2017年7月11日(火) 配信

高品質のおもてなしサービスを提供することで、お客様の強い支持を得て集客している宿の経営者と、工学博士で、サービス産業革新推進機構代表理事の内藤耕氏が、その理由を探っていく人気シリーズ「いい旅館にしよう!Ⅱ」。第14回は、福井県・あわら温泉の「グランディア芳泉」の山口賢司代表取締役専務が登壇。同館は、人を増やさずに週休2日制を導入するなど大きな改革を断行中だ。内藤氏との対談では、持続可能な宿のビジネスモデルなどについても探り合った。
【増田 剛】
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山口:もともと祖父が民宿のような小さな宿を営んでいましたが、1963(昭和38)年に先代の父・山口輝望(現会長)が80人収容の芳泉荘を開業しました。
父は「これからはモータリゼーションの時代だ。限られた狭い土地で旅館を経営していても新しい時代には対応できない。駐車場も必要で、規模も大きくしなければならない」と、72年に温泉街を離れ、ニュー芳泉荘と館名を変えて、収容250人の新たな宿を現在のグランディア芳泉がある場所に移転しました。
当時は田んぼの真ん中で、周辺には何もない場所でした。仲間からも「早まるな、温泉街から離れることは宿としては致命的だ」とも言われたようです。
内藤:オイルショックの最中ですが、高度経済成長期のあとで土地の値段が下がった時期でもあり、その後のバブル前夜という、とてもいいタイミングですね。
山口:他の旅館と同じように、当館も「大規模・高品質」を目指して大きな増改築工事を続けていきました。1回目は79年に貴粋殿(きすいでん)を、2回目は85年に寛粋殿(かんすいでん)を、そして93年には鉄筋12階建ての煌粋殿(かんすいでん)をオープンしました。
3つの館ができ、大規模旅館となりましたが、次第に「個人客化への流れを考慮すると、団体旅館のままでは企業の継続は難しい」と考え始めました。団体旅行に頼らずに、個人のお客様も受け入れていくには「質の高いおもてなしが必要だ」と考え、ハード面の投資も団体客から個人客を意識したものへとシフトしていきました。
幸い約7千坪の敷地の中に、庭が約2千坪あったので、露天風呂付きの客室も造りやすい環境にありました。
最初は2001年に貴粋殿の1階の客室13室を庭園露天風呂付き客室に改修し、離れ「ゆとろぎ亭」としました。お庭が綺麗に見える露天風呂付きの客室は、当時は極めて珍しかったため、人気を集めました。料亭も当時、一世風靡した炭火焼会席スタイルのものを新設しました。これが今の料理茶屋「遊膳」です。改修前は1万円程度の宿泊料金で部屋食を提供していましたが、露天風呂を付けて、個室料亭で炭火焼会席料理を提供することによって、2万5千円まで上がりました。
同じように、03年に寛粋殿の庭に面した1階の6部屋を、別邸「個止吹気亭(ことぶきてい)」として露天風呂付き客室にリニューアルしました。こちらも1人当たりの客室単価が2万円程度から4万円を超えるようになりました。1階は畳敷きの2間で、「オーセンティックなガーデンスイート」という特徴付けをしました。2階はターゲットを変え、和洋室タイプの「コンフォートスイート」として04年にオープンし、こちらも収益が上がりました。
一方、本館の7割は団体客が占め、料理は部屋出しをしていました。個室料亭「季の蔵」を造ることで部分的ですが、一般客室のお客様にも「泊食分離」を進めることができました。多様化するニーズにも応えられ、オペレーションの負担低減化にも努めました。
内藤:常に一歩先んじていますよね。
駅前旅館からモータリゼーションを見越して、広い駐車場を備えた大型団体旅館として大型バスを受け入れられた。その後、個人客化へとシフトされています。多くの旅館が現在も個人化へのシフトに取り組むなか、すでに15年ほど前に取り組まれています。
山口:時代の流れにいち早く対応するというのが、当社の企業文化です。
1985年に、1階から5階まで直通のエレベーターを設置しました。そして「これからの旅館はただ県外のお客様が旅先で泊まる場所ではなく、地元の方々が宿泊以外にも楽しめるイベントや、大規模な会議が可能なコンベンションホールも必要」と考え、600人収容の大ホールも造りました。
今の場所に移ったときも、男性風呂を広くするのが旅館の常識でしたが、男女とも同じ大きさのお風呂を造りました。当時ではとても斬新なことでした。
内藤:今は高単価の個人客に対応した露天風呂付き客室の別邸「個止吹気亭」、離れ「ゆとろぎ亭」が屋台骨になっているわけですね。稼働率はどうですか。
山口:館内全体の稼働率は年間平均75%を維持している状態ですが、一番高いのが、ゆとろぎ亭で80%、個止吹気亭は65%、本館が70%ほどです。
内藤:団体客と個人客の割合はどのような比率ですか。
山口:5対5です。20年前までは7対3で団体のお客様が圧倒的に多かったのですが、今後さらに個人客化が進むと考えています。
内藤:本館は、ハード面でどのように変えていこうと、現時点で考えられていますか。
山口:現在の客室は団体向けの2間タイプの部屋が多いので、個人客向けに間取りを変更したり、広いベランダに露天風呂を付帯することなども一つの案ですね。とくに客単価が低く、当館の強みである日本庭園側に面する客室のリニューアルは、ニーズに合致すると同時に収益アップの可能性も秘めています。
――外国人観光客も来られていますね。
山口:外国人客の1人当たりの客室単価は2万5千円と、全体の1万7千円に比べて8千円ほど高い。これは、個止吹気亭やゆとろぎ亭など露天風呂付きの客室を利用される方を中心に受け入れているからです。
外国人のお客様は基本的に1室2人利用なので、大部屋の本館ではどうしても計画する利益に適わないので、平日の閑散期に限定しています。
内藤:今後も、国内客、とくに地元のお客を掘り起こしていくということですか。グランディア芳泉さんは地元に強いという印象があります。
山口:約40%が県内のお客様です。県外の80%が関西、中部圏で、首都圏は3%程度だったのが新幹線開業によって7%まで上がっています。首都圏のお客様は単価が高いのが特徴です。
北陸新幹線金沢開業によって、首都圏からのお客様のシェアを今後も一定数確保し、3大都市圏からバランス良くお越しいただけるようになるのが理想で、営業戦略上もそこを目指していきたいと思っています。
――地元客が多いのは営業戦略によってですか。
山口:そもそも福井県では、温泉旅館があわら温泉に集中しているというのも大きいでしょう。地元では、「忘年会は温泉地の宴会場で1泊して開く」という慣習が古くからあります。当館だけでなく、あわら温泉全体が地元客に強い傾向にあります。
内藤:通常は、地元客の比率が高まると単価は下がる傾向にありますが、上がっているというのは面白いですね。
山口:地元のお客様の宴会は宿泊されるためか、飲料をはじめ付帯単価も大きく上がります。最近は縮小気味ですが、昔はあわら温泉には芸者さんが200人ほどいて、2、3次会まで開かれる大宴会を催す企業も少なくなかったですね。
内藤:個止吹気亭、ゆとろぎ亭は、リピーターは多いですか。
山口:県外のお客様が多く、リピーター率も高いのが特徴です。毎月来られるお客様もいます。名前入りのバスローブをご用意しているリピーターのお客様が30人ほどいらっしゃいます。女将が手書きのお手紙を出すなど、リピーターのお客様を大事にしています。
内藤:ちょっとした工夫がリピーターを増やすことに影響しているのかもしれないですね。
山口:あわら温泉でお客様の客室に入ってごあいさつをしたのは、当館の大女将が最初だと聞いています。良くも悪くも、周りは田んぼばかり。このため、お客様のお部屋にごあいさつに伺うことが何にも勝るおもてなしと考えていました。
また、地元客の比率が高いので、県外比率が高い温泉地に比べて売上の振れ幅が小さいのが特徴です。
内藤:振れ幅というのは。
山口:県外の観光客のお客様はリピーターになりづらく、例えばブームなどが去れば極端に減っていきます。しかし、半分が地元の忘年会需要で支えられている温泉地だと、一斉に引潮になるようなこともないわけです。
内藤:そういう意味ではマーケットは安定しているわけですね。
一方で地元客の場合、悪い評判もすぐに広まってしまいます。支持されるには品質を上げていかなければなりません。単価を上げていこうとすると、もっと大変です。お客の来館頻度が高まってくると、心情的に単価を下げたくなってきます。今後は品質向上がさらに大切になってくると思います。
山口:昨年は約11万人のお客様にご宿泊いただきましたが、人口減少時代では大きな増加も望めません。地域に魅力がなければ外国人観光客が大幅に拡大することも考えづらい。将来的には、現在の宿泊客が大きく減少することも想定しなくてはなりません。
「売上が大きく減少しても、品質を高めることによって収益を確保する」ことを最重要課題と捉えています。いたずらに宿泊人員を確保しても赤字経営になれば意味がありません。
――そこで生産性向上に着目されたのですか。
山口:そうですね。ハードウェアばかりに頼るわけにもいかず、次に打つ手を考えたときに、観光庁の無料オンライン講座「旅館経営教室」を見て、「労務効率と、顧客満足度向上が両立する」という考え方に大きな興味を抱きました。
これまで旅館経営では、効率を優先すると品質が落ち、顧客満足度が低下するという捉え方が一般的でした。
どうして両立するのかなと思いながら講座を進めていくと、「ムダな仕事を取り除き、余った力でお客様が本当に求めているニーズに対してしっかりとサービスを提供していけば、労務効率と顧客満足度の向上は両立する」という。
「これだ!」と思いました。お客様が減っても消費単価を上げていくという、20―30年後を見据えた私たちの営業戦略上の方向性と合致したのです。
内藤:具体的にどのような改革をされているのですか。
山口:労務管理では1日のより細かいシフト計画を作って、お客様の入り込みに合わせて的確な人員シフトを実現していくということです。
それまでは、仲居さんは午後3時に出勤していましたが、「お客様が5時に到着されるのなら出勤は5時に合わせればいいのではないか」というような議論からスタートしました。
また、同じサービス部でありながら、宴会場は昔から北陸地方にある独特の奉仕料制度(日給歩合制)、料亭やレストランは月給制で働く若手社員と“1社2制度”の形態が残っていました。両者の雇用形態が異なるため、人事交流もなく非効率な働き方しかできませんでした。50年続いた制度でしたから、仲居さんたちと根気よく話し合って、昨年一元化しました。
これによって、若いスタッフが宴会サービスをしたり、仲居さんもレストランでサービスをしたり、マルチタスクが可能になりました。まだ始まったばかりで試行錯誤の最中ですが、生産性も向上しました。
内藤:休日が大幅に増えましたね。
山口:スタッフの労働時間は減り、昨年4月から、旅館業界では進んでいない完全週休2日制を導入することができました。それまでは随分ムダなことをやっていたのだなと思いました。
改革したことは2つだけです。事前にお客様の入り込みに合わせてシフトを作り、当日はお客様が集中する時間と場所に適正配置できるように現場コントロールを行うというものです。
内藤:最初は戸惑いがありましたか。
山口:「今の部署で採用されたのに、他部署の手伝いをしろと言われても……」という不満も一部であったようです。しかし、「給料は変わらないで休日が大幅に増える」ことが動機づけにもなり、「それでも私は他部署のお手伝いをしたくない」というスタッフはほとんどいませんでした。現場の作業改善によって残業時間も減りました。
内藤:具体的にはどう改善されたのですか。
山口:レストランの夕食は5時30分と7時30分の2回に分けてお客様をお迎えしていました。夕食開始の2時間前には出勤して、手作りの座席レイアウト表も作っていました。
しかし、2部制をやめて「お好きな時間にお越しください」とお伝えすると、ピークの山がなくなり、スムーズに受け入れができるようになりました。
旅館では、事前に伺っていなかったお子さんを夕食会場に連れて来られることは多々あります。4人席では席が足らずにスタッフはパニックになってしまい、お客様をお待たせして、座席表のパズルをすべて組み替えるといったことをしていました。事前準備をなくすことによって、オペレーションが乱れることなく、急な変更にも対応できるようになりました。
内藤:2部制にしていたのは食事処のスペースの問題からですか。
山口:2部制にした方が分散して上手くコントロールできるだろうという、昔ながらのやり方を続けていただけのことです。
お客様には「6時前後は混み合います」と事前に説明したり、オープンを少し早めたりすることで、極端に集中することはほとんどありません。とりあえずやってみたことが大きかったですね。ただ、これまでの既成概念を疑って、とにかく変えてみるということに、ものすごく大きなエネルギーが必要でした。
内藤:今は、残業はほとんどないですか。
山口:月に数時間というレベルまできました。最初は、「品質を上げていこう」というよりも、「休日を増やそう」という切り口です。そのためには今やっているオペレーションを見直そう、というところから取り組みました。「休日が増えても給料は絶対に減らさない」と、社員と約束しました。
内藤:お客様へのサービスの品質を上げるために、次の目標は。
山口:お客様に喜んでもらうことで自分たちの達成感が得られるような、“サービス業本来のやりがい”を追求していくことだと思っています。旅館で働いている多くの人たちが本当に望んでいることは、下膳や配膳作業に追われることではなく、「いいおもてなしをありがとう。また来るよ」とお客様に言っていただけることだと確信しています。
そういう体験をもっと、もっとしてほしい。そのためには、まだたくさんあるムダな部分を削って、お客様と接する時間をより多く確保することが必要です。
顧客のニーズに結びついていない作業については標準化し、ITの力を借りてシステム化する取り組みが大事だと思っています。自分がおもてなししたお客様から直接、リアルタイムで笑顔をいただけるなんて、とても魅力的な仕事だと、私自身感じています。人手不足の中で、旅館業に夢を持って若い人が多く集まるようにしていかなければならないと思っています。
内藤:ムダな作業とはどの部分ですか。
山口:宴会場係の仕事では、厨房に料理を取りに行ったり、事前にお膳を用意するなど、お客様との接客に直結しない作業が多く存在するのが現状でした。そこは専門部署を作って「5S」や「3定」など、モノを置く場所や量をしっかりと決めて管理をしていくことで、後方業務の労働時間は相当に集約され、成果も出ています。
内藤:どのような成果が出ているのですか。
山口:宴会係は午後3時に出勤していましたが、今は4時30分や5時の出勤で現場はしっかりと回っています。朝の時点で、その日の夕食のお膳のセッティングを仲居係がやっていましたが、今は事前準備しないでお客様が食べるときに料理を出すようになって、労働時間が短くなりました。
また、旅館の料理は食器の種類も多く、何がどこにあるのかすべてを把握するのはとても困難です。少しでも分かりやすく“見える化”に取り組み、「どこに」、「何を」、「どれだけ置くか」ということを明確に決めて、管理することによって、入社間もないスタッフでも宴会場のセッティング業務や、バックヤードの仕事も簡単にできるように進めています。
内藤:これらのバックヤードの省力化に向けた取り組みは、裏を返せば、接客係は接客に専念できるようになります。
山口:今は労働時間が短縮できて、余力が生まれている状態ですが、お客様に満足していただくためにどうしていくかという部分がこれからの課題になっています。そこで、「料理を1品ずつ説明しながら提供する」や、お酒を好んで飲まれるお客様には「料理に合わせて地元のお酒をお薦めする」など会話を交わすといったところから始めています。
方向性としては、「一人ひとりのお客様のニーズに対応したサービスをいかに提供できるか」という部分を追求していきたいと思っています。10人のお客様には10通りのサービスの仕方があり、そこが勝負になってくると思います。
内藤:レストランも以前は事前にセッティングされたお膳出しだったのですが、今は1品出しになりましたね。料理の盛り付けを直前にやる方向ですね。
山口:料理は、でき立てをお出しすることが、最大の目標です。「遊膳」では、事前の仕込みをやめて、お客様が来られてから前菜を作り、盛り付けをしています。また、お客様のペースに合わせて料理を提供できるように取り組んでいます。注文を受けてから調理場が作り始めるので、急な変更やお客様の好き嫌いに合わせて料理を作るということも可能になりました。
内藤:食器洗浄も色々と工夫されていますね。
山口:今も、サービスするスタッフとは別の食器洗浄専門のスタッフがやっており、ここを改善したいと思っています。他館の先進例も参考にしながら浸け置き洗いをせずに、サービススタッフが食器洗浄も兼務できてしまうオペレーションの導入を考えています。盛り付け、お客様への提供、食器洗浄といったバックヤードのサイクルが効率的に回ってくるので、スタッフの人数もいらないし、食器を洗う時間も短縮されます。水光熱費も下がるし、多くの成果が見込めます。
内藤:お客様に「予約の確認をしない」といった取り組みもされています。
山口:ご宿泊の3日前にお越しいただく予定のお客様すべてに、2時間近くかけて確認業務を毎日していました。
基本的にお客様の携帯電話にお掛けするのですが、平日の昼間は勤務中の方が多く、お客様もあまり出られません。着信を見て掛けて来られるお客様も多く、「予約の確認の電話でした」と伝えると、「変更があった場合、こっちから電話するよ」と怒られるケースも多々ありました。
自分に照らし合わせても、家族旅行で宿泊する旅館の予約を忘れることはあり得ないので、可能な限りなくしました。
今まで行ってきた作業を変えることは難しいですね。一つひとつの作業分析をしながら、「予約確認の電話を一度すべてやめてみよう」と言うと、「もしお客様が来なかったらどうするのですか。とても怖くてやめることはできません」というのが社員の意見でした。でも結果的に、お越しになられないお客様は誰もいなかったということです。毎日2時間近くかけて行っていた予約の確認作業がすべて解消されました。
予約係の一番大事な仕事は、お客様のニーズに合わせた商品の提案と、客室稼働率の向上、客室売上高の最大化だと考えています。それにもかかわらず、事務処理に忙殺されて手が回らないという状況にありました。また、サービス部署では「人が足りないので、お客様に笑顔で接客できる余裕はありません」など本末転倒の状況も随所で見受けられました。
内藤:人数を増やさないで、週休2日を実現し、残業時間がほとんどなくなった今でも「人手不足」という言葉は、現場から出てきますか。
山口:今では誰も使わなくなりましたね。「人がいないからできない」は、この1年で合言葉から死語になりました。
内藤:「電話で予約の確認はしない」「宴会場の事前セッティングをしない」など、“作業自身をやめる”大きな改革をやられたのがすごいですね。
フロントも改革されるのですか。
山口:フロントのカウンターを取り払うことも考えています。カウンターがあるから、そこに人が張り付いてしまう。極めて閉鎖的な空間に人を押し込めてしまう。カウンターを取り払うと、周りにある売店やラウンジなどとフィールドを共有することによって、お客様の急な対応にも柔軟に応じることができます。「お客様の突発的なニーズは読めない」というのが前提なので、旅館もお客様のニーズにフレキシブル(柔軟)な態勢にしておくことが大切だと思います。夕方6時ごろにはチェックインの終わったフロント係が暇な状態で、一方レストランは超多忙の時間帯。今はスタッフと話し合ったうえで納得してもらい、フロント係も宴会場の応援をしています。
内藤:採用の状況はどうですか。
山口:「週休2日制を導入している」というアピールポイントもでき、これまでよりも感触は良くなっています。サービスの品質向上などの取り組みも紹介し、「本当にサービス業をやりたいのなら当館で、マルチスキルを磨いてください」と言っています。これまではフロント、レストラン、料亭、宴会と4つの採用枠に分けていましたが、今はサービス部1本の採用です。
内藤:週休2日制にすると、人を増やさなければならないという感覚があると思いますが。
山口:確かに役員間での同意にも時間を必要としました。
内藤:北陸新幹線の効果が少し減ってきたなかで、利益は上がっているのですか。
山口:売上が5%減っても、昨年と同程度の利益額が確保できているというのが今年の現状です。
内藤:利益率は上がったということですね。
山口:そうです。地方の旅館で、今後も売上を増やすことは想定しづらい。売上が減っても利益額は維持できるように、利益率をしっかりと上げていく持続可能なビジネスモデルを探っていきたいと思っています。
なかなか収益が下がっているときには大きな改革はできないものです。一昨年に北陸新幹線が開業したときに改革に着手できたというのは、幸運だったと思っています。
内藤:現在、大浴場を改築されていますね。
山口:「天上のSPA」をテーマに、坂井平野や、真下の広い庭を見下ろせる5階に露天風呂の部分を充実させ、ほかにはないお風呂になると思っています。5月中旬に「月の湯」がオープンし、7月中旬には「星の湯」のオープンを予定しています。前回の改修から20年以上経っているので、お客様にもっと喜んでもらいたいと思っています。