても、手間を増やしていないんですね。時間の有効活用。これまでは予算の有効活用で、アウトソーシングして手待ちの時間ばかりが増えていた。勤務時間の8時間を有効活用した良い例だと思います。

平田:スタッフ全員の意識がお客様のために何ができるか、ということに頭が向いているので、手作りができているのだと思います。これが「どうやってお金儲けしようか」ということばかり考えると、お客様に翌朝お菓子を売らなければならないから、到着したらこのお菓子を出しちゃおう、ということになる。そういう姿勢が見えた瞬間に、お客様の心は引いてしまうんです。

内藤:向瀧は建物を磨いているのも大きな特徴ですね。

平田:掃除は外注しないんですよ。全部自分たちで館内を磨きますから、弱っているところに気が付くんです。雪が積もって襖が開きづらくなっているところも気が付く。私はこれを「聞こえない悲鳴を聞く」と言っています。

 お客様も「少し寒い」など言いたいことが言えない状況でも、顔の表情や目線などに出てきます。「お客様の聞こえない悲鳴」にも気づき、自分から一歩近づいて対応することができるようになります。お客様に一歩近づくことによって、「自分の調理の技術、接客の技術はこれでいいのか」と省みて、自分の技の向上が必要になってきます。「建物を磨き、技を磨き、己を磨く」という磨きの文化を実践しているのです。建物を磨くところから、聞こえないものが聞こえ、見えないものが見える人間に成長していくのです。

 もし、清掃を外注に任せてしまうと、客室で不具合が生じた場合に、清掃業者のせいにして自分には責任のない態度がお客様に伝わってしまう。

 日本人というのは、そもそも物を大切にして磨くことが得意だったはずなんです。しかし、今は捨てる文化が主流になっています。宿や、会津の心を守るために、私たちが実践しなければならないのは、磨いて輝かせることなんです。掃除とは違うんです。掃除は汚れてマイナス状態になったものを元に戻すこと。磨きは汚れる前に気が付いて、買ったときよりもさらに輝かせること。これからも伝えていかなくてはならない文化だと思います。

内藤:施設を磨くということは、基本的にお客様がいないときにやるわけですから、これによって施設がちゃんとした状態になると、お客様がいるときに施設に関するトラブルがなくなる。裏を返すと、スタッフはお客様との接客に集中することができるようになるというメリットがある。

 たとえば、お客様がいるときに客室の電球が切れると大騒ぎになるが、それをいかに事前に予防するか。ある旅館は、電球をいつ交換したかすべて記録していて、耐用年数期間が近づくと、事務所の電球と交換する。そうすると、事務所の電球はしょっちゅう切れるが、客室の電球が切れてクレームが起こり、慌てて交換に行くということはない。例外処理がなくなることで、お客様に全神経を集中して接客することができるのです。

平田:お客様と接する自分をサポートするために、お客様のいないときに緻密に準備をすることが大切です。

内藤:これまでの付加価値を労働時間で割る労働生産性という考え方では、労働時間を減らした方がいい。アウトソーシングをすると、見かけ上は労働時間ではないので、生産性が上がったような気分になる。しかし、管理費は上がっているので結局変わらないのですね。むしろ、「自分たちでやっていく」という決意があれば、責任を持てるし、品質も上げられる。労働時間の有効活用という考えが重要だと思います。さっきの話でも、羊羹を買ったほうが作業量が減るが、その分厨房で何もしない待機時間が増えるだけで、二重にコストがかかることになる。

平田:方程式を間違えてしまうと、手を抜くほうが素晴らしいということになってしまう。

 ――今後の宿についての考え方は。

平田:お客様の声は、「変えないで」という声が非常に多いので、見た目の風情を絶対に変えないで、生活レベルに近づけることが大切だと思っています。向瀧の客室はすべて無線でインターネットができます。05年には空調設備もすべて替え、機械が見えないように床下や天井裏に隠しています。その分費用は高くなりました。特別室浴室の屋根を補修した時も、瓦を1枚ずつはがして小屋組を交換し、また瓦を元通りにしました。今の姿を壊さずに100年、200年後でも同じ姿を保っているというのが我われに求められていることだと思います。