【特集 No.675】2026年新春インタビュー 内藤耕氏に聞く 革新「清掃・洗濯の内製化」へ

2026年1月1日(木) 配信

 人手不足に加え、賃上げや物価上昇が続く旅館業界。コスト上昇に比例して売上が増えない時代において、工学博士の内藤耕氏は、経費の巨大な塊である「清掃」や「洗濯」を現行スタッフの余力を使って内製化し、固定費を下げることを勧める。ポリエステル性の新素材シーツや、浴衣に代わって作務衣の導入も提案する。洗濯業務の内製化によって「コスト上昇分を上回る利益」をつくる革新的な取り組みが、既に幾つかの旅館で始まっている。

【本紙編集長・増田 剛】

賃上げ、物価上昇続く時代 現行スタッフの余力で利益を

 ――宿泊業を取り巻く市場環境をみると、人手不足の問題に加え、賃上げと仕入れのコスト上昇分をいかに価格転嫁してそれらを上回る売上を求めていかなければならない、とても厳しい状況にあります。

 おっしゃる通り、賃金の上昇や原材料などの仕入れ価格の値上げ分を何としても単価アップで価格転嫁できなければ企業経営を続けるだけでなく、スタッフの雇用や生活の質の向上も実現できません。しかし、現実としてインバウンド客が集まる一部を除いて、ほとんどの地域では人口減少に起因する地域経済の疲弊で需要が縮減し、さらに過当競争の激化も相まって、現状ではなかなか宿泊単価や売上高を増やす状況にありません。

 一方で賃金や物価上昇は今後も続くことが予想されています。売上高や客単価だけに着目する方法だけではなく、これまで以上に日々の固定費をどのようにコントロールし、それを抜本的に下げていくことも同時に考える必要がますます重要になってきています。

 ――確かにそうですが、具体的にどのようにしたら良いのか、どこの施設も試行錯誤しています。

 宿泊業において、最も大きなコストの塊が人件費で、その管理方法についてまずマルチタスクという視点から紹介します。今回はさらにそれ以外の清掃やリネン類、食材といった仕入れの固定費と捉えられるコストについても考えていきます。とくにこれらの費用は、現場のサービス品質や顧客満足の維持向上に直結しますが、どのようにそれらを毀損させず、同時にコスト削減も具体的に実現していくかの工夫がさまざまな施設で始まっています。

 そもそも宿泊業の宿命としてお客がいるところで多くの業務が執り行われるサービス提供の「同時性」が存在します。例えばフロントスタッフが業務効率を上げてチェックインをよりスピーディーに対応しても、お客が次々と連続して来館しなければ、結果として手待ち時間というムダをより多く作るだけ、ということが起こります。加えて手待ち時間ができた結果、現場がその状態を基準と認識してしまうと、瞬間的に忙しい時間帯を人手不足と感じてしまい、これにより現場で働くスタッフが人員増を要求する状況をもたらします。

 つまり、この問題を解決するために、業務効率化への取り組みによって生じたこのわずかな手待ち時間で「別の業務をやりましょう」ということが大事だということです。この取り組み自身は、既に多くの現場で「マルチタスク」として認識されています。しかしこのマルチタスクは、「言うは易し行うは難し」です。

 仕事に慣れていないスタッフがいきなりわずかな時間だけ来ても戦力にならないだけでなく、業務方法をその都度教える時間も入れたら現場レベルでは必ずしも効果的ではないことになります。つまり、マルチタスクに取り組むには課題が意外と多くあるということです。

 マルチタスク化による生産性向上で最も大事なのが業務の「単純化」と「標準化」です。これが実現しなければ教育の負担が現場のスタッフにその都度のしかかるほか、練度の高い人材にしか業務ができない状態になってしまいます。このため、昨今多くの現場で利用が進んでいるスポットワーカーの募集サイトをみても、結果的に「経験者求む」という条件が多い印象があります。このマルチタスクを行うスタッフとは、いわば社内スポットワーカーと見ることができます。

 このため、お客がいないときにフロントスタッフが売店スタッフを掛け持ちし、必要に応じてレジを打つ場合などは、相互に移動しやすいだけでなく、フロントと売店が同時に見渡せるような空間レイアウトがとても大事になってきます。

 また、とくに大型旅館でしばしば見られますが、専任のスタッフが数人張り付き、またそれをお客がいない日中に専用の設備を使って食器洗浄している光景です。これと真逆の方法として、食事処で下膳しているホールスタッフがレストランの横に設置した小型の食器洗浄機で下膳から連続してこまめに食器洗浄する方法もあります。

 この食器洗浄で問題なのが、大きな食器洗浄機を導入しようとすると広いスペースが必要となり、結果としてレストランから離れた場所に設置しなければならなくなることです。

 このように場所が離れると、下膳後に食器の整理や残食の廃棄、運搬、洗浄後の分別と保管といった業務工程が細かく分割され、投入しなければならないスタッフ数が多くなるだけでなく、各工程の間で食器類が停滞を引き起こして業務量が増え、結果として会社として利益を生みにくい体質となってしまいます。

 つまり、このように運ぶ距離や時間が長くなり、また業務の種類も増え、自然に分業してまとめて作業するようになってしまい、だからこれまではホールスタッフと食器洗浄は別々の専門チームが担っていたのです。

 逆に、こまめに洗浄することで小さな食洗器で対応できるようになると、それを食事処の横に設置できるようになります。そうすると下膳と洗浄が同時に連続して一体になってマルチタスクでできるようになります。さらに余剰となった食器洗浄スタッフも下膳に回れるようになり、食事処に投入できるスタッフ数が増え、客回転を上げることで待ち時間を減らせてサービスレベルもより上げることができます。

 つまり、このレイアウトへの設備投資と業務フローづくりに取り組まなければ、マルチタスクは細かいところで動かなくなるということです。また、施設ができ上がってしまうと施設変更の工事は難しいので、マルチタスク推進への改革には、業務方法だけでなく、施設レイアウトや設備の選択といった視点が大事になってきます。

 そして誰でもその日から現場の即戦力になるよう、業務フローの単純化・標準化が必要です。旅館の厨房でその日のプランに合ったお皿を人数分そろえることを指示されても、プランごとにどのお皿を使い、どこに収納してあるかをすべて覚えるだけでも高度な技能職になってしまいます。

 このため、ある旅館の調理部は、エクセル上でコース料理を管理しているので、コース名と人数を入力すると、自動的に必要なお皿のリストが表示されるようにしました。そして、次に問題となったのが、お皿の名前がすべて漢字表記だったことです。これをローマ字と数字の組み合わせによる記号表記にして食器庫に定位置保管するようにしました。

 これにより、日本語に不慣れな外国人スタッフでも、プランに合ったお皿を人数分すぐに間違いなく持ってくることができるようになりました。つまり、それぞれの業務に慣れていない、例えばベテランの事務スタッフでさえも、スキルレベルだけを見ると日本語に不慣れなスタッフと同じ水準で、マルチタスク化を現場で進めていくには、このように業務の単純化・標準化が大事となり、それによって生産性向上により固定費の削減につながっていきます。

 ――業務の内製化を強く勧められています。

 旅館やホテルといった宿泊施設では清掃や洗濯、食材の仕入れなどが外注されています。当たり前のことですが、これら費用の中には必ず人件費が含まれています。分かりやすいのが日々の清掃業務で、その大部分は人件費です。食材などの仕入れも、食材費だけでなく、それに取り次ぎや加工、運搬といった手間が掛かっていて、それらが人件費として食材に上乗せされています。

 もしこのようにアウトソーシングしているさまざまな業務の一部だけでも、直雇用する社内スタッフによるスポットワークで内製化することができれば、外部に流出し続けている多くの人件費を、追加の賃上げとして支払っていくことができるようになります。

 ――業務の内製化についてもう少し具体的に教えてください。

 既に多くの前例がある宿泊業にとって必要不可欠な日々の清掃業務で、そうしていない施設があればこの内製化を積極的に進めていく価値があります。

 清掃業務の多くは一般に時給制のパートスタッフによって執り行われ、その肉体的負担から離職など流動性も高く、どこも定着率の低さに課題があります。応募者数も少なく、地域によっては人材が周辺にいないこともあります。

 内製化に着手しようとしても「そもそも人手不足なので、内製化するとさらに現場が回らなくなる」と言われることもあるでしょう。

 しかしながら、幾つかの施設で清掃の内製化に取り組んできましたが、結論から言えば、いずれの旅館もスムーズに移行できました。マルチタスクや業務の単純化などによって、人件費を減らして既存の固定費の中で回るようになった施設さえあります。

 この清掃業務を外注しますと、旅館側は清掃業務の生産性向上への取り組みに関心が希薄になりがちです。それは、清掃業者と1部屋当たりの清掃単価で契約していることが多いためで、生産性向上に取り組んで清掃業者にメリットがあったとしても、宿泊施設側にそれが無いからです。

 そのうえで、清掃方法に手を付けて外注業者の負担が少しでも増えると値上げ交渉されてしまうケースもあります。パートスタッフ中心の清掃業務は最低賃金が上がっていけば、その経費も価格転嫁されて上がっていきます。

 このように清掃のアウトソーシングは課題山積です。この意味でも清掃の内製化は、売上が増えない時代における会社全体の生産性向上によって生まれた人員の余力を使って、マルチタスクで進められる、とても大きな業務となります。この外注している清掃はとても大きなコストの塊のため、内製化し、清掃自身の生産性向上によって固定費をさらに下げることができれば、会社にとってすぐに大きな効果が出てきます。

 ――タオルやシーツ、浴衣といったリネン類の洗濯も、経営コストの大きな塊として存在します。

 洗濯の内製化に取り組む宿泊施設はまだほとんどありませんが、ゴルフ場では自分たちでタオルを洗っている施設は多い。健康ランドではタオルだけでなく、作務衣(部屋着)も自分たちで洗濯しています。

 このように他業種で洗濯業務を内製化している施設を数多く見てきた経験から、それほど難題だとは思っていません。ただし宿泊施設で問題となるのはシーツ類と浴衣です。これを上手く対応できれば、内製化へのハードルは一気に突破できます。

 旅館の部屋着は浴衣が中心ですが、多くの健康ランドでは作務衣を導入しています。浴衣の素材は綿製がほとんどで、洗濯後に糊付け・プレス(アイロン掛け)をしなければならず、どうしても大型の設備が必要になってきます。

 一方、作務衣は生地の特性上、プレスをする必要がない。近年は作務衣を導入する旅館も増えてきており、これにより洗濯業務の内製化のハードルの一つを解消できます。

 もう一つのハードルが敷き布団・ベッド、掛け布団、枕用のシーツ類ですが、最近大きな解決策が見つかりました。プレスが不要な伸縮性のある業務用にも耐えられるシーツを、ある繊維メーカーと共同開発しました。これを現在2つの宿泊施設で使用していて、この前例に触発されて、さらに複数の宿泊施設が洗濯業務の内製化の検討を始めています。

 一般的に使われているシーツ類の素材は綿です。綿は浴衣のようにしわができやすいため糊付け・プレスが必要ですが、今回開発したシーツの素材はポリエステル製です。最近のスポーツシャツはほとんどがポリエステル製になっていて、その肌触りも絹(シルク)のように滑らかで、最大の特徴である伸縮性によってしわになりづらいため、プレスせずにそのまま使えることが大きなメリットとなっています。

 一般にベッドメイクや布団敷は2人がかりの大変な肉体労働です。シーツをプレスしないため、4面立方体の3面を箱型の形状のベッドマット用のフィットシーツが実現しました。これはベッドの四つ角にそれぞれひっかけて覆うだけのベッド用フィットシーツで、ベッドメイクの肉体的負担も大幅に軽減されただけでなく、1人でベッドメイクができるようになりました。同様に敷布団や掛け布団用のシーツも同時に開発しました。

 専門業者と開発したこのベッド用のフィットシーツは1枚4千円(税別)ほどで、毎日使用して洗濯したとして、長期間は繰り返し使用できる耐久性もあります。業務用洗濯機などのランニングコストを入れても、ベッドメイクの負担軽減も加味すれば、これまでの洗濯の外注費に比べて圧倒的に経費が圧縮できます。

 ――内製化により、洗濯のコストや作業負担が増えるのではないでしょうか。

 これまでの実績として作業負担はそれほど増えていません。

 まずベッドメイクが非常に楽になること。もう一つは、外注の場合、すべてのリネン類を種類別に仕分けし、外注業者に引き渡す通用口までは施設側で運ばなければなりません。

 つまり、通用口まで運んでいたリネン類を、洗濯機まで持っていくことの違いで、あとはこれらシーツ類の仕分けの代わりに、洗濯機への出し入れがあるだけです。既に洗濯を内製化している施設では、フロア単位で仕分けすることなく色々なリネン類を同時に洗濯し、洗濯・乾燥後に同じフロアに戻すため、在庫保管も不要となるメリットがあります。

 光熱費についても、省エネ化への取り組みが進んでいることもあって、導入した施設ではコストが上がったという認識はありません。

 洗濯を業者に頼むと引き渡し、洗濯、納品に数日要しますので、各施設ではどうしても数日分の在庫を抱えることとなります。一方、洗濯業者はできるだけ保管したくないので、施設側は繁忙期にタオルなどが不足する事態も発生するとも聞きます。内製化すると、その日に施設内で洗って再びお客に提供することを繰り返すことで、その不足を心配することもなくなります。

 ――専従のスタッフは必要ですか。

 社内の既存スタッフのスポットワークによるマルチタスクで対応できています。洗うのは洗濯機なので、基本的な作業は出し入れと部屋着やタオルの畳みだけとなります。外注の場合でも、タオルを客室に入れる場合には、スタッフが畳まなくてはなりません。どうせ畳む作業があるのであれば、内製化しても作業量が大きく増えることはありません。

 フロントの裏側や事務所で、スタッフの手待ち時間にタオルや部屋着などを畳むことも可能です。また自ら洗濯することで、お客がタオルを何枚使っても会社は経費を心配しなくて済むようになり、顧客満足も上げられます。

 ――洗濯機の導入コストは。

 業務用の洗濯機と乾燥機を一台ずつで設置工事も合わせても数百万円ほどの初期費用で、これに消耗品となるリネン類の購入費用が継続的に加わります。

 大型旅館の場合、当方の経験ではそれぞれ洗濯機と乾燥機が2台ずつあれば対応可能で、洗濯の外注コストに年間数千万円を支払っている状況を考慮すれば、これらの初期投資は短期間で回収できる試算になります。

 ――物価高騰により、旅館では食材コストも大きな塊となっています。

 食材も清掃や洗濯と同じように、生産者や卸売事業者の人件費が上乗せされています。ということは、加工品ほど人件費が多くなります。できるだけ加工品を使わず、材料から調理をしていく。社内に調理人という職人を抱える旅館は、このような問題点も解決できます。

 料理のお品書きは、どこまで決めなくてはならないのか。最近は料理の写真も〈イメージ〉と書いておけば許容されるようになってきました。

 作ったメニューを基に食材を仕入れるのではなく、仕入れた食材からメニューを組み立てることを幾つかの旅館で議論し、実践し始めています。

 旅館側は食材原価率を下げたい。しかし、メニューが先に決まっていると、季節が多少ずれるだけで、遠方から食材を取り寄せなければならなくなります。つまり、各日に仕入れた「安くて美味しい旬の食材で何を作るか」を考えた方がコストは小さくて済みます。

 ある大型旅館では、刺身にどんな魚種を盛るかをお品書きにも事前に特定せず、地元でその日に水揚げされた旬の魚を仕入れによって提供するようにしました。

 野菜や魚といった食材の旬と言われる期間は一般に短く、おおよそ2週間ほどです。四季ごとにメニューを変えている旅館も多くありますが、そのほとんどの期間が地元の旬を外れています。そうすると遠方から運ぶこととなり、仕入れ値はどんどん上がっていきます。

 仕入れ業者に定額の予算の中で旬の食材をお任せするやり方もあり、それを始めた旅館もあります。厨房スタッフも箱を開けるまでどのような種類の食材が入っているか分からないのですが、原価率を下げる有効な取り組みの一つと言えます。安くて美味しい旬の食材を使って原価率を下げつつ、旬の良い材料を使った方が調理人のモチベーションも上がります。

 私は美味しさの定義を「出来立て」と、もう一つは「好きな料理を出すこと」と割り切って考えています。つまり、肉が苦手な人に肉を出しても喜ばれません。好きなものを食べてもらうには、お客自身が食べたい料理や好きな料理を選択できた方が良いに決まっています。

 ある旅館では、肉や魚、野菜といった原価率の異なる食材の料理の選択制にしたところ、どれも均等に選ばれました。お客は食べたい料理を選ぶ人も多く、必ずしも原価の高い食材を選ぶとは限らないのです。

 さらに、お客が食べているときに調理することで、出来立て料理が提供できるようになるだけでなく、好き嫌いだけでなく、量への対応も可能で、結果として残食も減らすことができます。ある旅館で、好きな量だけ提供するようにしたら、お客の多くが「一口だけ」と言い、結果としてこれまで作り過ぎだったことが分かりました。つまり、お客の嗜好に合わせていくことも原価率を下げる方法の一つとなります。

 このような新たな視点も取り入れて食材仕入れコストをコントロールする取り組みも始まっています。

 ――ありがとうございました。

【本紙1966号または1月6日(火)以降日経テレコン21でもお読みいただけます。】

 

 

〈旅行新聞1月1日号コラム〉――「普遍性」の強い理念 時を経ても古びず現在性を保ち続ける

2026年1月1日(木) 配信

 「旅行屋さん 日本初の旅行会社日本旅行と南新助」(河治和香著、実業之日本社刊)は、“旅のお世話”に生涯を賭けた日本旅行創業者・南新助の生涯を描いた小説だ。

 明治時代、鉄道開通に揺れる滋賀県草津で、立ち売り弁当販売を始めた南信太郎村長の息子・新助は「地元や鉄道への恩返しの気持ち」から、伊勢神宮や善光寺への団体参拝を実現させた。これが日本初の団体旅行と言われている。

 作家・河治和香氏の筆力も相まって、久しぶりに楽しい小説に出会え、読後感は爽快な気分に包まれた。日本の団体旅行がどのようにして始まり、成長・発展してきたか。そして、時代とともに形態や価値観が大きく変化しながらも、「人のため」を追求した創業者・南新助の「“想い”=理念」を創業から120年経つ今も、日本旅行が大切に守っていこうとする理由を知ることができる1冊だ。

 昨年12月には「日本秘湯を守る会」の社員総会が開かれ、冬タイヤを装着したレンタカーで群馬県・猿ヶ京温泉を訪れた。日本秘湯を守る会の社員総会は毎年長時間に及ぶ。その大半の時間を費やし、佐藤好億名誉会長と星雅彦会長が会の理念“旅人の心に添う 秘湯はひとなり”について一言ずつ、ゆっくりと語り続けるからである。

 佐藤好億名誉会長は「限界集落」という言葉をしばしば用いる。「限界集落にある山の宿である我われが、自然の恵みである温泉を大切に守り、日本の原風景や豊かな自然を懐かしく感じて旅に出る旅人の受け皿となる」という“想い”を、次の世代にも引き継いでいくことを何よりも大切にしている。

 この理念があの提灯のともしびとして結びつき、一つ山を越えた宿とも語り合いながら半世紀以上も続けてこられている。もし、日本秘湯を守る会に理念がなければ、何度も厳しい経済環境を迎えながら、仲間とのつながり、そして旅人からの支持を維持していくことは難しかったはずである。

 今号6面には、静岡県・浮山温泉郷の「ABBA RESORTS IZU―坐漁荘」のオーナーで、「CIVIL GROUP」(台湾台中市)総裁の葉信村氏のインタビュー記事を掲載している。

 葉氏は企業経営には「理念」と「利益」の2つの要素が不可欠だと言う。しかし、もしどちらかを捨てなければならないとしたら、「私は利益を捨てて理念を残します」と語る。なぜなら「100年続く企業や宗教、国の多くは、理念があるからこそ永続的に存続できるのです」との言葉に深い感銘を受けた。

 日々の取材活動のなかで、企業の経営者から現場の担当者まで、さまざまな人の語る言葉を記事にしている。トップ層は企業や団体の理念を語ることが多い。しかし、そこには個人の信念や理念も多分に混じり、滲み出てくるのが面白い。時代や、洋の東西を問わない「普遍性」の強い理念を大切にし続けることが、時を経ても古びず、いつまでも現代性を保ち続けることができるのだと感じている。

 さまざまなメディアやSNSで情報が溢れるなかで、本紙は観光業界の企業や団体、個人のあまり知られていない、優れた取り組みやアイデアを見つけ、広く発信することに挑戦し続けたいと思っている。とても難しいことだが、この理念を貫きたい。

(編集長・増田 剛)

 

加賀屋 復興ECサイト刷新 台湾セブンとコラボも

2025年12月31日(水)配信

能登半島復興応援 オンラインマルシェ

 加賀屋(石川県・和倉温泉)のグループ会社である加賀屋ゼネラルフーヅ(渡辺崇嗣社長、石川県七尾市)は12月3日、能登半島地震で被災した地元事業者を支援する目的で、加賀屋オンラインショップと加賀屋楽天市場内に設けた特設ページ「能登半島復興応援 オンラインマルシェ」の商品を拡充させ、リニューアルオープンした。

 今回は「地域との福幸」をテーマに、能登の“たからもの”を改めて探求。煮アワビやイカ刺し、イカそぼろなど、能登ならではの商品を新たに加えた。

 また、自社でホームページを制作できない、商品を製造しても販売チャネルがないといった悩みを持つ事業者にも声を掛けることで、取り扱う事業者はリニューアル前から14社増え、計16社になった。商品も輪島塗や水産加工品、総菜、スイーツ、飲料、雑貨など46品に拡充した。

 今回の取り組みは、能登半島地震及び奥能登豪雨により経営環境が変化した事業者の新たなチャレンジを支援する石川県の「令和6年能登半島地震等チャレンジ支援補助金」に採択されている。

 また、同社は11月下旬から、台湾セブンイレブンにおいて、第3弾となる加賀屋監修商品の販売も始めた。

 今回は、加賀屋総料理長の宇小藤雄氏が台湾に渡って指導・監修。白だし入り牛肉うどん、鶏の照り焼き弁当、海鮮天丼おにぎらずなど、全商品に奥能登で製造された「いしる」を隠し味に使った加賀屋監修の“白だし”もしくは“みそ”を使用。能登の味や彩りにこだわった商品に仕上げた。冬ならではのメニューとして、初めて加賀屋監修おでんも販売する。

 加賀屋監修商品は、ハイクオリティブランド「星級饗宴」として計6商品を展開。台湾国内約7200店舗で5月ごろまで販売を予定する。

鳥羽シーサイドホテル 汀館7階を改装 なごみ(和海)フロアに

2025年12月30日(火)配信

なごみ(和海)フロア客室

 三重交通グループの鳥羽シーサイドホテル(村田陽子社長、三重県鳥羽市)は11月1日、汀館7階の全8室を和の趣と海の眺めが調和した「なごみ(和海)フロア」としてリニューアルオープンした。

 同ホテルは、汀館、望館、岬亭の3つの館で構成されており、汀館は広々としたハイグレードタイプの全63室からなる客室棟。

 新客室は、12・5畳+3・5畳+広縁で構成。2台備えたベッドは、畳の温もりを感じる空間になるよう和ベッドを導入。ベッドで横になりながら窓の向こうに広がる穏やかな鳥羽湾の景色を眺め寛げることから「なごみ(和海)フロア」と名付けた。同フロアは、フロント階(7階)に位置し、レストランや大浴場「汀の湯」にも、エレベーターでスムーズに移動することができる。

 基本料金は、大人2人1室利用の場合、1泊2食(夕朝食バイキング)で1人2万8550円から(税・サ込、入湯税別)。

 3月31日までは、リニューアル記念として、基本料金にて、飲み放題や各種館内サービスが利用できる特別プラン「オールインクルーシブプラン」を販売する。

 同プランでは、夕朝食バイキングに加え、①「ラウンジ カーボ」のドリンクやスイーツ、軽食②夕食バイキングのアルコール飲み放題が三重の銘酒やご当地ソフトドリンクも含めたプレミアム仕様③湯上り処「いっぷく」のメニュー④貸切家族風呂「五島の湯」⑤ゴルフシミュレーター体験1時間⑥その他アクティビティ⑦夜食「あおさしょうゆラーメン(小)」――の7つを無料で楽しむことができる。

梅酒づくり体験 進撃の巨人とコラボで おおやま夢工房

2025年12月29日(月)配信

コラボ仕様の梅酒 ©諫山創/講談社

 おおやま夢工房(土橋泰輔社長、大分県日田市)は12月6日、人気漫画「進撃の巨人」とコラボした「『進撃の巨人』仕様 梅酒づくり体験」を始めた。漫画の原作者・諫山創氏の故郷・同市大山町にある「梅酒蔵おおやま」で実施している。

 諫山氏の実家は同町で長年にわたり梅農家を営んでおり、梅を通じた地域振興や観光連携に取り組んできたという。

 梅酒蔵おおやまでは、従来から梅酒づくり体験を実施してきた。地元産の南高梅や鶯宿梅を使用し、梅の実・氷砂糖・アルコールを実際に仕込みながら梅酒が完成するまでの工程を学ぶ。所要時間は約30分。完成後は約1年間熟成させ、自宅で味の変化を楽しむことができる。アルコールが苦手な人や子供向けに、梅シロップづくり体験も用意している。

 「進撃の巨人」コラボ仕様では、体験で仕込んだ梅酒(Mサイズ420㍉㍑)を、漫画のキャラクターをデザインした化粧箱に入れて持ち帰ることができる。また主要キャラクターを配置した日田杉の特製台座もセットする。

 毎日午後2、3時からの2回実施。各回定員6人。梅酒づくり4500円、梅シロップづくり4300円。前日までの予約制。

再生の軌跡書籍化 長門湯本と星野リゾート

2025年12月28日(日)配信

 山口県長門市の長門湯本温泉で2014年から進められてきた温泉街再生の取り組みについて、約10年間の軌跡をまとめた書籍「温泉街リノベーション ~公民連携&星野リゾートで挑む『オソト天国』長門湯本温泉の10年~」(旅行読売出版社刊)が、12月3日に発売された。

 同温泉では、老舗旅館の破綻を機に「まちをまるごとリノベーション(再生)する」という挑戦が15年にスタート。16年1月、星野リゾート(星野佳路代表、長野県・軽井沢町)が「長門湯本温泉マスタープラン」の策定を受託し、20年3月に温泉旅館「界 長門」を開業。施設を温泉街の一部として機能させるため、界ブランドとして初めて宿泊者以外も利用できる「あけぼのカフェ」を併設するなど街に人流を生み出す仕掛けを展開している。

 本書は、旅ジャーナリストののかたあきこ氏と、同温泉エリアマネージャーの木村隼斗氏による共著。のかた氏はプロジェクト発足当初から取材を重ねており、再生のリアルを丹念に描き出す。木村氏は行政と地域、民間をつなぐ当事者としての視点から、観光地経営の実像を語る。

神戸でセミナー 観光の未来などを学ぶ 全旅連女性経営者の会

2025年12月27日(土)配信

斎藤元彦兵庫県知事はじめ約80人が参加

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会女性経営者の会(JKK、会長=山田佐知・ほてるISAGO神戸女将)は12月10日(水)、神戸ベイシェラトンホテル&タワーズ(兵庫県神戸市)で「JKKオープンセミナーin神戸」を開いた。オープンセミナーの開催は6年ぶり。会場には兵庫県の斎藤元彦知事や全旅連の井上善博会長をはじめ、会員や協賛企業関係者など約80人が集まった。

山田佐知会長

 山田会長は「JKKは20周年を迎え、30周年に向けたスタートを切ったところ。このタイミングでJKKのメンバーが真摯に宿の経営に向き合っていることを、皆様に知っていただく良い機会になればと、今回の場を設けた」と6年ぶりの開催に至る経緯を説明。そのうえで「2025年は、初の女性総理が誕生したが、これから女性がますます活躍する時代がやってくると手応えを感じている。JKKも研鑽を重ね、業界の地位が向上していける一助となれるよう、邁進していきたい」とあいさつした。

 井上会長は「我われ宿泊・観光産業は、温泉文化・宿文化の継承、人手不足、デジタル化など、多岐にわたる課題を抱えている。全旅連としても8つの部会が中心となり、これらの問題に取り組んでいるが、全旅連、JKK、青年部が連携して課題解決に取り組むことが重要だ。その意味でも、今日は活発に意見交換を行い、有意義な場としてほしい」と呼び掛けた。

 セミナー冒頭に駆け付けた斎藤知事は「兵庫県の『女将の会』とは毎年、意見交換させていただいているが、兵庫県にとって観光は地域を支える大事な産業。人手不足やDX対応、物価高騰など、業界を取り巻く課題は多いが、県として、しっかり対応していく所存。今後も皆さんと連携を組み、観光業界を盛り上げていきたい」と述べた。

 勉強会は、社会起業家でジャパンデザイン代表理事の山下太郎氏がファシリテーターとなり、ひょうご観光本部のツーリズムプロデューサー、古田菜穂子氏を講師に「兵庫県の観光と今後の日本の観光の未来について」をテーマに行われた。

 古田氏は、今後の観光について、観光はすべての産業とつながっている、国内誘客とインバウンド対応は一体的に、量より質を目指すなど、いくつかポイントを挙げ、「目指すのは地域の魅力を再発見すること。それが地域の『光』を『観る』こと、地域の人が主役の『観光』のはじまりとなる。最後は『人』。それが観光のキーワードになる」とした。

 ワークショップは、後継問題、直販増大、人材不足時代の働き方改革、宿泊業界におけるAIの影響の4つのテーマに分かれ、それぞれ活発に議論を繰り広げた。

【塩野 俊誉】

【FIXER・松岡社長に聞く】市民の相談に注力を 文書作成はAIで効率化

2025年12月26日(金) 配信

松岡清一社長

 2009年創業のIT企業、FIXER(松岡清一社長、東京都港区)は23年に、生成AIのプラットフォーム 「GaiXer(ガイザー)」を開発した。中央官庁はじめ地方自治体、金融、医療機関など実証実験を含め120以上の公的機関にサービスを提供し、業務効率化を推進してきた。松岡社長に話を聞いた。

                 ◇

 ガイザーは、急速に発展した「ChatGPT」や「Gemini」などの技術を活用した行政・医療・企業向けの生成AIサービスだ。複数の大規模言語モデル(LLM)の中から最適な一つを選択し質問することで、必要な回答を得られるのが特徴だ。

 「ISMAP-LIU」の特別措置サービスリストに登録されており、政府のセキュリティ基準を満たすクラウドサービスとして評価されている。

 松岡社長は同社がガイザーを開発した経緯について、「OpenAIの誕生で、爆発的にユーザーを獲得していくのを見て、それまで細々と取り組んでいたAI事業を中心事業に据えた。嫌な仕事はAIにやってもらい、人は自分の好きな仕事ができる社会を作りたいと考えた」と振り返る。

 これが顕著なのは、行政の業務だ。自治体ではメール返信から議事録作成、発表資料など文書作成がとても多く、それに業務時間の大部分が費やされる。これをAIが担うことで、業務効率化がはかれ、生産性の向上が期待できる。ガイザーが最も得意とする作業でもある。

「本来の業務に注力できる環境を作りたい」と語る松岡社長

 病院でも、医師の業務のなかでカルテや診断書など、文書作成が負担になっていることが多いという。松岡社長は「市民のため、また目の前の患者に向き合うなど、本来の業務に使える時間を生み出すことに貢献したい」と意気込む。

 一番初めにガイザーを導入した自治体は、三重県伊賀市。同社は2015年に三重県の企業誘致第1号として、津市に開発拠点を設立しており、現在は津市と四日市市に事業所を構えるなど、三重県内の自治体とのつながりが強い。

 伊賀市では実証実験から始まり、現在はさまざまな業務でガイザーを活用している。例えば、他部署の職員に連絡したい場合、以前は内線番号を探す手間があったが、ガイザーに名前を打ち込むだけで簡単に表示できるようになった。これは、ガイザーにその団体固有の情報をインプットすることで、そこから回答を引き出せる機能があるため。情報は外部からはアクセスできないようになっており、安全だ。

 こうした簡単なデータサーチから、観光イベントの企画アイデアなど、幅広い活用ができる。今後はガイザーでの動画の作成も視野に入れる。利用する自治体の職員からは、「優秀なアシスタントがいる感覚」「強い武器を得た」など好評だ。

 一方、松岡社長は「自治体が抱える課題の本質的な解決はできていない」と語る。「人口減少で職員の数も減っていくなかで、しっかり行政サービスを提供していくためにはまだ不十分だ」と捉えている。

 文章作成はガイザーの得意とするところだが、100%ではないため、今後は一切修正せずに済むレベルまで、技術的進歩をしていかなければならない。また、ガイザー導入自治体のなかで、活用していない職員もいることから、利用率を上げることも課題だ。「垂直と水平の2つの方向へ広げていくことに愚直に取り組んでいく。この結果、パソコン作業がなくなり、市民のための相談やイベントなどに集中できる未来を作っていきたい」と展望する。

 問い合わせはHP(https://www.gaixer.com/ja-jp/)へ。

東武動物公園に隣接、グランピングリゾート誕生(東武トップツアーズなど)

2025年12月25日(木) 配信 

アドベンチャー・ドーム(イメージ)

 東武鉄道、東武トップツアーズ、にしがきの3社は、東武動物公園(埼玉県白岡市)隣接地に、埼玉県最大級となるグランピングリゾート「グランフィルリゾーツ東武―GRANPHIL RESORTS TOBU―」を2026年3月にオープンする。

 同施設は、主にファミリー層やグループを対象としたドームテントタイプと、愛犬家向けのプライベートドッグランを併設するヴィラタイプの宿泊棟による計15棟で構成する。同公園に隣接する立地を生かし、宿泊者限定で夜の動物生態を感じられるアクティビティ体験や、愛犬と寛げるゆとりあるプライベート空間などを提供する。

 アドベンチャー・ドーム(ドームテントタイプ)は、定員6人のプライベートガーデン7棟と、同10人のサプライズガーデン1棟の計8棟。各宿泊棟に、プライベートサウナや専用BBQ設備などを併設する。

 滞在中、東武動物公園を自由に入退場できる入園券付き。別料金のオプションで、同園閉園後の園内を電動カートに乗って飼育係の音声ガイドで巡る「アドベンチャー・ナイト(仮称)」や、同園開園前の園内で動物を間近で見学しながら朝食を楽しめるアクティビティを用意する。

 シンフォニー・ヴィラ(ヴィラタイプ)は、愛犬と宿泊可能な最大約950平方メートルのプライベートドッグランや、専用BBQ設備を併設した定員4人の計7棟。愛犬と寛げる約73平方メートルのゆとりあるプライベートな客室と愛犬用の宿泊アメニティを用意している。

 また、グランピング敷地内で、定期的に愛犬家と愛犬がともに楽しむイベントを開催予定。

 宿泊料金は、アドベンチャー・ドームが1万8400円から(税込、1室4人利用、素泊まり、1人)、シンフォニー・ヴィラは2万4200円から(同)を想定する。

 宿泊申し込みは、同施設ホームページで26年3月20日(金・祝)分から受け付けている。今後、「リゾートグランピング」や「いぬやど」でも受付予定。

クルーズ人口100万人を目指す取り組み開始 JATAら3団体がロゴ作成で機運醸成

2025年12月25日(木) 配信

ロゴマーク

 日本旅行業協会(JATA)と日本外航客船協会(JOPA)、日本国際クルーズ協議会(JICC)はこのほど、2030年までに日本人クルーズ人口100万人を目指す取り組みを協働で開始すると発表した。広くクルーズへの興味を持ってもらえるよう、機運醸成をはかることを目的に、船会社と旅行会社が連携。「Let’s CRUISE 1M(Million)~100万人で行こうよ!船旅へ~」のキャッチフレーズのもと、旗印となるロゴマークを作成した。

 国土交通省の「日本のクルーズ市場の持続的発展に向けた有識者検討会」は今年7月、日本人のクルーズ人口を100万人とする新たな目標を定めた。現況、日本のクルーズ人口は2024年が22万4000人と、ピーク時の19年35万6000人へ届かず、欧米と比較しても拡大の余地は大きいとみる。

 100万人の目標数値は高いが、JATAらは「新たな客船のデビューなど話題性もあり、シニア層だけでなく、若い世代にも拡大していくことで、100万人達成も可能であると考えられる」と期待。関係者が共通のロゴを広く活用するなどで、取り組みを広く一般消費者に認知してもらい、クルーズの楽しさを体験してもらうとともに、若年層を中心とした新たなマーケットを開拓することを目指す。

 今後は、新船就航などと連動し、どのような施策が効果的かを協議しながら、キャンペーンの実施など活動の範囲を広げていくとしている。取り組みの期間は2030年12月までの予定。