山口氏が新会長に、“連携の橋渡し役務める”(日観振)

山口範雄新会長

 日本観光振興協会(西田厚聰会長、644会員)は6月12日、東京都内で2013年度通常総会を開き、西田会長の退任にともなう役員人事で、山口範雄氏(味の素会長)を新会長に選任した。

 山口新会長は「大塚陸毅副会長とともに、経団連で観光委員会の共同委員長を務めている」と自身を紹介し、観光が日本経済にもたらす効果などを強調した。「世界の大きな観光の潮流のなかで、日本はいまだ大きく立ち遅れている。ますます激しくなる競争のなかで、我われは勝ち抜いていかなければならない。こうしたなかで、日本の観光振興のナショナルセンターの役割を担う当協会の会長に選任された重みをひしひしと感じている」とし、「組織と組織、国と地域、地域と産業などの連携が極めて重要な分野で、その橋渡し役を務めていきたい。観光を我が国の成長発展の柱にするべく、与えられた重責を精一杯果たしていく」と意気込みを語った。

 また、旧日本観光協会と旧日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)の合体から公益社団法人化などを進め、初代・日本観光振興協会の会長を務めた西田会長は「会員の皆さんには今一度、観光はグローバル競争であるとの意識を強く持ち、各地域の魅力を見出して独自の観光イノベーションを起こし、競争力のある観光地域づくりを進めてほしい」と想いを託した。

 2013年度は新体制のもと、政策提言・広報啓蒙活動の強化と魅力ある観光地域づくり、広域連携の推進を大きな柱に、異業種を含めた連携の強化や人材育成などに努めていく。

政策検討委継続へ、総会で中間答申を発表(JATA)

菊間潤吾会長

 日本旅行業協会(JATA、菊間潤吾会長、1117会員)は6月19日、東京都千代田区の経団連会館で2013年度通常総会を開いた。昨年、菊間会長が会長就任後に設置した「JATA政策検討特別委員会」の中間答申を発表し、委員会は今年度も継続することとした。

 菊間会長は今春、観光庁の観光産業政策検討会が発表した提言に触れ、「世界最高、最先端の観光産業を目指すにあたり、旅行業界がその中心となって役割を果たしていかなければならない。旅行会社がいかに価値を創造することができるかが重要で、観光を基軸にした地域活性化への貢献や旅を通じた人間教育、健康の増進など社会的な要請にも応えていく必要がある」と語った。

 今年度の事業は「環境は著しい勢いで変化し、協会としてすべきことは実に多様化している」とし、JATA政策検討特別委員会で策定したアクションプランなどを軸に進めていく方針を示した。今年度の事業計画のなかで、国内旅行は「新・国内宿泊旅行拡大推進行動計画」の推進や、宿泊旅行拡大のムーブメントづくり「もう一泊、もう一度」キャンペーンの継続、地域活性化につながる着地型観光促進などを中心に展開する。

 また、JATA政策検討特別委員会の田川博己委員長は「業界内外の厳しい環境変化に即したJATA事業の展開をはかるために、13年度以降の事業計画策定に向けて課題の現状認識や検証を行った」と委員会の主旨を語り、中間答申の概要を発表した。同委員会を設置した1カ月後、観光庁に観光産業政策検討会が設置され、そのメンバーにもなった田川委員長は「初めて産業論として観光の問題を論じる大きな検討会だった。我われの特別委員会と同じ方向を向いていたことから、委員会の議論を検討会で伝え、一方で検討会の議論を委員会にフィードバックした」と述べ、提言にも議論内容が反映されたことを評価した。

 なお、中間答申には、宿泊旅行拡大による着地型旅行の普及と地域振興の推進や航空関係諸問題の燃油特別付加運賃、旅行業法制度の検討と提言など、9項目のアクションプランを記載した。

来年のDC参画を、リボン宿ネットの取り組みも(新潟女将の会)

 新潟女将の会(会長・小山千寿子鷹の巣館女将)は6月4日、上越市の鵜の浜温泉「ロイヤルホテル小林」で通常総会を開き、ピンクリボンのお宿ネットワーク(略称・リボン宿ネット)や来年のDCに向けた県の取り組みなどへの参画の事業計画案を承認するとともに、2回目を迎えた館内をチューリップで飾る「チューリップコンテスト」に参画した6軒への表彰式を行った。

 席上、あいさつに立った小山会長は日ごろの会への協力を感謝するとともに「来年はDC、そしてその後には北陸新幹線の開業も控えている。女将会が先頭に立って実施しているスイーツ巡りをより充実させるとともに、県と一体になって北陸新幹線開業に向けた関西圏への誘客も行っていく」と述べた。

 総会終了後には奥様セミナーとして新潟県健康対策課の帆苅久美主査とリボン宿ネットの有島誠事務局長が講演を行った。このなかで帆苅主査は新潟県における乳がんの現状について報告するとともに「乳がんは自身の触診によって発見できる。毎日入浴の際に触診するとともに、必ず検診も定期的に受けてほしい」と話した。

 また、有島事務局長は乳がん患者が術後に気軽に旅行に行けないというアンケート結果を報告、「患者の家族も含めると多くの人が二の足を踏んでいる。こうした方々への旅行喚起を促すために会を発足した」と説明するとともに「ハードの整備も必要だが、それ以上にソフト面での対応が重要。バスタオルを多めに貸し出すとか、大浴場が空いている時間の告知などできることから行っていってほしい」と結んだ。

富士山、世界遺産に決定

世界遺産になった富士山(やまなし観光推進機構提供)

 文化庁は6月22日、カンボジアのプノンペンで開かれた第37回ユネスコ世界遺産委員会で、「富士山」の世界文化遺産一覧表への記載が決定されたと発表した。当初、ユネスコの諮問機関が除外すべきとしていた静岡県・三保松原を含むかたちで、記載名称は「Fujisan,sacred place and source of artistic inspiration(富士山―信仰の対象と芸術の源泉)」となった。

 結果を受けて、文化庁の近藤誠一長官は「古くからさまざまな信仰の対象で、傑出した芸術の源泉として日本人の心の中に特別の位置を占めてきた富士山の価値をユネスコが認めてくれたということは、すなわち日本人のこれまでの生き方が、世界に肯定的に受け入れられたことにほかならない」と喜びを述べた。

 また、静岡県の川勝平太知事は「世界遺産として認められた富士山を、人類共通の財産として、誇りと責任を持って後世に継承していく」とコメント。山梨県の横内正明知事も喜びを述べる一方で、「いくつかの課題が提示されている。課題を確実に解決し、次の世代へ富士山の価値を継承するため、思いを新たにして、国や静岡県、関係市町村、地元関係者と緊密な連携をはかりながら、全力で取り組んでいく」と決意を表明した。

功労者12人を表彰、13年度観光振興事業功労者(日観振)

 日本観光振興協会は6月12日に開いた今年度通常総会で、「2013年度観光振興事業功労者」の表彰式を開き、功労者12人を表彰した。

 功労者は次の各氏。

 【北海道支部】渡邊幸治(えんがる町観光協会顧問)「太陽の丘えんがる公園」のコスモス園の整備に尽力し、道内でも有数の観光資源に育てた【東北支部】寺田春一(五所川原市観光協会会長)「五所川原立佞武多」の80年振りの復活に尽力したほか、青森DCなどで観光リーダーとして誘客に努めた【関東支部】新井勝行(久喜市観光協会副会長)220年の伝統と歴史ある「久喜提橙祭り」の維持発展などに尽力した▽髙橋正(新潟県観光協会会長)新潟県中越大震災復興基金理事として観光関連産業の復興と再生に尽力▽赤尾十五郎(東伊豆観光協会相談役)稲取温泉の環境整備や「大川温泉竹ケ沢公園ホテル鑑賞の夕べ」の開催など東伊豆温泉郷の一体感の醸成に努めた【中部支部】渋谷利雄(羽咋市文化財保護審議会委員、石川県スペシャルガイド)能登半島の歳時記、原風景の撮影指導など、写真を通じて地域の観光振興の発展に貢献した【関西支部】矢田正則(菰野町観光協会会長)湯ノ山温泉の湯巡り「わくわく温泉チケット」の開発や地元食材のマコモを使ったメニュー開発などで地域の観光振興に貢献した▽正木明(福知山観光協会元会長)福知山にふさわしい土産品を推奨する推奨土産品制度の創設やスイーツマップなどの発行で観光振興に貢献した【中国支部】門脇惠美子(日本庭園由志園取締役)園内に1年中牡丹を鑑賞できる館などを作り、島根県ならではの日本庭園を完成させた【四国支部】川田梓(日本旅館協会高知県支部高知駅宿泊案内所会長)永年にわたり高知駅構内旅館案内所の健全な運営に尽力した【九州支部】佐久間進(北九州市観光協会顧問)「百万にこにこホスピタリティ運動」を立ち上げるなど地域の観光振興の発展に貢献した▽和田晧(日南市観光協会副会長)芸術文化の継承と観光客誘致を目的とする「シャンシャン馬道中唄全国大会」実行委員長などの要職を歴任し、地域の観光振興の発展に貢献した

韓国・タイ・LCCを分析、LCCは20代女性が多い(観光庁)

滞在中の情報源 スマホが急増

 観光庁はこのほど、13年1―3月期の訪日外国人消費者動向調査(既報済み)のなかで、(1)今期増えた客層と旅行支出の特徴(2)LCC利用観光客の分析――の詳細について発表した。これによると、観光・レジャー目的の訪日が前年同期の1・6倍に増えた韓国は女性客が回復し、同じく1・6倍に増えたタイは、訪日リピーターが増えたことが分かった。また、滞在中の情報源はスマホが急増。LCCを利用した訪日観光客は20代女性が多く、訪問地は就航地周辺に集中している。

 同期間の訪日外客数を国籍・地域別にみると、韓国が前年同期比37%増、台湾が同34%増、タイが同50%増、香港が同29%増、オーストラリアが同28%増と高い伸びを示している。なかでも、韓国とタイは観光・レジャー目的の訪日客が1・6倍と大きく増加した。

 同期間の韓国の訪日観光客層をみると、「女性客」の割合は前年の46%から53%に増え、「パッケージツアーを利用した個人旅行」の割合も13%から22%に増加している。一方、「自分ひとり」での訪日観光や、「個別手配の個人旅行」の割合は前年同期に比べて減少。滞在日数では前年同期に「3日間以内」の割合が増加したが、今期も「3日間以内」が3割を占めた。日本滞在中に役立った情報源では、スマートフォンの割合が11年11%、12年24%、13年38%と年々増加している。

 タイの訪日観光客層をみると、前年同期に比べ、訪日リピーターや「職場の同僚」との観光旅行、「個別手配の個人旅行」の割合が増加。滞在期間は「4―6日間」が11年の38%から12年に65%と大きく増加し、今期も引き続き65%を占めている。日本滞在中に役立った情報源ではパソコンの割合が減少し、スマートフォンの割合が増加した。

 LCCでは、複数社が日本との間を運航している韓国と台湾を分析。LCC利用客とその他航空会社利用客の航空運賃は韓国・台湾ともにLCC利用客の方が1万円程度低い。LCC利用客の来訪目的は「観光・レジャー」が7割以上だ。

 韓国の観光客をみると、LCC利用観光客は「女性20代」の割合が多く、男女とも「40歳以上」の割合が少ない。訪日回数は「1回目」の割合が4割近くと多い。LCC利用観光客はその他航空会社利用の観光客に比べ団体ツアーの割合が少なく、初来訪の観光客でも個人旅行の割合が7割を超える。訪問地は、LCCが就航する大阪府や福岡県への訪問率が高い。旅行満足度は「大変満足」「満足」で8割を占め、LCCとその他の航空会社との間に大差はない。

 個別手配観光客の1人当たり旅行中支出額は、LCC利用客で平均5・8万円、その他航空会社利用の観光客で平均8・2万円と、2万5千円近くの差が出た。費目別にみると宿泊費や飲食代、買物代などすべての費目でLCC利用観光客の方が低い。とくに買物代で差が大きく、その他航空会社利用観光客に比べ、1・0万円低い。

 台湾は、LCC利用観光客は30代以下の女性の割合が多く、全体の5割を超える。LCC利用観光客は団体ツアーの割合が1割未満と非常に低い。初来訪でもLCC利用観光客の96%が個人旅行。訪問地は、東京都、京都府、大阪府とその周辺都道府県に集中。個別手配観光客の1人当たり旅行中支出額は、LCC利用客で平均9・3万円、その他航空会社利用の観光客で平均11・6万円。費目別にみると宿泊費や飲食代、交通費ではLCC利用客とその他航空会社利用客で大きな差はないが、買物代で1・7万円の差が出ている。

山本考伸氏が新社長、楽天が年内に吸収合併(楽天トラベル)

山本考伸社長

 楽天トラベルの代表取締役社長に6月27日付で、山本考伸氏が新任した。岡武公士氏は顧問に就任。

 楽天は、楽天トラベルとのシナジーをより発揮するため、年内を目途に完全子会社である楽天トラベルを吸収合併することを検討している。

 山本 考伸氏(やまもと・たかのぶ)。1975年愛媛県生まれ。99年京都大学大学院工学研究科情報工学専攻修士課程修了。同年エヌ・ティ・ティ・ドコモ関西(現エヌ・ティ・ティ・ドコモ)入社、ユビキタスサービス部門担当プロダクトマネージャー。05年スタンフォード大学経営学大学院経営学修士(MBA)修了。06年オーバーチュア(現ヤフーYahooリスティング)入社、パートナープロフェッショナルサービス担当アソシエイトディレクター。同年エクスペディア入社、08年トリップアドバイザー(現TripAdvisorInc.)異動、日本地域担当プロダクトマーケティングディレクター。12年日本、韓国およびアジアパシフィックマーケットデベロプメント担当、バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー。13年3月楽天入社、楽天トラベル常務執行役員、4月楽天執行役員、6月楽天トラベル社長に就任。

耐震診断の支援要望、温泉所在都市協議会

 「温泉所在都市協議会」(会長=浜田博別府市長)はこのほど、改正耐震改修促進法が5月22日に成立したことを受けて、国に対して、旅館・ホテルの建築物の耐震化を迅速かつ円滑に推進するために、予算の確保や金融支援の充実など、必要な財政支援の強化を要望した。耐震診断結果の公表時期の弾力化などの配慮も求めている。

 今国会で改正耐震改修促進法が成立したため、対象となる旅館・ホテルは、2015年末までに建築物の耐震診断を受け、所管行政庁に結果を報告することが義務づけられた。耐震診断には多額の費用を要するため、国と地方公共団体からの補助制度もあるが、地域ごとに対応に温度差があるのも事実。このため、32道府県・82都市が加盟する温泉所在地都市協議会は、国と、地方公共団体に耐震診断に対する財政支援の向上と、財源確保を求めている。

 6月18日には、全国温泉振興議員連盟会長代理の二階俊博衆議院議員や、国土交通省の梶山弘志副大臣らに要望書を提出した。また、温泉所在都市に対する税財源措置および施策に関する要望も行った。【14面に詳細】 

7月に東南アジアビザ緩和、「観光立国アクション・プログラム」始動

井手長官「訪日1000万人へ2割増継続必要」

 7月にも東南アジアのビザ緩和実施へ――。

 観光立国推進閣僚会議が6月11日、ビザ要件の緩和や、日本ブランドの発信などに取り組む「観光立国に向けたアクション・プログラム」を策定。今年はビジット・ジャパン事業がスタートして10周年を迎え、初の訪日外国人客1千万人達成を目指し始動した。今後訪日外客数2千万人を迎え入れるためには政府一丸となって取り組みを強化する必要があることから、今年3月、同閣僚会議を立ち上げ、観光立国ワーキングチームが中心となって有識者会議での議論を経て、このほどアクション・プログラムを取りまとめた。

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 観光立国実現に向けては、(1)日本ブランドの作り上げと発信(2)ビザ要件の緩和等による訪日旅行の促進(3)外国人旅行者の受け入れの改善(4)国際会議等(MICE)の誘致や投資の促進――を重点項目としている。

 観光庁の井手憲文長官は6月20日に開いた会見で、13年の訪日外客数が1―5月までの累計で、前年同期比20・9%増の405万3500人という数値に対して、「(1千万人達成は)2割増の継続が必要。この好調を息切れすることなく維持していかなければならない」と述べた。また、アクション・プログラムについて、「ビジット・ジャパン事業、クールジャパン事業をオールジャパンで取り組むため、観光庁が音頭を取って、さまざまなイベントなどに各省庁が相乗りできるようカレンダーを作り、スケジュールを調整していく」と語った。

 ビザ緩和については、7月中にもタイとマレーシアはビザ免除、ベトナムとフィリピンは数次ビザ化、インドネシアは数次ビザに係る滞在期間の延長を実施する予定だ。

 井手長官は「ビザ要件が緩和されると間違いなく増加要因となる。ASEAN加盟国の観光担当者との会合でも日本のビザ緩和策を報告すると、ツーウェイツーリズムの促進につながると歓迎された」と述べた。韓国はすでに、日本が7月に予定するビザ緩和の同等レベルにあり、12年実績で日韓を比べると、タイは日本に26万人、韓国に39万人、マレーシアは日本に13万人、韓国には18万人と約1・5倍が韓国を訪れている。フィリピンは日本に9万人、韓国に33万人と約3倍。ベトナムは日本に6万人、韓国に11万人で約2倍と、1・5―3倍のギャップがあり、井手長官は「ビザ要件の問題だけが要因ではないが、緩和措置によって今後大きな期待が持てる」と語った。次のステップとして、ミャンマーやラオス、カンボジアなどの他のASEAN加盟国に加え、インド、ロシアも検討対象とした。

 そのほか、外国人向けのホテル・旅館など宿泊施設の情報提供については、夏までに検討会を設置し、外国語のできるスタッフがいるか、どの国の通貨の両替ができるかなど、情報発信する項目も含め、年内、または年度内に枠組みを決める予定だ。 

【特集No.344】 里海邸 大洗金波楼本邸 「本当にくつろげる宿」を求めて

2013年7月1日(月) 配信

 高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している旅館がある。なぜ支持されるのか、その理由を探っていく「いい旅館にしよう!」プロジェクトのシリーズ第13弾は、茨城県・大洗町で「あたらしいふるさと」をコンセプトに、保養を目的とした宿「里海邸 大洗金波楼本邸」の主人・石井盛志氏が登場。工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏との対談で、「本当にくつろげる宿」について語り合った。

【増田 剛】

 内藤:里海邸はもともと保養所からのスタートですよね。

 石井:里海邸の前身の金波楼ができたのは、1888(明治21)年のころです。明治の文明開化後期に海水浴ブームが起きて、茨城にも海水浴場を作ろうという動きがありました。当時の海水浴場は「潮湯治」というもので、体に良い刺激を与えるために波の荒いところを選定して、医師もビーチにいて予防医学的な活動を行ったのです。文献によると、当時は「海水浴客」ではなく、「患者さん」という呼び方をしていたみたいですね。それが次第に現代のようなレジャーに変わっていきました。
 海水や海の気候に囲まれた環境の中で運動などをしながら、ゆっくりと静養して体をメンテナンスしていく施設として金波楼は誕生したのです。
 この大洗も経済の成長と歩調を合わせて、次第に男性客中心の歓楽型の宿に変貌を遂げていきましたが、バブル経済が崩壊すると、大型団体の需要がなくなりました。
 私自身もどちらかといえば宴会客を受けるのが苦手で、この土地に合った海の持っている癒しの力で「本当にくつろげる宿を作りたい」と思いました。そして、過去とのつながりを意識しながら、120年前に創業した宿の原点に戻ろうと、2年前に全8室の宿にリニューアルしました。しかし、ただ単に創業時に戻すということではなく、今の時代に合った保養や癒しのかたちで、お客様が日々感じているストレスにも対応できる設備のあり方や、環境の取り込み方、快適性などを考えながら、少しずつ丁寧に積み上げてきました。テンションを上げる場所ではなく、むしろ別荘のように「心を鎮める場所」としての方向に向かっています。観光旅館ではなく保養のための宿ですね。

 内藤:そういう意味では、豪華な料理を出すとか、何かお客様の気持ちが盛り上がるように持っていくというのとはまったく逆の考え方ですね。

 石井:たとえば医師のように日々非常に忙しい方が1人で訪れ、「やっと自分の時間ができた」と、ゆっくりと海を見詰めたり、海辺を散歩したり、静かに読書や音楽を聴いたりして過ごし、リラックスして帰られる方が多いですね。食事も派手ではないですが、素材の良いものを洗練させてシンプルに提供しています。
 私たちは「あたらしいふるさと」と呼んでいますが、「ここに居心地の良い場所を一つ作ります」というのが宿のコンセプトです。つまり、「家」なのです。
 茨城県は、観光魅力ランキングでは全国で最下位に近いですが、「移住したいランキング」では結構高いのです。東京とのつながりを保ちながら、現実的に暮らせそうというイメージがあるのでしょう。首都圏の方々には「近距離で、ゆっくりとしたいニーズが結構あるのだな」と思いました。でも実際に別荘を建てるとなるとお金もかかるし、近所付き合いなども大変です。憧れと現実の落差は結構あります。だったら煩わしい部分をすべて引き受ける宿を作ろうと思いました。そこで「別荘宿」の考え方に辿り着いたのです。この考えにぴったりとはまったお客様は年に5―6回という頻度でリピートしていただいています。
 スタッフも価値観を共感していただける方が働いています。スタッフにとってやりがいのある職場でありたいと常に思っています。組織の動き方は、まだ完全ではないですが、ほぼサッカーチーム型です。一応、「こういう風にゲームするぞ」という共通認識のもと、お客様が訪れると、連絡を取り合いながらいい仕事をするために組織的に動きます。うちのスタッフは館内をよく歩き回っています。接客の技術は、基本的な情報伝達などの徹底はやりますが、個々のキャラクターにある程度は任せています。

 内藤:落ち着かせるための設計にも、宿主の考え方が細部に現れています。

 石井:人間は、洞穴のような安全なところにいて、外敵や自然を見ているのが心理的に落ち着く性質を持っています。このため、客室には奥行きを持たせて、一番奥に安らぐ空間を作りました。お客様は海に面したところに行ったり、奥の空間で安らいだり、客室の中で何度も移動を繰り返します。宿側の都合によってお客様を動かすようなことはせず、個々の心身のコンディションで、自由に動けるようにしようというのが基本的な考え方です。
 海や川、滝といった自然は頭の中のざわめきを消してくれるので落ち着きます。しかし、同時に人間は自然の中では非常に緊張しているのです。「癒しを求めて来られるお客様に対してどうすればよいか」を一番に考えました。

 内藤:おっしゃるように、ベッドは客室の一番奥にありますね。

 石井:私は海側にベッドを置くのは良いとは思わないのです。実はこの建物も以前は海側にベッドを置いていたのですが、最初は波音が聴こえ、頭がすっきりして気持ちいいのですが、さあ安心感を持ってゆっくりしようと思うと、今度は波の音が不安で眠れなくなってしまうという意見が多かったのです。
 私たちの宿では3ゾーンのレイアウトにして、最も非日常的な部分にテラスを付けて、一番静かなところに寝室を作り、その間にリビングルームを配しました。また、木の温もりなどによって普段の住宅とかけ離れたものではない感覚を大切にしました。
 私の経験から、旅館に泊まって朝早く目が覚めたときに、周りが寝ていると居場所がない。また、夜遅くまで起きていたいと思っても周りの人が寝始めたら寝るしかない。このため、里海邸では客室の中を3つ以上にきちっと区切り、完全に寝る場所、コミュニケーションを取ったり、くつろぐ場所、そして、非日常的な空気にどっぷりと浸かれる場所の3つの空間を作りました。部屋の中を移動しながらお客様が最も心地よい場所を見つけることが一番負担の少ない過ごし方だと思います。
 露天風呂付き客室というのも人気が出ましたが、冬は寒いですよね。コンコンとお風呂が湧いているのなら別ですが、窓がないお風呂は、とくに年配の方は辛いと思います。私は冬にもお客様に来てほしいと考えていますので、浴室には窓を付けています。浴室の作りはシンプルな石の風呂と、木の風呂だけです。洗い場には鏡もありません。何もない分、前面に広がる自然の海のエネルギーをしっかりと受け取って、「頭の中を空っぽにしてほしい」との思いから基本的には何にもないお風呂にしました。入浴後には、木の素材をたっぷりと使ったイスに腰掛けて、少しお酒を飲んでアンビエントミュージックなどを聴いていると眠くなってきます。そして「こんなに自分は疲れていたんだ……」と強く実感されるのです。日ごろは緊張しているので自分の疲れを実感できないのですが、何か大きな仕事が終わったときに体に大きな疲れがドーンと出ますが、あれと同じような働きが起きるのです。

 内藤:お風呂に鏡を付けていないのはどうしてなのですか。

 石井:海に近い野趣な環境のなかで、自然と一体となって体を浄化していく作業を、最大限に効果を高めるために配慮しました。ひげも剃れなくて不便なのですが、鏡がないことで苦情を言われたことはないですね。

 内藤:鏡があると現実に戻されてしまうからですか。

 石井:そうですね。自然を受け入れるという流れを大切にしています。
 それと、里海邸では宿を家のように感じていただくために、玄関の表札は小さくしています。初めて訪れるお客様は気づかれず、よく通り過ぎて行かれます。館内には一切、どこに何があるというサインがありません。商業施設ではなく、自宅にいるような気持ちになれるように、エレベーターの中にも何も書いていません。スタッフが客室に入るときにはチャイムを鳴らします。しっかりと説明はしていますが、お風呂がどこか分からなくてときどき聞かれることがありますが、お客様とスタッフとの会話のきっかけになればいいと思っています。「付かず離れずの関係」とお客様に褒められたこともありますが、実はお客様がスタッフに聞かざるを得ない状況をあえて作っています。これが付かず離れずに見えるのでしょう。お客様が困ったようすにあれば、こちらからお声をお掛けします。
 館内は木の素材を多く取り入れています。今の社会は視覚に訴えるもので多く構成されていますので、目と頭がやたら疲れていると思うのですが、ここでは、肌に触れる「温もり」を大切にしています。自然素材の木に触れる足裏もそうですが、机やイスにもわざわざアームを付けており、肌と自然素材との触れ合いによって、日ごろ感じている緊張感を和らげていただきたいと思っています。
 私たちは、大人が子供の心に戻るような宿を作りたいという思いがあります。大人は重い物を背負ったり、鎧を着ていたりします。時間も、急かされるように過ぎていきます。だけど、子供のころは時間が無限に長く感じられましたし、ゆっくり流れていきました。あの時間の感覚をどうやって作れるのだろうと考えました。そのためには海という環境の力を借りて、一度頭の中を空っぽにしてもらう。その後どうするかというのが我われの宿の仕事です。ゆっくりと時間を感じていただくために、たとえば、ラウンジのソファなどの家具は包むように作られています。家具作家にお願いしたのは「木に抱っこされるようなイスを作ってほしい」というようなことです。
 子供のころには自分を見守ってくれる親や大人たちがいて、その安心感こそがゆったりとした時間を感じさせる要因だったりしますが、大人になると全部自分でやらなければならない。でも、ここでは子供に戻ったように宿のスタッフが世話をしてくれるのです。実家に帰るというのは、親がいて少し甘えることができる心地よさがありますが、そういう安心感を建物としても工夫しています。ラウンジのテーブルは少し高めにしています。子供のころは、家具は大人用に設計されているのですべて大きく感じます。ここでは大人でも少し大きいなと感じられるように仕掛けをしています。こちらから説明はしませんが、とくに女性は「ゆったりして心地いい」という印象を持たれるのではないでしょうか。
 お客様はたっぷりある時間の中で本を読んだり、映画を観たり、海でただ風に吹かれていたり自由に過ごされますが、私たちは寝る空間以外にリビングルームを必ず作っていますので、会話の機会が少ないご夫婦が、そこでゆっくりとお話をされたり、普段の生活の中では話せなかったことや心に引っかかっていたものを解決できるようにしているんです。チェックアウト時間は正午まで提供しています。朝食もゆっくり食べていただくというのが前提になっていますので、9時過ぎから食事をされる方もいらっしゃいます。
 茨城で3万円の宿として始めたので不安もあったのですが、お客様は私たちのコンセプトをほぼ理解していただいています。豪華な牛肉や伊勢エビも出さないので、最初は色々と言われたこともありましたが、今は、むしろ料理のボリュームが多すぎると言われ、どんどん量も抑えています。
 私たちが提案しているのは、「こんな暮らしがしたい」というライフスタイルなのです。なかなかゴールがあるわけではないのですが、この時代の中で社会的な役割を少しでも果たせていけたらと思っています。

 内藤:料理長とはどのような議論をされているのですか。

 石井:「土地柄に合った料理を作らなければならない」ということですね。大洗の土地で京風懐石を出す必要はありません。それは京都に行ったときの楽しみですから、京都で食べればいいのです。では、茨城ではどのような食文化があるかと調べてみると、そんなに特別な料理を作っている食文化はない。それは茨城が産地県だからなのです。新鮮なものが手に入るので、そのまま食べるのが一番美味しいという意見が多いのです。地産地消は食材の購入にばらつきがあるため、メニューを固定すると達成が難しい。ですから里海邸では「メニューは基本的に宿にお任せ下さい」としています。その分、その日の新鮮な魚や野菜を用意できます。高級な食材よりも、地元の食材で丁寧に作ることを評価していただければいいと考えています。厨房のすぐ横にある海を望む食事処で、焼き魚や肉もお客様に提供するぎりぎり直前に調理しています。
 館内ではすべてにおいてテンションを上げないように配慮しているので、ゆっくりお風呂に入った後、懐石料理などを出すと急にチャンネルを変えられたような違和感が出てしまうので、落ち着いた食事が食べられるように気を配っています。ただ、退屈な時間にならないように素敵な器を使ったり、知的好奇心をある程度刺激する工夫も施しています。このように里海邸では、淡々と時間を流していくのです。

 内藤:新しいメニューを考える際にこだわるポイントはどこですか。

 石井:料理長がとくにこだわっているのは、食感を際立たせることです。一見素朴な家庭料理でありながら食べると、お客様が「あっ」と驚くポイントを、味付けや食感などで幾つか用意しています。たとえば「ゴボウってこんなに美味かったのか」と思わせるために、味を整えたり、食感を殺さずに調理をしていく過程に心血を注いでいます。

 内藤:食材の持っている元の味を出すには食感があった方がいいということですか。

 石井:そうですね。食材そのものの味、よく滋味などと言いますが、これらを引き出すには料理をしすぎないことです。実際はすごく手を入れているのだけれども、でき上がったものは食材で持っている性格を失わずに食べやすく提供する。これを考えるのが料理長の仕事です。素朴な料理を心地よく食を進めていくために、シャキシャキとする食感と対になるものを加えていったり、一見地味な料理でも、食欲を昂進していくように仕掛けていくことは常に意識しています。産地県ですから、野暮ったくならないセンスをいつも気にかけています。
 音楽にたとえると、何度も聴いているうちに「この部分を心地よく感じていたんだな」と気づく旋律があって、そういうものを潜ませたいという気持ちはあります。技術を細部に潜ませているのが料理長のこだわりだと思います。

 内藤:宿泊客の年齢層は高めですか。

 石井:セカンドライフ層を狙っていたので、基本的に高齢者がターゲットです。経営的にも平日の稼働率を上げなくてはならないので、シニアの方ですね。遠くの旅行に行くのに疲れた高齢者の方もいらっしゃいます。

 内藤:多くの旅館はインパクトを出すとか、料理を豪華にするということで集客する手法を取ってきましたが、若い世代は最初はこの宿の魅力を理解できないのではないでしょうか。そして、あえてそのようにしているのではないかという印象を受けました。
 また、これまでは若い女性をターゲットにしたマーケティングは何度も言われてきましたが、私はむしろ50―60代の男性を意識したサービスに大きなマーケットがあるのではないかと思っています。

 石井:おっしゃるように、確実にあると思います。一方で、ターゲットはもっと上なのですが、若い30代の現役バリバリのビジネスマンが忙しさを解消するために、クタクタになって来られるケースもみられます。

 内藤:多くの旅館は目先のお客を得るために特色を出そうとしますが、里海邸は徐々にお客を獲得し、リピーターによる高稼働の状態を数年かけて作り上げていくスタイルで、さまざまな工夫をされていますね。

 石井:年に何度も来られるお客様がいらっしゃいますので、演出性を持って迎えるのは止めて、「その日その日のベストな仕事を普通にやる『ノンフィクションでいこう』」という姿勢です。その部分で共感していただける方と付き合っていこうと思っています。

 内藤:大型鉄筋、部屋食、懐石料理、女将、着物という旅館のイメージはそんなに古いわけではなく高度成長期以降のことです。その前は民宿、湯治場などが主流で、バブル前後に大型化したわけです。旅館業界は短期間にものすごく大きく変化してきました。これまで大部分を占めていた宴会などによる収益構造が今後も安定的な経営のコアとして続くことはないだろうと皆が気が付いています。今主流になっているものが今後も主流であり続けることはとても難しい。これから10―20年はどのような宿が支持されるのか、今はその大きな転換期のような気がします。

 石井:新しい潮流といえば、大袈裟かもしれませんが、そのようなものを作っていきたいとは考えています。今は黎明期なのでしょうけど、それぞれの宿が各地で地域のローカリティーを追求しています。「田舎」というと、地域があって、その中に宿があるというイメージですが、それはあまりに壮大な話ですので、「宿に入ったら地域が広がっていく」方向に進めていきたいと思います。里海邸も都市との関係性や、心理的な距離感なども含めてこの地域らしさなどを追求しています。