東電賠償東北5県へ拡大、全旅連・佐藤会長の交渉過程レポート

東電との交渉の記録
東電との交渉の記録
 
全旅連 佐藤信幸会長
全旅連 佐藤信幸会長

 東京電力は10月18日、原発事故による観光業の風評被害賠償の対象地域について、これまでの福島・群馬・栃木・茨城の4県と、千葉県の一部市町村、山形県米沢市、宮城県丸森町に加え、青森、岩手、宮城、秋田、山形の東北5県を追加することを発表した。東北5県への拡大に向けて陣頭指揮を取り、東電と交渉を重ねてきた全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の佐藤信幸会長の、何十回にもおよぶ東電との交渉や、困難を極めた各県の調整など、賠償を勝ち取るまでの交渉の過程を追った。
【伊集院 悟】

≪東電と粘り強く交渉、ノウハウを伝え後方支援を

 2011年5月23日、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会で意見陳述。「公式の場で初めて風評被害について説明。賠償へ向けた交渉の第一歩を踏み出した」。6月29日、原子力損害賠償紛争審査会に提出するデータを集計。8月1日、観光庁へ風評被害について説明。8月5日、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針が発表され、福島・茨城・栃木・群馬の4県の賠償が認められる。 

 8月8日、全旅連の委員長会議で今期の目標を原発の風評被害への対応に決める。8月9日、観光庁へ4県だけでなく隣接県の賠償もするよう要請。9月2日、全旅連で原発事故の風評被害について委員会を開く。9月4日、民主党観光振興議員連盟会長の川内博史衆議院議員に原発事故の風評被害について詳細を説明。今後の対応について相談。

 9月5日、東京電力と直接、原発事故の賠償について協議。「これまでは観光庁を通してだったので、初めて交渉のテーブルについた」。9月13日、東京電力と協議。9月20日、山形県議会に、賠償対象に4県だけでなく山形も含めるよう国に対しての請願書を提出。9月27日、山形県観光交流局課長と県物産協会専務と県議会に請願する内容を確認。9月28日、奥村展三文部科学副大臣(当時)と輿石東民主党幹事長に東北5県と新潟・千葉・埼玉・山梨・東京・神奈川を賠償対象に含めるよう要望。

 10月7日、山形県組合の常務理事会で、福島など4県同様の賠償を要求することに理解を求める。「風評被害の賠償を求めることで、風評被害がさらに広がるのではないかという不安など、1つの県組合のなかでもさまざまな意見があり、県としてまとまるために幾つもハードルを越えなくてはならない」。10月20日、観光庁に、風評被害について隣接県も認めてもらえるよう要望。10月21日、山形県観光物産協会主催で原発風評被害の初会合を開く。「パフォーマンスだけになってしまった感あり」。

 10月31日、全旅連正副会長会議で、原発賠償要望を東北・関東の県だけにしたことに対し、北海道が指摘。地域選定の難しさを実感。「どこまで対象を広げるかは本当に難しい問題。広がれば広がるほど、まとまるのが難しいと実感した」。11月6日、鹿野道彦農林水産大臣(当時)と前田武志国土交通大臣(当時)に風評被害の損害賠償を陳情。11月8日、山形県旅館会館で第1回風評被害相談会を開く。

 11月16日、全旅連東北ブロック会議を開き、損害賠償でまとまることを決議。「県組合だけがまとまっても県議会が動かないとうまくいかない。県によって対応に温度差もあり、まとまるのが大変」。11月21日、県組合長会議で県組合として損害賠償を要求することを説明。11月25日、吉村美栄子山形県知事へ風評被害の損害賠償を陳情。

 11月29日、川内衆議院議員と民主党観光振興議員連盟提出資料の打ち合わせ。11月30日、全国生活衛生同業組合中央会と合わせて旅館組合でも民主党議連に陳情。12月6日、山形県組合で第2回風評被害相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から6人が出席。

民主党観議連総会で風評被害を説明(11年12月)
民主党観議連総会で風評被害を説明(11年12月)

川内議員とともに文科省へ意見(11年12月)
川内議員とともに文科省へ意見(11年12月)

 12月7日、民主党観光振興議員連盟総会で中間指針の見直しを要求。東北・北海道・山梨・千葉の県庁職員が風評被害の状況をデータで説明。12月13日、自民党議連で細田博之自民党総務会長らに陳情。12月16日、山形県組合で第3回風評被害相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から3人が出席。12月26日、第4回同相談会開く。山形県観光交流局課長と東電から3人が出席。銀山・蔵王の被害の大きさを理解してもらう。

 2012年1月7日、山形県観光交流局課長と今後の東電への対応を協議。1月8日、鹿野農水相(当時)の新年会で、鹿野農水相(当時)と吉村山形県知事に東電との交渉の現状を報告。1月11日、山形県組合で第5回風評被害相談会開く。山形県の資料をもとに東電弁護士に損害賠償を相談することが決まる。1月12日、東北ブロックで福島の理事長から、風評被害相談会に文科省と経産省の出席を要請した方がよいとのアドバイスを受ける。1月13日、鹿野農水相(当時)に損害賠償について陳情。

 1月25日、山形県組合で第6回風評被害相談会開く。東電がこれまでの資料をもとに米沢市に損害賠償を認めることを提案。山形県組合理事会で東電の提案を報告。2月3日、東電が米沢市だけに賠償するという提案を、山形県組合として受け入れる旨を吉村山形県知事に報告。2月6日、東北ブロック原発風評被害損害賠償対策委員会委員長に秋田県旅館ホテル生活衛生同業組合の松村譲裕理事長が就任。「宮城県は風評被害をあまり表にしたくないと考える人もいて積極的に動くのが難しい」。

 2月7日、文科省と経産省で2月14、16日の山形県の相談会に出席を要請。「原発の賠償にはこの2省が重要」。2月14日、山形県組合で第7回風評被害相談会開く。経産省資源エネルギー庁電力ガス事業部原子力損害賠償室の守本憲弘室長が出席。2月16日、山形県観光物産協会で2回目の説明会実施。文科・経産省も出席。2月18日、川内衆議院議員後援会で小沢一郎衆議院議員と鳩山由紀夫元首相、前田国交相(当時)に東電の損害賠償指針の見直しを陳情。

 3月1日、経産省の守本室長へ修学旅行の風評被害の損害賠償について相談。3月3日、舟山やすえ参議院議員から参議院決算委員会の代表質問で風評被害を取り上げるので資料がほしいとの要望を受ける。3月4日、仙峡の宿銀山荘とおおみや旅館の社長と緊急会議を開き、舟山参議院議員へ提出する資料の相談。

 3月8日、経産省から提案のあった教育旅行・ツアー旅行について、資料をどう集めるか5旅連会長に意見を聞く。3月21日、文科省に舟山参議院議員の国会代表質問に対する回答を文章で要求。4月11日、吉村山形県知事とJA山形の今田正夫会長とともに、樽床伸二幹事長代行(当時)、平野博文文部科学大臣(当時)に陳情。4月17日、輿石幹事長と経産省に陳情。4月20日、第8回風評被害相談会開く。

 5月15日、経産省が、東北の風評被害について教育旅行やパック旅行を対象にすることを提案。5月16日、山形県組合の理事会で経産省の提案を報告。「修学旅行は一部の旅館だけの賠償になるので受け入れられない」。5月19日、経産省守本室長に教育旅行やパック旅行について、「旅館では特定ができないので難しい」と意見調整。5月23日、東北ブロックで各県の取り組みについて報告。東北5県がまとまり、北・東北知事会に要望書を提出することを確認。6月7日、経産省で東電の損害賠償について協議。6月23日、経産省と山形県組合で損害賠償について協議。

 6月25日、山形県組合で第9回風評被害相談会開く。東電が東北5県に風評被害があったことを認める。「3月11日以前に予約があった18歳以下の子供を含めた旅行について賠償する」。6月28日、川内衆議院議員と舟山参議院議員に風評被害の損害賠償について要望。7月4日、東北ブロックで東電の提案に対し協議。不満の声多数。「3歳以下の子供は食事のカウントをしないし、中学生以上は大人料金なのでカウントできない」。

 7月12日、鹿野衆議院議員と舟山参議院議員、橋本清仁衆議院議員を中心に、東電が損害賠償を受け入れるよう経産相、文科相から働きかけるよう要請。7月12日、鹿野衆議院議員と東電本社会議室へ。各旅館の売上と損害額を提出。7月24日、東電本社へ県別の損害額を集計し提出。

 7月30日、東電の東北5県への賠償額が提示される。賠償額は米沢の10%。7月31日、鹿野衆議院議員や舟山参議院議員、橋本衆議院議員に、「この金額では組合員は承諾できないだろう」と話す。8月1日、全旅連東北ブロックへ東電の賠償額案を報告。「落胆の声多数」。8月7日、経産省で東電の賠償案では話にならない旨伝える。

 8月15日、東電部長と経産省で会い、賠償金額について協議。8月21日、議員会館で鹿野衆議院議員、橋本衆議院議員、舟山参議院議員に東電の賠償案を報告。8月21日、東北ブロックで東電の部長から賠償案について説明。8月22日、山形県庁で賠償案について報告。8月24日、東北ブロック長と東電賠償について協議。

 8月28日、「原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)が損害額の7割賠償」と新聞報道されるが、実際は計算方法により7割ではない。8月29日、東北5県の緊急理事長会議を招集。ADRは時間がかかるので、東電と合意することで一致。条件は逸失利益を50%とする案を提示。8月31日、山形県組合常務理事会でこれまでの東電賠償について説明。9月6日、山形県観光交流課にADRの損害賠償発表以降からの対応を説明。9月7日、経産省・文科省・東電と東北5県の理事長が集まり逸失利益50%で大筋合意。

 佐藤会長は交渉の過程を振り返り、「各県によって状況はまったく違う。なかには風評被害を訴えることで、さらに風評被害が広がるのではないかと不安に思い、損害賠償の動きにあまり積極的でない県もあり、まとまるのが大変だった」と話す。「大企業相手にこれだけの大きな交渉をするのは初めて。損害賠償を認めてもらうために、どこに行き、何をしたらよいのかという前例や道筋もなかったので、何度も何度も足を運び、同じことを何度もしてきた。東電や支援いただいている議員の方に呼ばれれば、自身の予定は白紙にし、何度も何度も顔を合わせて協議してきた。粘り強く取り組んだのがこの結果につながったのではないかと思う。今回は川内先生をはじめ、熱心に取り組んでいただいた議員の方々のご協力がとても大きな力となり、大変感謝している」とこれまでを語った。

 現在、新潟県や箱根町(神奈川県)が賠償を認定してもらうために、積極的に動いている。「ここから先に賠償対象を拡大しようとするなら、全旅連や各ブロックの大きい単位ではやれることに限界が出てしまい、調整も難航してしまうので、県単位で動くのがベスト。賠償対象に認定してもらうために、どういう資料を集め、どこを巻き込み、どこにどう働きかけていけばよいのか、わからないことがあれば聞いてほしい。1度経験しているので、そのノウハウを伝えることはできる。他人任せにはしない、やる気のある地域にはどんどん情報提供をして、後方支援をしていきたい。あきらめなければ可能性はある」とエールを送った。

創立40周年盛大に祝う

(株)全旅、和歌山で記念式典

 全国旅行業協会(ANTA)の保険業務を取り扱う会社として1973(昭和48)年に設立された、株式会社全旅が、このほど創立40周年を迎えた。

 記念式典が10月23日、和歌山県和歌山市の「和歌山マリナ―シティ・ロイヤルパインズホテル」で開かれ、関係者200人が参加した。大下英治氏による「稲むらの火―濱口梧稜に学ぶ」の講演や、塗善祥しによる中国琵琶の演奏など華やかに行われた。 

(株)全旅の池田孝昭社長
(株)全旅の池田孝昭社長

 二階俊博全国旅行業協会(ANTA)会長はじめ、下宏和歌山県副知事ら来賓が多数参加したことに対し、池田孝昭社長が御礼を述べ、「40年の歴史には、先人たちの苦労の上に成り立ってきた。これまで、保険事業、クーポン事業を中心に旅行、物販、ネット事業の拡大をし、協会会員の事業拡大と利便性の向上に努めてきた。さらなる企業価値の向上に取り組んでいく」と決意を語った。

 来賓として二階ANTA会長、下宏和歌山県副知事、浅井修一郎和歌山県議会副議長、土生川正道高野山無量光院住職がそれぞれ祝辞を述べた。

 

 

女将らに感謝状を贈呈
女将らに感謝状を贈呈

  また、二階ANTA会長から、姜東錫2012麗水世界博覧会組織員会委員長、李参韓国観光公社社長、朴三求錦湖アシアナグループ会長に感謝状を贈呈。さらに、池田全旅社長から、昨年災害に遭った東北地方や和歌山県の旅館の女将、山口淑子(台温泉・観光荘)、高橋知子(秋保温泉・緑水亭)、渡邉いずみ(土湯温泉・山水荘)、片桐栄子(磐梯熱海温泉・ホテル華の湯)、小渕祥子(川湯温泉・冨士屋)、奥川美香(勝浦温泉・勝浦観光ホテル)さんに感謝状を贈呈した。

 懇親会は、吉井和視和歌山県議会議員自民党和歌山県連幹事長の乾杯ではじまり、「全旅ハイパーフレンズ」のおやじバンドの演奏などで盛り上がった。

13年交流人口700万人へ、第27回日韓観光振興協議会

加藤審議官(右)と慎局長
加藤審議官(右)と慎局長

 加藤隆司観光庁審議官と慎庸彦(シン・ヨンオン)韓国文化体育観光部観光産業局長を代表とする日韓両国が10月29日、北海道の函館国際ホテルで第27回日韓観光振興協議会を開き、2013年の日韓間の交流人口目標を700万人とした。

 日韓観光交流促進に向けた日韓両国の協力や風評被害対策、地方観光交流拡大などについて合意し、確認文書を取り交わした。

 そのなかで2013年の日韓間の交流人口目標に700万人を掲げ、日韓間をとりまく諸課題の状況にかかわらず、観光交流は原則としてそれに影響されることなく推進することを確認した。また、自然災害、疾病などの観光へのリスクが考えられる危機的状況が発生した際に、風評被害を含め相互に協力することをうたった。

 さらに、地方観光交流の拡大に向け、2013年を「日本地方観光交流元年」として日韓両国で積極的に活動することを誓った。

「地熱発電の隠された真実」、佐藤好億氏監修

“開示されないデータ”

 「地熱発電の隠された真実」は、日本温泉協会副会長・地熱対策特別委員長、日本秘湯を守る会会長などを務める佐藤好億氏が監修した。サブタイトルは「温泉文化滅亡の危機~温泉地は、地熱発電の工業廃湯を旅人に入浴提供しろというのか~」。

 佐藤氏は40年以上、全国の温泉地を行脚するなかで、地熱開発や地熱発電所が建設された地域で、温泉の枯渇や泉質変容、温度低下などに加えて、樹林の枯死やヒ素流出、地すべり、水蒸気爆発、群発地震などの影響を耳にし、実際に目にしてきた。日本において地熱開発の危険性やデメリットの検証が十分にされていないなかでの「開発ありき」の国や開発業者の姿勢に、本書は「地熱発電が本当に世間一般に流布されているような安心安全なエネルギーなのか?」と問いかける。

 地熱発電所周辺で生じた影響など、さまざまな事例を科学的なデータに基づいて紹介しながら、地熱発電に対する正負両面の理解を深め、見極めたうえでの判断の必要性を訴えている。

 国や開発側が有するデータはほとんどが開示されておらず、開発のメリットのみが情報として流される現状に危機感を覚える。

 温泉旅館の経営者をはじめ、地方自治体の温泉・観光関係者には必読の書である。474ページフルカラーで、1500円(本体1429円+税)。

 問い合わせ・書籍注文=地熱発電と温泉力について学ぶワーキングチーム(代表=岡村興太郎氏) FAX 0248(84)2568、Eメール chinetsu2012@gmail.com まで。 

12年度秋の叙勲・褒章、伊藤正司氏(鹿の湯ホテル)が旭日双光章

勲章伝達式のようす
勲章伝達式のようす

 政府は11月3日付で2012年度秋の叙勲・褒章受章者を発表した。本紙関連では、鹿の湯ホテル会長で全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会常務理事の伊藤正司氏が双光章を受章するなど、5人が受章した。

 国土交通省の勲章伝達式は11月7日、東京都港区の東京プリンスホテルで開かれ、国土交通省の羽田雄一郎大臣は、「これまで我が国の発展に貢献されている。皆さまの輝かしいご功績にお祝いを申し上げたい」と述べた。

 本紙関連の叙勲、褒章受章者は次の各氏。

 【叙勲】旭日小綬章 幸重綱二(大分交通会長)=大分県バス協会会長 自動車運送事業功労▽旭日双光章 伊藤正司(鹿の湯ホテル会長)=全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会常務理事 生活衛生功労▽森松平(杉の子会長)=国際観光日本レストラン協会常務理事 観光事業振興功労

 【褒章】藍綬 村木營介(矢太楼会長)=全国旅館ホテル生活衛生同業組合連動会常務理事 生活衛生功労▽黄綬 樫本幸子(観光ホテル淡州大女将) 旅館業務奨励▽三浦公子(miura社長代理・女将) 旅館業務精励

旅館数4万6196軒に、ホテル234軒増、旅館710軒減(12年3月末時点)

 旅館数710軒減の4万6196軒――。厚生労働省がこのほど発表した2011年度「衛生行政報告」によると、12年3月末現在の宿泊施設軒数(簡易宿泊施設、下宿含む)は8万1404軒と前年度比で317軒増えた。しかし、旅館は4万6196軒で同710軒の減少となった。09年度から10年度に2060軒減少したことに比べ、小幅な減少となったが、減少傾向に歯止めはかかっていない。

 小幅になったとはいえ、旅館数の減少が続いている。10年度は東日本大震災の影響により、宮城県は仙台市以外の市町村、福島県の相双保健福祉事務所管轄内の市町村の統計が含まれないが、2010年度の4万6906軒から710軒減少して、12年3月末時点で4万6196軒となった。1980年代に8万3226軒とピークを迎えた後の減少傾向が止まらない。

 一方、ホテルは前年度から234軒増えて9863軒と、「旅館減少・ホテル増加」の構図は変わらない。

 客室数で見ると、旅館は前年度比2868室減の76万1448室、ホテルは同1万2295室増の81万4355室となった。09年度に旅館とホテルの客室数が逆転して以来、その差はさらに広がった。

 山小屋やユースホステル、カプセルホテルなどの簡易宿所は2万4506軒と前年度より787軒増加。下宿は839軒で87軒増えた。

 都道府県別に見た旅館軒数は、静岡県が3155軒で最も多く、以下は(2)北海道(2622軒)(3)長野県(2592軒)(4)新潟県(2190軒)(5)三重県(1626軒)(6)福島県(1552軒)(7)栃木県(1396軒)(8)山梨県(1361軒)(9)千葉県(1305軒)(10)兵庫県(1298軒)。トップ10で増加したのは、6位の福島県(100軒増)のみ。

 一方、ホテル軒数の上位は(1)東京都(684軒)(2)北海道(679軒)(3)長野県(519軒)(4)兵庫県(411軒)(5)福岡県(379軒)(6)静岡県(373軒)(7)埼玉県(368軒)(8)沖縄県(359軒)(9)大阪府(356軒)(10)愛知県(303軒)――となった。

No.326 石川県和倉温泉 加賀屋 - まったく新しい視点が必要に

石川県和倉温泉 加賀屋
まったく新しい視点が必要に

〈「いい旅館にしよう!」プロジェクトシリーズ(8)〉 加賀屋

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ、支持されるのか。その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第8弾は、石川県・和倉温泉「加賀屋」の小田禎彦代表取締役会長が登場。低額料金の宿泊施設が勢いを増すなか、大型旅館の経営は難しくなっている。20世紀をリードしてきた加賀屋は、来るべき時代に対してどのような変革をしていくのか、産業技術総合研究所の工学博士・内藤耕氏との対談で小田会長が将来を展望した。

【増田 剛】

成功モデルが転換点に ― 内藤氏

加賀屋の“流儀”を貫く ― 小田氏

内藤:20世紀を振り返ると、女将制度や、「おもてなし」によるサービス、施設の大型化といった「加賀屋」のやり方が大成功し、「これを結果的に全国の多くの旅館が一つのモデルとしていった」と、私は感じています。

小田:私たちは「Guest is always right」「お客様の望むことをやって差し上げなさい」「お客様の望まないことをやってはいけません」ということを鉄則として教えてきました。ひとことで言うと、「ベタベタサービスの加賀屋」というやり方です。一昔前は「上げ膳据え膳」が当然でしたが、現在は大部分の人が身の回りのことを自分でやる訓練をされているため、「自分でやったほうがいい」と考える人が多くなってきています。このため、これまでのやり方が今になって時代から少しズレてきているわけです。

 

※ 詳細は本紙1483号または11月15日以降日経テレコン21でお読みいただけます。

進化か? 劣化か? ― 後戻りできない社会

 未来に向かって人間社会は少しずつ進化しているのか、それとも劣化しているのか。

 限られた空間に原初100人の共同体だったものが、やがて1万人になり、100万人、1億人に拡大していく過程で、社会の質も比例して高度化していくわけでもない。科学の進歩は目に見えて分かるが、文明が文化を超えた現在、そして未来の社会は、本当に幸福だろうかと疑問に思う。好むと好まざるとに関わらず、不必要な装飾品を纏いながら、決して後戻りができない、前進のみの社会構造が存在する。進化とはそういうものであるし、そう思い込むことこそ劣化なのかもしれない。

 田中眞紀子文部科学大臣が3大学の新設を突然不認可にしたことが騒がれている。「田中大臣の“ちゃぶ台返し”が大学の関係者に混乱を与えている」とテレビのニュースも言っていた。田中大臣の手法はいつも極端であるが、言っていることは正論だと思う。どうして認可が下りる前に、大学の建物を作り始めているのか。学生の募集を始めているのか。「万が一にも、大学の新設が認可されなかったら、志望する学生に混乱を与えてしまう」と大学の関係者は考えるべきところではないか。田中大臣を訴えるような動きをしているようだが、それは違うような気がする。地元の学生は混乱し、可哀そうだと思う。しかし、弱者である学生たちの声を楯に、田中大臣を完全なる悪者にする風潮が嫌いだ。この構図は、あらゆる場面で見てきた。一部の弱者の声を引用し、世論を形成していく。冷静に考えれば、この急激な少子化の中で、毎年毎年大学を増やす必要があるのだろうか。国民の大多数は本当に、定員割れの大学が無数あるなかで、さらなる補助金を投入しなければならない大学の増設を望んでいるのだろうか。

 トヨタの営業利益が1兆円を超えそうだという。その陰には、国の減税措置という後押しもあり、相当の電力の供給が必要だったはずだ。トヨタが多額の税金を納めてくれるので、国は成功を収めた。自動車に乗らない人も、この国策に乗っていく。そしてこの流れは決して後戻りはできない。大きな国の方針が、不特定多数の小さな個々の幸せと結びつかなくなってきている。国の大きな権限を目の細かな地方に移す時代なのではないか。

(編集長・増田 剛)

理念とマーク制定、使命と役割を広く発信(日観振)

シンボルマーク
シンボルマーク

 日本観光新興協会はこのほど、同協会の使命と役割を広く観光振興に携わる地域や産業に発信するため、理念とシンボルマークを制定した。今後は、このもとで観光立国の実現を目指していく。

 今回定めた理念は(1)観光の持つ力の重要性について国民に広く周知するとともに、観光振興の取り組みを積極的に行い、観光立国の実現を目指す(2)「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを推進する(3)観光産業に従事する人材を育成し、観光産業の活性化をはかる(4)地域が育んできた固有の伝統・文化・自然を活かし、観光需要の拡大をはかる(5)観光地域の国際競争力を高め、均衡のとれた双方向観光の実現を目指す――の5つ。

 また、シンボルマークは、日本の都道府県や市町村、観光協会などの「観光地域」と旅行業や宿泊・サービス業、運輸業などの「ツーリズム産業」をつなぐイメージをデザインコンセプトにした。日の丸と組織をつなぐイメージの球体は、協会組織の組織力と団結力を表現し、円の大小は各団体の組織の個性を表している。

 加えて、“見たこともない感動”「ときめき」と“味わったことのないおもてなし”「やすらぎ」も表現しているという。

東北5県へ拡大、東電賠償

原発起因減収分の5割

 東京電力は10月18日、原発事故による観光業の風評被害について、賠償対象地域に青森、岩手、宮城、秋田、山形の東北5県を追加すると発表した。これまで東電は賠償対象を福島県、群馬県、栃木県、茨城県の4県と、千葉県内の対象地域、山形県米沢市、宮城県丸森町に限っていたが、今回の東北5県の認定により、賠償対象が大幅に拡大した。なお、東北5県の賠償対象期間は2011年3月11日から12年2月29日まで。

 賠償対象は、東北5県に事業所があり、おもに観光客を対象として営業を行っている法人または個人事業主のうち、原発事故により東北地方以外からの観光客の解約・予約控えなどにともなう減収があった事業者。

 賠償額は売上高に利益率、原発事故による売上減少率、東北5県への来訪割合をかけて算出。来訪割合は50%に統一となり、原発起因による減収分の半分が賠償されることになった。原発事故による売上減少率は、実際の売上減少率から原発事故以外の要因による売上減少率を減算したもの。原発事故以外の要因による売上減少率については、11年3月11日―5月31日まで20%と、11年3月11日―8月31日まで10%の2パターンを用意。被害を受けた事業者がどちらかを選び算定基準とすることにした。

 東北5県への賠償対象拡大へ向けて、先頭に立ち東京電力と交渉してきた全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の佐藤信幸会長は本紙の取材に対し「長い闘いだったが、あきらめずに粘り強く交渉し続けて賠償を勝ち取った」と吐露。本紙は次号で、佐藤会長の東電との交渉の過程を克明にレポートする。

 賠償金請求については「福島原子力補償相談室」まで。電話:0120(926)404。受付時間=午前9時から午後9時まで。

【伊集院 悟】

(次号は全旅連・佐藤会長の交渉の過程をレポート)